女性の脱毛症は様々な原因から起こります。本記事では10種類の脱毛症の原因について詳しく解説します。それぞれの脱毛症に対する適切な理解が、効果的な治療への第一歩となります。

びまん性脱毛症の原因
びまん性脱毛症は、頭皮全体に均等に脱毛が進行する状態です。急激なストレスや栄養不足、ホルモンバランスの乱れなど、様々な要因が絡み合って発症します。

びまん性脱毛症の特徴は、特定の部位ではなく頭部全体の毛髪密度が徐々に低下することです。多くの場合、休止期脱毛症と関連しており、髪の成長サイクルが乱れることで発症します。
びまん性脱毛症の主な原因因子
原因カテゴリー | 具体的な要因 | 影響メカニズム |
---|---|---|
生理的要因 | ホルモンバランスの変化 | エストロゲン減少により毛髪サイクルが乱れる |
栄養因子 | 鉄分・亜鉛・タンパク質の不足 | 毛母細胞の生成・成長に必要な栄養素が不足 |
精神的要因 | 強いストレス・不安 | 血行不良や免疫系の異常を引き起こす |
身体的要因 | 甲状腺機能障害・貧血 | 代謝異常により毛髪成長に影響 |
環境因子 | 紫外線・大気汚染 | 頭皮の酸化ストレスを増加させる |
びまん性脱毛症の最も一般的な原因は急激なストレスです。

現代社会においては、仕事や人間関係、経済的問題などが複合的に作用し、慢性的なストレス状態に陥りやすくなっています。
これにより自律神経が乱れ、頭皮の血行不良や毛乳頭への栄養供給が滞ることで脱毛が進行します。
また、栄養バランスの偏りも重要な要因です。

特に急激なダイエットによる栄養不足は、毛髪の主成分であるケラチンの生成に必要なタンパク質や、毛髪の成長をサポートする鉄分・亜鉛などの微量元素が不足することで、髪の健康状態に悪影響を及ぼします。
- ホルモン要因:閉経前後の女性ホルモン減少
- 代謝性要因:甲状腺機能低下症や糖尿病などの代謝疾患
- 免疫学的要因:自己免疫疾患との関連
- 遺伝的要因:家族歴がある場合のリスク増加
- 薬剤性要因:特定の薬剤の副作用としての脱毛
さらに、加齢に伴うホルモンバランスの変化も見逃せない要因です。

特に更年期前後では、エストロゲンの減少により相対的に男性ホルモンの影響が強まり、脱毛リスクが高まることがあります。
びまん性脱毛症の原因を正確に特定することは、適切な治療アプローチを選択するために不可欠です。
血液検査などによる全身状態の評価や、生活習慣の詳細な聞き取りなどを通じて、個々の患者さんに合わせた原因分析を行うことが重要です。
女性型脱毛症(FPHL)の原因
女性型脱毛症(FPHL: Female Pattern Hair Loss)は、主に遺伝的要因とホルモンバランスの変化によって引き起こされる脱毛症です。

男性型脱毛症と異なり、前頭部から側頭部にかけての頭頂部全体が薄くなるのが特徴です。
FPHLの発症には、アンドロゲン(男性ホルモン)が重要な役割を果たしています。
女性の体内にも少量のアンドロゲンが存在しますが、毛包に発現する5α-リダクターゼという酵素によって、テストステロンがより強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換されると、毛周期に影響を与えます。
FPHLの進行に関わる主要因子
要因 | 影響メカニズム | リスク度 |
---|---|---|
遺伝的素因 | 複数の遺伝子が関与する多因子遺伝 | 非常に高い |
アンドロゲン感受性 | 毛包のアンドロゲン受容体の感度増加 | 高い |
加齢 | 毛包の微小循環低下と代謝変化 | 中〜高 |
エストロゲン減少 | 閉経期前後のホルモンバランス変化 | 中〜高 |
インスリン抵抗性 | 代謝異常による毛周期への影響 | 中程度 |
FPHLの主な原因としては、遺伝的要素が最も強く関与していることが知られています。

両親や親族に脱毛パターンがある場合、発症リスクが高まります。この遺伝的要素は単一の遺伝子ではなく、複数の遺伝子が複雑に絡み合った多因子遺伝の形をとります。
ホルモン要因としては、アンドロゲンの作用以外に、女性ホルモンであるエストロゲンの減少も重要です。

