- 大手が採用しているFUE法では後頭部を大きく刈り上げる必要がある
- 手術後に生え揃うまで早くて1年かかる
- 密度を濃くしすぎてしまうと生着率が下がる恐れがある
- 10%の確率で生着しない失敗リスクがある
- 費用は情報をしっかり調べれば意外なほど安い
- 一度植えれば半永久的に生え続けてくれる
自毛植毛を検討するにあたって、一番気になるのはやはり「隠されたデメリットは何なのか」ではないでしょうか。
すぐに思いつくのは「痛み」や「価格」に関することですが、それはすでにあなたもなんとなく知っていますよね。もっとディープな自毛植毛のデメリットとして情報があまり出回っていないのは、
- 手術前にしっかり刈り上げないと手術後に後頭部が惨劇になる
- 生え揃うまで早くても1年かかる
- 思ったほどM字部分の密度を濃くできない
の3つではないかと思います。この3つを話の中心に据えつつ、情報があまり公開されていない他の事項にも触れながら、当院院長の藤田先生に解説してもらいます。
この記事の執筆者
藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長
東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。
大手が採用しているFUE法では後頭部を大きく刈り上げる必要がある
藤田先生、国内の植毛のほとんどがFUEで行われています。後頭部は刈り上げるのでしょうか?それとも刈り上げない方法があるのでしょうか?
FUEはバリカンでの刈り上げは必須です。刈り上げない方法もあるにはありますが、リスクが高すぎるのでよほどの理由がない限り避けられません。
解説いたします
自毛植毛には2つの術式があり、そのうちの1つ大手植毛クリニックのほとんどが採用している通称FUE(エフユーイー)は、後頭部の広い範囲から間引きするように毛根を採取していきます。
FUEでは、毛根を採取する際、チューブパンチ(あるいはマイクロパンチとも言います)と呼ばれる植毛専門の医療器具を使用するため、髪の毛は1mm程度まで刈り込んでおく必要があるのです。
※看護師がバリカンで刈り込みます
【チューブパンチで毛根を採取しているシーン】
画像引用元:Donor Harvesting – Follicular Unit Excision (FUE)
刈り込みせずに採取する方法もありますが手術費用が一気に上がります
実は、刈り込みせずに髪の毛を長いままの状態で移植する方法もあります。
ただ手間暇がかかるため値段が一気にあがってしまうのと、「刈り込みません」といって高い料金を取りつつも、線状にバリカンを入れて、その部分からチューブパンチで毛根を採取する「インチキFUE」が横行しています。オススメできません。
インチキFUEかどうかは、そのクリニックの公式サイトの値段表を見ればすぐに分かります。
刈り込む通常のFUEの価格に対して、刈り込まないFUEの価格が倍以下なら「インチキしてるな」と判断して、ほぼ間違いありません。
長い髪の毛のままやろうとすると、1本採取するのに要する時間が5倍くらいになります。植毛の単価は手術の長さにほぼ比例するので、5倍時間がかかるのであれば5倍近く価格が上がるはずです。
それにもかかわらず価格差が2倍以内ということは、グレーな方法(線状に細く刈り上げるなど)で毛根を採取している証拠になります。
【誠実に刈り込まないFUEを行っているクリニックの価格表】
【グレーなやり方で刈り込まないFUEを行っているクリニックの価格表】
チューブパンチの形状を見れば刈り込みする必要性が分かります
下記がFUE法で使用しているチューブパンチと呼ばれる専用の医療器具です。
先端がシャーペンの芯の先のようになっていて、小さな穴に髪の毛をまたがせ、高速回転させながら髪の毛をくり抜いていきます。
この動画をご覧いただければ分かりやすいでしょう。
動画を見れば直感的に理解できたと思いますが、長い髪の毛のまま短時間でくり抜くことは不可能です。
長い毛のままくり抜こうとすると、高速回転させているパンチをいったん止めて手作業で丁寧に髪の毛をパンチの穴に通し、通し終えたらパンチを再び回転させてくり抜くしか方法がありません。後頭部から1本髪の毛をくり抜くのに通常の5倍くらい時間がかかります。
それにもかかわらず価格差が2倍以内というのはどう考えてもおかしいのです。
恐らく3cm以下の長さまで髪の毛を短く切ってから採取作業しているか、高さ5mmで横幅20cmくらいの細い線状にバリカンで刈り込んで、その部分から集中的に採取しているのでしょう。
3cm以下に短く切る方法ならまだ良心的ですが、線状に刈り込んでから採取するやり方は絶対やってはいけないことです。
これをやってしまうと不自然な線状の傷跡が残り、後頭部が下記画像のような仕上がりになってしまいます。
【刈り上げないFUEでインチキするとこうなります】
あなたがよほどのお金持ちでもない限りは、大手が採用しているFUEで植毛をする時は後頭部を広範囲に刈り上げてから植毛を行う必要があります。そうしたほうが後頭部から多くの髪の毛を採取できるので、「刈り込まないFUE」にはよくよく注意してください。
ドナーストリップ法なら刈り込みのデメリットを実質的に回避できる
藤田先生、植毛にはFUEの他に、最新の術式であるFUT(ドナーストリップ法)があります。FUTは刈り込みをするのでしょうか?
