「最近、髪のボリュームが減った気がする」「抜け毛が増えてきたかもしれない」と感じていませんか。男性型脱毛症(AGA)は進行性の脱毛症であり、放置すると症状は徐々に悪化していきます。
しかし、ご自身の薄毛の進行度を正しく理解し、その段階に応じた適切な治療を行うことで、進行を抑制し、発毛を促すことが可能です。
この記事では、薄毛が気になり始めた初期段階の方から、長年悩んでいる方まで、それぞれの進行度に合わせたAGA治療の選択肢を詳しく解説します。
ご自身の状況と照らし合わせながら、今後の治療方針を考えるための一助としてください。
薄くなり始めた人向け 初期段階のAGA治療

鏡を見るたびに感じる、生え際の後退や頭頂部の透け感。薄毛のサインに気づいたばかりの初期段階では、不安を感じる一方で「まだ大丈夫だろう」と様子を見てしまう方も少なくありません。
しかし、AGAは早期発見と早期対応が非常に重要です。この段階では、まずご自身で取り組めるセルフケアから始め、その効果を見極めながら、必要に応じて専門的な治療へと移行していくのが賢明な判断です。
ここでは、初期段階のAGAに対してどのようなアプローチがあるのかを具体的に見ていきましょう。
まずは試したい生活習慣の見直しと市販の育毛剤

本格的な治療を始める前に、ご自身の生活を見直すことが大切です。髪の毛は健康のバロメーターとも言われ、頭皮環境や体全体の健康状態が毛髪に影響を与えます。
特に、睡眠不足、栄養バランスの偏った食事、過度なストレスは、頭皮の血行を悪化させ、髪の成長を妨げる要因となります。
まずは十分な睡眠時間を確保し、髪の主成分であるタンパク質や、その働きを助けるビタミン、ミネラルを意識した食事を心がけましょう。
市販育毛剤の役割と限界
ドラッグストアなどで手軽に購入できる育毛剤は、初期段階の方が最初に試す選択肢の一つです。
市販の育毛剤の主な目的は、頭皮の血行を促進し、フケやかゆみを抑えることで、髪が育ちやすい頭皮環境を整えることです。
しかし、重要な点として、これらの育”毛”剤には、AGAの直接的な原因である男性ホルモンの働きを抑制したり、毛母細胞を活性化させて新たな髪を生やしたりする「発毛」効果は含まれていません。
あくまでも、今ある髪を健康に保ち、抜け毛を予防するためのサポート的な役割と理解する必要があります。

市販薬でのセルフケア 発毛剤という選択
育毛剤で頭皮環境を整えても抜け毛が減らない、あるいは少しでも発毛を期待したいと考えた場合、次の選択肢となるのが「発毛剤」です。育毛剤と発毛剤は名前が似ていますが、その目的と成分は全く異なります。
発毛剤は、その名の通り、新しい髪の毛を生やし、成長を促進する効果が認められた医薬品を指します。
発毛成分ミノキシジル外用薬とは

現在、日本国内で唯一、発毛効果が認められている市販の成分が「ミノキシジル」です。
ミノキシジルはもともと高血圧の治療薬として開発されましたが、その副作用として多毛が見られたことから、発毛剤として転用されました。
ミノキシジル外用薬は、頭皮に直接塗布することで毛母細胞に働きかけ、血行を促進し、ヘアサイクル(毛周期)における成長期を延長させる作用があります。
これにより、細く短くなった毛髪を太く長く成長させ、発毛を促します。薬局やドラッグストアで購入できますが、薬剤師からの説明が必要な第1類医薬品に分類されます。
ミノキシジル外用薬の濃度と選び方

