「健康診断で尿酸値が高いと診断された」
「痛風になってしまった」
「もしかしたら痛風かもしれない」
この記事を読まれている方は、このような痛風や尿酸に関する問題を抱えられているのではないでしょうか。
尿酸値が高い方は痛風や痛風に伴う合併症によって、重大疾患を引き起こす可能性があり、最悪の場合は命にかかわることも。
この記事では「女性の尿酸値が高い原因」と「尿酸値を下げる生活習慣」についてご紹介しますので、痛風・高尿酸値にお悩みの方は是非最後までお読みください。
この記事の執筆者
藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長
東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。
「尿酸値が高い」と指摘されたけれど、通院の時間がない、面倒で続かない方に
尿酸値とは何か
まず尿酸がなにかから説明いたします。
尿酸はプリン体というエネルギーが使われた際に生まれるゴミのようなもの。プリン体は2つの方法で体内に発生します。
1.食事で摂取するプリン体
プリン体は体を動かすために必要なエネルギーですので、多かれ少なかれほとんどの食材に含まれています。
2.体内で生み出されるプリン体
人の細胞には核酸という物質がありますが、この核酸にもプリン体が含まれています。
細胞は日々生まれ変わっていますので、体内で日々プリン体が生産。
この2つの方法で体内に存在するプリン体はエネルギーを消費した際に尿酸へと変化。
「エネルギーを消費」というと、激しい運動をイメージするかもしれませんが、実際には新陳代謝だけでもプリン体を尿酸に変えてしまいます。
この尿酸が血液中に含まれる値のことを尿酸値といい、痛風の方はこの尿酸値が7.0mg/dLにならないように気をつける必要があります。
尿酸が上がるとどうなる?
なぜ尿酸値が上がるとよくないのかというと、高い尿酸値が痛風を引き起こす原因だからです。
詳しく説明しましょう。
体内にある尿酸は血液に溶け、その7~8割は尿や便として排泄されます。しかし多すぎる尿酸は血液に溶けることなく、尿酸塩という結晶として蓄積。蓄積された尿酸塩は「蓄積量が限界を超えるか」「何かの刺激」によって剥がれ落ちます。
この剥がれ落ちた尿酸塩を白血球が異物と認識して攻撃、その攻撃の際に痛みが発症。つまり、血液に溶けることができない尿酸の割合、具体的には尿酸が血液1dLに7.0mgを超えると痛風を発症する可能性があるということです。
そのため尿酸値は6.9mg/dL以下に維持しなければなりません。
尿酸にはメリットも
ここまでの説明では「尿酸=痛風の原因」と悪者のように感じてしまいますが、尿酸にもメリットもあります。
尿酸には強い抗酸化作用があり、血管内の状態を維持してくれる効果が。尿酸は適切な量であれば、体にとって必要な成分なのです。
女性の痛風患者は全体の5%
通風は潜在患者600万人といわれていますが、人口が減少しているにもかかわらず痛風患者数は年々増加傾向にあります。その理由は、以前は高齢の男性がなることの多かった痛風に、20~30代の方や女性の方も発症することが増えてきたためです。
痛風とは主に男性がかかる病気で、痛風患者の95%が男性、女性の痛風患者は全体の5%しかいらっしゃいません。人口の男女比率は1:1ですから、女性が痛風になる確率は男性の1/20ということがわかります。
なぜ女性は痛風になりにくいのでしょうか。その理由は女性ホルモンにあります。
具体的には女性のホルモンの一種であるエストロゲンは腎臓で尿酸の排泄を促進しますので、血液中に含まれる尿酸値が低く維持されやすくその結果痛風になりにくいのです。
女性で尿酸値が高くなる原因
少しずつ女性の痛風患者が増加している理由には、女性のライフスタイルの変化が大きいのではないかと言われています。
食生活の変化
1つ目に考えられているのが、食生活の変化です。
昔は「ぜいたく病」と揶揄されていた痛風ですが、飽食の時代である現代は一般的な食事であっても摂取するプリン体が増加。その結果痛風になる方も増加しています。
女性の社会進出
米国の循環器医フリードマンの研究により「タイプA行動型(A型性格)」に当てはまる方は痛風になる可能性が高いということがわかっています。
このタイプA行動型とは
- 活動的
- 攻撃的(怒りっぽい)
- せっかち
- 責任感が強い
- 負けず嫌いでやり通す
という特徴を持った人のことです。
人はストレスを感じると交感神経の働きが高まり、代謝が活性化します。その結果、体内で尿酸の生成量が増え、尿酸の排泄量が減少。その結果尿酸値を上昇し痛風になるというわけです。
この「タイプA行動型」が痛風になりやすいことと、女性に痛風が増えていることがどのように関係あるかというと、女性の社会進出・共働き世帯増加によって、仕事を続ける女性が増えたことが関係していると考えられます。