エストロゲンには毛髪の成長期を延長する作用があるため、閉経前後や産後などホルモンバランスが大きく変化する時期にFPHLが顕在化または悪化することがあります。
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)との関連性
- 副腎疾患によるアンドロゲン過剰
- インスリン抵抗性・代謝症候群の合併
- 酸化ストレスによる毛包ダメージ
- 頭皮の微小炎症の持続
また、代謝異常も女性型脱毛症の発症に関与しています。

特に、インスリン抵抗性を伴う疾患(多嚢胞性卵巣症候群など)では、アンドロゲンの産生が増加し、FPHLのリスクが高まることが報告されています。
近年の研究では、頭皮の微小炎症や酸化ストレスも女性型脱毛症の進行に関与していることが明らかになってきました。これらの要因が毛包のDNAに損傷を与え、正常な毛髪サイクルを妨げる可能性があります。
FPHLは加齢とともに進行することが多く、適切な診断と早期からの対応が重要です。ホルモン検査や代謝異常の評価を含む包括的な検査により、個々の患者さんの原因を特定することが治療成功への鍵となります。
FAGA(女性男性型脱毛症)の原因
FAGA(Female Androgenetic Alopecia)は、女性男性型脱毛症とも呼ばれ、女性における最も一般的な脱毛症の一つです。

基本的には女性型脱毛症(FPHL)と同様の病態ですが、より明確にアンドロゲン(男性ホルモン)の影響を受けている状態を指します。
FAGAの主な特徴は、頭頂部を中心とした頭髪の密度低下と毛髪の細毛化です。
男性型脱毛症のように前頭部の生え際が後退するM字パターンは一般的ではなく、分け目が広がり頭頂部全体が薄くなるクリスマスツリーパターンを示すことが多いです。
FAGAの発症に関与するホルモン要因
ホルモン | 通常時の役割 | FAGA発症時の変化 | 影響度 |
---|---|---|---|
ジヒドロテストステロン(DHT) | 男性の性徴発現 | 毛包の成長期短縮 | ★★★★★ |
テストステロン | 筋肉・骨の維持 | DHT前駆体として増加 | ★★★★☆ |
エストロゲン | 女性の性徴維持 | 相対的減少による保護作用低下 | ★★★★☆ |
インスリン | 血糖値調整 | アンドロゲン産生増加 | ★★★☆☆ |
コルチゾール | ストレス対応 | 慢性的高値による毛周期異常 | ★★☆☆☆ |
FAGAの根本的な原因は、毛包のアンドロゲン感受性にあります。

特に5α-リダクターゼという酵素の働きにより、テストステロンがより強力なジヒドロテストステロン(DHT)に変換されることで、毛包に作用し、成長期(アナジェン期)が短縮されていきます。
これにより毛髪は徐々に細く短くなり、最終的に産毛化していきます。
遺伝的要因も非常に重要です。FAGAは常染色体優性遺伝の形式をとることが多く、両親どちらかに脱毛歴がある場合はリスクが高まります。

遺伝子はアンドロゲン受容体の感受性やホルモン代謝に関わる酵素の活性に影響を与えます。
- 多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)による高アンドロゲン血症
- 副腎または卵巣由来のアンドロゲン過剰産生
- 閉経に伴うエストロゲン減少とホルモンバランス変化
- 慢性的なストレスによる内分泌系の乱れ
- インスリン抵抗性による間接的なホルモン影響
女性の場合、男性ホルモンの過剰分泌をもたらす内分泌疾患もFAGAの原因となることがあります。

特に多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)はその代表例で、卵巣からのアンドロゲン分泌増加、インスリン抵抗性、肥満などが複合的に作用し、脱毛リスクを高めます。
ホルモンバランスの変化が顕著な時期、特に閉経前後では、保護的に働いていたエストロゲンの減少により、相対的にアンドロゲンの影響が強まることでFAGAが顕在化・悪化することがあります。
また、最近の研究では、頭皮の微小炎症や酸化ストレスもFAGAの進行を加速させる要因として注目されています。これらは毛包幹細胞の機能を低下させ、毛周期の異常をもたらします。
FAGAの適切な診断と治療のためには、ホルモン検査を含む包括的な医学的評価が重要です。他の内分泌疾患の可能性も考慮し、個々の患者さんの状態に合わせた総合的なアプローチが必要です。
円形脱毛症の原因
円形脱毛症は、自己免疫疾患の一種であり、免疫システムが誤って毛包を攻撃することで発症します。

