- メガセッションが出来るのは若手ドクター。ベテランは敬遠したがる
- 植毛は医師1人と看護師4-5人のチームで行う
- 大手クリニックが採用しているFUE法はメガセッションには不向き
- メガセッションを行った場合のドナーロス率、ショッキングなデータ
- メスを使うFUT法、なぜ2,000グラフトのメガセッションが可能なのか検証
自毛植毛で一度に大量の植毛(目安は1,500株以上)を行うことを通称「メガセッション」と呼んでいます。植毛手術を時期をずらして複数回に分けて受けるよりも短い期間でフサフサになれ、患者側からすると魅力的にうつる方法です。
ところが多くの髪の毛を一気に移植しようとすると、手術時間が延び、集中力の限界からドナーロス(毛根の切断)の発生頻度が手術時間の長さに比例して上昇してしまうことはあまり知られていません。
にもかかわらず、植毛クリニック側は患者に重要な事実(植毛本数とドナーロスの関係性)を説明しないままメガセッションを勧める事例が後を絶たず、軽い警告の意味も含めて解説していきます。
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メガセッションが出来るのは若手ドクター。ベテランは敬遠したがる

藤田先生、メガセッションは腕の良いベテランの医師が行うものなのでしょうか?

そうであって欲しいですが、実態は違います。メガセッションは集中力と体力どちらも必要なので、ベテラン医師ほど敬遠したがります。

解説いたします
日本で行われている自毛植毛は通称FUEと呼ばれるメスを使用しない術式がメインで、その大きな特徴は「誰でも習得可能な単純な技術」です。
複雑なテクニックは必要なく、同じことを永遠に繰り返す「単純作業」になります。
植毛は「外科手術」に該当し医師免許はもちろん必要ですが、手先がそこそこ器用な人であれば医師でなくてもFUEの技術を習得することは十分可能でしょう。ただし、精密作業になるのでミスをしないよう「高い集中力」が求められます。
FUEで使用する医療器具は、「少し太いシャーペン」と思ってください。一般的なシャーペンの芯は0.5mmですが、FUE法で後頭部から毛根を採取する際に使用する「パンチ」と呼ばれる医療器具は0.9mm前後です。
【FUEで使用するパンチ】
穴の開いた部分に髪の毛をかぶせ、先端がモーターで回転ながらドリルのように頭皮に数mmほど穴を開け、その後ピンセットで毛根ごと採取します。
※あらかじめ後頭部の一部をバリカンで刈り上げて髪の毛を短くする必要があります
【パンチで毛根を採取するシーン】
画像は局部拡大されていてイメージしにくいかも知れません。wi-fi環境で下記の動画をご覧ください。開始から45秒から1分34秒くらいまでが、ドナーロスが発生する可能性が一番高い「毛根を採取するシーン」です。
※グロ注意です
内臓などの外科手術(オペ)に比べれば、自毛植毛のFUE法ははるかに難易度が低いのですが、マイクロ作業になり繊細な動きを要求されるので、高い集中力と体力が必要です。
「ドミノ倒し」を想像するとイメージしやすいかも知れません。下記をご覧ください。

少し極端な例ですが、ベテラン医師の植毛は上記のようなイメージです。ドミノ倒しと同じで、自毛植毛でのメガセッションは繊細な作業を2,000回以上繰り返すので、ベテラン医師ほど嫌がる傾向にあります。
植毛は医師1人と看護師複数の混合チーム戦

藤田先生、植毛は医師だけで行っていると思われていますが、実際には看護師が施術する時間もかなり長いと聞きます。実際の役割分担を教えてもらっていいですか?

後頭部から毛根を採取する際にパンチを使って頭皮を切るパートと、移植先(薄毛の部分)に穴を開けるパートの2つを医師が担当し、後頭部からピンセットで毛根を引き抜いたり、移植先に毛根を植え付ける作業は看護師が担当します。

解説いたします
メスなどの医療器具で人体を切る行為は、医療行為にあたり国家資格を持った医師してか執刀できません。
後頭部から毛根を採取する際、そのまま引っ張ってしまうと毛が抜けるだけで、毛根の周りについているドナー(細胞)が採取できず、移植先で生着しません。
したがって、毛根を周辺のドナーごと採取するために、
- パンチと呼ばれる医療器具であらかじめ毛根周辺に切り傷をいれておく
- ピンセットでドナー(細胞、あるいは肉片とも言います)のついた毛髪を採取
この2つの工程に分かれ、①は医師が、②は看護師が行います。

