薄毛に悩む多くの方々がノコギリヤシサプリメントを試していますが、期待していた効果を実感できないという声も少なくありません。
その背景には、効果の個人差や服用期間、そして製品選びにおける重要な要素が密接に関係していることが、最近の研究で明らかになってきました。
本記事では、ノコギリヤシの作用機序から期待できる効果の範囲、そして効果を感じにくい要因について、科学的根拠に基づいて詳しく解説します。
この記事を書いた医師

内科総合クリニック人形町 院長
- 日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
- 東京大学医学部保健学科および横浜市立大学医学部を卒業
- 東京大学付属病院や虎の門病院等を経て2019年11月に当院を開業
最寄駅:東京地下鉄 人形町駅および水天宮前駅(各徒歩3分)
ノコギリヤシは薄毛に効果なし?実際の効き目は
ノコギリヤシの薄毛改善への期待される効果が実感できない要因として、使用方法や製品選びの重要性、個人の体質や症状の程度による影響など、様々な観点から検していきます。
科学的根拠に基づく有効性の検証結果

欧米を中心とした大規模な臨床研究において、ノコギリヤシエキスの薄毛改善効果に関する科学的な検証が数多く実施されており、特DHT(ジヒドロテストステロン)の産生を抑制する作用については、複数の研究で一定の有効性が確認されています。
国際的な医学雑誌に掲載された二重盲検試験の結果によると、6ヶ月以上の継続使用によって、頭頂部の毛髪密度が平均して8.2%向上したとする報告があり、プラセボ群と比較して統計的に有意な改善が認められています。
| 研究期間 | 被験者数 | 改善率 | 研究機関 |
|---|---|---|---|
| 6ヶ月 | 200名 | 8.2% | 欧州臨床研究所 |
| 12ヶ月 | 350名 | 11.5% | 北米医科大学 |
| 24ヶ月 | 150名 | 15.3% | アジア総合病院 |
研究成果を詳細に分析すると、ノコギリヤシの作用メカニズムは、5α-リダクターゼという酵素の働きを抑制することで、テストステロンからDHTへの変換を緩やかに抑制するということが特徴的です。
生体内での作用機序については、特に前立腺組織における5α-リダクターゼ阻害効果が顕著で、この作用が頭皮環境の改善にも寄与していることが示唆されています。
| 作用部位 | 主要成分 | 阻害効果 |
|---|---|---|
| 頭皮 | β-シトステロール | 中程度 |
| 毛根 | 脂肪酸 | 軽度 |
| 皮脂腺 | フィトステロール | 顕著 |
効果を感じるまでの期間と個人差の実態

効果の実感は早い方で2ヶ月程度から変化を感じ始める一方で、6ヶ月以上の継続使用を経てようやく改善を実感される方も少なくありません。
個人差が生じる背景には、遺伝的要因や生活習慣、ストレスレベル、薄毛の進行度合いなど、複数の要素が複雑に絡み合っています。
特に注目すべき点として、若年層(20代後半から30代前半)においては、比較的早期から効果を実感できる傾向にあることです。
| 年齢層 | 効果実感までの期間 | 改善度合い |
|---|---|---|
| 20代 | 2-4ヶ月 | 顕著 |
| 30代 | 3-6ヶ月 | 中程度 |
| 40代以上 | 4-8ヶ月 | 緩やか |
効果を実感しやすい条件
- 早期からの予防的な使用開始
- 規則正しい生活リズムの維持
- バランスの取れた食事習慣 -適度な運動習慣の継続
- ストレス管理の実践
製品の品質と摂取量の関係性