突然、円形または楕円形の脱毛斑が現れ、数センチ程度の明確な境界を持った無毛部位として認識できます。
この疾患の特徴は、脱毛部位の皮膚が完全に正常であることで、炎症や鱗屑、発赤などの皮膚症状を伴わないのが一般的です。
また、脱毛斑の周囲には「感嘆符毛」と呼ばれる、根元が細く先端が太い特徴的な毛髪が見られることがあります。
円形脱毛症の免疫学的メカニズム
免疫要素 | 正常時の役割 | 円形脱毛症での異常 | 発症への関与 |
---|---|---|---|
T細胞(CD8+) | 感染細胞の除去 | 毛包に対する自己反応性増加 | 主要原因 |
NK細胞 | ウイルス感染細胞の排除 | 毛包周囲への浸潤 | 中程度 |
サイトカイン | 免疫応答の調整 | IFN-γ、IL-15などの過剰産生 | 高い |
自己抗体 | 通常は産生されない | 毛包関連抗原に対する抗体産生 | 中〜低 |
樹状細胞 | 抗原提示 | 毛包抗原の過剰提示 | 誘導因子 |
円形脱毛症の主たる原因は、毛包に対する自己免疫反応です。

特にCD8陽性T細胞が毛包周囲に浸潤し、毛包の成長を妨げることで脱毛が起こります。
これらのT細胞は、本来なら「自己」として認識すべき毛包の構成成分を「異物」と誤って認識してしまうことで攻撃を開始します。
遺伝的素因も重要な要素です。円形脱毛症患者の約20%には家族歴があり、特にHLA-DQB1やSTAT1、CTLA4などの免疫関連遺伝子の変異が関与していることが明らかになっています。
これらの遺伝子変異は免疫応答の調節に関わる部分に影響を与えます。
- 精神的ストレスによる免疫機能の変調
- ウイルス感染などの環境因子による免疫系活性化
- 甲状腺疾患などの自己免疫疾患との合併
- 腸内細菌叢の異常による免疫バランスの乱れ
- アトピー素因との関連性
環境要因としては、強い精神的ストレスやウイルス感染が発症のトリガーになることが知られています。

特に強いストレスは、神経内分泌系を介して免疫系に影響を与え、自己免疫反応を誘発または悪化させる可能性があります。
また、円形脱毛症は他の自己免疫疾患との合併率が高いことも特徴です。特に甲状腺自己免疫疾患(橋本病やバセドウ病など)、アトピー性皮膚炎、白斑、リウマチ性疾患などとの関連が報告されています。
これらの疾患に共通する免疫学的素因が、円形脱毛症の発症リスクを高める可能性があります。
最近の研究では、JAK-STAT経路という細胞内シグナル伝達経路の異常活性化が円形脱毛症の病態に深く関わっていることが明らかになってきました。この発見は新たな治療法開発につながっています。
円形脱毛症の進行パターンは個人差が大きく、単発の小さな脱毛斑で自然に回復するケースから、複数の脱毛斑が拡大・融合して全頭脱毛(全頭性脱毛症)に進行するケース、さらには全身の毛髪が脱落する汎発性脱毛症に至るケースまで様々です。
適切な診断と早期からの治療が望ましいとされています。
分娩後脱毛症の原因
分娩後脱毛症は、出産後3〜6ヶ月頃に生じる一時的な脱毛症状です。

この状態は多くの女性が経験する生理的な現象であり、通常は出産後1年程度で自然回復します。主に頭頂部や前頭部、側頭部などで髪の毛が全体的に薄くなることが特徴です。
この脱毛の最大の特徴は、その一時性と自然回復傾向にあります。脱毛は急激に感じられることが多いですが、完全に禿げるということはなく、時間とともに回復していきます。
分娩後脱毛症の主なホルモン変動
時期 | エストロゲン濃度 | プロゲステロン濃度 | 毛髪サイクルへの影響 |
---|---|---|---|
妊娠前 | 通常変動 | 通常変動 | 通常の毛周期 |
妊娠中期〜後期 | 大幅増加 | 大幅増加 | 成長期毛髪の割合増加 |
出産直後 | 急激減少 | 急激減少 | 休止期への急速移行 |
出産後3〜6ヶ月 | 徐々に回復 | 徐々に回復 | 休止期毛髪の一斉脱落 |
出産後1年頃 | 通常レベルに | 通常レベルに | 毛周期の正常化 |
分娩後脱毛症の主な原因は、妊娠中の女性ホルモン(エストロゲンとプロゲステロン)の急激な変動です。