もともと女性が家庭に入るという考えが多かった1980年代と違い、結婚しても仕事を続けることによって仕事でのストレスを感じる方や、上昇志向の強い方が増えてきたことも女性の痛風患者増加に寄与していると考えられます。
閉経後、女性ホルモンの低下
先ほど女性が痛風になりにくいのは女性ホルモンが影響していると言いましたが、女性のホルモンバランスは常に一定ではありません。女性のホルモンバランスが大きく減るのが、閉経が起こる50歳前後のタイミングです。
以下の図は女性の年齢と女性ホルモンの量(濃度)を表しています。
このように50歳を超えるとエストロゲンによる尿酸の排出効果を期待できなくなります。
痛風になりにくい女性であっても、閉経後には痛風になる可能性が高くなる点には注意が必要です。
痛風は男性だけではなく女性もなる可能性があるが、他の病気の可能性も
先ほどお伝えしたように、女性の尿酸値が上がることがある以上、女性であっても痛風になることがあります。
しかし、痛風と勘違いしやすい病気も多くあり、もしかするとあなたが痛風と思っている今の症状は異なる病気かもしれません。
女性でも痛風になる可能性があるという前提で、女性が痛風と勘違いしやすい病気を紹介します。
勘違いしやすい病気1.関節リウマチ
女性が痛風と勘違いしやすいのが「関節リウマチ」。
関節リウマチは、関節の滑膜に対する免疫異常によって関節が変形・炎症を起こす病気です。放置すると炎症によって軟骨や骨が壊され、ゆっくりと関節破壊が進行。破壊された関節は二度と治りません。
関節リウマチは関節が痛むという点では一見痛風と似た特徴を持っていますが、40代以降の女性に多い病気です。
また痛風が下半身、主に足の指先に発症することが多い一方、関節リウマチは手の指先で起こることが多いというのも痛風と異なる特徴です。
勘違いしやすい病気2.偽痛風
偽の痛風と書く「偽痛風(ぎつうふう)」。
痛風のように痛みと腫れを伴う関節炎を繰り返す病気のうえ、発症の原因も痛風とよく似ています。しかし、痛風とは異なり60歳以上の女性に多いのが特徴。
偽痛風が起こる原因は尿酸ではなく、ピロリン酸カルシウムが蓄積することが原因です。しかし「なぜピロリン酸カルシウムが増えるのか」も「なぜピロリン酸カルシウムが関節に溜まるのか」もわかっていません。
症状は、主に膝関節の炎症。しかし痛風ほど激しい痛みはありません。
これら2つの病気と痛風との違いは以下の通りです。
関節リウマチ | 偽痛風 | 痛風 | |
患者の男女比率 | 男性20% 女性80% | 男性25% 女性75% | 男性95% 女性5% |
痛みの種類 | じわじわと痛みが進行 | 痛みは強くないことが多い | 突然激痛が起こり、7~10日をピークに痛みが引いていく |
病状の進行の仕方 | 痛みの箇所が広がっていき、関節が変形・壊死していく | 発症を繰り返し、徐々に慢性化 | 半年〜1年スパンで激痛を繰り返し、徐々に慢性化 |
発症の原因 | 自己免疫の異常 | ピロリン酸カルシウムの蓄積 | 7.0mg/dLの尿酸値による尿酸塩の蓄積 |
痛みが起きやすい場所 | 上半身・手の関節 | 膝 | 下半身の関節・指 |
行った見が起こる箇所 | 2箇所以上同時に起こることが多い | 1箇所で起こることが多い | 1箇所に激しい痛みが起こる |
上記の特徴による判断はあくまで目安としてお使いください。
女性であっても痛風を発症することもあれば、下半身に関節リウマチの痛みが出ることもありますのでご自身での厳密な判断は困難です。
そのため、これらの症状の見分けがつかない場合は内科・整形外科へ受診していただければ、医師が診察にて判断してくれるますので、違和感があればまず病院に行ってみてください。
20代~30代の若い年代の患者も増えている
戦後の日本では痛風になるのは年配の方が多かったのですが、誰でも豊かな食生活を送れるようになり、便利な移動手段・生活手段が登場しているため20~30代での痛風患者も増えてきました。
若いから・女性だからと言った理由で痛風にならないという油断は禁物です。
痛みがなくなっても合併症を起こすリスクが
若い方で特に気をつけていただきたいのが「以前痛風を発症したが、最近は痛風発作が起きていない」という方。
このような方はもう痛風を気にしなくて良いかというとそう言ったわけではありません。
痛風はあくまで尿酸塩が剥がれ落ちた時に痛みが起こる病気です。そのサイクルは1年程度であることが多いですが、3年目や5年目に起こるかもしれません。
痛みがなくても尿酸値が高い状態である高尿酸血症(尿酸値が7.0mg/dLだが痛みが起こっていない状態)であれば、合併症のリスクが大きくなります。尿酸値を下げるための治療をしなければ、腎障害を引き起こし最悪の場合命にかかわることも。
一度でも痛風を発症した方は、意識の片隅に尿酸値に対する危機感を持ち続けるようにしてください。
女性で尿酸値が高い方が気をつけたい生活習慣
では、どのような生活をすれば痛風を防ぐことができるのでしょうか?
