植毛は生涯3度に分け2回目まではメスを使うFUT、3回目以降はFUEがベストなワケ

植毛でスカスカになった後頭部を見て驚く女性
この記事に書いてある事
  • AGAは進行するので植毛は複数回に分けて行うのが大原則
  • シェア9割を占めるFUE法の弱点を知らないと多くの植毛が行えない理由
  • 世界標準は「新しい術式」であるメスを使うFUT。日本は悪い意味でガラパゴス化
  • 2回目までの植毛は必ずFUTで行い本命FUEは最後の手段

後頭部の元気な髪の毛を薄くなった前頭部や頭頂部に移植する「自毛植毛手術」は、AGA(男性型脱毛症)治療法として近年大きな注目を受け、日本でも市場を拡大させてきました。

植毛手術を受ける際に気をつけてほしいのが「AGAは進行性なので植毛は1回では終わらない」という点です。AGAが進行性である以上、植毛は1度ではなく生涯少なくとも3回以上に分けて行うのが大原則

しかし、ここに大きなワナが。

植毛にはメスを使い頭皮を剥ぎ取ってバックヤードで「株分け」を行うFUT法と、メスを使わず後頭部から直接毛根を1株づつ引き抜くFUE法という術式があります。ところが最初の植毛でFUEを選択してしまうと、2回目の植毛を行うことが出来なくなってしまうのです。

この記事では、日本国内特有の植毛事情に触れつつ正しい植毛計画の立て方をアドバイスしていきますね。

この記事の執筆者

内科総合クリニック人形町 院長 藤田 英理(総合内科専門医)

藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長

東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。

所属:日本内科学会日本動脈硬化学会日本頭痛学会

医師略歴・プロフィールはこちら

目次

AGAは進行するので植毛は複数回に分けて行うのが大原則

AGA治療歴25年

藤田先生、自毛植毛って1回で終わらないのですか?

院長 藤田

1回ではまず終わりません。薄毛(AGA)は少しづつ進行していくので、5年に1度の頻度というように複数回に分けることを最初から考えておいたほうが賢明です。

院長 藤田

解説いたします

植毛を検討する際に必ず抑えておきたい重要なポイントがあります。それは「AGAは進行性の症候」という特性です。これを必ず理解した上で「植毛計画」を立ててください。

AGAはスピードの個人差はあれど、少しづつ額は後退し頭頂部は薄くなっていくので、通常植毛は一度では終わりません。それゆえ、どのタイミングでどれくらいの量の植毛を行うのかということをザックリとでも計画を立てて欲しいのです。
※植毛計画の立て方は後述します

プロペシアやザガーロ、ミノタブなどの飲み薬治療をしていたとしても、AGAは少しづつ進行していきます。若い時期(30歳以下)に植毛を行いたい場合、植毛は1回では終わらないと自覚することが大変重要になってくるのです。

あだ名はザビエル?

まだAGAが進行している30歳以下の年齢で植毛を行うとその後どうなるかというと、こう↓なります。

フランシスコ・ザビエル
頭頂部ががが

歴史の教科書に出てくるザビエルさんです。これ、全然笑いごとでも冗談でもありません。こういう患者さんをたくさん見てきましたから。

M字が後退し、あわてて植毛をして前髪だけフサフサになったものの、AGAが進行し続けて植毛した元気な前髪だけ残って、頭頂部が薄くなるというパターンです。

ザビエル、あるいは河童(かっぱ)という不名誉なあだ名を陰でつけられてしまうかも知れません。恐ろしいですね。。。

ミステリーサークル

もう一つ紹介したいのが、頭頂部が薄くなる、いわゆる「O字」と呼ばれる薄毛です。薄くなったつむじの部分に植毛したまでは良かったものの、薄毛が進行してしまいミステリーサークルのようになってしまった事例。これも「植毛あるある」です。

フットボールアワー岩尾ミステリーサークル

ミステリーサークルのような状態は自然になることは絶対にないので、「つむじ部分に何かしたな」と不信がられ、勘のいい人だと「もしかして植毛?」と分かってしまうかも知れません。残念ながらこういう人も実際に少なからずいらっしゃいます。

これらの事例で分かるとおり、「植毛は1回では終わらない」のが普通です。AGAは進行するので植毛した部分が黒々として、その周囲が薄くなってしまいザビエル化したりミステリーサークルのようになってしまいます。

不自然さをなくすためには最低でも2回、できれば3回4回と分けて植毛をするのだということを「植毛の大原則」として覚えておいて欲しいのです。

シェア9割を占めるFUE法の弱点を知らないと多くの植毛が行えない理由

AGA治療歴25年

なるほど、複数回に分けて植毛を行う重要性がよく分かりました。では次の質問に移ります。植毛にはFUTとFUEという2つの術式がありますが、国内シェアは圧倒的にFUEなので、全てFUEで植毛すればいいのでしょうか?