妊娠中は高濃度の女性ホルモンにより毛髪の成長期(アナジェン期)が延長され、通常なら自然に抜け落ちるはずの毛髪が抜けずに残ります。そのため、妊娠中は髪が豊かに見えることが多いです。
出産に伴い女性ホルモンが急激に減少すると、延長されていた成長期の毛髪が一斉に休止期(テロゲン期)に移行します。
休止期に入った毛髪は3〜4ヶ月後に自然に脱落するため、出産後3〜6ヶ月頃に多量の抜け毛が生じるようになります。これが分娩後脱毛症の本質的なメカニズムです。
- 栄養不足(特に鉄分、亜鉛、ビタミンD、ビタミンB群)
- 出産に伴う身体的ストレスと疲労
- 睡眠不足と育児による心理的ストレス
- 甲状腺機能の変化(特に産後甲状腺炎)
- 出産に伴う急激な体重変化
ホルモン要因以外にも、出産後の女性の身体状態が脱毛に影響を与えることがあります。

特に出産時の出血による鉄分不足や、授乳による栄養素の消費増加などが毛髪の健康に影響する可能性があります。
また、新生児のケアによる睡眠不足や精神的ストレスも、脱毛を悪化させる要因となり得ます。ストレスホルモンであるコルチゾールの上昇は、毛周期にネガティブな影響を与えることが知られています。
出産後に甲状腺機能に変動が生じることも少なくありません。特に産後甲状腺炎が発症した場合、甲状腺ホルモンの一時的な過剰または不足が生じ、これが脱毛症状を増悪させることがあります。
分娩後脱毛症は一般的には自然回復する状態ですが、鉄欠乏性貧血や甲状腺機能異常など、他の基礎疾患が隠れている場合もあります。
脱毛が長期化したり、通常より著しい場合は、これらの要因についての検査を考慮する必要があるでしょう。
粃糠性脱毛症の原因
粃糠性脱毛症(ひこう性脱毛症)は、フケを伴う脱毛症であり、頭皮の乾燥や炎症によって引き起こされます。

名前の「粃糠(ひこう)」とは、米のヌカに似た細かいフケを意味し、この脱毛症の特徴的な症状を表しています。
粃糠性脱毛症の主な症状は、乾燥した細かいフケが大量に発生し、それに伴って脱毛が進行することです。頭皮がかゆみを伴うことも多く、掻くことでさらに頭皮の状態が悪化する悪循環に陥りやすい特徴があります。
粃糠性脱毛症の頭皮環境変化
頭皮要素 | 健康な状態 | 粃糠性脱毛症での変化 | 影響 |
---|---|---|---|
表皮ターンオーバー | 28日周期 | 加速(7-14日) | 未成熟な角質細胞の蓄積 |
皮脂分泌 | 適度 | 減少 | 頭皮バリア機能低下 |
頭皮pH | 弱酸性(4.5-5.5) | アルカリ性に傾く | 常在菌叢バランス崩壊 |
頭皮水分 | 十分な保湿 | 著しい乾燥 | 角質層の亀裂と炎症 |
微小循環 | 活発 | 低下 | 毛包への栄養供給不足 |
粃糠性脱毛症の主な原因は、頭皮の表皮細胞のターンオーバー(新陳代謝)の異常亢進です。

通常、表皮細胞は約28日のサイクルで生まれ変わりますが、粃糠性脱毛症では7〜14日程度に短縮してしまいます。その結果、角質細胞が十分に成熟する前に剥がれ落ち、細かいフケとして現れます。
このターンオーバーの異常を引き起こす要因としては、様々な要素が考えられます。まず、頭皮の過度な乾燥が挙げられます。乾燥した頭皮では角質層のバリア機能が低下し、外部刺激に対して過敏に反応するようになります。
- 過度なシャンプーや強すぎる洗浄成分による頭皮の乾燥
- 季節変化(特に冬季)や低湿度環境での頭皮水分喪失
- マラセチア菌などの真菌感染による頭皮炎症
- 栄養不足(特にビタミンB群、亜鉛、必須脂肪酸)
- ストレスによる自律神経系の乱れと免疫応答の変化
真菌感染も重要な原因の一つです。

