- 生着率とは薄毛の部分に植毛した髪の毛が生えてくれる確率のこと
- 植毛後にちゃんと髪の毛が生えるまで早くて1年、遅い場合だと2年以上かかる
- 正確に測るには自費で医療用の入れ墨を285箇所マーカーするしかありません
- 「生着率95%以上」というのは決してウソではありません
- 某植毛クリニックが使っている「植毛満足度」は実はとても誠実な説明の仕方
AGA(男性型脱毛症)の影響を受けない後頭部の元気な毛根を採取して、M字や頭頂部に移植する自毛植毛手術について調べていると、大手植毛クリニックの宣伝などで「生着率95%」という数字を見かけることがあります。

生着率とは、薄い部分に植毛した髪の毛が生えてくれる確率のこと。例えば100本M字部分に髪の毛を移植したとして、そのうち95本が無事に生えてくれたら生着率は95%、という計算です。
※クリニックによっては「定着率」という所もあります
この生着率、そもそも率の計算ができないので95%という数値は信頼できるデータではありません。
今回の記事では、あなたが利益目的の植毛クリニックの広告宣伝に惑わされて判断を間違わないよう解説していきます。
この記事の執筆者
植毛後に患者の経過観察をするのはむしろ稀(まれ)なので生着率は測りようがありません

藤田先生、根本的なことを教えて欲しいのですが、生着率はどうやって測定するのですか?

いきなり核心に迫った良い質問ですね。正解を言うと「測定できません」です。植毛は一度の手術で少なくとも1,000本は移植するので、1,000本全てが生着しているかどうかは測定しようがありません。

解説いたします
自毛植毛手術を行った後の流れをざっと説明します。
- 手術直後に移植したM字や頭頂部の拡大写真を撮影する
- 手術翌日、致命的な手術ミスをおかしていないか確認するため患者に来院してもらう(半必須)
- 希望者のみ3か月後や半年後に来院してもらい経過観察を行う(任意)
手術後の工程はこの3つだけで、注目してほしいのは③の「経過観察」が任意になっている点です。
※メスを使うFUT法の場合は抜糸のため術後10日目途に来院が必要なケースもあります
患者さんに来院してもらって実際に髪の毛が生えているか確認しないことには生着率は測定できないのに、術後の経過観察が任意、つまり患者さんの希望がない限りは来院してもらわないので、生着率のデータを取ることが普通は出来ません。

遅い場合は2年経過以降に生えるケースも報告されています
自毛植毛を行った場合、髪の毛が目に見えて生えたことが分かるのは、早くても10か月程度、通常は1年から1年半、遅い場合だと植毛手術の日から起算して2年経過してから生えはじめるというケースも報告されています。
植毛を2度受けている当院の毛髪診断士さんに聞いてみましょう。

植毛してから実際に髪の毛が生えてくるまでどれくらいの期間がかかりましたか?

私は2年半近くかかりましたね。かなり遅い方だと思います。ただし、早い人でも10か月以上はかかると思いますよ。
植毛クリニックの公式サイトを見ていると、10か月くらいで髪の毛が7-8割生え揃(そろ)う的な事を書いているケースが目立ちますが、10か月で生え揃う人は全体の10%未満だと思います。
当院の毛髪診断士さんの例のように、遅い人だと植毛手術してからきちんと生え揃うまでに2年以上かかる人もいる上に、経過観察のための来院が任意(患者任せ)になっているので、生着率をデータ化することはほぼ不可能に近いです。

正確に測るにはマーカーをするしかなく、追加出費も必要

もしどうしても正確に生着率が知りたいという場合はどうすればいいのでしょうか?

頭皮にサンプルマーカーを打って統計的に生着率をはじき出すしかないですね。

解説いたします
移植した毛根がきちんと生着して実際に生えたかどうかを確認するためには、移植先の毛根の真横にマーカーを打って移植した髪の毛がどこなのか分かるようにする必要があります。
※マーカーには医療用の入れ墨(ヘアタトゥー)を使用します

