藤田 英理(ふじたえり)内科総合クリニック人形町 院長
東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。
実は明確に違う「発毛剤」と「育毛剤」
育毛とは気を育てることで、今ある毛髪をコシがある健康なものにするという意味合いがあります。対して発毛は髪の毛を生やすという意味合いになります。
商品としての発毛剤と育毛剤の違いは医薬品であるか、医薬部外品であるかの違いになります。
外用薬の場合、発毛剤は医薬品で髪の毛を生やす効果が実証された薬剤であるミノキシジルという成分が使われたものをさします。育毛剤は育毛促進の効果が認められているものの大きな規模の臨床試験がされているものは少ない医薬部外品になります。
医薬部外品である育毛剤に使われる成分にはどのようなものがある?
育毛剤に含まれる成分には以下のようなこうかがあります。
- 髪の毛を作る細胞毛母細胞を活性化させる
- 頭皮の環境を整える成分
- 脱毛を予防する成分
- 保湿成分
それぞれについて見ていきましょう
髪の毛を作る細胞毛母細胞を活性化させる
まず毛母細胞の活性化について。毛母細胞が髪の毛を作るためには血管を通ってきた血液から栄養や酸素を受け取る必要があります。そのため結構を促進したり、毛母細胞にとって栄養となる成分を配合することで育毛効果を発揮するのです。
センブリエキスやニンジンエキス、ペンタデカン酸グリセリド、アデノシンなどがこのカテゴリーに該当します。
頭皮の環境を整える成分
次に頭皮環境を改善する成分を見ていきましょう
頭皮は毛髪がたくさん生えている場所です。そのため汗や埃、ゴミなどが溜まりやすくなっています。不潔な状態にしていると皮脂などを栄養として菌が繁殖してしまったり、炎症が起きて頭皮の環境が悪化してしまいます。この頭皮の環境を改善するためには細菌が繁殖しないようにしたり、炎症をおさえる効果のある成分を使用します。
抗炎症作用と殺菌作用のあるクジンエキス、抗炎症作用のあるグリチルリチン酸ジカリウム、殺菌作用のあるイソプロピルメチルフェノールなどがあります。
脱毛を予防する成分
脱毛の原因としてDHT(ジヒドロテストステロン)と呼ばれる男性ホルモンがあります。
このホルモンは毛母細胞に対して働きを抑える作用を持ち、毛髪の成長サイクルをみだし、それによって成長期が短くなり髪が細く、伸びにくく、抜けやすくなります。医薬部外品の育毛剤に配合されている成分としては、T―フラバノン、エチニルエストラジオールなどがあります。
保湿成分
頭皮が乾燥するとふけの原因になります。頭皮の環境が悪化することにもつながるので、乾燥肌の人は保湿成分が使われているものを検討するのが良いでしょう
このように育毛剤には様々な効果のある成分があります。
とりあえず高いのを買えば安心というわけではなく、自分がいまどのような問題で悩んでいるのか考えてその悩みに対して有効な育毛剤を選ぶのが育毛剤選びの第一歩です。
ただ、薄毛の悩みが深刻な人は育毛剤では力不足であることは否めません。そのような場合には医師に相談して医薬品である発毛剤を使用する方が良いでしょう。
育毛剤の使用をお勧めする人
「いまは特に抜け毛がひどいわけではない」もしくは「最近少し気になり始めた程度の方でそろそろ脱毛対策を始めておきたい」というような人が、育毛剤の使用をお勧めする人に当てはまるでしょう。
しかし、「長年の脱毛に悩んでいる」「若年性の薄毛になって悩んでいる」「なんとかして毛髪を生やしたい」「確実な効果が望めるものがいい」など、抜け毛や薄毛に深く悩んでいる人は、AGAや各種脱毛症の知識を持った医師に相談して医薬品の使用について検討した方が良いと思われます。
薄毛に対して使用される医薬品を解説
髪の毛が抜けてしまう脱毛症に対して医師が処方する薬剤について、その有効性や推奨度は日本皮膚科学会が発表しています。