市販のミノキシジル外用薬には、いくつかの濃度が存在します。濃度が高いほど発毛効果への期待も高まりますが、同時に副作用のリスクも考慮する必要があります。
初めて使用する際は、専門家の指示に従い、定められた用法・用量を守ることが重要です。以下の表に、一般的な濃度の違いと特徴をまとめました。
市販ミノキシジル外用薬の濃度別特徴
| 濃度 | 主な対象者 | 特徴 |
|---|---|---|
| 1% | 初めて使用する方、副作用が心配な方 | 効果は比較的穏やかですが、副作用のリスクも低いとされています。まずは試してみたいという方に適しています。 |
| 5% | より高い効果を期待する方 | 国内で市販されているミノキシジル外用薬の最大濃度です。多くの臨床試験で有効性が確認されています。 |
| 5%以上 | 医療機関での処方 | 市販薬で効果が不十分な場合に、医師の診断のもとで処方されることがあります。より強力な効果が期待できます。 |
専門医への相談を検討するタイミング

市販の発毛剤を3ヶ月から6ヶ月程度使用しても、抜け毛の減少や産毛の発生といった変化が見られない場合は、AGAが一定以上進行している可能性があります。
セルフケアを漫然と続けることは、時間と費用を浪費するだけでなく、貴重な治療機会を逃すことにもつながりかねません。
このような状況では、一度AGA専門クリニックを受診し、専門医の診断を受けることを強く推奨します。

薄くなって3年以上経過した人向けのAGA治療
薄毛が気になり始めてから3年以上が経過し、生え際の後退や頭頂部の地肌の透けが明らかになってきた状態は、AGAが中期段階まで進行していると考えられます。
この段階では、市販薬によるセルフケアだけで満足のいく改善を得ることは難しくなります。
クリニックでの本格的な治療に移行し、医学的根拠に基づいたアプローチで、抜け毛の進行を食い止め、積極的に発毛を促すことが重要になります。ここでは、中期段階のAGAに対する標準的な治療法を解説します。
守りの治療 抜け毛を止める内服薬の開始

中期AGA治療の基本は、まず進行を止めることです。いくら発毛を促しても、抜け毛の勢いが強ければ、いたちごっこになってしまいます。そこで中心となるのが、AGAの根本原因にアプローチする内服薬です。
これにより、ヘアサイクルの乱れを正常化させ、抜け毛の進行にブレーキをかけます。
フィナステリドの効果と作用
AGA治療で最も標準的に用いられる内服薬が「フィナステリド」です。
AGAは、男性ホルモンの一種であるテストステロンが、還元酵素「5αリダクターゼ」と結びつくことで、より強力な男性ホルモン「ジヒドロテストステロン(DHT)」に変換されることが原因で引き起こされます。
このDHTが毛乳頭細胞の受容体と結合すると、髪の成長期が短縮され、髪が太く長くなる前に抜け落ちてしまいます。
フィナステリドは、この5αリダクターゼ(特に頭頂部や前頭部に多いⅡ型)の働きを阻害することでDHTの生成を抑制し、抜け毛を防ぎます。
攻めの治療 発毛を促すための併用療法

フィナステリドで抜け毛の進行を抑制しつつ、次に行うのが積極的な発毛治療です。守りの治療と攻めの治療を組み合わせることで、より効果的に薄毛の改善を目指します。
この段階では、市販薬よりも強力な医療用の発毛促進薬を使用します。
高濃度ミノキシジル外用薬の併用
市販のミノキシジル外用薬は最大濃度が5%ですが、医療機関では6%以上の高濃度ミノキシジル外用薬を処方できます。濃度が高まることで、毛母細胞への刺激がより強くなり、高い発毛効果が期待できます。
フィナステリドで抜け毛の土壌を整えながら、高濃度ミノキシジルで力強く髪を育てていく。この併用療法が、中期AGA治療の王道と言えるでしょう。
ミノキシジルタブレット(ミノタブ)

