- 服用開始前に血液検査をして肝臓の各数値をスマホにメモしておくこと
- AST(GOT)とALT(GPT)の服用前後の「差」が重要
- 性欲減退やED、精子量減少には注意が必要
- プロペシアやザガーロを飲んでうつ病になるのはデマ
- 前立腺がんの検査時には腫瘍マーカー値を2倍することを忘れずに
- 半年経過して薄毛が顕著に改善しないなら「辞め時」のサイン
AGA(男性型脱毛症)対策で最初に行うべきことは、発毛ではなく脱毛予防です。
主役はプロペシアとザガーロ。効能(作用秩序)はほぼ同じでも、ザガーロのほうが血中滞在時間が高いために予防効果は強いです。
その反面、性欲減退・ED等のリスクはプロペシアより高く、5αリダクターゼⅠ型「も」阻害してしまうので、その他の副作用リスクが読めず、当ブログではザガーロ(主成分デュタステリド)は「非推奨」としています。
とはいえ、すでにザガーロを服用している方も多いと思うので、プロペシアおよびザガーロの「副作用」と「辞め時」について藤田先生に医学的に解説してもらいます。
うつ病リスクも含め、現場のAGA専門医でさえ誤情報を患者に伝えることが少なくないので、騙されないようしっかりと勉強していきましょう。
この記事の執筆者
藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長
東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。
服用開始前に血液検査をして肝臓の各数値をスマホにメモしておくこと
プロペシアとザガーロを服用する際、何が一番大事でしょうか?
両薬ともに、痛みなどの副作用が出ないので、服用前に血液検査で肝臓の値を自分で記録しておくことがとても大切です。
解説いたします
プロペシアおよりザガーロを服用した場合に最も怖いのは肝機能障害(黄疸含む)です。
肝臓は、口から摂取する飲食物の中で身体に不要な成分(毒物など)をフィルタリングする重要な臓器で、肝臓が機能しなくなると人間は多臓器不全を起こして死に至ることがあります。
- 肝機能障害
- 肝硬変
- 肝不全(ほぼ死亡します)
この↑ような段階を経るので、プロペシアやザガーロを飲んで肝機能障害になったからといって即死ぬということはありえなくても、肝臓が弱るとさまざまな病気を引き起こすので、肝臓の値を自己管理することは大変重要です。
血液検査をして肝臓の値を手帳かスマホにメモしてください
まずやるべきことは血液検査です。
AGA専門クリニックに行くとプロペシアやザガーロを投与前に血液検査を行うところがほとんどですが、中には血液検査をせずに薬だけ処方するクリニックもあります。
会社の健康診断や献血した後に数週間経過してハガキで郵送されてくる血液データでもOKなので、下記の値を手帳やスマホに「服用開始前」の肝臓の値をメモしておいてください。
- ALT(GPT)
- AST(GOT)
- γ-GTP
大事なのは上2つですが、γ-GTPも念のためメモしておいてください。健常者の正常値は以下になります。
ALT(GPT) | AST(GOT) | γ-GTP | |
---|---|---|---|
正常値 | 7~38 IU/L | 4~44 IU/L | 80 IU/L以下 |
重要度 | 最重要 | 重要 | やや重要 |
AGAクリニックでの血液検査は来院時点で服用OKかどうか判断するためのもの
AGA専門クリニックに行くと、初診時に血液検査をします。彼ら(クリニック)が知りたいのは、「この患者にプロペシアやザガーロを飲ませて問題あるかどうか」という点だけ。
もちろん来院時点での数値判断は大事ではあるのですが、もっと大事なのは経過観察、つまり「服用開始前後でどれくらい数値が動くか」です。
アルコールを日頃から摂取している人は、初診時点でγ-GTPが高めに出て、筋トレ大好きな方だとAST(GOT)が正常値の範囲を超えている人もいます。
問題は、「高いから飲ませてはいけない」ではなく「飲んだ後にどうなるか」です。
元々の値が多少高くても、服用後にその数値が動かなければプロペシアやザガーロが肝臓に悪い影響をほとんど与えていないということになるので、服用OKという判断もできるのです。
多くのAGAクリニックの専門医が「肝臓の数値が高いのでプロペシアやザガーロは勧められませんね」とあっさり言いますが、それは相当安全サイドに考えた判定。
そうではなくて、患者さんの日頃の行動(アルコール摂取頻度や筋トレ頻度など)などをよくよくヒアリングし、
「肝臓の数値が高めですが、服用後に変化が少なければプロペシアを飲んでも構いませんのでどうしますか?」
と医師と患者で話し合うことが重要なのです。なぜなら、肝臓の数値が高い人など世の中にいくらでもいて、それ以上に深刻なのが「薄毛の悩み」だからです。
薄毛になると、起きている間中薄毛のことを考えてストレスMAXになります。「生きていたくない」と訴える人も大勢います。
肝機能障害がさらに悪化すると死亡する、という怖いことを最初に書いてしまいましたが、就寝中以外ずっと薄毛のストレスにさらされてしまうことは、ある意味肝機能障害と変わらないくらい体に悪いことだと思います。
肝臓の値の推移から服用継続可否を判断する
例えば、服用開始前後のデータが下記のようにほとんど動かないのであれば、正常値を多少超えていても服用によって深刻な事態が起こる可能性は非常に低いです。
ALT(GPT) | AST(GOT) | γ-GTP | |
---|---|---|---|
服用開始前 | 70 IU/L | 80 IU/L | 130 IU/L以下 |
服用開始後 | 78 IU/L | 84 IU/L | 135 IU/L以下 |
正常範囲値(参考) | 7~38 IU/L | 4~44 IU/L | 80 IU/L以下 |
ただし、ALT(GPT)とAST(GOT)の服用開始前の値が、太っていないにもかかわらず共に100を超えているなら、服用は慎重になるか、あるいは一番濃度の薄いプロペシア0.2mgを選んでください。
※太っている方は100を超えます
また、下記のようなケースでは、例え服用後のALT(GPT)とAST(GOT)の値が100以下であっても服用は中止してください。
ALT(GPT) | AST(GOT) | γ-GTP | |
---|---|---|---|
服用開始前 | 30 IU/L | 25 IU/L | 60 IU/L以下 |
服用開始後 | 70 IU/L | 55 IU/L | 85 IU/L以下 |
性欲減退やED、精子の奇形には注意が必要
肝機能障害以外の副作用にはどんなものがありますか?