特にマラセチア・グロボーサやマラセチア・レストリクタなどの酵母様真菌が過剰に増殖することで、頭皮に炎症反応が引き起こされます。
これらの真菌は通常は頭皮の常在菌ですが、頭皮環境の変化によってバランスが崩れると問題を引き起こします。
栄養面では、ビタミンB群(特にビオチン)や亜鉛、必須脂肪酸の不足が頭皮の健康に悪影響を及ぼします。これらの栄養素は表皮の正常な新陳代謝や皮脂腺の機能維持に重要な役割を果たしています。
さらに、強いストレスも粃糠性脱毛症の悪化要因となります。ストレスは視床下部-下垂体-副腎系(HPA系)を活性化させ、皮膚の炎症反応を促進するとともに、免疫機能にも影響を与えます。
頭皮ケア習慣の問題も見逃せません。過度に熱いお湯で洗髪する、洗浄力の強いシャンプーを使用する、すすぎが不十分であるなど、日常的なヘアケアの方法が頭皮環境を悪化させることがあります。
粃糠性脱毛症は、これらの要因が複合的に作用することで発症・悪化します。根本的な原因を特定し、適切なケアと治療を行うことが重要です。
脂漏性脱毛症の原因
脂漏性脱毛症は、過剰な皮脂分泌と頭皮の炎症を特徴とする脱毛症です。

頭皮がベタついて黄色がかった厚い鱗屑(フケ)が見られ、それに伴って脱毛が進行します。
男性に多く見られますが、女性でも発症することがあります。
この脱毛症の特徴は、前頭部や頭頂部を中心に脂っぽいフケと赤みを伴う頭皮の状態で、かゆみを感じることも多いです。進行すると毛包の炎症が慢性化し、永久的な脱毛につながる可能性があります。
脂漏性脱毛症の皮脂分泌に影響する要因
影響因子 | 正常時の作用 | 脂漏性脱毛症での異常 | 影響度 |
---|---|---|---|
アンドロゲン | 適度な皮脂分泌調整 | 皮脂腺への過剰刺激 | ★★★★★ |
皮脂腺感受性 | 環境に応じた分泌調整 | アンドロゲンへの高感受性 | ★★★★☆ |
マラセチア菌 | 常在菌として存在 | 異常増殖と炎症誘発 | ★★★★☆ |
食生活 | 適切な脂質バランス | 高脂肪・高糖質食による分泌亢進 | ★★★☆☆ |
ストレス | 通常レベルの皮脂調整 | コルチゾール上昇による分泌増加 | ★★★☆☆ |
脂漏性脱毛症の主な原因は、過剰な皮脂分泌と皮脂の質的異常です。

皮脂腺はアンドロゲン(男性ホルモン)の影響を強く受けるため、ホルモンバランスの変化が皮脂分泌の異常につながります。特にジヒドロテストステロン(DHT)は皮脂腺を刺激して皮脂分泌を増加させる作用があります。
過剰に分泌された皮脂は、マラセチア・グロボーサなどの脂質を好む真菌(酵母様真菌)の増殖を促します。これらの真菌は皮脂を分解する際に遊離脂肪酸などの刺激物質を産生し、頭皮に炎症反応を引き起こします。
- 遺伝的要因による皮脂腺の過剰反応性
- ホルモンバランスの乱れ(特に男性ホルモン優位)
- 不適切な頭皮ケア(洗浄不足や過剰洗浄)
- 高脂肪・高糖質食や栄養バランスの偏り
- ストレスや睡眠不足による自律神経系の乱れ
遺伝的要因も重要な役割を果たしています。皮脂腺のアンドロゲン感受性や、皮脂の組成を決定する遺伝子が関与しており、家族内での発症傾向が認められることがあります。
生活習慣も脂漏性脱毛症の発症・悪化に関わります。特に高脂肪・高糖質の食事は血中インスリン濃度を上昇させ、間接的にアンドロゲン産生を促進することで皮脂分泌を増加させます。
また、ビタミンB群や亜鉛などの微量栄養素不足も皮脂腺機能の異常を引き起こす要因となります。
ストレスも重要な要因です。ストレスによって副腎からコルチゾールなどのホルモンが分泌され、これが皮脂腺を刺激するとともに、免疫機能にも影響を与えます。
その結果、頭皮の炎症反応が促進され、脱毛リスクが高まります。
頭皮ケアの問題も無視できません。洗浄不足は皮脂や汚れの蓄積を招き、微生物の増殖環境を作り出します。一方、過剰な洗浄は頭皮の保護機能を低下させ、皮脂腺を過剰に刺激することがあります。
適切な頻度と方法での洗髪が重要です。
脂漏性脱毛症の治療には、過剰な皮脂分泌のコントロールと頭皮の炎症抑制が重要です。基本的な原因を特定し、それに対応した総合的なアプローチが必要となります。
牽引性脱毛症の原因
牽引性脱毛症は、長期間にわたって髪に物理的な力(牽引力)を加えることによって発生する脱毛症です。