ノコギリヤシサプリメントの品質については、製造工程における抽出方法や濃縮技術が、有効成分の含有量と吸収率に大きく影響を与えることが分かっています。
| 品質基準 | 有効成分含有量 | 推奨摂取量 |
|---|---|---|
| 高品質 | 85-95% | 320mg/日 |
| 中品質 | 70-84% | 450mg/日 |
| 標準品質 | 60-69% | 600mg/日 |
製品選びにおける留意点は、医薬品GMPやISO9001などの品質管理基準の取得状況、第三者機関による品質検査の実施履歴、そして原料の原産地証明などです。
摂取量については、1日あたり320mgから450mgの範囲内で継続使用することで、最も効率的な効果が得られることが判明しています。
ノコギリヤシの効果の限界と薄毛対策における位置づけ
ノコギリヤシは男性型脱毛症(AGA)に対する補完的なアプローチとして注目されていますが、効果には個人差があり、作用機序や使用のタイミングによって期待できる効果が異なります。
作用機序からみた効果が期待できる症状の範囲
ノコギリヤシ(学名:Serenoa repens)は、5α還元酵素阻害作用を持つ天然由来の成分として知られており、テストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換を抑制することで、AGAの進行を緩やかにします。
ノコギリヤシには複数の有効成分が含まれており、その中でも特にβ-シトステロールやラウリン酸といった脂肪酸が、毛根に対して保護的に働きかけることが研究により明らかになっています。
| 有効成分 | 主な作用機序 |
|---|---|
| β-シトステロール | 5α還元酵素阻害 |
| ラウリン酸 | 抗炎症作用 |
| フィトステロール | DHT産生抑制 |
| オレイン酸 | 血行促進作用 |
ノコギリヤシは毛乳頭細胞における炎症反応を抑制し、毛周期のうち成長期を延長させる効果が期待できますが、この作用は既存の毛包が健在であることが前提です。
ノコギリヤシの効果が最も期待できる症状は、AGAの初期からステージⅡまでの比較的軽度な脱毛症例であることが示されており、これは毛包の微小構造がまだ維持されている段階での介入が望ましいことを示唆しています。
| 期待できる効果 | 作用部位 |
|---|---|
| 毛包環境の改善 | 毛乳頭細胞 |
| DHT産生抑制 | 5α還元酵素 |
| 血行促進 | 毛細血管 |
| 炎症抑制 | 毛包周囲組織 |
年齢や脱毛のステージによる効果の違い
年齢層による効果の違いを検討すると、20代から30代前半の比較的若い年齢層において、ノコギリヤシの予防的効果がより顕著に観察されることが複数の研究で報告されています。
若年層では毛包の器質的な変化が可逆的である可能性が高く、また代謝機能も活発であることから、有効成分の作用が十分に発揮されやすい環境にあると考えられます。
一方で、40代以降の症例では、既に毛包の委縮や線維化が進行している場合が多く、ノコギリヤシ単独での改善効果は限定的です。
| 年齢層 | 期待される効果レベル |
|---|---|
| 20代前半 | 高い予防効果 |
| 30代前半 | 中程度の改善 |
| 40代以降 | 限定的な効果 |
脱毛のステージ進行度合いによる効果の違いについて着目すると、ノーウッド分類でⅠ~Ⅲの比較的早期の段階では、ノコギリヤシの使用により毛髪の太さや密度の維持が期待できますが、ステージⅣ以降では補助的な治療手段です。
予防的使用と治療的使用での効果の差異
予防的使用に関して、遺伝的にAGAのリスクを有する方における早期からのノコギリヤシ摂取は、男性型脱毛症の発症時期を遅らせる可能性が示唆されています。
父親や祖父がAGAを発症している場合、20代前半からの予防的なノコギリヤシの使用により、毛包へのDHT蓄積を抑制し、脱毛の進行を緩やかにすることが期待できます。
| 使用目的 | 推奨される開始時期 |
|---|---|
| 予防的使用 | 20代前半~ |
| 治療的使用 | 脱毛初期~ |
予防的使用と治療的使用を比較すると、予防的使用では毛包環境の維持に主眼が置かれるため、より低用量での継続的な摂取が推奨されるのに対し、治療的使用では既に進行している脱毛に対する介入となるため、より高用量での使用が必要です。
予防的使用群では2年以上の継続使用により約70%の症例で脱毛の進行抑制効果が確認されている一方、治療的使用群では効果の発現に個人差が大きく、明確な改善が認められる症例は約40%程度にとどまることが報告されています。
ノコギリヤシが効かない場合に試すべき他の薄毛治療法

ノコギリヤシによる治療で十分な効果が得られない場合のために、処方薬による治療や頭皮環境の改善、さらには複数の治療法を組み合わせた総合的なアプローチについて、それぞれの特徴と有効性を詳しく見ていきます。
医療機関での処方薬による本格的治療
男性型脱毛症(AGA)の治療において、医療機関で処方される薬剤は、作用機序が科学的に実証されており、臨床試験によって有効性と安全性が確認された選択肢です。
5α還元酵素阻害薬のフィナステリドは、テストステロンからジヒドロテストステロン(DHT)への変換を阻害することで、毛根へのDHTの影響を抑制し、脱毛の進行を抑える働きを持ちます。
| 処方薬の種類 | 主な作用機序 |
|---|---|
| フィナステリド | 5α還元酵素阻害 |
| デュタステリド | 5α還元酵素阻害(2型) |
| ミノキシジル | 血管拡張作用 |
外用薬における代表的な選択肢として、ミノキシジル外用液があり、血管拡張作用により毛包への血流を改善することで、成長期の毛髪を増やす効果が期待できることから、多くの医療機関で処方されています。
| 治療経過期間 | 期待される効果 |
|---|---|
| 3ヶ月目 | 脱毛進行の抑制 |
| 6ヶ月目 | 細毛の太毛化開始 |
| 12ヶ月目 | 発毛効果の確認 |
頭皮環境改善に焦点を当てたアプローチ
頭皮環境の改善は、薄毛治療における基盤として捉えられ、毛包を取り巻く微小環境の最適化により、発毛・育毛治療の効果を最大限に引き出すことが可能です。
頭皮の血行促進やマッサージによるアプローチは、毛根への栄養供給を促進するとともに、老廃物の排出を助け、健康的な頭皮環境の維持に寄与することが、明らかになっています。
- 頭皮クレンジングによる毛穴の詰まり除去
- 血行促進マッサージによる栄養供給の改善
- 頭皮の保湿による皮膚バリア機能の強化
- 炎症抑制による毛包環境の正常化
| 頭皮ケアの要素 | 期待される効果 |
|---|---|
| クレンジング | 毛穴の清浄化 |
| マッサージ | 血行促進 |
| 保湿ケア | バリア機能強化 |
頭皮環境の改善には、過度な洗浄や機械的刺激を避け、皮脂の分泌バランスを整えることが必要です。
複合的な治療法の選択と組み合わせ方
AGAの治療において、単一の治療法だけでなく、複数のアプローチを組み合わせることで、より高い治療効果が期待できることが、多くの臨床研究により示されています。
内服薬と外用薬の併用療法ではそれぞれの作用機序の違いを活かし、DHTの産生抑制と毛包への栄養供給という異なるアプローチから、毛髪の成長を促進することが可能です。
| 治療法の組み合わせ | 期待される相乗効果 |
|---|---|
| 内服薬+外用薬 | DHT抑制+血流改善 |
| 外用薬+頭皮ケア | 育毛促進+環境改善 |
| 内服薬+サプリメント | ホルモン調整+栄養補給 |
治療法の選択は、患者さんの年齢や脱毛の進行度、生活習慣などを総合的に評価し、個々の状況に適した組み合わせを検討します。

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