尿酸値が高い方が気をつけるべき生活習慣を紹介します。
プリン体の摂取量を減らす
プリン体は動物の内臓(レバー)や干物、魚卵、ビールなどに多く含まれています。摂取したプリン体の全てが体内に尿酸として残るわけではありませんが、大量に摂取すれば尿酸値は上昇してしまいます。
食事の量を減らす
「プリン体を減らせばいいんだな!」と勘違いしてしまいそうですが、実は食事の量自体も重要な要因です。事実、痛風を発症している方の7割がメタボリックシンドロームであるといわれています。
全体的な食事の量を減らすことのメリットは、摂取カロリーを下げると同時にプリン体の摂取量も減らすこともできるという点。
そもそも、レバーや白子だけをたくさん食べるという人は少ないと思いますので「何がプリン体の多い食事なのかわからない」、という方はまず食事の量を少なくすることが手軽に始められておすすめの改善方法です。
尿酸値を下げる食品を積極的に食べる
尿酸値を上げる食品がある一方で、尿酸値を下げる食品もあります。
尿酸は尿から排泄されますが、その尿の酸性値がpH6.0以下の場合尿に尿酸が溶けにくく、排泄される尿酸の量が減少。
そのため、体内の血液・尿を酸性にしてくれる食品を摂取することによって尿酸値が低下する効果を期待できます。
具体的には
- 牛乳やヨーグルトなどの乳製品
- ブロッコリー・ピーマンなどのビタミンCを多く含む野菜
- じゃがいも・さつまいもなどの芋類
などを積極的に食べてください。
ただし、じゃがいもやさつまいもは炭水化物が多く太りやすいので、プラスアルファで食べるのではなく、食事を選ぶ際に上記のものが入っているものを選ぶようにしていただければと思います。
アルコールを飲み過ぎない
近年では「プリン体0」を謳うお酒も見かけますが、プリン体の少ないお酒であっても尿酸値を上昇させます。
腎臓は体内の尿酸を尿中に排泄する働きをしていますが、アルコールを飲んだ時、腎臓はアルコールの分解を最優先にするため体内の尿酸の排泄が少なくなり、結果的に体内の尿酸値が上昇。
これは体質がアルコールに強い弱いは関係ありません。
痛風が気になる方は、飲み会であっても3杯以内とし、おうちで晩酌は2杯以内。そして休肝日を週3~4日取ることを推奨します。
運動は軽強度(有酸素運動)で
痛風の予防のためには肥満解消が必要とお伝えしているように、食事だけでなく運動習慣も効果的です。
ただし注意が必要なのが、運動でも激しい運動は尿酸値を一時的に急上昇させてしまう点。尿酸値が気になる方はウォーキングなど軽い強度の有酸素運動がおすすめです。
「一駅手前で降りて歩いて帰る」「エレベーターを使わない」といった生活の中で取り込める運動を増やしていきましょう。
まとめ
ひと昔前では「尿酸値が高く痛風になるというのは男性」という考えが一般的でしたが現代では、若くても、女性でも痛風になることが増えてきています。
激しい痛風を発症している方は病院にいかれたほうがよいですが、まだ痛みが出ていないという方はまずはこの記事で紹介した生活習慣を参考にし尿酸値を下げるようにしてください。
参考文献
日本痛風・核酸代謝学会 高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインhttps://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001086/4/Clinical_Practice_Guidelines_of_Hyperuricemia_and_Gout.pdf
日本内科学会雑誌 痛風・高尿酸血症の病態と治療
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/107/3/107_458/_pdf
e-ヘルスネット|高尿酸血症の食事
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-003.html
痛風患者におけるタイプA行動パターンの検討
https://www.jstage.jst.go.jp/article/gnam1999/23/1/23_23/_pdf
New evidence that ‘gout’ strongly runs in the family
https://www.nottingham.ac.uk/news/pressreleases/2013/december/new-evidence-that-gout-strongly-runs-in-the-family.aspx
大正製薬 プリン体は避けるべき?尿酸値を下げる食べ物・飲み物
https://brand.taisho.co.jp/contents/livita/243/