髪のボリュームが低下している、ツヤやハリがなくなったと感じるときは、もしかしたら「マグネシウム」の不足が関係しているかもしれません。
マグネシウムは、私たちの体内で数百もの働きを担う重要なミネラルであり、髪の健康を維持するためにも必要です。
この記事では、マグネシウムが女性の髪に与える影響や、不足する原因、そして日々の生活で賢く補う方法を専門的な視点から詳しく解説します。
マグネシウムが髪の健康に与える基本的な働き
マグネシウムは体内の多くの生命活動に関わるミネラルですが、特に髪の健康を土台から支えるために重要な役割を果たします。
美しい髪を育むためには、まずその働きを理解することが大切です。
髪の成長サイクルとマグネシウム
髪の毛は、「成長期」「退行期」「休止期」というサイクルを繰り返しています。
マグネシウムは、毛母細胞が活発に分裂して髪を成長させる「成長期」を正常に維持するために働きます。
このミネラルが不足すると、成長期が短くなり、髪が十分に育つ前に抜け落ちてしまうときがあります。これが、薄毛やボリュームダウンの一因となるのです。
タンパク質合成を助ける役割
髪の主成分は「ケラチン」というタンパク質です。私たちは食事からタンパク質を摂取しますが、それを髪の毛として作り変える際には、様々な酵素の働きが必要です。
マグネシウムは、このタンパク質合成を担う酵素を活性化させる補因子として機能します。
十分なマグネシウムがあることで、強くしなやかな髪の毛が作られます。
髪の主成分ケラチンの合成におけるマグネシウムの機能
| 要素 | 役割 | マグネシウムの関与 |
|---|---|---|
| アミノ酸 | ケラチンの材料 | アミノ酸の取り込みを助ける |
| 酵素 | 合成を進行させる | 酵素の働きを活性化する |
| エネルギー(ATP) | 合成に必要な動力 | ATPの生成と利用に必要 |
血行促進と頭皮環境
頭皮の血行は、髪の成長に必要な栄養素を毛根に届けるための生命線です。
マグネシウムには血管を拡張させ、血液の流れをスムーズにする働きがあります。
頭皮の血行が良好になると毛母細胞に酸素や栄養が十分に行き渡り、健康な髪が育つための土壌が整います。
逆に不足すると頭皮の血行不良を招き、栄養不足から髪の成長が妨げられる可能性があります。
なぜ現代女性はマグネシウムが不足しがちなのか
健康と美容に不可欠なマグネシウムですが、多くの方が知らず知らずのうちに不足状態に陥っています。
特に現代の女性を取り巻く環境には、マグネシウムを消耗させる要因が数多く存在します。
食生活の変化と加工食品
現代の食生活は、精製された穀物や加工食品の割合が増えています。
食品の精製・加工の過程で、本来含まれているマグネシウムの多くが失われてしまいます。
手軽な食事で済ませる機会が多いと、カロリーは足りていても髪に必要なミネラルが不足する「質的栄養失調」に陥りやすいです。
食品加工によるマグネシウム含有量の変化
| 食品 | 加工前の状態 | 加工後の状態 |
|---|---|---|
| 米 | 玄米 | 精白米 |
| 小麦 | 全粒小麦 | 精白小麦粉 |
| 砂糖 | さとうきび | 精製糖 |
ストレスによるマグネシウムの消費
仕事や家事、育児など、女性は日々多くのストレスにさらされています。ストレスを感じると、体は対抗するために「コルチゾール」というホルモンを分泌します。
このコルチゾールの生成と代謝の過程で、マグネシウムが大量に消費されます。
慢性的なストレスは気づかないうちに体内のマグネシウムを枯渇させ、髪への栄養供給を滞らせる大きな原因となります。
特定の医薬品の服用による影響
一部の医薬品は、マグネシウムの吸収を妨げたり、尿中への排泄を促進したりすることが知られています。
例えば、一部の利尿薬や胃薬、抗生物質などが該当します。
持病のために長期的に薬を服用している場合は主治医や薬剤師に相談し、栄養面での影響についても確認してください。
