男性とは異なるメカニズムで発生する女性の薄毛。髪は人目につく部分だけに悩みは深刻です。更年期を境に激増しますが、原因によっては若い人にも起こります。
近年では研究が進み、有効な対処法や薬剤などが開発されるようになりました。本記事では女性の薄毛、抜け毛に関する最新情報をお届けします。
この記事の執筆者
藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長
東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。
女性の薄毛は治る?
女性の薄毛にはいくつものタイプがあり、それぞれに原因と対策方法が異なります。まずは自分の薄毛のタイプが何に当てはまるのかを把握することが大切です。
女性の薄毛は男性と違って完全には抜け落ちないので、適切な方法でアプローチをすれば、進行を食い止め毛根の活力を再生することが期待できます。また、生活習慣を整えたりストレスを解消することで、発毛が活発になることも。
女性の薄毛の種類
男性の薄毛の大半が男性ホルモンに起因する「AGA(男性型脱毛症)」であるのに対し、女性の薄毛には実に多くの種類があります。
特徴としては完全に抜け落ちるのではなく、広範囲に薄く広がるケースが多いです。それぞれのタイプ別に症状や発生原因を解説していきます。
<女性の薄毛>
- FAGA(女性男性型脱毛症)
「女性における男性型脱毛症」を意味するFAGA。加齢により女性ホルモン分泌量が減少し、男性ホルモンが優位になることで発生します。内服薬と外用薬、育毛剤で改善が期待できます。 - びまん性脱毛症
頭部全体で毛量が減少する脱毛症で、女性の薄毛で最も多い症状です。髪が細くやわらかくなってボリュームダウンしたり、分け目の薄さが特に目立つようならこのタイプの薄毛です。 - 分娩後脱毛症
妊娠期に大量に分泌されていた女性ホルモンが、産後通常に戻る際にバランスが崩れ、一時的に大量の脱毛が起こることが。一過性のものなので次第に元に戻ります。 - 脂漏性脱毛症
皮脂が過剰に分泌することで、頭皮に炎症が起こり脱毛に至る症状。栄養バランスの良い食生活や、清潔な頭皮を保つ正しいシャンプーなど、皮脂分泌の原因を見直すことが、改善への一歩です。 - 粃糠性脱毛症
フケが皮脂と混ざって毛穴をふさいでしまった結果、毛根が毛細血管から栄養を得られなくなり、毛母細胞の活動が止まってしまう脱毛症。すみやかな頭皮環境の改善が必要です。 - 円形脱毛症
老若男女を問わずスポット的に発生する、円形または楕円形の脱毛症です。一度に複数発生するケースも。原因は解明されておらず、自然治癒することもありますが、全体に広がることもあります。 - 牽引性脱毛症
ゴムでしばるポニーテールや、きつく結い上げる髪型、ヘアエクステなど、長期間にわたって髪を引っ張り続けることで、毛根に負担がかかって起こる脱毛症。毛根を引っ張らない髪型がおすすめです。 - 休止期脱毛
ストレス、妊娠出産、傷病、薬剤の影響、ダイエットなどで、本来は成長期にあるべき毛根が休止期に入ってしまい、2~3カ月後に一斉に脱毛します。原因を取り除かない限り、改善は期待できません。
女性が薄毛になる原因
女性の薄毛が発生する原因には、頭皮をダイレクトに傷つける物理的ダメージだけでなく、体の内側から毛根の活動を阻んでしまうものがあります。症状が進行しないよう、早めに手を打つことが大切です。抜け毛が気になり始めたら、ヘアケアや生活習慣などをチェックしてみましょう。
女性の薄毛を引き起こす3つの原因について解説します。
<女性の薄毛原因TOP3>
- 頭皮へのダメージ