主に生え際や分け目などの常に引っ張られる部位に生じ、初期は一時的な脱毛ですが、長期間続くと永久脱毛に進行する可能性があります。
この脱毛症の特徴は、髪を引っ張る力のかかり方によって脱毛のパターンが決まることです。
たとえば、ポニーテールを常に同じ位置で結ぶ人は後頭部に、きつく編み込みヘアスタイルをする人は生え際全体に脱毛が生じやすくなります。
髪型による牽引性脱毛症のリスク評価
ヘアスタイル | 牽引力の程度 | 脱毛リスク | 主な影響部位 |
---|---|---|---|
きつい一つ結び | 非常に強い | 極めて高い | 額の生え際、側頭部 |
タイトな編み込み | 強い | 高い | 生え際全体、分け目 |
コーンロウ・ドレッド | 強い | 高い | 頭皮全体、特に生え際 |
ヘアエクステンション | 中〜強 | 中〜高 | 装着部位周辺 |
ゆるいお団子ヘア | 弱〜中 | 低〜中 | 毛束固定部位 |
牽引性脱毛症の主な原因は、髪を引っ張る物理的な力が毛包に持続的に加わることです。

髪を強く引っ張ると、毛包に炎症が生じ、毛髪の成長サイクルが乱れます。具体的には成長期(アナジェン期)が短縮され、休止期(テロゲン期)の毛髪の割合が増加します。
この物理的ストレスが長期間続くと、毛包周囲に線維化(瘢痕形成)が起こり、永久的な毛包損傷につながることがあります。特に生え際は毛包が比較的浅く、牽引力の影響を受けやすい部位です。
- きつく結んだポニーテールやお団子ヘア
- タイトな三つ編みやコーンロウなどの編み込みヘア
- ヘアエクステンションや重いウィッグの長期使用
- 寝具との摩擦(同じ向きで寝る習慣)
- ヘアアクセサリーの不適切な使用(きつすぎるヘアバンドなど)
年齢も牽引性脱毛症のリスク要因となります。若年層の頭皮は柔軟性があり回復力も高いですが、加齢とともに頭皮の弾力性が低下し、物理的ストレスからの回復が遅くなります。
そのため、同じヘアスタイルでも年齢によってリスクが異なります。
また、化学的処理を受けた髪(パーマやカラーリングなど)は、もともと弱くなっているため、通常より少ない力でも毛包に負担がかかりやすくなります。化学処理と牽引力の組み合わせは特にリスクが高いと言えます。
頭皮の健康状態も影響します。乾燥した頭皮や既存の頭皮トラブル(脂漏性皮膚炎など)がある場合、牽引による影響を受けやすく、炎症反応も起こりやすくなります。
ホルモンバランスの変化も牽引性脱毛症の進行に影響を与えることがあります。特に妊娠中や産後、閉経前後などホルモン変動の大きい時期は、同じ度合いの牽引力でも脱毛が進行しやすくなることがあります。
牽引性脱毛症は、原因となるヘアスタイルの改善により初期段階であれば回復が期待できますが、長期間にわたって続くと永久脱毛に進行するリスクがあります。早期発見と原因の除去が重要です。
休止期脱毛症の原因
休止期脱毛症(テロゲン脱毛症)は、通常の毛周期において成長期(アナジェン期)から休止期(テロゲン期)へ移行する毛髪の割合が急激に増加することで発症する脱毛症です。

