お風呂場の排水溝や枕元の抜け毛を見て、「最近抜け毛が増えたかも…」と不安を感じることもあるのではないでしょうか。
1日に抜ける髪の毛には正常な範囲があり、それを知ることが大切です。
この記事では、女性の1日の平均的な抜け毛の本数、髪の毛の周期、そして抜け毛が増える原因や注意すべきサインについて、専門的な視点から詳しく解説します。
髪の毛の基礎知識|1日の抜け毛を理解するために
毎日ある程度の髪の毛が抜けるのは自然な現象です。
しかし、その本数がどのくらいまでなら「普通」で、どこからが「注意が必要」なのか、気になりますよね。
まずは、私たちの髪の毛がどのように生え変わり、なぜ毎日抜けるのか、その基本的な仕組みを理解しましょう。
髪の毛の役割と構造
髪の毛は、頭部を物理的な衝撃や紫外線から守る大切な役割を担っています。また、体温調節の一端も担うと考えられています。
一本の髪の毛は、皮膚の外に出ている「毛幹」と、皮膚の中に埋まっている「毛根」から成り立っています。
毛根の一番下にある「毛球」で髪の毛は作られます。
毛周期(ヘアサイクル)とは
髪の毛一本一本には寿命があり、一定の周期で生え変わっています。これを毛周期(ヘアサイクル)と呼びます。
毛周期は主に「成長期」「退行期」「休止期」の3つの期間に分けられます。
このサイクルがあるため、私たちの髪は一定の量を保ちながら日々新しく生まれ変わっているのです。
毛周期の各段階
期間 | 特徴 | 期間の目安(女性) |
---|---|---|
成長期 | 毛母細胞が活発に分裂し、髪が太く長く成長する期間 | 2年~6年 |
退行期 | 毛母細胞の分裂が止まり、髪の成長が停止する期間 | 約2週間 |
休止期 | 髪が毛根から離れ、自然に抜け落ちるのを待つ期間 | 約3ヶ月~4ヶ月 |
1日に抜ける髪の毛の正常な本数
健康な人の場合、1日に自然に抜け落ちる髪の毛の本数は、平均して50本から100本程度と言われています。
これは毛周期における休止期の髪の毛が抜け落ちるためです。
全体の髪の毛(約10万本)のうち、約10%が休止期にあると考えると、この程度の本数が毎日抜けるのは生理的な現象と言えます。
ただし、季節や個人の髪の量によって多少の変動はあります。
女性の1日の平均的な抜け毛とその範囲
「1日に50本から100本」と言われても、実際に自分の抜け毛を数えるのは難しいものです。また、この本数はあくまで目安であり、様々な要因で変動します。
ここでは、女性の抜け毛についてもう少し詳しく見ていきましょう。
年代別の抜け毛の傾向
年齢を重ねるとともに、毛周期の成長期が短くなったり、毛包(毛根を包む組織)の機能が低下したりする傾向があります。
これにより髪の毛が細くなったり、抜け毛が増えたりする場合があります。
女性では、ホルモンバランスの変化も影響します。
年代別に見る抜け毛の一般的な注意点
年代 | 主な要因・注意点 | 対策のポイント |
---|---|---|
20代~30代 | 過度なダイエット、ストレス、生活習慣の乱れ、誤ったヘアケア | バランスの取れた食事、十分な睡眠、ストレスケア |
40代~50代 | 女性ホルモンの減少(更年期)、加齢による毛周期の変化 | ホルモンバランスを整える生活、頭皮ケアの強化 |
60代以降 | 加齢による全体的な毛髪の減少、血行不良 | 頭皮マッサージ、栄養補給、優しいヘアケア |
季節による抜け毛本数の変動
抜け毛の本数は、季節によっても変動するケースがあります。特に春や秋は抜け毛が増えやすいと言われます。
春は新陳代謝が活発になる時期であり、秋は夏の間に受けた紫外線ダメージや疲労が影響すると考えられています。
ただし、これも個人差が大きいです。
シャンプー時の抜け毛について
シャンプーの際に抜け毛が多いと感じることがありますが、これは1日の抜け毛の多くが洗髪時にまとまって抜けるためです。
休止期に入り、自然に抜け落ちる準備ができていた髪の毛が、シャンプーの物理的な刺激で洗い流されるのです。
そのため、シャンプー時の抜け毛が全体の抜け毛の多くを占めるのは普通のことです。
通常、シャンプー時の抜け毛は1日の抜け毛の50~70%程度と言われています。
抜け毛が増える原因|女性特有の要因も
正常な範囲を超える抜け毛が見られる場合、何らかの原因が隠れている可能性があります。
女性の場合、男性とは異なる特有の原因も考えられます。
生活習慣の乱れ
不規則な生活や睡眠不足、栄養バランスの偏った食事、過度な飲酒や喫煙などは、頭皮環境の悪化や血行不良を招き、健康な髪の毛の成長を妨げる原因となります。
特に髪の毛の主成分であるタンパク質や、その生成を助けるビタミン、ミネラルの不足は抜け毛に直結します。