- ホルモンバランスの乱れ
- 栄養バランスの乱れ
頭皮へのダメージ
頭皮へのダメージは、大きく2つに分けられます。ひとつが、シャンプーの際に爪を立てたり、乱暴なブラッシングで頭皮を傷つけてしまう物理的なダメージ。そしてもうひとつが、シャンプーやヘアケア剤が肌質に合わない、洗髪時のすすぎ残し、汗を放置してかぶれる、紫外線に当たる、などの炎症ダメージです。
これらは毛根を傷めて発毛を阻害してしまいます。頭皮の皮膚はやわらかくデリケートなので、常に清潔にしてやさしく扱うようにしましょう。
ホルモンバランスの乱れ
女性の薄毛の原因の一つに、ホルモンバランスの乱れが挙げられます。女性ホルモンは発毛を促進したり、成長期を維持するはたらきがありますが、妊娠出産や更年期、ホルモン剤の使用、婦人科系の疾患などで、分泌量が変動してしまいます。
特に産後と更年期には大幅にホルモン分泌量が減少するため、男性ホルモンが優位になり男性型の脱毛が起こりやすくなるのです。このような脱毛は「FAGA(女性における男性型脱毛症)」と呼ばれています。
栄養バランスの乱れ
栄養バランスの乱れも、薄毛の一因となります。髪は毛根にある「毛母細胞」から生まれますが、その栄養を補給しているのは毛細血管を通じて運ばれる血液です。しかし、栄養不足な食生活が続くと、毛母細胞に血液から十分な栄養が供給されず、髪が細く弱くなってしまいます。
さらに食事の糖質が過多になると皮脂の分泌が増え、ますます発毛に適さない頭皮環境になります。栄養不足は毛髪だけでなく体全体にダメージを与えますので、薄毛が気になる人は食事の内容を見直してみましょう。
女性の薄毛対策の方法
薄毛を予防するには、早めの対策が肝心です。現在はトラブルがなくても、女性の体調やホルモンはデリケートに変動しています。大切な髪を失わないよう、ぜひ毎日の生活の中に薄毛対策のセルフケアを取り入れてみましょう。
ただし、薄毛の原因に合わせた対策でなければ効果は期待できません。また、即効性を期待するのではなく、持続によって効果が得られることを理解しておきましょう。
<薄毛の対策方法>
- 正しいヘアケアで頭皮環境に整える
- 育毛剤で頭皮や髪に良い栄養を与える
- 眠時間と質の見直しで成長ホルモンを活発にする
- 生活習慣を改善し育毛しやすい環境を作る
- 頭皮や毛髪の成長に良い栄養を摂る
正しいヘアケアで頭皮環境を整える
薄毛対策の主要ポイントは、発毛しやすい頭皮環境づくり。毛穴が活発に新しい毛を生み出せる、健康な頭皮をつくりましょう。
とは言っても難しいテクニックや特別な道具は必要ありません。いつものシャンプーを見直して正しく汚れを落とし、頭皮マッサージなどで血行促進するだけです。日々のお手入れにより、次第に頭皮に活力がチャージされていきます。
ご自宅で取り入れやすく効果的な、薄毛対策のセルフケアをご紹介。
薄毛対策のための正しいシャンプー方法
シャンプーの目的は、頭皮の汚れを落として雑菌の繁殖を抑制することです。しかし、すすぎ残しや、洗髪後に生乾きで放置すると、炎症や雑菌によるトラブルの元になります。正しいシャンプーの手順を理解しましょう。
<正しいシャンプーの方法>
- クシやブラシで軽く髪をほぐしておきます。
- 髪と頭皮を十分にお湯ですすぎ汚れを浮かします。
- シャンプーを手のひらに広げ、頭皮全体につけます。
- 指の腹でやさしく洗い、シャンプーが残らないようよくすすぎます。
(皮脂が多い場合は二度洗いがおすすめ) - コンディショナーやトリートメントで髪を保護します。
薄毛対策のための正しい髪の乾かし方