フィナステリドと高濃度ミノキシジル外用薬を併用しても、期待したほどの効果が得られない場合、次の選択肢として「ミノキシジルタブレット(内服薬)」があります。
通称「ミノタブ」と呼ばれるこの薬は、体の内側から血流を促進し、毛乳頭に栄養を届けやすくすることで、強力な発毛効果を発揮します。
外用薬が頭皮の局所的な血行促進に留まるのに対し、内服薬は全身の血管を拡張させるため、より広範囲で強い効果が期待できるのです。
外用薬と内服薬(タブレット)の比較
| 項目 | ミノキシジル外用薬 | ミノキシジルタブレット(内服薬) |
|---|---|---|
| 作用範囲 | 塗布した頭皮の局所 | 全身 |
| 期待される効果 | 発毛促進 | より強力な発毛促進 |
| 主な副作用 | 頭皮のかゆみ、かぶれ、赤み | 動悸、息切れ、むくみ、多毛症、低血圧 |
ミノキシジルタブレット服用の注意点
ミノキシジルタブレットは非常に高い発毛効果が期待できる一方で、全身の血管に作用するため、副作用のリスクも外用薬より高まります。
服用を開始する前には、必ず医師による診察を受け、ご自身の健康状態や体質が服用に適しているかを確認してもらう必要があります。
自己判断での個人輸入や服用は、深刻な健康被害につながる危険性があるため、絶対に避けてください。クリニックでは、定期的な診察や血液検査を通じて、安全性を確認しながら治療を進めます。
主な副作用の確認
- 初期脱毛
- 動悸・息切れ
- 手足や顔のむくみ
- 全身の多毛症
- めまい・立ちくらみ(低血圧)

薄くなって10年以上経過したベテラン向けのAGA治療
薄毛の悩みと10年以上向き合ってこられた方は、これまでに様々な治療法を試されてきたことでしょう。
フィナステリドやミノキシジルによる標準的な治療では、現状維持が精一杯、あるいは効果が頭打ちになっていると感じるかもしれません。
AGAが長期間にわたって進行した状態では、毛根のミニチュア化が進み、毛母細胞の活力が著しく低下している可能性があります。
この段階では、より強力な薬物治療への切り替えや、薬物治療の限界を見据えた次の選択肢を検討することが必要になります。
抜け毛をさらに強力に抑制する内服薬の変更
フィナステリドを長期間服用しても抜け毛が止まらない、あるいは再び進行し始めた場合、より強力なAGA治療薬への変更を検討します。
これは、AGAの原因となる5αリダクターゼに対して、より広範囲に作用する薬を用いることで、DHTの生成をさらに強力にブロックするアプローチです。
デュタステリドへの切り替え
フィナステリドに代わる選択肢として「デュタステリド」があります。フィナステリドが5αリダクターゼのⅡ型のみを阻害するのに対し、デュタステリドはⅠ型とⅡ型の両方を阻害する作用を持ちます。
特に、Ⅰ型は側頭部や後頭部を含め、全身の皮脂腺に多く存在します。デュタステリドは、この両方を阻害することで、フィナステリドよりも強力にDHT濃度を低下させ、高い脱毛抑制効果を発揮します。
臨床試験では、フィナステリドと比較して発毛効果が高いというデータも報告されています。
フィナステリドとデュタステリドの作用の違い
| 薬剤名 | 阻害する酵素 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| フィナステリド | 5αリダクターゼ(Ⅱ型) | 主に前頭部や頭頂部のAGAに作用。世界で広く使用されている標準的な治療薬。 |
| デュタステリド | 5αリダクターゼ(Ⅰ型・Ⅱ型) | Ⅰ型とⅡ型の両方を阻害するため、より強力にDHTの生成を抑制。広範囲の薄毛に効果が期待される。 |
発毛効果を最大限に高めるための調整
デュタステリドで抜け毛を強力に抑えながら、発毛を促すミノキシジルタブレットの用法も見直します。
長期間の治療では、体が薬に慣れて効果が薄れてくる可能性も考慮し、医師の厳格な管理のもとで、発毛効果と副作用のバランスを慎重に見極めながら調整を行います。
ミノキシジルタブレットの増量検討

