「赤土の王者」と言われるほどクレーコートで強いナダル、2020年には全仏オープン前の前哨戦では敗れたものの、ローランギャロス(フレンチオープン)では見事13回目の優勝を果たし圧倒的な強さを見せつけました。
2016前には世界ランキング10位から落ちそうになるほど不調に悩まされ、長期休養まで取っていたとは信じられないほどです。
ただメディアはこの長期の休養は、ケガではなく自毛植毛をするためにとったのだと報じ、ナダルの復帰を待ち構え真相を究明しようとしました。
この記事の執筆者
藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長
東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。
20代で薄毛が進行
20代の初めまではこんなに豊かな髪の毛を誇っていたナダル
ところが20代の後半になると、
Source:http://tenis.as.com
薄毛の進行した様子が次々とメディアに報じられ、果てはアメリカのテニスファンサイトでこんな加工写真まで載せられてしまいました。
Source:http://worth1000.s3.amazonaws.com
さらには「かつらが必要」と主張するファンにさらなる加工をされてしまいます。
他にもテニス選手で薄毛の選手はいたのですが、ここまで話題にされたのは一つにはまだ20代の後半であったこと、もう一つは薄毛の進行に伴って世界ランキングが落ちていったことが原因です。
メディアは「不調は薄毛が原因か?」と薄毛と不調を関連付けてしまいました。
マリーがナダルを擁護
これらの一連の報道にナダルが傷付かないわけはありません。あちこちで報道されていたにもかかわらず、ナダルは自分の薄毛についてのコメントは完全に避けていました。
この心無い報道を見かねたアンディ∙マリー選手がツイッターで
「ラファ(ナダルのニックネーム)と自分のどちらが早く禿げるかな?」
と自分の前頭部の薄毛をジョークにして笑いにかえようとまでしました。
ところがその後、ナダルを擁護したマリーの生え際の薄毛の進行が止まるどころか改善の様子が見え始めたので、今度はマリーに植毛のうわさが立ったのです(長年のガールフレンドとの結婚式に合わせての植毛だと言われています)。
当初はマリーのツイートは薄毛のナダルに対する仲間意識から発信されたと思われていたのですが、ツイートの真意は実は自分たちの薄毛に対してのジョークではなく、「自分も薄毛が気になっていてこれから植毛をするんだ、ラファもしてみれば?」というメッセージだったのではと言われています。
マリーは植毛したとの噂が出た後、不動の王者と言われていたジョコビッチ(2年以上に渡り1位をキープ)を抜き世界1位に躍り出て世間を驚かせました。
植毛をしたことにより容姿に自信を取り戻し、精神的な安定がプレーにも好影響をもたらしたのでしょうか?
ナダルに植毛のうわさ
薄毛の進行をさらにメディアに書きたてられていたナダルは、くしくもマリーが世界1位の座を手にしたのと同じ月2016年10月に不調のままケガを理由に休養を宣言しました。
ところが、傷心で休養に入ったナダルをメディアはほおっておくどころか「ナダル休養中にFUE法で4,500本の植毛か?」とクリニックからリークされたと思われる具体的な情報を流したのです。
新聞や雑誌などさまざまな報道機関がナダルにコンタクトを試みましたが相変わらずの沈黙を貫き、事実の確認がとれないまま12月に復帰となりました。
テニスファンならナダルの復帰後の快進撃はご存じでしょう。
2017年に入っての成績は10大会に参加して優勝4回準優勝3回、そのうちグランドスラム大会は全豪オープン準優勝、全仏オープン優勝と、もはや完全復活と言っていい圧倒的な成績を挙げました。
ナダルの植毛のうわさを確認するため復帰後すぐの写真を見たのですが、特に変わった感じはしませんでした。
ただ自毛植毛は早いと半年ほどたった頃から、本人も植毛の効果を実感し始める時期なので、この年(2017年)の全仏オープンを楽しみにしていました。
そして、
どう思われますか?見事に髪が復活しています。
ちなみにナダルが2005年に史上2番目の最年少で全仏オープンに勝った時(19才と2日)の写真がこれです(最年少優勝はマイケル∙チャンの17才3カ月)。
Source:https://www.watson.ch
グランドスラムはテニス人生に一度優勝するだけでもすごいことですが、ナダルはそれを全仏オープンで13回も成し遂げるという前代未聞の記録を打ち立てました。
この2つの写真を見比べて感動で鳥肌が立ったのは私だけではないでしょう。ちなみに、2020年は下記のような感じです。一瞬植毛で髪の毛が増えたかなあと思ったのですが、また少し寂しくなってきているように感じます。
薄毛の克服と自信の復活
どのスポーツもそうですが、テニスもメンタル面がプレーに大きく影響するのは明らかです。
トッププレーヤーになればなるほど孤独な世界を転戦するツアー、他のスポーツにはない長時間の試合、に耐えられる精神的なタフさを持っていなければ絶対に世界ランキングの上位にはなれず、ましてやそれを維持するには想像を絶する精神力が必要でしょう。
テニスの技術面は練習を積むことで「これだけ練習をしたのだから」と絶対の自信が生まれてきますが、メンタル面は「これだけやったから」というだけでは強くはなりません。
いくら練習をして技術に自信が持てるようになっても、自分に自信がなければその弱さは必ずプレーに出てきます。
ナダルが2005年からほぼ常に維持してきたトップ4から初めて落ちたのは2015年、この少し前から薄毛の進行が顕著になっていました。
初めてメディアがナダルの薄毛を話題にした後は、ナダルが登場する度に薄毛を強調するような写真ばかりが掲載されるようになったのです。
これがナダルの容姿への自信を失くすきっかけになり、精神面に影響を及ぼしたのは想像に難くありません。
若い頃はアルマーニのモデルまでつとめたナダルを「テニス界の貴公子」ともてはやしておきながら、不調と薄毛が始まるとメディアは手のひらを返したように扱い、普通ならそこでテニス人生が終わってもおかしくありません。
ところがナダルは植毛にテニス人生を掛け、見事に復活を果たしたのです。
2017年1月には9位だった世界ランキングが全仏オープン直後の発表では堂々の2位(賞金ランキングでは既に1位)、と世界を驚かせると同時に長年のファンを喜ばせています。
まとめ
ナダルは全仏オープンにただ優勝しただけでなく、グランドスラム大会を34才にして1セットも落とさずに完璧な形で勝利しました。
優勝後のインタビューで
「今、とても厳しい状況にみんなが置かれている。それを考えるといつものようにハッピーな気持ちにはなれない。相手はウイルスだ。みんなが力を合わせて戦っていくしかない。そして前向きな姿勢で進んでいき、打ち勝とう」
と全世界に向けて新型コロナウイルスに打ち勝とうと語り掛け、さらなる感動を呼びました。
「クレーキング ナダル」、今後の活躍がほんとうに楽しみです。
Source:http://afpbb.ismcdn.jp
以上