「ドライヤーは髪を傷める」と思って使わない人がいますが、実はその反対です。髪が湿ったままでは頭皮に雑菌が繁殖するため、匂いや炎症の原因になります。正しいヘアドライで清潔な髪を保ちましょう。
- やわらかなタオルで、こすらず押さえるように頭皮の水分を取ります。
- 髪の部分はタオルではさんで軽くたたきます。
- ドライヤー前に熱から髪を守るヘアケア剤をつけます。
- 頭から15~20㎝離してドライヤーの風を当てます。
- 頭皮に近い部分から全体をまんべんなく乾かします。
薄毛対策のための頭皮マッサージ方法
頭皮をマッサージすることで毛細血管の血流を促し、毛根に栄養が行きわたりやすくなります。また、頭部の筋肉をほぐしてリラックス効果も高めます。長時間行うより、毎日短時間の方が効果的です。
<頭皮マッサージの手順>
- 生え際から頭頂部へ、指の腹を使ってゆっくり頭皮を動かすように滑らせます。
- 2~3秒程キープした後、ゆっくりと指を戻します。
- 耳の上辺りから円を描くように、こめかみ~側頭部へと指を動かします。
- 逆回りも同様に行ってください。力を入れ過ぎないように。
- 頭全体を両手の指の腹で包み込み、頭頂部に向かって頭皮を動かすように指を滑らせます。
- そのまま2~3秒キープして戻します。後頭部も同様に行ってください。
- このセットを数回くり返した後、指の腹で頭皮全体をトントンと叩きます。
育毛剤で頭皮や髪に良い栄養を与える
頭皮に直接栄養を与えて血行を促進する育毛剤は、薄毛の対策には効果的できます。選ぶときの注意点は、必ず「女性用」と表示されているものを購入することです。男性とは脱毛の仕組みが違うため、男性用では成分が有効にはたらかないことがあります。
なお、髪は退行期と休止期を含む長いサイクルで毛周期をくり返しています。効果を急がず、ゆっくり気長にケアを続けることが豊かな髪への近道です。
眠時間と質の見直しで成長ホルモンを活発にする
夜10時から深夜2時は、成長ホルモンの分泌が活発になり、新しい細胞が作られるゴールデンタイム。この時間帯に睡眠を取って体をリラックスさせることで、毛根にもより元気な活力がチャージされます。
この時間を逃してしまうと、成長ホルモンのはたらきが弱まり発毛力も低下します。ぜひ生活を整え、早めにベッドに入るようにしましょう。赤みのある照明を使用したり、神経をくつろがせるアロマを使用するなど、入眠しやすい環境を作ることも有効です。
生活習慣を改善し育毛しやすい環境を作る
偏った食事や飲酒、喫煙などは、細胞の代謝を妨げ血液循環を滞らせます。その結果、髪を育てる毛母細胞の活動が低下し、薄毛が進んでしまいます。バランスよく規則正しい食事を心がけ、すこやかな頭皮環境をつくりましょう。
ホルモンバランスや自律神経の乱れにつながる「ストレス」を発散することも、発毛には重要なポイント。適度な運動を楽しんだり、お風呂でリラックスするなど工夫してみてください。
頭皮や毛髪の成長に良い栄養を摂る
ひと口に「栄養バランスのよい食事」と言っても、何が薄毛対策に効果的なのかわかりにくいと思います。そこで、特に頭皮や毛根を活発にする代表的な栄養素をピックアップしてみました。
どのような食品に含まれるかもご紹介するので、ぜひ毎日の食事で取り入れてみてください。決まった時間に適量を食べるのも、消化吸収をよくする秘訣です。
<頭皮や毛根に良い栄養素>
- タンパク質
- ミネラル
- ビタミン
- ポリフェノール
- イソフラボン
薄毛対策に良い食べ物
上記の栄養素が含まれる食品と、調理例を表にしました。集中して同じ食品を摂るのではなく、多くの栄養素と一緒に摂取することで、相乗効果が生まれます。
飲み物にも薄毛対策効果のあるものを選べば、さらに効果がアップ!ぜひ参考にしてみてください。