ミノキシジルタブレット5mgの服用を続けていても発毛実感が乏しい場合、医師の判断で10mgへの増量を検討することがあります。薬の血中濃度を高めることで、より強い発毛効果を狙うものです。
ただし、これは安易に行うべきではなく、患者様の年齢、体重、心臓や肝臓への負担、血圧などを総合的に評価した上で、慎重に判断する必要があります。
増量に伴う副作用リスクの増大
ミノキシジルタブレットの服用量を増やせば、それに比例して副作用のリスクも高まります。
特に、心臓への負担が増加し、動悸やむくみが強く現れたり、血圧が下がりすぎてめまいや失神を引き起こしたりする危険性も増します。
10mgへの増量を検討する場合、定期的な心電図検査や血液検査は、安全な治療を継続するために絶対に必要です。医師との密な連携のもと、少しでも体調に異変を感じたらすぐに相談できる体制が重要です。
薬物治療で改善が見られない場合の選択肢
デュタステリドと高用量のミノキシジルタブレットという、現時点で最も強力な薬物治療の組み合わせを一定期間続けても、満足のいく発毛が見られない場合も残念ながら存在します。
これは、AGAの進行により毛母細胞が完全に活動を停止し、死滅してしまっている状態(線維化)が考えられます。この段階では、薬で毛母細胞を再び活性化させることは困難です。
自毛植毛ではなくウィッグを検討する
「最後の手段」として自毛植毛を考える方も多いですが、薬物治療で効果が見られないほど進行した状態では、植毛も最良の選択とは言えない場合があります。
自毛植毛は、後頭部などAGAの影響を受けにくい部位の毛髪を、毛根ごと薄毛部分に移植する手術です。
しかし、移植できる本数には限りがあり、また移植した毛髪以外の既存の毛髪はAGAの影響を受け続けるため、薬物治療による維持が前提となります。
その薬物治療の効果が薄い状態では、植毛部分だけが残り、周囲が薄くなっていくという不自然な結果になりかねません。
このような状況では、高品質なウィッグ(かつら)を検討することも、QOL(生活の質)を維持・向上させるための非常に現実的で有効な選択肢です。

よくある質問
- AGA治療はいつから始めるのが良いですか?
-
A. AGAは進行性のため、「気になった時が始め時」です。早期に治療を開始するほど、毛母細胞がダメージを受ける前に進行を食い止められ、良好な結果が期待できます。
少しでも抜け毛や薄毛が気になり始めたら、まずは専門クリニックに相談することをおすすめします。
- 治療をやめたらどうなりますか?
-
AGA治療薬の効果は、服用・使用している期間に限られます。治療を中断すると、抑制されていたAGAの原因物質(DHT)が再び生成され始め、治療前の状態に徐々に戻っていきます。
治療によって得られた毛髪を維持するためには、医師の指示に従い、治療を継続することが重要です。
- 副作用が出た場合はどうすればいいですか?
-
万が一、治療中に動悸、むくみ、性機能の低下、頭皮のかぶれなど、何らかの体調の変化を感じた場合は、自己判断で服用を中止せず、速やかに処方を受けたクリニックの医師に相談してください。
医師が症状を確認し、薬の減量、変更、あるいは休薬など、適切な処置を判断します。
- ジェネリック医薬品(後発医薬品)でも効果は同じですか?
-
はい、同じです。ジェネリック医薬品は、新薬(先発医薬品)の特許が切れた後に、同じ有効成分で製造・販売される医薬品です。
開発コストが抑えられるため、先発医薬品よりも安価に提供されます。有効成分や効果、安全性は先発医薬品と同等であることが国によって認められていますので、安心してご使用いただけます。
- 治療費はどのくらいかかりますか?
-
AGA治療は自由診療のため、医療機関によって費用は異なります。治療内容(内服薬の種類、外用薬の有無、検査など)によっても大きく変動します。
一般的に、内服薬のみであれば月々数千円から1万5千円程度、複数の治療を組み合わせると月々2万円から3万円以上になることもあります。
カウンセリング時に、ご自身の症状に合った治療法の費用を確認することが大切です。
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