一時的に大量の抜け毛が生じるものの、数か月から半年程度で自然回復することが特徴です。
この脱毛症の特徴は、頭部全体から均等に抜け毛が生じることで、特定の部位だけが薄くなるのではなく、全体的な密度低下として認識されます。
また、抜け落ちる髪の毛の根元部分が白い小さな球状になっている(休止期毛の特徴)ことも特徴の一つです。
休止期脱毛症の主要トリガー要因
トリガー要因 | 発症までの潜伏期間 | 回復に要する期間 | 影響の強さ |
---|---|---|---|
急性ストレス | 2〜3か月 | 3〜6か月 | ★★★★☆ |
高熱性疾患 | 2〜4か月 | 3〜6か月 | ★★★★☆ |
出産 | 2〜4か月 | 6〜12か月 | ★★★★★ |
急激な減量 | 2〜3か月 | 3〜6か月 | ★★★☆☆ |
薬剤中止 | 2〜5か月 | 3〜9か月 | ★★★★☆ |
休止期脱毛症の主な原因は、何らかの強い身体的・精神的ストレスが髪の毛の成長サイクルに影響を与えることです。

通常、頭髪の約85〜90%は成長期にあり、10〜15%程度が休止期にあります。しかし、強いストレスを受けると、成長期にある多くの毛髪が一斉に休止期へと移行します。
この急激な移行から約2〜3か月後に、休止期に入った毛髪が一斉に抜け落ち始めます。この時間差が休止期脱毛症の特徴であり、原因となるストレスと脱毛症状の間にタイムラグが生じることになります。
- 強い精神的ストレス(仕事や家庭の問題、喪失体験など)
- 急性疾患(特に高熱を伴うもの)や手術などの身体的ストレス
- ホルモンバランスの急激な変化(出産、閉経、ホルモン剤中止など)
- 急激な体重減少や栄養不足(極端なダイエットなど)
- 特定の薬剤の使用や中止(抗凝固剤、降圧剤、抗うつ剤など)
重度の精神的ストレスは、視床下部-下垂体-副腎系を活性化し、コルチゾールなどのストレスホルモンの分泌を増加させます。これらのホルモンは毛包の活動に直接影響を与え、成長期から休止期への移行を促進します。
身体的ストレスでは、高熱を伴う感染症が特に休止期脱毛症の強いトリガーとなります。体温上昇は細胞代謝に影響を与え、優先的にエネルギーを使用する臓器に血流が集中することで、毛包への栄養供給が一時的に制限されます。
栄養面では、特にタンパク質、鉄分、亜鉛、ビタミンDなどの不足が休止期脱毛症のリスクを高めます。毛髪はケラチンというタンパク質から構成されているため、タンパク質の摂取不足は直接的に髪の成長に影響します。
また、甲状腺機能の異常も休止期脱毛症の原因となり得ます。甲状腺ホルモンは代謝や細胞分裂に重要な役割を果たしており、過剰または不足のどちらも毛周期に影響を与えます。
薬剤の影響も見逃せません。抗凝固剤、降圧剤、抗うつ剤、抗けいれん剤など、多くの薬剤が副作用として脱毛を引き起こすことがあります。特に、これらの薬剤の使用中止後に休止期脱毛症が発症することがあります。
休止期脱毛症は一時的な状態であり、原因となるストレス要因が除去されれば、通常は6か月以内に自然回復します。しかし、原因が持続する場合や複数の要因が重なる場合は、回復に時間がかかることがあります。
薬剤性脱毛症の原因
薬剤性脱毛症は、医薬品の副作用として発生する脱毛症です。