髪の成長に必要な栄養素
栄養素 | 主な働き | 多く含む食品例 |
---|---|---|
タンパク質 | 髪の毛の主成分 | 肉、魚、卵、大豆製品 |
亜鉛 | タンパク質の合成を助ける | 牡蠣、レバー、牛肉 |
ビタミンB群 | 頭皮の新陳代謝を促す | 豚肉、マグロ、ナッツ類 |
ストレスの影響
精神的なストレスは自律神経のバランスを乱し、血管を収縮させて頭皮への血流を悪化させます。
血行が悪くなると、髪の毛の成長に必要な栄養素が毛根まで届きにくくなり、抜け毛や薄毛の原因となりやすいです。
また、ストレスはホルモンバランスにも影響を与えるケースがあります。
ホルモンバランスの変化
女性の髪の毛は、女性ホルモン(特にエストロゲン)と深く関わっています。エストロゲンは髪の成長を促進し、ハリやコシを保つ働きがあります。
そのため、妊娠・出産後や更年期など、女性ホルモンの分泌量が大きく変動する時期には、抜け毛が増加する場合があります。
これを「分娩後脱毛症」や「女性男性型脱毛症(FAGA)」と呼びます。
誤ったヘアケアや頭皮への負担
洗浄力の強すぎるシャンプーの使用、頻繁なカラーリングやパーマ、きつく髪を縛るヘアスタイルなどは頭皮や髪の毛にダメージを与え、抜け毛の原因となります。
また、頭皮の乾燥や過剰な皮脂も、健康な髪の成長を妨げる要因です。
- 洗浄力の強すぎるシャンプー
- 頻繁なヘアカラー・パーマ
- ドライヤーの熱の当てすぎ
- ポニーテールなど髪を強く引っ張る髪型
「もしかして薄毛?」抜け毛で注意すべきサイン
単に抜け毛の本数が多いだけでなく、抜け毛の状態やその他の症状によっては、注意が必要な場合があります。
早期にサインに気づき、適切な対応をすることが大切です。
以下のようなサインが見られたら、いちど専門医への相談を検討しましょう。
抜け毛の本数が明らかに増えた
以前と比較して、明らかに抜け毛の本数が増えたと感じる場合、特に1日に150本以上抜ける日が続くようであれば注意が必要です。
排水溝に溜まる髪の毛の量や、ブラッシング時の抜け毛の量などを意識して観察してみましょう。
抜け毛の質や太さの変化
抜けた髪の毛が細く短いものばかりだったり、以前よりも髪全体のハリやコシがなくなってきたと感じる場合も注意が必要です。
これは、毛周期の成長期が短縮し、髪の毛が十分に成長する前に抜けてしまっている可能性があります。
注意したい抜け毛の特徴
項目 | 健康な抜け毛 | 注意が必要な抜け毛 |
---|---|---|
毛根の形 | マッチ棒のように丸く膨らんでいる | 尖っている、細い、皮脂が付着している |
髪の太さ | ある程度の太さがある | 細く弱々しい、短い毛が多い |
色 | 自然な黒色(または地毛の色) | 色が薄い、白っぽい |
頭皮の状態の変化
頭皮にかゆみやフケ、赤みや湿疹、炎症などが見られるときは、頭皮環境が悪化しているサインです。
健康な頭皮は青白い色をしていますが、赤みを帯びていたり、乾燥してカサカサしていたりする場合は、何らかのトラブルを抱えている可能性があります。
これらの頭皮トラブルが抜け毛を引き起こすケースもあります。
特定の部位だけ薄くなる
髪全体のボリュームが減るのではなく、頭頂部やつむじ周り、生え際など、特定の部位だけが目立って薄くなってきた場合も注意が必要です。
これは女性男性型脱毛症(FAGA)や円形脱毛症などの可能性も考えられます。
抜け毛が気になる時のセルフチェックと対策
抜け毛が増えたと感じても、すぐに医療機関を受診するべきか迷うこともあるでしょう。
まずはご自身でできるセルフチェックと、日常生活で取り入れられる対策について確認していきましょう。
抜け毛の本数を把握する方法
正確に数えるのは難しいですが、おおよその傾向を把握する方法はあります。
例えば、朝起きた時の枕元の抜け毛、シャンプー時の排水溝に溜まる抜け毛、ドライヤー後の床の抜け毛などを数日間記録してみましょう。
いつもより明らかに多い日が続くかどうかが一つの目安になります。
生活習慣の見直し
健康な髪を育むためには、まず体の内側からのケアが重要です。
バランスの取れた食事や質の高い睡眠、適度な運動を心がけ、ストレスを溜め込まないようにしましょう。
生活習慣改善のポイント
項目 | 具体的な内容 | 期待できる効果 |
---|---|---|
食事 | タンパク質、ビタミン、ミネラルをバランス良く摂取する | 髪の栄養補給、頭皮環境の改善 |
睡眠 | 毎日6~8時間程度の質の高い睡眠を確保する | 成長ホルモンの分泌促進、細胞修復 |
運動 | ウォーキングなどの有酸素運動を習慣にする | 血行促進、ストレス解消 |
正しいヘアケアの実践