毛穴と毛穴の間隔は日本人の場合で約1.0-1.5mmなので、マーカーのサイズは直径0.5mm程度です。
※髪の毛の太さは約0.08mm
ただし、マーカーをしたからと言って正確に測定できるわけではありません。
移植した髪の毛がマーカーの右の髪の毛なのか左の髪の毛なのか上の髪の毛なのかをあらかじめ決めておいて記録しておく必要があるのと、ヘアタトゥー(医療用の入れ墨)は4-5か月で色が落ちてしまうので、仮に生えそろうのに1年半かかった場合、全く同じ場所にマーカーを4-5か月おきに3-4回重ね塗りする必要があるということです。
また、(当然ながら)マーカーは1箇所というわけにはいきません。
もし仮に1,000グラフト(髪の毛換算にすると約2,000本)移植した場合の生着率を測る場合、「信頼度95%で10%の誤差」という割りと甘目のサンプル調査とした場合でも、マーカーは最低90箇所必要で、もっと正確に測ろうとして誤差を5%にした場合マーカーは285箇所必要です。
マーカー(ヘアタトゥー)は安くはないので、285箇所を3-4回マーカーするだけの金額をクリニック側が負担することはありえず、患者が費用を負担するしかありません。
ただでさえ高額の植毛費用に加え、生着率測定用のヘアタトゥー代まで払えるような人はまずいないし、聞いたこともありません。
したがって、(言い切ってしまいますが)生着率を正確に測定したことがあるクリニックは日本国内で実質存在せず、測定もしたことがないのに「生着率95%」と公式サイトに記載している植毛クリニックは、誠実な運営をしている病院とは言い難(がた)いです。
「生着率95%以上」というのは決してウソでもありません

藤田先生、実際の生着率ってどれくらいだと思いますか?80%くらいだったりするのですか?

国内植毛クリニックの平均生着率は、感覚値で恐縮ですがおそらく90%は超えています。

解説いたします
「生着率は誰も測定したことがありません」と事実を言ってしまった後なので、説得力に欠けてしまいますが、実際の生着率は9割は超えていると思います。
生着率というのは、あくまで「移植した先で生着するかどうか」の確率で、後頭部から採取時に起きるドナーロス(ミスによる毛根の切断)は含まれていません。
毛根がちゃんと生きたまま前頭部などの移植先に植えた場合、よほどのことがなければ生着しないことは医学的に考えにくいです。100%生着するとは言いませんがおそらく90%以上は生着するのではないでしょうか。
なので、「生着率95%」というのは実は誇張した説明とは言えません。正確な数値ではありませんがウソではない、ということです。
とはいえ移植前に起きるドナーロス率は含んでいない数値なので、「95%ってすごい!」とも言えません。では何を持って植毛が成功したか否かを判定するかというと、某植毛クリニックが使っている「植毛満足度」というものが誠実な説明だと私は思っています。

決して評判が良いクリニックとは個人的には思わないので名前を出すのはなんですが、出してしまいます。「植毛満足度」という説明の仕方をしているのは、「植毛専門医」とも言える東京メモリアルクリニックの長井先生です。
ナルシストで有名な先生なので、賛否ある先生で私も得意ではありませんが、長井先生がおっしゃっている「植毛満足度」という説明の仕方は私は嫌いではないし、とても誠実な説明の仕方だと思っています。
なぜ「誠実か」と言うと、そもそも自毛植毛は数値で表せるものではないからです。
1,000本の植毛で満足する人もいれば8,000本植毛しても「全然増えていない」と感じる人もいます。自分が受けた植毛手術への評価は、事前の期待値に対して近ければ満足するし、事前の期待値が高すぎれば、もし仮にドナーロスゼロで生着率が100%だったとしても「植毛に失敗した」と感じることでしょう。
人間はあいまいな感情を持った非論理的な生き物なのです。
なので長井先生がおっしゃる「植毛満足度」は実はそても理にかなった説明の仕方で、「僕は植毛満足度80%を目指して日々執刀しています」という先生の言葉は、私はとても好感を持って受け止めています。
まとめ

藤田先生の個人的な好き嫌いまで聞いていないんですけど(笑)

ごめんなさい。ナルシストの人どうしても好きになれなくて。でも、植毛医療に対しては長井先生は誠実な方です。フォローになってないかもしれませんけど(汗)

記事が締まらないので、散らかした責任として最後藤田先生がまとめてください!

解説いたします
ほんとすいませんでした。最後私のほうでまとめさせていただきます。
公式サイト上などに「生着率95%」と記載している植毛クリニックは景品商事法という法律に抵触しています。正確に測定したこともないのにさも測定したかのように95%という数値をい患者を勧誘するのは誠実さに欠けています。
どこの植毛クリニックで植毛しようか悩んでいるなら、公式サイトをざっと見て、目立つところに「生着率95%」と記載がある所は少し警戒したほうがいいでしょう。
ただし、(前述したように)ドナーがきちんと生きたままM字部分や頭頂部に移植されたら、他人のドナーでもない限り普通は9割以上は生着するので、その点はご安心ください。
以上