現代社会において深刻な悩みとなっている薄毛や抜け毛の要因として、体内の亜鉛不足が大きく関与している可能性が、複数の臨床研究によって示唆されています。
体内の亜鉛濃度が低下することで毛周期に異常をきたし、結果として休止期の毛髪が増加することで抜け毛や薄毛につながるのです。
本稿では、毛髪の健全な成長に必須である亜鉛の生理学的機能から、不足時に現れる症状、そして効果的な予防法まで、エビデンスに基づいて解説します。
この記事を書いた医師

内科総合クリニック人形町 院長
- 日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
- 東京大学医学部保健学科および横浜市立大学医学部を卒業
- 東京大学付属病院や虎の門病院等を経て2019年11月に当院を開業
最寄駅:東京地下鉄 人形町駅および水天宮前駅(各徒歩3分)
髪の毛の健康に必要な亜鉛の働きとは
髪の健康を支える重要なミネラルである亜鉛について、生理学的機能と臨床的な意義を解説します。
髪の毛の成長サイクルを正常に保つ亜鉛の役割

毛髪の成長周期は、成長期、退行期、休止期という3つの段階で構成されており、周期が規則正しく循環することで、健康的な髪の状態が維持されています。
特に成長期は毛母細胞の活発な分裂と増殖が必要で、亜鉛を含む金属酵素が重要な役割を担っていることが、明らかになってきました。
| 毛髪の成長段階 | 期間 | 特徴 | 亜鉛の役割 |
|---|---|---|---|
| 成長期 | 2-6年 | 毛髪が最も活発に成長する時期 | 細胞分裂促進 |
| 退行期 | 2-3週間 | 毛根が萎縮し、成長が停止する時期 | 細胞死調整 |
| 休止期 | 2-3ヶ月 | 古い毛髪が自然に抜け落ちる時期 | 新周期準備 |
生体内の亜鉛濃度が低下すると、DNA合成や細胞分裂に関与する酵素の活性が低下し、毛母細胞の増殖が抑制されることで、成長期の短縮や休止期への早期移行が引き起こされます。
毛髪の成長サイクルにおける亜鉛の作用は、単なる細胞増殖の促進にとどまらず、毛包幹細胞の維持や分化にも深く関与しており、長期的な毛髪の健康維持において極めて重要な役割を果たしています。
タンパク質の合成を助けて髪を強くする
亜鉛は、体内で200種類以上の酵素の補因子として機能しており、その中でも特に重要なのが、毛髪の主成分であるケラチンタンパク質の生合成に関与する酵素群への作用です。
| 髪の主要成分 | 構成比率 | 亜鉛の関与 | 生理的意義 |
|---|---|---|---|
| ケラチン | 約85% | 合成促進 | 構造形成 |
| 水分 | 約12% | 保持補助 | 弾力性維持 |
| ミネラル類 | 約3% | 代謝調整 | 機能調節 |

ケラチンタンパク質の合成過程では、アミノ酸の重合からジスルフィド結合の形成まで、複数の段階で亜鉛依存性の酵素が関与しており、これらの酵素活性が低下すると、毛髪の強度や弾力性が著しく損なわれることが知られています。
毛髪のケラチン構造を強化する上で特に重要なのが、システイン残基間のジスルフィド結合の形成で、この過程に関与する酵素の多くが亜鉛を必要とすることから、亜鉛不足は直接的に髪質の低下につながる可能性があります。
ホルモンバランスの調整による髪の健康維持
亜鉛は、男性型脱毛症の主要な原因物質として知られるジヒドロテストステロン(DHT)の産生を制御する5α還元酵素の活性調節に関与しており、間接的に毛髪の健康維持に寄与しています。
| ホルモン | 髪への影響 | 亜鉛の作用 | 臨床的意義 |
|---|---|---|---|
| DHT | 毛根の萎縮 | 産生抑制 | 脱毛予防 |
| テストステロン | 毛髪の成長促進 | バランス調整 | 成長維持 |
| エストロゲン | 毛髪の成長維持 | 代謝補助 | 周期調整 |
亜鉛が充分にあると、5α還元酵素の過剰な活性化が抑制され、DHTの産生レベルが保たれることで、毛根の萎縮や脱毛のリスクが軽減されることが、複数の研究により示唆されています。
さらに亜鉛は、アンドロゲン受容体の感受性調節にも関与しており、DHTによる毛根へのネガティブな作用を緩和する可能性があることが、最近の研究で明らかになってきました。