性欲減退、ED、射精障害の3つが肝機能障害以外の主な副作用で、うつ病リスクはほぼゼロですが乳房が女性化する人が稀にいます。
解説いたします
下記の表は、プロペシアおよびザガーロを服用した場合の肝機能障害以外の主な副作用です。
プロペシアの主成分であるフィナステリドや、ザガーロの主成分であるデュタステリドは、ともに男性ホルモンを抑制する効果がある薬なので、副作用が出る場所は男性ホルモンに密接な関係がある男性器周辺に集中します。
プロペシア 0.2mg | プロペシア 1mg | ザガーロ 0.1mg | ザガーロ 0.5mg | |
---|---|---|---|---|
性欲減退 | 1-5% | 1-5% | 5% | 2% |
ED | 0-1% | 0-1% | 3% | 5% |
射精障害 | 0-1% | 0-1% | 2% | 1% |
いずれも副作用発生率は5%以下なので、副作用リスクとしては低い方だと思いますが、例えば奥さんと一緒に子作りに励んでいるようであればたとえ副作用リスクが低くても服用は控えるべきです。反対に子作りする予定がない方なら服用しても問題ない、と判断できます。
大切なのは自分がこれから飲む薬がどういうものなのか「知っておくこと」です。
「EDのリスクはどう思いますか?」
「子供が欲しいのですが薄毛も解消したいんです。どうしたらいいですかね?」
という質問をたまにいただきますが、すこしSっ気のある私は「男なら自分で判断しなさいよ」と実は心の中で思ったりします。
世界一安全な電車と言われる新幹線に乗っても事故に巻き込まれてしまうことはあるし、タバコを1日3箱吸ってもピンピンしている人は山ほどいますよね。
大切なことは、しっかりと情報を知ったうえで自己判断し自己責任を取るということです。
AGA(男性型脱毛症)は進行性なので、進行予防薬であるプロペシアやザガーロを避けて薄毛が解消することはまずありえません。
薄毛の進行を受け入れられるのであれば飲めばいいし、EDや性欲減退などのリスクよりも薄毛のストレスのほうが大きいので何とかしたいと思うのであれば、プロペシアやザガーロを飲めばいいのです。
ただし、プロペシアよりザガーロのほうが副作用リスクはかなり上がるので、もし飲むのであればプロペシアのほうをおすすめします。
プロペシアやザガーロを飲んでうつ病になるのはデマ
結構名の知れた植毛医の先生から聞いたことがあるのですが、プロペシアやザガーロを飲んでうつ病になるって本当ですか?
超レアケースです。データがあるのでお見せしましょう。それから、薄毛で悩んでいる方は薄毛が原因で元々うつ気味であるケースが多いので薬の副作用ではないと思います。
解説いたします
「結構名の知れた植毛医」って、某クリニックのA先生ですね(笑)
ほんと適当なことを言う先生が多くて困ります。医者の言うことは患者さんは信じるのでちゃんとデータ見て欲しいです。ということでデータをお見せします。
いずれもプロペシアの販売元であるMSD社とザガーロの販売元であるGSK社が厚労省に提出した臨床データです。
プロペシア 0.2mg | プロペシア 1mg | ザガーロ 0.1mg | ザガーロ 0.5mg | |
---|---|---|---|---|
うつ病 | 0-1% | 0-1% | 0-1% | 0% |
1%以下というのはリスクとしては考えなくても大丈夫な数値です。電車に乗っていても事故でケガをしたり、路上を歩いていてもつまづいて転倒することはあります。
リスクがゼロになるものなど世の中にはありません。「絶対」という言葉がないのと同じ。副作用リスクが1%以下なら無視して大丈夫です。
それと、そもそもの話ですが、薄毛で悩んでいる人の多くが軽度の自律神経失調症になります。うつ病の一歩手前ということです。
プロペシアを飲んだからうつ病になるのではなく、元々うつ病の傾向を持っていた人が被験者に選ばれてプロペシアを飲んで、「気分が落ち込む」などと回答した可能性もあります。
プロペシアやザガーロは自律神経に作用する薬ではありません。5α還元酵素を阻害する薬です。I先生に言いたいのですが、医者ならちゃんと調べて裏を取ってからしゃべっていただきたいです。
前立腺がんの検査時には腫瘍マーカー値を2倍することを忘れずに
その他にプロペシアとザガーロ服用で気をつけることはありますか?