これは様々な治療や検査について推奨度の分類を示しているものです。推奨度が高い順にご紹介します。
- A(行うように強く勧める)
- B(行うように勧める)
- C1(行っても良い)
- C2(行わない方がよい)
- D(行わない方が良い)
上記のようにランクづけされています。
このガイドラインで推奨度Aとなっているのは、外用薬ではミノキシジル(男女とも推奨度A)のみとなっています。
また内服の育毛剤もあり、男性ではデュタステリドとフィナステリドが推奨度Aとなっています。(女性ではともにDになることも)
ミノキシジルが配合された外用タイプの育毛剤はドラッグストアなどで購入することができますが、飲み薬は医師の処方が必要になります。
塗り薬の発毛成分ミノキシジルの効果について
まずは塗り薬の発毛成分ミノキシジルについて見ていきましょう。
ミノキシジルは髪を生やす毛母細胞の分裂を促すことで発毛を促進しています。ガイドラインに紹介されている論文はたくさんあるのですが、そのうちの一つについてご紹介します。
フォーム(泡)タイプのミノキシジルを使って352人の男性被験者を対象にした臨床実験がおこなわれています。この試験ではミノキシジルを使用する群とプラセボ(偽薬)を使う群の2群に被験者を振り分けてから16週間観察を行いました。効果の判定は脱毛部1㎠内の総毛髪数の変化です。この試験の結果プラセボ群での毛髪数の増加が4.7本であったのに比較して、ミノキシジル群では20.9本と有意に増加したということがわかりました。
また最近ミノキシジルは塗るよりも内服する方が発毛効果が高いという報告も多く出ていて、内服薬としても今後承認されていく可能性があります。ただし今のところは厳密なエビデンスは出ていませんので、医師と相談しながら使用することをお勧めします。
このようにガイドラインでは世の中にたくさん出版されている論文の中から参加している被験者が多く、質の高い論文を集めてそれらの結果を統合して、科学的に効果があるかないかを判定して推奨度を決めています。その結果として推奨できるものがガイドラインで高い推奨度となるのです。
医師は治療を行うときにこのエビデンスに基づいた治療を行うのが現代では絶対条件になっています。薄毛治療でもエビデンスを重視して治療にあたっているんですよ。
デュタステリド・フィナステリドについて
脱毛に関連するホルモンであるDHT(ジヒドロテストステロン)は男性ホルモンであるテストステロンに5αレダクターゼという酵素が作用してつくられます。この5αレダクターゼを阻害するのがデュタステリド・フィナステリドです。つまり男性ホルモンに作用して効果を発揮するものなので女性に対しては効果的ではありません。男性に対しては非常に良好な効果が報告されていて、ガイドラインでの推奨度もAとなっています。
現在のガイドラインに則ると脱毛に対する効果的な治療は発毛剤であるミノキシジルとデュタステリド・フィナステリドをく組み合わせた治療になります。
注意点としてこれらの薬剤は使い方を誤ると副作用などが出ることがあります。それに気づかずに使い続けると体に悪影響が及ぶ可能性があります。また海外からの薬剤の輸入は偽物の薬剤が届く可能性もあります。薬剤の海外輸入によって健康被害を被る場合もあります。必ず医師の診察を受けて相談してから処方を受けるようにしてください。
まとめ
今回は世の中に多数存在する発毛剤や育毛剤について、その違いや、選び方について解説をしていきました。脱毛に悩む方には発毛剤を使用することをおすすめします。
たくさんの育毛剤や発毛剤をみてどれを選んだらいいかわからない、という方や、脱毛に悩んでいて確実に効果のある治療を受けたいと強く思っている方は医師の診察を受けて医学的に効果を証明された発毛剤で治療を受けることを強くお勧めします。
早めに相談するとその分効果も上がりますのでぜひ医師に相談して見てください。