※③も看護師が行いますが、②と③の間に薄毛の部分に移植するための小さな穴を開けておく工程は医師が行います
医師は一人作業だが看護師は通常3人以上施術に関わる
メガセッションの危険性を理解するために重要なポイントを説明します。
国家資格を持った医師は、給与が高額なため何人も雇うことはできません。したがって植毛を行う場合も、1人の患者に対して1人の医師が施術を行います。
ところが看護師は別です。看護師は少ない場合でも3人以上施術に関わり、多い場合だと1人の患者に対して5人以上関わることも。
例えば2,000グラフト(髪の毛の本数に換算すると約4,000本)移植する場合、看護師が3人いれば1人700グラフト弱ですむし、4人いれば1人の看護師が担当するのは500グラフトです。
それに対し、医師は一人で2,000回後頭部から毛根を採取し、一人で前頭部や頭頂部などの移植先に2,000回ホールを開けます。
必要な体力と集中力は、医師は看護師の4-5倍以上になるので、メガセッションを行うとミス(ドナーロス)が大量に発生してしまうのはある意味仕方がないことです。
ロボット植毛には絶対に手を出さないでください

「では、最近出てきたロボット植毛ならメガセッションもいけるんじゃないか?ロボットは集中力も体力も関係ないし」
というツッコミがあるかも知れません。別の記事で詳しく書くのでこの記事では割愛しますが、結論だけ書くと、ロボット植毛は技術的に大きな欠陥を複数抱えているため絶対に手を出さないようにしてください。
大手植毛クリニックが採用しているFUE法はメガセッションには不向き

FUE専門クリニックを辞めて地元の総合病院の形成外科医になられた男性医師に会う為に、東北まで足を運んで取材したことがあります。「FUEでメガセッションは絶対にやってはダメだ」と言っておられました。藤田先生もそう思いますか?

FUEは超精密作業をひたすら反復しないといけないので、一定数を超えると集中力が切れてミス率が増えるのは自明の理だと思います。正確に作業できる限界はどんなに優れた医師でもせいぜい500グラフトくらいです。FUEでのメガセッションは自殺行為です。

解説いたします
一般の方が思っている以上に医学界というのは狭い業界です。「知り合いの知り合い」で国内の医師の90%くらいカバーできてしまうと思います。
これがさらに「自毛植毛」に限定すると、少し大袈裟かも知れませんが、くしゃみの音が隣の家(=隣の自毛植毛クリニック)に聞こえてしまうような、そんな感じの本当に狭い業界です。噂はあっという間に広まります。
その噂でよく聞く話が「FUEでメガセッションを行った場合のドナーロス率の話」です。話を総合するとだいたいこういうグラフになりそうです。

1株につき平均2本髪が生えています
メスで頭皮を剥ぎ取るFUTに比べて、FUEのほうが元々ドナーロス率(毛根切断率)は高いです。ベースで20%弱程度ドナーロスします。
グラフに示したように、500株くらいまではほぼ20%弱程度で推移しているドナーロス率が、500株を超えたあたりから一気に上昇しているのが分かると思います。
これが「精密作業の集中力の限界」です。
この「500株(グラフト)」という数字を覚えておくと、良いクリニックを見分けられます。クリニックの公式サイトに「1度の植毛手術で3,000株や4,000株も可能です」と書いてあるクリニックは選択肢から外し、逆に「500株程度まで」と公式サイトに正直に書いてあるクリニックは「当たり」のクリニックである可能性が高いです。
植毛クリニックの給与形態とドナーロス率の関係
大手植毛クリニックの給与形態は、月間の移植株数と給料が連動していて、月間30,000株植毛手術を実施した医師と60,000株植毛手術を行った医師とでは、給料が倍近く違ってきます。
このような給与形態であるために、植毛医はカウンセリング段階から無理をしてできるだけ多くの株数の植毛手術を患者に推薦することも。
しかしグラフでドナーロス率を説明したように、メガセッションは行うべきではないし、勧められても断りましょう。FUE法で3,000株のメガセッションを行うと、集中力の問題から4割以上のドナー(=採取した毛根)が確実に死んで(ロス)しまいます。
一度に多くの髪の毛を移植して、できるだけ早く薄毛のストレスから逃れたい気持ちはとても良く分かりますが、大手植毛クリニックが採用しているFUE法の推奨株数は500株までで、どんなに多くてもFUE法で移植して良い株数は1度の植毛手術で最大1,000株までです。
メスを使うFUT法がなぜ1,500グラフト以上のメガセッションが可能なのか検証

シェアはFUE法の1/10くらいですが、メスを使うFUT法はメガセッションが出来ると聞いています。藤田先生、それはなぜでしょうか?