院長 藤田

いえ、違います。FUEを選択するのは最後の植毛時です。複数回に分けるなら最初と2回目は必ずFUT法で植毛してください。

院長 藤田

解説いたします

自毛植毛手術には、シャーペンの先のような穴の開いたニードル(あるいはパンチグラフト)と呼ばれる医療器具で1株(髪の毛2-3本)づつ後頭部から採取するFUE(エフユーイー)と呼ばれる術式と、メスを使って後頭部から2cm幅くらいで頭皮を薄く剥ぎ取るFUT(エフユーティー)と呼ばれる術式の二通りのやり方があります。

FUTは日本ではドナーストリップ法と呼ばれることもありますが、正しくはStrip Harvesting(剥いで採取する)と言います。海外で「ドナーストリップ」と巻き舌で言っても通じません。また、他にも「チョイ式」という植毛法が。チョイ式を採用しているクリニックは国内では1つしかないので、実質植毛はFUEとFUTの2つに大別されます。

日本国内でのシェアは、メスを使わないFUEが9割くらいを占めるので、「植毛するにはシェア9割のFUEを選ぶのが無難なのかな」と自然に考えてしまうでしょう。でも実はここに大きな落とし穴が。

大手植毛クリニックによる「圧倒的な広告」

AGA治療歴25年

藤田先生、植毛の市場は現在どのようになっていますか?

院長 藤田

日本国内の植毛専門クリニックは大手数社で9割近いシェアを占めています。この9割を占めるクリニックが、少し悪い言い方をすると「洗脳広告」を打っていますね。

AGA治療歴25年

洗脳広告とはどんな内容ですか?

院長 藤田

「植毛はメスを使わないFUE法が正義でメスを使うFUTは悪だ」というような広告です

院長 藤田

解説いたします

大手植毛クリニックの広告は以下の2つを全面的に打ち出しています。

  • FUEはメスを使わないので術後の縫合が不要で傷跡も目立たないし痛みも少ない
  • FUTはメスを使うので術後の縫合が必要で術後に痛みがしばらく続き傷跡も残る

大手植毛クリニックが好んで使うこの2つの広告文を見たとき、あなたはどう感じますか?さらに下記のような比較画像を使ったりする悪質なケースも見たことがあります。こんなものを見せられたらFUEを選択したくなりますよね。

FUEとFUTの傷跡の比較
画像引用元:Comparison of FUT and FUE hair transplant in Dubai

FUT法はメスを使い頭皮を切るので出血し、麻酔が切れた後は当然痛みも出るし、縫合すると上記画像のように線状の傷跡も残ります。FUT法に対するFUE勢の指摘は間違ってはいません。しかし、FUE勢(大手クリニック中心)が意図的に言わないもう一つの事実があります。

  • FUEは丸く白い傷跡が分散してそのまま残り傷跡は縮小しない
  • FUTは3回までなら植毛しても傷跡は1箇所で済み傷跡の総面積もFUEの1/3以下程度

つまり、大量の植毛に向いていないのは、実は大手が採用しているFUE法なのです。

イラストで説明しましょう。まずはメスを使い後頭部から一度頭皮ごと髪の毛を剥ぎ取り、バックヤードで株分けを行うFUT法の初回の傷跡です。下記のように切開した後に縫合するので傷跡は線状に残っても傷口は閉じます。ということは傷跡の面積が縮小するのです。

FUT植毛で縫い合わせた後
FUT法の1回目

そして2回目のFUTによる傷跡はこう(↓)なります。

2回目以降のFUTの傷跡(キズ跡)
FUT2回目以降

一方のメスを使わないFUE法はこう↓なります。

FUE植毛で虫食い状態になった人の後頭部
FUE植毛で虫食い状態になった人の後頭部

メガセッションという医療用語があります。植毛手術では「一度に大量の植毛を行うこと」をメガセッションといいます。

一回の植毛で大量に植毛できると聞くと、なんだか良いことのように思われます。ところがメガセッションでFUEを行うと、後頭部が下記画像のように虫食い状態になってしまい、採取するところがなくなって二度と植毛ができなくなります。

FUEで採取しすぎた結果の傷跡
画像引用元:SCARRING SERIES: FUE SCARS

世界標準は「新しい術式」であるメスを使うFUT。日本は悪い意味でガラパゴス化

AGA治療歴25年

怖い話ですがとても参考になりました。ちなみにFUTとFUEどちらが世界標準なのでしょうか?

院長 藤田

欧米では日本と真逆でFUTを採用しているドクターの方が圧倒的に多く、FUTが世界標準ですね。特にアメリカは訴訟社会なので訴訟リスクが高いFUEを採用しているクリニックは少数派です。

FUTのほうが新しいやり方でFUEは実は一世代前の植毛法

院長 藤田

解説いたします

誤認識されることが多いのですが、日本の大手植毛クリニックが採用しているFUEというメスを使わないやり方は、世界的に見れば一世代前の術式です。

日本に植毛が入ってきたのは約20年前で、日本初の植毛専門クリニックとして開業した紀尾井町クリニックは、当時も今も世界で最先端のメスを使うFUT法を術式に採用しました。

その後、植毛業界に新規参入してきたアイランドタワークリニックが導入したのは、30-40年前に開発された古い術式であるFUE。なぜ後発のアイランドタワークリニックが古い術式であるFUEを採用したかというと、FUEのほうが医師の技術が未熟でも失敗が少ない術式だったからです。