FUTでもバリカンで刈り込みはします。ただ術後に縫い合わせるので、部分ウィッグで隠す必要はありません。
解説いたします
ドナーストリップ法(英語圏ではストリップハーヴェスティング)、通称FUTと呼ばれる植毛法があります。
FUTは、FUEの弱点を補うために欧米で開発された最新の植毛法で、欧米で植毛する場合はほぼ最新式のFUTが採用されています。
FUTでは術後に傷跡を縫い合わせるので、部分ウィッグを使用しなくても植毛の縫合跡は下記画像のように綺麗に隠れます。植毛したことが知られる心配は一切ありません。
【FUT植毛後の後頭部】
帽子やヘルメットの着脱が多い仕事をされていたり、プールに行く機会がある人など、術後に部分ウィッグをつけるのが難しい職種で働いている方なら、FUEではなくFUTで植毛すると周りに知られるリスクは激減すると思います。
価格もFUEより5割以上安いのでオススメの術式です。
手術後に生え揃うまで早くて1年かかる
植毛手術を行ってから、髪の毛が満足に生えそろうまでどれくらいの期間がかかるのでしょうか?
約1年です。長い人だと2年以上経過してから生え揃う人もいるので、植毛のデメリットの一つと言っていいかもしれません。
解説いたします
植毛すると、植えた髪の毛がいったん全部抜けてヘアサイクルでいうところの「休止期」に入り、そこから成長期に向かい髪の毛が徐々に徐々に生えそろってきます。
生えそろうまでの期間には個人差がかなりあり、私が知っている最長のケースだと2年半くらいかかった患者さんもいいました。
生えてこない期間は、それまでどおりヘアパウダーなどで隠すなどして「その時」をただただじっと待つしかありません。「生えてこないんじゃないか?」と疑心暗鬼にもなり、精神的につらい時間が続きます。
ただし、植毛で失敗するケースというのはほとんどありません。待ちさえすればちゃんと生えそろうので、石の上にも3年ではないですが、1年間じっとがまんしてください。
密度を濃くしすぎてしまうと生着率が下がる恐れがある
植毛では1㎠あたりに植えられる本数に制限があると聞きました。本当でしょうか?
本当です。1㎠あたりに植えても良い髪の毛の本数は日本人の場合でMAX70本までです。これ以上植えると毛根同士で栄養を奪いあって共倒れするリスクが劇的に向上してしまいます。
解説いたします
例えば木の場合、山林でスギやヒノキなどを育てる時、成長を維持させるために「間引き(=間伐)」をします。
山林における間引きは太陽光を取り込むために行いますが、植毛時に一定の密度以下しか移植してはいけないのは、頭皮内の毛細血管から栄養を適正に届けるため。
1㎠あたりの正常な髪の毛の本数は、フサフサの人だと150-170本くらいなのに対し、生着率を保つためとはいえ、植毛時に植えられる本数は70本が限界です。せっかく植毛しても「もっとフサフサになると思ったのに」と結果にがっかりしてしまうことも。
ただし、密度を増やす方法も一つあります。毛根が定着したのを見計らって二度目の植毛で同じ場所に植えこむというやり方です。
正直じれったいと思います。「1回で大量に植えればいいじゃん!」と叫びたくなりますよね。
一気に大量に植えてしまうと、植えた毛根同士が栄養を奪い合った結果、生着率が50%を割ってしまうような大惨事になってしまいます。1度の植毛では最大でも1㎠あたり70本までが植毛の限界値。
この情報は、植毛業界にとってのアキレス腱(不都合な真実)なので、表になかなか出てこないデメリット情報です。
実は私もこのことはあまり書きたくありませんでしたが、真実をオープンにしていくことをモットーにしたブログなので正直に解説しています。
10%の確率で生着しない失敗リスクがある
自毛植毛は成功率100%なのでしょうか?