加齢に伴う吸収率の低下
年齢を重ねると、消化器官の機能が全体的に低下する傾向にあります。食事から栄養素を吸収する能力も徐々に落ちていきます。
特にマグネシウムのようなミネラルは、若い頃と同じ量を摂取していても、体内に取り込まれる割合が減ってしまう場合があります。
そのため、年齢に応じてより意識的な摂取が必要になります。
マグネシウム不足が引き起こす髪へのサイン
体内のマグネシウムが不足すると、体は様々なサインを発します。
髪や頭皮に現れる変化は特に見逃しやすいものの、重要な警告です。ご自身の状態と照らし合わせてみましょう。
抜け毛や薄毛の増加
前述の通り、マグネシウム不足は髪の成長期を短くし、頭皮の血行を悪化させます。
この結果、本来ならまだ成長するはずの髪が早く抜けてしまったり、新しく生えてくる髪が細く弱々しくなったりします。
シャンプーやブラッシングの際の抜け毛が明らかに増えたと感じる場合、マグネシウム不足が一因かもしれません。
髪のパサつきやツヤの低下
マグネシウムは、髪の表面を保護するキューティクルの健康維持にも関わっています。
不足するとタンパク質合成がうまくいかず、キューティクルが乱れやすいです。
キューティクルが乱れていると髪の内部の水分が逃げやすくなり、パサつきやゴワつき、ツヤの低下につながります。
髪の状態と考えられるマグネシウムの関与
| 髪の悩み | 考えられる状態 | マグネシウムの関与 |
|---|---|---|
| パサつき・乾燥 | キューティクルの乱れ | タンパク質合成の低下 |
| 切れ毛・枝毛 | 髪の強度の低下 | ケラチン生成の不足 |
| ツヤがない | 髪表面の凹凸 | 栄養供給の不足 |
頭皮の乾燥やかゆみ
マグネシウムは、皮膚のバリア機能や水分保持能力にも影響を与えます。
不足すると頭皮が乾燥しやすくなり、外部からの刺激に敏感になります。そして、かゆみやフケといった頭皮トラブルを引き起こすときがあります。
健康な髪は健康な頭皮から育つため、頭皮のサインにも注意を向けることが大切です。
薄毛の悩み、ホルモンバランスだけが原因だと思っていませんか?
女性の薄毛について調べると、「女性ホルモンの減少」という言葉をよく目にします。もちろんそれは大きな要因の一つですが、すべてではありません。
栄養という視点、特にマグネシウムのようなミネラルの役割を見過ごしているために、悩みが解決しない方が多くいらっしゃいます。
見過ごされがちな栄養素の重要性
私たちの体は、摂取した栄養素から作られています。髪も例外ではありません。
ホルモンバランスを整えるためにも、そのホルモンを作るための栄養素が必要です。
栄養という土台がしっかりしていないと、どんなにホルモン治療を試みても、その効果は限定的になってしまいます。
特にマグネシウムは、体の基本的な機能を支える「縁の下の力持ち」であり、その重要性はもっと認識されるべきです。
ストレス社会による「隠れ栄養不足」
忙しい毎日を送る中で「きちんと食べているつもり」でも、実は栄養が足りていない「隠れ栄養不足」の状態にある女性は少なくありません。
特にストレスはビタミンCやタンパク質、そしてマグネシウムを急速に消費します。
心が疲れていると感じる時、あなたの体、そして髪も栄養を欲しているサインかもしれません。
ストレスによる消耗が激しい栄養素
- マグネシウム
- ビタミンB群
- ビタミンC
- タンパク質
自分の食生活を振り返る簡単なチェック
ご自身の食生活がマグネシウム不足に傾いていないか、一度チェックしてみましょう。
当てはまる項目が多いほど、意識的な改善が必要です。
| チェック項目 | 頻度(週に何回?) | 考えられる影響 |
|---|---|---|
| 外食やコンビニ食が多い | 週4回以上 | 精製食品が多くミネラルが不足 |