様々な薬剤が毛髪の成長サイクルに影響を与え、一時的または長期的な脱毛を引き起こすことがあります。
多くの場合、薬剤の使用中止後に回復しますが、薬剤の種類や使用期間によっては回復に時間がかかることもあります。
この脱毛症の特徴は、薬剤の種類によって脱毛パターンが異なることです。抗がん剤のように成長期の毛髪に作用するものは全頭性の急激な脱毛を引き起こし、他の薬剤は休止期脱毛として現れることが多いです。
脱毛を引き起こす主な薬剤とそのメカニズム
薬剤分類 | 代表的な薬剤名 | 脱毛メカニズム | 脱毛の特徴 |
---|---|---|---|
抗がん剤 | シスプラチン、パクリタキセル | 毛母細胞分裂阻害 | 急激な全頭性脱毛 |
抗凝固剤 | ヘパリン、ワーファリン | 毛包微小循環障害 | びまん性脱毛 |
降圧剤 | β遮断薬、ACE阻害薬 | 血行動態変化 | 軽度〜中等度のびまん性脱毛 |
抗甲状腺薬 | メチマゾール、プロピルチオウラシル | 代謝変化による成長期短縮 | びまん性脱毛 |
レチノイド | イソトレチノイン、アシトレチン | 毛包幹細胞への影響 | びまん性脱毛、眉毛の脱毛も |
薬剤性脱毛症の主な原因は、薬剤が毛包細胞の分裂や代謝に直接影響を与えることです。特に抗がん剤は、がん細胞と同様に活発に分裂している毛母細胞の増殖を阻害するため、強い脱毛作用を示します。
これは薬剤の主作用(がん細胞増殖抑制)と同じメカニズムによるものです。
一方、他の多くの薬剤は毛髪の成長サイクルに間接的に影響を与えます。特に成長期(アナジェン期)から休止期(テロゲン期)への移行を促進することで、休止期脱毛症の形で現れることが多いです。
- 抗がん剤(シスプラチン、ドキソルビシン、パクリタキセルなど)
- 抗凝固薬(ヘパリン、ワーファリンなど)
- 降圧剤(β遮断薬、ACE阻害薬など)
- 抗うつ剤・抗不安薬(リチウム、SSRIなど)
- ホルモン関連薬(甲状腺薬、ステロイド剤、避妊薬など)
抗がん剤による脱毛は最も頻度が高く、程度も重篤です。
抗がん剤の種類や投与量、個人の感受性によって脱毛の程度は異なりますが、多くの場合、投与開始後2〜3週間で脱毛が始まり、全頭性の脱毛に至ることもあります。
治療終了後は通常3〜6か月で回復し始めますが、毛質や色調が変化することもあります。
ホルモン関連薬も脱毛リスクが高い薬剤群です。特にアンドロゲン作用を持つ薬剤(アナボリックステロイドなど)は男性型・女性型脱毛症を促進する可能性があります。
また、抗アンドロゲン薬やエストロゲン含有製剤の中止後に、ホルモンバランスの急激な変化による脱毛が生じることもあります。
薬剤による脱毛の感受性には個人差があり、同じ薬剤でも脱毛を生じる人と生じない人がいます。これには遺伝的要因や、年齢、既存の毛髪状態、栄養状態、併用薬などが影響します。
また、複数の薬剤を併用している場合、それぞれが軽度の脱毛リスクを持っていても、相互作用によってリスクが増大することがあります。特に高齢者では多剤併用が多く、薬剤性脱毛症のリスクが高まる傾向にあります。
投与量や投与期間も重要な要素です。一般に高用量・長期投与ほど脱毛リスクは高まりますが、個人の感受性によっては、通常量・短期間の使用でも脱毛が生じることがあります。
薬剤性脱毛症が疑われる場合、自己判断で薬剤を中止することは危険です。特に重要な疾患の治療薬である場合は、代替薬への変更可能性も含めて、必ず処方医に相談することが重要です。
まとめ
女性の脱毛症には様々な種類があり、それぞれ異なる原因によって引き起こされます。

びまん性脱毛症はストレスや栄養不足、女性型脱毛症(FPHL)とFAGAは遺伝的要因とホルモンバランスの変化が主な原因です。
円形脱毛症は自己免疫疾患、分娩後脱毛症は出産に伴うホルモン変動が関与します。
粃糠性脱毛症は頭皮の乾燥や表皮ターンオーバー異常、脂漏性脱毛症は過剰な皮脂分泌と炎症が引き金となります。
牽引性脱毛症はヘアスタイルなどによる物理的な牽引力、休止期脱毛症は強いストレスや疾患が毛周期に影響を与えることで発症します。薬剤性脱毛症は様々な医薬品の副作用によるものです。
脱毛症の原因を正確に理解することは、適切な治療法を選択するための第一歩です。それぞれの脱毛症に対する症状や対策、治療法については別記事で詳しく解説しますので、ぜひそちらもご参照ください。
これらの知識を元に、早期に専門医に相談し、適切な診断と治療を受けることをおすすめします。私たちの女性の薄毛治療クリニックでは、一人ひとりの状態に合わせた最適な治療プランをご提案しています。
各薄毛の原因について概要を理解できたら、薄毛予防について詳しく勉強していきましょう。