いえ、残念ながら5%くらいの人が植えた髪の毛が成長せずに抜け落ちてしまうという報告があります。
解説いたします
猜疑心(さいぎしん)の強い人や、心配性の人にとっては良くないデータです。残念ながら植毛手術では、医師の腕の良し悪しにかかわらず、植えたのに生えてこないケースが20人に1人くらいの割合で発生しています。
植毛を受ける患者自身のドナー(細胞)を使うので、理論的には生着するはずですが、植毛の七不思議といいますか、原因不明で生着しないことがあるのです。
植毛界の「名医」や「レジェンド」と言われる先生(三名ほどいます)であっても、植えた髪の毛が生着せず植毛が失敗に終わった経験をしています。世の中に絶対はありません。
とはいえ、成功率が95%の外科手術は相当な高確率であることは間違いないので、5%の失敗率を高いとみるか低いとみるかはあなた自身が判断してください。
費用は情報をしっかり調べれば意外なほど安い
植毛の費用は高いと聞きます。実際にはどうなのでしょうか?
術式によりますね。情報をしっかりと精査し正しい術式とクリニックの選択を間違わなければ、思っているほど高くはないでしょう。
解説いたします
結論を先にお伝えしますと、コスパを考えるならFUTで植毛してください。
FUTはメスを使って後頭部の頭皮を剥ぎ取る術式なので、線状の傷跡が残るというデメリットはあっても、古い術式のFUEに比べれば傷跡の総面積は1/10程度に抑えられます。
それに何より安いです。
メスを使うFUTはFUEの弱点を補うために生まれた最新の植毛法です。国内では古い術式のFUEがシェアの9割を握っているので、なかなか情報が表に出てきませんが、FUTのコスパはFUEの倍です。
大手で植毛したら200万円かかるところ、FUTで植毛すると100万円ですみます。
国内でFUTを行っているところは実質まだ3院(ヨコ美クリニック・湘南美容クリニック・紀尾井町クリニック)しかありません。
店舗数が少ないので通いにくいなどのデメリットはあっても、FUTで植毛を行えば費用を大幅に抑えられます。FUEを採用している大手植毛クリニックの宣伝広告に騙されないよう、しっかり情報を精査してください。
まとめ
自毛植毛は、一度植えれば半永久的に生え続けるので、検討するに値する薄毛対策の最重要施策の一つです。
自毛植毛に限った話ではなく、物事には良い面悪い面、メリットがあればデメリットも抱えているのが常(つね)です。100%確実に成功するものは世の中には存在しないし、「絶対」が成り立つのは漫画の世界だけです。
【この世における唯一の「絶対」範馬勇次郎】
画像引用元:グラップラー刃牙
自毛植毛はM字部分などに文字通り「自毛」が生えてくるので、ウィッグと違い周囲に分かってしまうリスクが一切なくなります。芸能人やスポーツ選手の多くが植毛をやっていて、世界的な経営者(イーロン・マスク)などの薄毛の悩みを助けてきた歴史があります。
【イーロン・マスクのビフォーアフター】
絶対に失敗しないとはいえないし、この記事で明らかにされたようなデメリットがあるのは消せない事実です。
それでも成功率95%の薄毛対策は他にはないので、「失敗する可能性があるならやらない」ではなく、メリットデメリットを公平に天秤にかけて冷静に判断してみてください。
以上