頭皮に優しいシャンプーを選び、爪を立てずに指の腹でマッサージするように洗いましょう。
すすぎ残しがないようにていねいに洗い流し、ドライヤーは髪から20cm以上離して、同じ場所に熱が集中しないように乾かします。
頭皮マッサージも血行促進に役立ちます。
ストレス管理
自分なりのリラックス方法を見つけ、ストレスを上手に発散することが大切です。
趣味の時間を持つ、軽い運動をする、十分な休息を取るなど、心身のバランスを整えるように意識しましょう。
必要であれば、専門家のカウンセリングを受けるのも一つの方法です。
不安に寄り添うクリニックも多い
抜け毛や薄毛の悩みは、非常にデリケートな問題です。
数値やデータだけでは測れない、一人ひとりの心の負担や、「誰に相談したら良いかわからない」という孤独感に、真摯に向き合ってくれるクリニックを利用するのも有効です。
「ただの抜け毛」ではないかもしれないという不安
「周りの人は気づいていないかもしれないけれど、自分にとっては大きな悩み」「このまま薄毛が進行したらどうしよう」といった不安は、決して小さなものではありません。
クリニックでは、その不安を「気のせい」や「考えすぎ」で片付けず、専門的な知識と経験に基づいて、ていねいに原因を探ります。
数値だけでは測れない「見た目の変化」への思い
抜け毛の本数も重要ですが、それ以上に「分け目が目立つようになった」「髪全体のボリュームが減った」といった見た目の変化は本人にとって深刻な問題です。
自分がとのような点に最も悩んでいるのか、どのような状態を目指したいのかを確認しておくと、治療計画に反映できます。
患者さんが抱える悩み
- 分け目が以前より広くなった
- 髪のボリュームが減り、スタイリングが決まらない
- 地肌が透けて見えるのが気になる
治療への期待と、その先のゴール
治療を通じて髪の状態が改善するのはもちろんですが、それによって自信を取り戻し、毎日をより明るく前向きに過ごせるようになることがゴールです。
治療の過程で生じる疑問や不安にも、一つひとつていねいに答え、安心して治療を続けていただけるようサポートしてくれるクリニックを選びましょう。
クリニックで得られるサポート
サポート内容 | 具体的な取り組み |
---|---|
丁寧なカウンセリング | 悩みや希望をじっくり伺い、治療方針を一緒に決定 |
個別化された治療提案 | 画一的でない、一人ひとりに合った治療法を提案 |
精神的なサポート | 治療中の不安や疑問に寄り添い、安心して治療に臨める環境を提供 |
一人で悩まず、まずは相談を
抜け毛や薄毛の悩みは、一人で抱え込まずに、まずは専門のクリニックに相談することが解決への第一歩です。
無料カウンセリングを実施しているクリニックも多いので、気軽に相談してみるのがおすすめです。
また、最近はオンライン診療を行う医療機関も増えています。上手に活用しながら髪の悩みを解決していきましょう。
専門クリニックでの検査と治療法
クリニックでは、詳細な検査を通じて原因を特定し、医学的根拠に基づいた適切な治療を行います。
初診時の流れと検査内容
まず問診で生活習慣や既往歴、家族歴や抜け毛が気になり始めた時期や具体的な症状などを詳しく伺います。
その後、視診や触診で頭皮や髪の状態を確認し、必要に応じてマイクロスコープを用いた頭皮チェックや血液検査などを行います。
主な検査項目
検査名 | 検査内容 | わかること |
---|---|---|
問診 | 生活習慣、病歴、自覚症状などをヒアリング | 抜け毛の背景にある要因の推測 |
視診・触診 | 頭皮の色、毛穴の状態、髪の密度などを確認 | 脱毛のパターン、頭皮の炎症の有無など |
血液検査 | ホルモン値、甲状腺機能、栄養状態などを測定 | 全身疾患や栄養不足の有無など |
女性の薄毛治療の選択肢
女性の薄毛治療には内服薬や外用薬、注入治療や自毛植毛など、さまざまな選択肢があります。
原因や症状、患者さんの希望に応じて、これらの治療法を単独で、あるいは組み合わせて行います。
治療期間と費用の目安
薄毛治療は、効果を実感するまでに一般的に3ヶ月から6ヶ月程度の期間が必要です。
治療法や症状の程度によって、治療期間や費用は大きく異なります。
カウンセリングの際に、具体的な治療計画と合わせて、期間や費用の目安についてもしっかりと説明を受けましょう。
治療を受ける上での注意点
治療効果には個人差があり、副作用のリスクもゼロではありません。
治療を開始する前に、期待できる効果だけでなく、起こりうる副作用やデメリットについても十分に理解しておくことが大切です。
また、治療中も定期的に医師の診察を受け、指示に従いましょう。
よくある質問
抜け毛や薄毛治療に関して、患者さんからよく寄せられる質問とその回答をまとめました。