薄毛や抜け毛の原因に?亜鉛不足のサイン
亜鉛不足が引き起こす髪への影響は、見過ごすことのできない問題で、髪の変化から味覚異常まで、亜鉛不足による様々な症状と対策について、詳しく解説していきます。
亜鉛不足による髪の変化とその仕組み
人体の健康維持において欠かすことのできない亜鉛は、200種類を超える酵素の働きに関与する微量ミネラルとして、特に毛髪の成長において重要な役割を担っています。
毛髪の成長サイクルにおける亜鉛の役割については、数多くの医学研究によって、毛母細胞の分裂促進や毛髪タンパク質の合成促進などの作用が科学的に実証されています。
| 亜鉛の役割 | 髪への影響 |
|---|---|
| 細胞分裂促進 | 毛髪成長 |
| タンパク質合成 | 髪の強度維持 |
| ホルモン調整 | 成長サイクル |
髪のコシやツヤが急激に失われる
毛髪の主成分であるケラチンタンパク質の合成には亜鉛が不可欠で、不足は直接的に髪の構造や外観に影響を及ぼします。
キューティクルの形成不全によって引き起こされる髪質の変化は、毛髪脆弱性症候群として分類され、早期の段階で適切な対処が求められる症状です。
| 症状 | 見分け方 |
|---|---|
| コシの低下 | 髪が柔らかく脆くなる |
| ツヤの消失 | 光沢が失われる |
| 枝毛の増加 | 髪先が割れる |
頭皮のかゆみやフケが増える
亜鉛は表皮細胞の新陳代謝と免疫システムの制御に深く関与しており、欠乏は頭皮の恒常性維持機能に重大な影響を及ぼすことが明らかになっています。
亜鉛不足に起因する頭皮トラブルは、炎症性皮膚疾患の一形態として捉えられ、早期の段階での治療介入が必要です。
| 頭皮の状態 | 特徴 |
|---|---|
| 乾燥 | カサつき、張り |
| 炎症 | 発赤、かゆみ |
| フケ | 白い粉状の角質 |
亜鉛不足に起因する頭皮の炎症性変化は、放置することで慢性化するリスクが高まり、毛包炎や脱毛症へと進展する可能性が指摘されています。
爪の白い斑点や縦じわが目立つ
皮膚付属器官である爪は、毛髪と同様にケラチンを主成分とする組織で、亜鉛栄養状態を反映する生体指標として、皮膚科診療において重要な診断的価値を持つことが認められています。
爪表面に出現する白斑(ボー線)や縦走線(縦じわ)などは、体内の亜鉛レベルの低下を示唆する所見です。
- 爪の白い斑点(ボー線):亜鉛欠乏による角化異常
- 縦方向の溝(縦じわ):爪母部の栄養障害
- 爪の成長速度の低下:細胞分裂能の低下
- 爪の脆弱化:ケラチン合成障害

味覚や嗅覚の変化を感じる
亜鉛は味蕾細胞の形成・維持に必須の微量元素で、欠乏は味覚受容体の機能障害を引き起こし、味覚異常として現れます。
味覚障害は、味覚閾値の上昇(味覚鈍麻)から完全な味覚消失まで、様々な程度の障害として分類され、患者のQOL(生活の質)に重大な影響を及ぼす症状です。
嗅覚系においても、亜鉛は嗅覚受容体の機能維持に関与することが神経生理学的研究により明らかにされており、亜鉛不足は嗅覚障害の発症要因の一つとして位置づけられています。
薄毛ケアのために今日から始めたい亜鉛不足の予防法
体内における亜鉛の不足は、人体の様々な組織に影響を及ぼしますが、特に顕著な変化が現れるのが毛髪、皮膚、爪などのケラチンタンパク質を主成分とする組織です。
髪のコシやツヤが急激に失われる
毛髪の物理的・化学的構造を正常に保つためには、ケラチンタンパク質の適切な合成が不可欠で、この過程では亜鉛を補因子とする複数の酵素が重要な役割を果たしています。
| 髪の状態変化 | 亜鉛不足との関連性 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| コシの低下 | ケラチン合成障害 | 毛髪強度低下 |
| ツヤの消失 | キューティクル形成不全 | 光沢度減少 |
| 枝毛の増加 | タンパク質構造の脆弱化 | 断裂耐性低下 |
亜鉛が不足した状態が継続すると、毛髪の成長速度の低下のみならず、形成される毛髪の構造的完全性も著しく損なわれることが、複数の臨床研究により明らかにされています。
毛髪表面のキューティクルは、光の反射や物理的保護において重要な役割を担っていますが、亜鉛不足によりその形成過程が阻害されると、表面構造の不規則化が進行し髪のツヤが失われていきます。
頭皮のかゆみやフケが増える
亜鉛は表皮細胞の分化・増殖過程と免疫系の正常な機能維持において中心的な役割を果たしており、不足すると頭皮の健康状態に直接的な影響を与えます。
| 頭皮の症状 | 原因となる機能障害 | 二次的影響 |
|---|---|---|
| かゆみ | 炎症反応の異常 | 掻破による損傷 |
| フケ | 角質層の代謝異常 | 毛包環境悪化 |
| 炎症 | 免疫機能の低下 | 毛根への障害 |
体内の亜鉛レベルが低下すると、表皮細胞の代謝回転が乱れ、角質層の過剰な蓄積や慢性的な炎症反応が観察されるようになります。
爪の白い斑点や縦じわが目立つ
爪組織に現れる形態学的変化は、体内の亜鉛栄養状態を反映する重要な指標です。
| 爪の変化 | 亜鉛不足との関係 | 生理学的機序 |
|---|---|---|
| 白斑 | 角質形成障害 | 基質合成不全 |
| 縦じわ | 爪母細胞の機能低下 | 成長異常 |
| 脆弱化 | タンパク質合成不全 | 構造強度低下 |
爪に出現する白い斑点(白斑)は、亜鉛依存性酵素の活性低下による角質形成障害の表れであり、複数の白斑が観察される場合には、体内の亜鉛レベルが基準値を下回っている可能性が示唆されます。
味覚や嗅覚の変化を感じる
亜鉛は味蕾における味覚受容体の形成と機能維持に不可欠な微量元素で、欠乏は味覚異常の主要な原因の一つです。
| 感覚の変化 | 亜鉛欠乏との関連 | 栄養学的影響 |
|---|---|---|
| 味覚障害 | 味蕾細胞の機能低下 | 食欲不振 |
| 嗅覚異常 | 嗅覚受容体の障害 | 食事満足度低下 |
| 食欲低下 | 味覚シグナルの減弱 | 栄養摂取不足 |
亜鉛不足が進行すると、味覚受容体の機能低下により、食物本来の味を正確に感知することが困難となり、食事の質的満足度が低下することがあります。
このような状態が継続すると、食欲不振から十分な栄養摂取ができなくなり、さらなる亜鉛不足を招く悪循環に陥るリスクが高まります。

参考文献
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