- ザガーロは脱毛予防薬でプロペシアとの違いは血中滞在時間
- ザガーロが前頭部に効くというのはウソなので騙されないように
- 5αリダクターゼⅠ型はAGAには無関係なのでザガーロがリスク高と言われても仕方ない
- 結論として新薬ザガーロより旧薬プロペシアをおすすめ
製薬会社大手のグラクソスミスクライン社から数年前に発売が開始されたザガーロは、前評判が高く各AGA専門クリニックで大々的に推しているAGA治療薬(錠剤)です。
この記事を書く前に、ザガーロを飲んだ感想を当院に寄せていただきましたが、多くの方が同類の先発薬であるプロペシアに戻す決断をされています。
プロペシアに戻した理由は「値段の高さ」と「5αリダクターゼⅠ型を阻害することの影響が分からない」からです。
まずはザガーロを理解するために、「兄貴分」とも言える先発薬プロペシアについて説明していくために解説していきます。
この記事の執筆者

藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長
東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。
同類の薬「プロペシア」をさらっとおさらい

プロペシアは抜け毛予防を目的とした、日本で10数年前に認可が下りた経口薬(飲み薬)で、メルク社(米)が特許を持っています。
5αリダクターゼⅡ型というAGA(男性型脱毛症)の原因を作っている「酵素(こうそ)」を阻害する薬で、主たる効果効能は「薄毛の進行を止めること」。発毛ではなく薄毛予防ということです。
AGA治療といえば昔も今もプロペシアがベースで、AGA治療を行っている患者さんのほとんどがこの薬を服用。飲むのをやめると薄毛(AGA)が進行していくので、この薬だけは飲んでおいたほうがいいと思います。
なお、プロペシアは頭頂部への効果は認められていますが、肝心の前頭部にはあまり効果がありません。

20年以上プロペシアを飲んでいるそうですが、どうですか?やはり前頭部(M字)には効きませんか?

効いて欲しいですが、全然効かないですね。
ライバル製薬会社から「ザガーロ」が発売開始

解説いたします
日本国内でプロペシアが入手可能になった約10年後に、「ザガーロ」がライバル会社(グラクソスミスクライン社)から販売されることになります。
AGA(男性型脱毛症)の最大の原因であり、主に頭頂部付近に多く存在している5αリダクターゼⅡ型を阻害するという点は、新薬ザガーロも旧薬プロペシアも効能が共通しています。ザガーロがプロペシアより優れている点は、服用後の血中への滞在時間の長さです。
プロペシアは服用後1日半弱、ザガーロは約2日強、血中に残ります。両者を同時に飲んだと仮定した場合、24時間後の血中濃度を計測するとザガーロのほうがプロペシアよりも多くの成分が残り、薄毛予防効果も高くなります。
もう一つ。(プロペシアと違って)ザガーロは5αリダクターゼⅠ型「も」阻害します。ただし、5αリダクターゼⅠ型はAGAの原因酵素ではないので阻害しても薄毛は治りません。むしろ気になるのは、薄毛とは関係のない酵素を無意味に阻害することによる見えない副作用リスクです。
5αリダクターゼⅠ型はAGAとは関係ありません
5αリダクターゼⅠ型(正式名は5α還元酵素Ⅰ型)は、頭皮の皮脂腺(あぶらを出す腺)付近に多く存在します。AGAになると頭皮が脂ぎるのはこのためだと言われているものの、正確なことは医学的にも解明できていません。
そして、5αリダクターゼⅠ型は前頭部に集中して存在しています。
他の薄毛専門サイトや、AGA専門クリニック最大手の某クリニックの公式サイトを見てみると、Ⅰ型がさもAGAに関与しているかのような記載を見かけます。ところが海外の文献含めて全て調べても、Ⅰ型がAGAに関与しているという臨床データはありません。
小さなクリニックが患者を欲しいがために多少のウソを書くのは分からないでもありませんが、大手がこのようなことをするのはよくありません。

藤田先生のところではⅠ型をどう説明していますか?

「I型は頭皮を脂っぽくさせますが薄毛には直接関係ありません」と答えています。
Ⅰ型を阻害することのリスクが不明

解説いたします
大事なことなので言及させていただきますが、5αリダクターゼⅠ型もⅡ型も、必要だから体内に存在しているのです。
頭皮にある5αリダクターゼⅡ型は髪の毛の成長の邪魔をしてしまうため、やっつけないと薄毛は解消できません。それゆえⅡ型を阻害する薬であるプロペシアを飲むのは大切なこと。
ただしⅠ型はAGAには無関係で、関係ないものを理由なく阻害すると何かしらの副作用が出るはずです。どのような副作用が出るか分かっていない以上、当ブログとしてはザガーロを推奨するわけにはいきません。

ザガーロは海外で認可されているのでしょうか?

海外だと韓国だけですね。発売元のグラクソスミスクライン社があるイギリスでも認可されていません。
実際、ザガーロを飲んだから劇的に回復したという話は聞いたことがありません。ザガーロの薬効はあくまで「薄毛の予防」なので効果を体感しにくい薬なのです。
それなのに「ザガーロおすすめです」と平気で書いているウェブサイトやブログが多いこと。不自然ですよね。薄毛治療とは別の意図(お金儲け?)があってザガーロをすすめているとしか思えません。
ザガーロがM字(前頭部)に効果が高いというのは根拠のないデマ

解説いたします
ザガーロの特徴は、前述したように服用後の血中滞在時間が同類の薬プロペシアより「長い」ことです。
よって、プロペシアより脱毛予防効果が高いと言って良いと思いますが、以下の説明は明らかな間違いでありデマです。
- ザガーロは5αリダクターゼⅡ型に加えてⅠ型も阻害する
- Ⅰ型は前頭部に集中している
- よってザガーロはプロペシアより前頭部への薄毛予防効果が高い
5αリダクターゼⅠ型はM字部分の前頭部に多く存在していて、ザガーロが5αリダクターゼⅠ型を阻害することは事実。ただⅠ型はAGAには関係ないので、ザガーロを飲んだからといってM字対策にはならないのです。
残念ながらM字は一度後退してしまったら戻りません。プロペシアなどを飲んで多少回復することはありますが、前髪をかきあげるまで回復することは本当にまれです。
もしどうしてもM字をなんとかしたいのであれば、自毛植毛手術か貼るタイプの部分ウィッグを検討してみてください。
まとめ
ザガーロは新薬なうえに同類の薬であるプロペシアよりも利益率が高いので、各AGAクリニックで推しメンならぬ「推し薬」扱いされていることが多いです。
しかしここまで説明してきたように、高いお金を払ってまでプロペシアからザガーロに切り替える合理的な理由はありませんし、むしろ、体にとって必要な5αリダクターゼⅠ型を阻害してしまうので、よほどの理由がない限りザガーロではなくプロペシアを選択してください。
そしてプロペシアで効果が出てないと感じたら、成分濃度を0.5mgから1mgに上げて、それでもダメな場合のみザガーロを使用、というように「段階を踏んで」治療を進めてみましょう。

先生、こんな感じで締めて大丈夫ですしょうか。

大丈夫です。よく勉強していますね。おっしゃるとおり、プロペシアの一番濃度が低いものから服用を開始し、ザガーロはよほど強い希望がない限り私は処方をすることはありません。
以上