フランスのオムニグラフト社が開発した医療器具をアイランドタワークリニックが輸入し、当時のアイランドタワークリニック院長で、現アスク井上クリニックの井上院長を中心に「新米医師でも60-70点取れる植毛法」を模索。

アイランドタワークリニック仕様にカスタマイズされたのが、現在日本で9割のシェアになっている改良型FUE法です。

パンチグラフト ニードル
FUEで毛根を採取する際に使用するパンチグラフト

アイランドタワークリニックから独立した親和クリニックとアスク井上クリニックもこの術式を採用していて、この3社で国内の植毛シェアの8割近くを占めています。
※残りは湘南美容クリニックなど

日本ではFUEはさも新しい術式として広まっていますが、世界的には逆で、植毛の歴史はFUEから始まっています。

FUEにも利点はあります。それは、少量の植毛であれば傷跡が目立たないし痛みも少ないという点です。これはFUEの最大の長所とも言えるでしょう。

もう一つ。メスを使うFUTでは採取できない「うなじ」の部分や、側頭部などから元気な毛根を採取できるのもメスを使わないFUEの大きな長所です。

FUEによる自毛植毛
FUEによる自毛植毛

それでもすでに述べたような弱点があるため、FUE法は大量の植毛には向きません。FUEでやっても良いグラフト数は最大でも1,000です。
※1グラフトで約2本なので髪の毛換算すると2,000本

古いFUEの弱点を克服するために生まれたのがFUT(ドナーストリップ法)です

1,000グラフト以上FUEで採取するとクリニック側の訴訟リスクがあがるし、患者サイトとしてももっと多くの髪の毛を移植して欲しい。この両者の利害が一致して開発されたのがメスを使って後頭部から頭皮ごと剥ぎ取るStrip Harvesting(FUT法)です。

FUT(ドナーストリップ法)
FUT(ドナーストリップ法)

手術跡に線状の傷跡が残ってしまうのはマイナス点でも、開いた傷跡を縫合することで傷跡の総面積はFUEの1/3以下になります。
※下記の記事で傷口の大きさを具体的に計算しています

ガラパゴス化した日本の植毛業界

世界的には旧方式でも、日本ではまだ知られていなかったFUEを広めるための「FUE勢」の宣伝はとても巧妙なものでした。

「FUTはメスを使うので痛いし線状の傷跡も残るが、FUEはメスを使わないので痛みも少ないし傷跡も目立たない。」

この広告文句は今でも使われています。ただしこれには「条件」があります。「少量の植毛に限り」という条件で、FUEはメスを使わないので痛みも少ないし傷跡も目立たない、ということです。

FUE植毛の広告と検索結果
FUE植毛の広告と検索結果

日本国内の自毛植毛のシェアは世界的に見て本当に異色というか異様です。世界シェアではメスを使うFUTが80%でメスを使わないFUEが20%なのに対して、日本はFUTが10%でFUEが90%と完全に逆転しています。

植毛国内シェア6割を誇るアイランドタワークリニックなどの大手植毛クリニックの営業努力は認めます。ただ大手で資金力があるなら患者のためにFUTにも取り組んでいただけたら、と。

日本では実質的に選択肢がFUEに限られ、それは患者にとってアンフェアな状況なのでFUTの火を消さないでいただきたいのです。

2回目までの植毛は必ずFUTで行い本命FUEは最後の手段

だいぶ熱がこもっていましたね。患者さんのためならとことん誰とでも戦う方なので頼もしい限りです。最後は植毛を2度も受けている当院の毛髪診断士さんに締めていただきましょう。

院長 藤田

植毛を2回受けられているそうですが両方ともFUTですか?

AGA治療歴25年

そうです。2回ともFUTにしました。おかげでもう1度か2度植毛できそうです。自分のようにAGAが進行している人間が最初にFUEを選択したらエラいことになってました。本当に危なかったです。

院長 藤田

良かったですね。ちなみに最後までFUTで植毛するのですか?

AGA治療歴25年

いえ、せいぜい後1回ですね、FUTは。FUTだと採取できない場所もあるので最後は大手クリニックに行ってFUEにしたいと思います。

院長 藤田

解説いたします

すいません最後簡単に「植毛計画」について補足させてください。

AGAがどこまで進行するかは、基本的には遺伝を頼りにするしかありません。

お父さんやおじい様を見て、相当薄い家系なら5年に1度の頻度で植毛を行い、最低でも最初の2回はメスを使うFUTを選択し、大手植毛クリニックで行っているFUEをやりたいのなら、初回の植毛から10年以上間隔を開けてAGAの進行具合を確認した上で判断してください。

まだ薄毛が進行しているようならFUEで植毛するのは時期尚早です。

10年以上のスパンでAGAの経過を見ていかないと植毛計画は失敗します。「1回勝負!」は絶対やめてください。もしどうしても1回勝負にしたいのなら後悔しないよう最新の術式であるメスを使うFUTを選択してください。

以上

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