プロペシアやザガーロを服用すると前立腺がんの腫瘍マーカーの値が半分になるので、がん検診の際は数値を倍にして計算する必要があります。
解説いたします
前立腺癌(がん)のマーカーである血清PSA濃度が約40-50%低下することが明らかになっています。
PSAは前立腺にのみ存在する糖蛋白(とうたんぱく)で、前立腺癌の腫瘍マーカーとして最も多く利用されています。PSAが4.0を超えると25%の確率で前立腺がんになるとされていて、再検査の対象です。
例えば、プロペシアやザガーロを服用している状態でがん検診を受けて、腫瘍マーカー値が2.5ng/mLだったとしましょう。
この場合、2.5の2倍の5.0ng/mLが正しい腫瘍マーカー値なので、精密検査行きの対象になるはずなですが、プロペシアやザガーロの服用を黙っていると、「2.5なのでとりあえず経過観察(様子見)で」と再検査の対象から外れてしまいます。
前立腺がんは、全がん患者の中で4番目に多いメジャーな癌(がん)です。プロペシアやザガーロを服用している場合、検査をすり抜けてしまう可能性があることを頭の片隅に入れておいてください。
アボルブ
余談ですが、ザガーロとまったく同じ成分の薬であるアボルブ(主成分はザガーロと同じデュタステリド)は、前立腺肥大症の薬で、前立腺肥大症の患者さんには保険適用されます。
もしあなたが、薄毛で悩んでいるうえに前立腺肥大症を罹患(りかん:病気になっているという意味)しているなら、泌尿器科に行ってアボルブを処方してもらってください。保険適用されるので相当割安になります。
若年性脳卒中などの血栓症リスクも14症例あり
レアケースですが、他の薄毛サイトで触れられていないフィナステリド(プロペシアの主成分)の副作用をあげておきますね。
フィナステリド服用中の血栓症発症は、医薬品医療機器総合機構(PMDA)へは,当院例を併せて14症例報告があり、脳卒中4例、心筋梗塞6例、その他4例であった。フィナステリドによるエストロゲン上昇の報告があり、血栓症発症への関与が考えられた。
エストロゲンとは、女性ホルモンのことです。フィナステリドの効能で男性ホルモン(ジヒドロテストステロン)を抑え込んだことによって、エストロゲンが上昇し、その結果として血栓症が起きたのではないかという推測をしています。
興味がある方はこちらの文献をどうぞ。エストロゲンによる血栓症リスクについて解説した記事です。
どの立場から数字を見るかで景色が変わる
プロペシア(フィナステリド)を服用している人は何十万人もいて、その中の14症例ということは確率0.01%以下です。
ただし、「事実として14症例ある」という言い方をされてしまうと、「ううぅん」とうなってしまいます。
因果関係がはっきりしているなら14症例は怖いですが、ソース元の文献を見る限りは因果関係ははっきりしていないけれど相関関係は否定できないという微妙な内容です。プロペシア服用による血栓症リスクは肯定も否定もできません。
街中を歩いている人の中で、ビルからの落下物に当たって大けがをした人の数と言えばいいのでしょうか。いずれにせよ「ゼロ」「絶対」は世の中にはないので、あとは個人の判断(自己責任)ということです。
半年経過して薄毛が顕著に改善しないなら「辞め時」のサイン
副作用についての詳細な解説ありがとうございました。最後、プロペシアやザガーロの「辞めどき」を教えてください。
服用後、半年経過して何の変化もないなら、それが「辞めどき」です。
解説いたします
「やめ時」は2つあります。
1つは、すでに説明してきた「副作用が起きたことが明らかな場合」です。薄毛をなんとか改善したいという気持ちは痛いほど分かりますが、健康を害してまで服用を続けるべきではありません。
2つ目が「服用半年経過時」です。プロペシアの説明書を抜粋しましたが、はっきりと「6か月」という数字が書いてあります。
3ヵ月の連日投与により効果が発現する場合もあるが、効果が確認できるまで通常6ヵ月の連日投与が必要である。また、効果を持続させるためには継続的に服用すること。本剤を6ヵ月以上投与しても男性型脱毛症の進行遅延がみられない場合には投薬を中止すること。
また、ザガーロの説明書にも下記のように6か月で効果がなければ服用中止と記載されています。
本剤を6ヵ月以上投与しても男性型脱毛症の改善がみられない場合には投薬を中止すること。
引用元: ザガーロ用法・用量に関連する使用上の注意
以上