- 1日に何本くらい抜けたら危険信号ですか?
-
一般的に、1日に100本を超える抜け毛が続く場合や、以前と比べて明らかに抜け毛が増えたと感じる場合は注意が必要です。
特に、150本以上抜ける日が続くようであれば、一度専門医に相談することをお勧めします。
ただし、季節の変わり目など一時的に増える場合もありますので、数日間の平均で判断すると良いでしょう。
- シャンプーを変えたら抜け毛が増えた気がします。関係ありますか?
-
シャンプーの種類によっては、頭皮に合わずに刺激となり、抜け毛が増えるときがあります。特に洗浄力が強すぎるものや、特定の成分が合わない場合などです。
数日使用しても改善しない、あるいは頭皮にかゆみや赤みが出るようであれば、元のシャンプーに戻すか、より低刺激性のものに変更することを検討してください。
- 抜け毛予防に良い食べ物はありますか?
-
バランスの取れた食事が基本ですが、特に髪の毛の主成分であるタンパク質(肉、魚、大豆製品など)、髪の成長を助ける亜鉛(牡蠣、レバーなど)、ビタミンB群(豚肉、マグロなど)、ビタミンE(ナッツ類、アボカドなど)を積極的に摂ると良いでしょう。
特定の食品だけを大量に摂取するのではなく、多様な食品から栄養を摂るのが理想です。
- クリニックでの治療は痛いですか?
-
治療法によって異なります。内服薬や外用薬の治療には基本的に痛みはありません。
注入治療などでは、チクッとした軽い痛みを感じる場合がありますが、麻酔クリームを使用するなど痛みを軽減する工夫をします。
痛みの感じ方には個人差がありますので、不安な場合は事前に医師に相談すると安心です。
参考文献
MARTÍNEZ-VELASCO, María Abril, et al. The hair shedding visual scale: a quick tool to assess hair loss in women. Dermatology and therapy, 2017, 7: 155-165.
HARRIES, Matthew, et al. Towards a consensus on how to diagnose and quantify female pattern hair loss–The ‘Female Pattern Hair Loss Severity Index (FPHL‐SI)’. Journal of the European Academy of Dermatology and Venereology, 2016, 30.4: 667-676.
RAKOWSKA, Adriana. Trichoscopy (hair and scalp videodermoscopy) in the healthy female. Method standardization and norms for measurable parameters. Journal of dermatological case reports, 2009, 3.1: 14.
PIÉRARD, Gerald E., et al. EEMCO guidance for the assessment of hair shedding and alopecia. Skin pharmacology and physiology, 2004, 17.2: 98-110.
ALMOHANNA, Hind M., et al. The role of vitamins and minerals in hair loss: a review. Dermatology and therapy, 2019, 9.1: 51-70.
DINH, Quan Q.; SINCLAIR, Rodney. Female pattern hair loss: current treatment concepts. Clinical interventions in aging, 2007, 2.2: 189-199.
HUNG, Pei-Kai, et al. Quantitative assessment of female pattern hair loss. Dermatologica Sinica, 2015, 33.3: 142-145.
SHRIVASTAVA, Shyam Behari. Diffuse hair loss in an adult female: approach to diagnosis and management. Indian Journal of Dermatology, Venereology and Leprology, 2009, 75: 20.