| 甘いお菓子や清涼飲料水をよく摂る | ほぼ毎日 | 糖の代謝でマグネシウムを消費 |
| 海藻類やナッツ類をほとんど食べない | 週1回未満 | 主要な供給源からの摂取不足 |
心と体の両面から考えるヘアケア
クリニックではホルモンの状態を診るだけでなく、患者さん一人ひとりの生活習慣や食生活、ストレスレベルまで丁寧に話を伺います。
髪の悩みは、体からのメッセージです。その声に耳を傾け、心と体の両面から総合的にケアすることが、根本的な解決への近道です。
髪のためにマグネシウムを効果的に摂取する方法
マグネシウムの重要性を理解したら、次は日々の生活でどのように補給していくかが課題です。
食事を基本としながら、必要に応じて他の方法も組み合わせると効率的に摂取できます。
食事から摂る|マグネシウム豊富な食品
マグネシウムは特別な食品だけでなく、比較的身近な食品にも含まれています。
毎日の食事に、これらの食品を意識して取り入れることから始めましょう。特に、加工度が低い自然な形の食品を選ぶのがポイントです。
マグネシウムが豊富な食品群
| 食品カテゴリ | 代表的な食品例 | 取り入れ方のヒント |
|---|---|---|
| 種実類 | アーモンド、カシューナッツ、ごま | おやつやサラダのトッピングに |
| 豆類・大豆製品 | 納豆、豆腐、きなこ | 毎日の食事に一品加える |
| 藻類 | あおさ、わかめ、ひじき | 味噌汁や和え物で手軽に |
吸収を高める栄養素、妨げる栄養素
マグネシウムを摂取する際には、一緒に摂る栄養素にも気を配ると、より効率的です。
ビタミンDはマグネシウムの腸管での吸収を助けます。一方で、過剰なカルシウムやリン(加工食品に多い)は、吸収を妨げる場合があります。
マグネシウムの吸収に影響する要素
| 影響 | 要素 | 含まれる食品・注意点 |
|---|---|---|
| 吸収を助ける | ビタミンD | きのこ類、魚類、日光浴 |
| 吸収を妨げる | 過剰なリン | 加工食品、スナック菓子 |
| 吸収を妨げる | 過剰なカルシウム | サプリでの過剰摂取に注意 |
サプリメント活用のポイントと注意点
食事だけで十分な量を確保するのが難しいときは、サプリメントの活用も有効な選択肢です。
ただし、やみくもに摂取するのではなく、いくつかのポイントを押さえることが大切です。
- 含有量を確認する
- 吸収の良い形態(クエン酸マグネシウムなど)を選ぶ
- 一度に多量でなく、数回に分けて摂取する
サプリメントを利用する際は、過剰摂取を避けるためにも、まずは専門家にご相談ください。
薄毛治療を行うクリニックでは、血液検査の結果に基づき、患者さんに必要な栄養素と量を的確にアドバイスしてもらえます。
食事以外でマグネシウムを補う経皮吸収という選択
意外かもしれませんが、マグネシウムは食事からだけでなく、皮膚を通して吸収(経皮吸収)させることも可能です。
胃腸が弱い方や、より直接的に補給したい場合に有効な方法です。
経皮吸収の仕組みとは
皮膚には毛穴や汗腺があり、そこから特定の物質を体内に取り込めます。
マグネシウムイオンは比較的小さいため、皮膚からも吸収されると考えられています。
この方法により、消化器系に負担をかけることなく血中にマグネシウムを補給できます。
エプソムソルト入浴の効果
エプソムソルトの主成分は「硫酸マグネシウム」です。お風呂に入れると、全身の皮膚からマグネシウムを吸収できます。
リラックス効果も高いため、ストレスによるマグネシウム消耗を補い、心身の緊張を和らげるのに役立ちます。
一日の終わりに、髪と心身の双方をケアする時間として取り入れるのがおすすめです。
マグネシウムオイルやスプレーの使い方
マグネシウムオイル(塩化マグネシウム溶液)やスプレーは、気になる部分に直接塗布できる製品です。
特に、頭皮に直接スプレーすると、毛根周辺にマグネシウムを届けやすくなります。