<薄毛対策に良い食べ物>
タンパク質 | 肉、魚、卵、乳製品、大豆 | ささみチーズ焼き、魚肉つみれスープ |
ミネラル | 牡蠣、豚レバー、納豆、青魚、ナッツ | 牡蠣鍋、レバー串焼、青魚煮つけ |
ビタミン | 緑黄色野菜、貝類、果物 | あさり味噌汁、野菜と果物のスムージー |
ポリフェノール | ワイン、緑茶、ゴボウ茶、ココア | 緑茶豆乳ラテ |
イソフラボン | 豆乳、豆腐 | 冷奴、豆乳と野菜のシチュー |
薄毛対策におすすめのサプリ
薄毛に効果のある栄養素は理解していても、時間がなくて調理ができない人も多いでしょう。そのような場合は、サプリメントで足りない栄養を補うのも一手です。ただし、基本的には3食を決まったスケジュールで摂るようにし、メニューの中の偏りを調整するようにしましょう。
より高い相乗効果を狙うなら、数種が組み合わされたものが便利です。また、ドリンクやゼリーなどに加工されているものもあり、おやつとして摂取することもできます。
女性の薄毛は病院での治療も検討する
薄毛の症状が進んでいたり、気になるトラブルを併発している人は、クリニックでの薄毛治療を視野に入れることをおすすめします。近年、女性の薄毛の研究が飛躍的に進み、専門的な病院が増加。医師が頭皮の状態を診断し、薄毛の原因を突き止めるため、有効な対策ができるのです。
また、外用薬だけでなく薬の服用により内側からも薄毛にアプローチできるため、セルフケアよりも改善されるスピードが速くなります。
女性の薄毛を治す治療内容
女性専門の薄毛治療と聞いても「どんな治療をするのか不安」という人が多いはず。クリニックによって診療方針は異なりますが、平均的な治療の流れをご紹介します。
女性の医師のみで診察を行うクリニックもありますので、ホームページなどで雰囲気をチェックしてみてはいかがでしょう。
<薄毛の治療内容の例>
- 問診とカウンセリング(無料の場合もあります)
- 初診では問診、視診、触診、検査などを行います。
(※検査:血圧測定、採決のほか、毛髪のミネラル量測定など) - 2回目の来院では血液検査と診察の結果により治療内容決定。
- 定期的に通院しながら薬の処方や院内にて施術を受けます。
(※院内施術:治療薬の塗布など)
女性の薄毛を治す薬
女性の薄毛を医療機関で行う際は、市販のサプリメントや育毛剤には配合できない、医薬品成分の使用が可能です。医薬品成分は研究結果が認められているため、効能がはっきりしています。
クリニックの薄毛治療にはどのような治療薬が処方されるのか、一例をご紹介。なお、クリニック独自に処方するため、どの医療機関でも同じ薬が出るとは限りません。気になる人は、カウンセリング時に医師に相談しましょう。
<女性の薄毛に効果がある治療薬>※一例
- 内服薬
・Pantogar(パントガール)
女性の「びまん性脱毛」に有効。ドイツで開発され、世界で初めて女性薄毛治療効果が認可されました。
・Dott Hair(ドットヘアー) 日本で唯一発毛効果が認可された「ミノキシジル」の内服薬で、3種の錠剤を同時服用します。 - 外用薬
・ミノキシジル
毛根を活性化して発毛を促進。内服、外用どちらにも配合され、外用では日本で唯一医薬品として発毛効果が認められた成分です。
まとめ
誰にも言えず、薄毛の悩みを抱え込んでいる人は少なくありません。一昔前は薄毛=男性のイメージでしたが、女性も加齢とともに薄毛が進むことが解明されています。
深刻になる前にセルフケアをスタートしましょう。本格的に改善したい人は、クリニックでの治療が有効です。また、健康な頭皮環境のためには、規則正しい生活を心がけましょう。