FUT法は精密作業を医師と看護師で分業しているので集中力を保てるからです。

解説いたします
後頭部の頭皮をメスで切開して毛根を頭皮ごと先に剥ぎ取るFUT(ドナーストリップ法とも言います)という術式があります。
※勘違いされる事が多いですがFUEよりメスを使うFUTの方が最新の植毛法です

FUT法の流れは以下の通りです。
- 医師がメスを使って毛根を頭皮ごと剥ぎ取る
- 剥ぎ取った頭皮を看護師が3~5人がかりで株分けする
- 医師が頭皮を縫い合わせる
- 医師が移植先に毛根を植えこむ用の穴を開ける
- 看護師が移植先の穴に毛根をピンセットで植えこむ
国内の大手植毛クリニックが採用しているFUE法は、FUE専用の医療器具(パンチ)を使って上記の①と②をパンチで同時に行います。
例えば1,000株(=1,000グラフト)植毛する場合同じ作業を1,000回医師が繰り返すので、FUE法は集中力の限界からミスが発生しやすく、反対にメスを使ってあらかじめ頭皮を剥ぎ取る最新の植毛法FUTは、株分けという単純作業はナース(看護師)が複数名で行うのでミスが最小限になると言われれています。
FUTの株分けは通常3-5人で行うので、看護師一人あたりの作業は400回以下です。人間の集中力の限界が500回程度なので、それを大きく下回る400回程度の作業であればミス率も当然低くなるというわけです。
FUT法で剥ぎ取る毛根株数は最大1,800株
FUTは三日月の形状で後頭部から頭皮を剥ぎ取り、その剥ぎ取った頭皮に付いている髪の毛の本数は最大で3,600本(株数にして1,800株)です。
つまり、FUTは特に何も意識しなくても1,800株近く移植できます。メガセッションの定義は「1,500株以上」なので、FUTの場合は「そもそもメガセッション(一度に大量の植毛を行う事)」なのです。
FUTはメスを使い、後頭部から剥ぎ取った頭皮を縫い合わせるので線状の傷跡が残ります。これはマイナス面ではあるものの、メスを使わない古い術式であるFUE法のほうが実は傷跡の総面積は広がります。
広告に騙されないよう情報を良く精査しましょう(まとめ)

藤田先生ありがとうございました。
あまり表に出ることがないFUE法の弱点について解説していただいたので少しびっくりされた読者の方もいると思います。
大手植毛クリニックが採用しているFUE法は、
- メスを使わないから痛みが少ない
- 傷跡が目立たない
と宣伝されている上に、国内でのシェアが9割近くに達しているので患者さん側が勘違いしやすいですが、FUE法は「集中力の限界」という大きな問題点を抱えている術式で、そもそもメガセッション(一度に大量の植毛を行う事)には不向きなのです。
最後にまとめを書いておきますね。
- FUEで一度に行ってよい株数(グラフト数)は集中力の限界から500株までに留めておくべき
- メスを使う最新式のFUT植毛はミス率を考慮しても1,800株まで移植が十分に可能
自毛植毛は「外科手術」なので失敗は許されません。後悔しないようあなた自身がしっかりと情報を精査し、計画をしっかり立ててから「どこでどの術式で植毛すべきなのか」を総合判断してください。
最後に、植毛をするにあたって知っておいた方が良い事実と安全に植毛ができるおすすめのクリ ニックをまとめた記事を紹介しておきます。

おすすめ植毛クリニックは?比較するとどこが良い?に冷徹回答 。植毛量によって選ぶべき術式やランキングは大きく変わる
自毛植毛クリニックのランキング記事です。「大手だから〇〇クリニックが1位」ではなく、医学的根拠や植毛費用から見たコストパフォーマンス、看護師の質、AGAの進行状態までをも総合的に熟慮した上で各医院を徹底比較しています。
以上