使用する際は製品の指示に従い、少量から試してみてください。肌が敏感な方は、少しピリピリと感じるときがあります。
経皮吸収製品の種類と特徴
| 種類 | 主成分 | 主な使用法 |
|---|---|---|
| エプソムソルト | 硫酸マグネシウム | 浴槽に入れて入浴する |
| マグネシウムオイル | 塩化マグネシウム | 体に直接塗布・マッサージする |
| マグネシウムスプレー | 塩化マグネシウム | 頭皮や肩などにスプレーする |
マグネシウム摂取における注意点と一日の推奨量
マグネシウムは髪と体に良い影響を与えますが、摂取には適切な量と注意点があります。
自己判断での過剰な摂取は避け、正しい知識を持つことが重要です。
過剰摂取のリスクと症状
通常の食事でマグネシウムを過剰摂取することは稀ですが、サプリメントなどで大量に摂取した場合は、下痢を引き起こすケースがあります。
これは体が余分なマグネシウムを排出しようとする正常な反応ですが、不快な症状です。ほとんどの場合、摂取量を減らせば改善します。
年齢別・性別の推奨摂取量
厚生労働省が示す「日本人の食事摂取基準」では、成人女性のマグネシウム推奨量が定められています。
ご自身の年齢に合わせて、目安となる量を知っておきましょう。
成人女性のマグネシウム推奨量(mg/日)
| 年齢 | 推奨量 | 妊娠中の付加量 |
|---|---|---|
| 18~29歳 | 270 mg | +40 mg |
| 30~64歳 | 290 mg | |
| 65歳以上 | 280 mg |
腎機能が低下している場合の注意
腎臓は、体内のミネラルバランスを調整する重要な臓器です。
腎機能が低下している方がマグネシウムを過剰に摂取するとうまく排泄できずに体内に蓄積し、「高マグネシウム血症」を引き起こす危険性があります。
この状態は、吐き気や筋力低下、不整脈など深刻な症状につながる可能性もあります。
腎臓に持病のある方は、必ず主治医に相談の上で摂取量を調整してください。
マグネシウムと髪に関するよくある質問(Q&A)
ここでは、患者さんからよくいただくマグネシウムと髪に関する質問にお答えします。
- マグネシウムを摂り始めてから効果が出るまでの期間は?
-
体感には個人差が大きく、一概には言えません。
体の栄養状態が変化し、それが髪の状態として現れるまでには、髪の成長サイクルを考慮すると少なくとも3ヶ月から6ヶ月は継続するのが望ましいです。
焦らず、日々の習慣として続けていきましょう。
- 他のミネラル(亜鉛など)との併用は問題ないですか?
-
基本的には問題ありません。髪の健康にはマグネシウムだけでなく、亜鉛や鉄、セレンといった他のミネラルも協調して働きます。
ただし、特定のミネラルだけを極端に多く摂ると、他のミネラルの吸収を妨げる場合があります。
バランスの良い摂取が重要ですので、サプリメントを利用する際は専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。
- 妊娠中や授乳中に特に意識すべきことはありますか?
-
妊娠中は、胎児の発育のためにもマグネシウムの必要量が増加します(1日あたり+40mg)。この時期は特に、食事からの積極的な摂取を心がけましょう。
サプリメントの利用については、自己判断せず、必ずかかりつけの産婦人科医や薄毛治療クリニックのような専門家にご相談ください。
- 食事で十分な量をとれているか確認する方法はありますか?
-
正確な体内マグネシウム量を把握するには、血液検査が最も信頼性の高い方法です。
医療機関では詳細な血液検査を行い、栄養状態を客観的に評価した上で、一人ひとりに合った食事やサプリメントのアドバイスを行っています。
ご自身の状態を正確に知りたい方は、一度クリニックに相談してみましょう。
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