- 頭頂部のはげの原因
- AGA治療の実際
- 市販の育毛剤と医師が処方する発毛剤の違い
「気付いたら頭のてっぺんの髪の毛が薄くなったような気がする・・・」
そんな悩みを持つ人も多いのではないでしょうか。
少し前なら、はげるのは仕方がない。と諦めるしかなかったのですが、現在は頭頂部がはげてしまう原因もわかってきており、それに対する対策や治療もある程度わかっています。
今回は頭頂部がはげてしまう原因について解説していきたいと思います。
藤田 英理(ふじたえり)内科総合クリニック人形町 院長
東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。
頭頂部のはげの原因
頭頂部のはげの原因① 生活習慣
健康に悪い生活習慣はダイレクトに髪の毛の質に影響を与えます。
例えばLDLコレステロール(悪玉コレステロール)が高かったり、糖尿病があったり、肥満であったりすると動脈硬化で全身の血流が悪化します。これにより、当然頭皮への血流も低下してしまいます。血液には酸素や栄養を運ぶという役割がありますので、逃避の毛母細胞にも栄養や酸素が行かなり、髪の毛を作ることができなくなってしまいます。
また睡眠不足が続いたりストレスを感じやすい状況に身を置くのも毛髪の質に悪影響を与えます。人間には自律神経という神経があります。これには交感神経と副交感神経があります。
交感神経は生き物が危険を感じた際に逃げたり戦ったりするときに優位になる神経です。危険な目にあったときに心拍数を上げて、血管を収縮させて血圧を上げてその場をなんとか逃げたり戦ったりするための神経です。逆に副交感神経はリラックスした時に優位になる神経で、交感神経とは逆の働きをします。
ストレスがかかると交感神経優位になり、これも頭皮への血流低下の原因になります。
ストレス環境下ではホルモンバランスも崩れてしまい、体調の悪化を引き起こしそれも毛髪に悪影響です。
食事を適度にとり、運動などを生活に取り入れ、睡眠時間をできるだけ確保する。健康な生活習慣の基本ですが髪の毛の健康にも大切なのです。
頭頂部がはげる原因② 喫煙・過度の飲酒
タバコの煙には一酸化炭素が含まれていて、血中の酸素が奪われます。そのため体をめぐる酸素が減少し、毛母細胞への酸素の供給が低下します。また血管を形作る血管内皮細胞の機能を低下させてしまいます。喫煙をしている人の内皮細胞機能は明らかに下がっていて、禁煙で改善することが報告されています。(循環器専門医第24巻第 2 号 2016年 8 月 )喫煙は血管にダメージを与えたり、体の酸素を奪うため毛髪に悪影響なのです。
飲酒については適度であればハゲにつながるとも言い切れないのですが過度の飲酒では問題になります。過度の飲酒をすると肝臓に負担がかかります。肝臓の機能が低下していると健康な髪の毛を育てるのに重要な成分である亜鉛の吸収が低下することが知られています。
この亜鉛の欠乏は皮膚炎や脱毛症を引き起こす原因になります。(亜鉛欠乏の診療指針2018)頭頂部の脱毛を防ぐためには禁煙と節酒が重要なのです。
頭頂部がはげる原因③ 頭皮の環境の悪化
毛髪は頭皮に生えているものですので、当然頭皮の環境が重要になります。
整髪料などのつけすぎや、整髪料をつけて遅くまで仕事をして寝落ちした・・というような状況は毛髪に悪い影響を与えますので、遅く帰ってきて眠たいと言う場合でもシャンプーはする方が毛髪には良いでしょう。
ただし、シャンプーは洗浄力が強いので、念入りに洗いすぎると刺激が強くなってむしろ頭皮環境に良くない場合もあります。特に薄毛が気になる方は刺激の少ないものを使用するなどして適切な頭皮環境を保つようにしましょう。
頭頂部がはげる原因④男性型脱毛症
頭頂部の薄毛の原因として主要な原因となっているものの一つに男性型脱毛症(AGA)があります。
これは体内にある男性ホルモンである「テストステロン」が関係しています。テストステロン自体は体に必要なホルモンで、脱毛に関係しているわけではなく、筋肉量や強度を保つのに必要な大事なホルモンです。
しかしこのテストステロンに「5αレダクターゼ」という酵素が作用することで「ジヒドロテストステロン」に変化します。このジヒドロテストステロンは髪の毛を作る毛母細胞に働きかけて髪の毛の成長期を止めてしまいます。成長期が止まった髪の毛は太さやコシが足りなくなり、抜けやすくなってしまうのです。
AGAになるかどうかは5αレダクターぜの活性がどれくらい強いか、またジヒドロテストステロンを受け取る受容体がどのくらいあるかによって決まります。5αレダクターぜの活性を決める遺伝子を受け継ぐとAGAになりやすいためAGAには遺伝的な要素があるのです(順天堂医学 37(4), 572-586, 1992)遺伝的な要素と、生活習慣や頭皮環境などの環境因子が組み合わさって、はげるか否かが決まってくるのです。
薄毛は医師と相談して治す時代へ。AGA治療の実際
AGAは遺伝的な要素が大きいのですが、治療方法が確立されています。実際に多くの人に実施して効果が実証されたものを集めて記載したガイドラインもあります。
薄毛治療に限らず医療の世界では、臨床研究などで効果が実証された根拠のある治療を行うことが重視されています。(この根拠のことをエビデンスと呼びます)
薄毛には民間療法もたくさんあり、全てが無効とはもちろん言えないのですが、エビデンス基づいたものは少なく、お金や時間をかけても効果がないという事例があることも残念ながら事実です。薄毛に悩む方はぜひ医師に相談し、エビデンスに基づいた薄毛治療を受けることをお勧めします。
ガイドラインの中身を少し紹介します。AGAに関するガイドラインは日本皮膚科学会により「男性型および女性型脱毛症診療ガイドライン」として発表されています。
AGAの治療として最も高い推奨度であるAとなっているものは、飲み薬であるフィナステリド・デュタステリド、塗り薬であるミノキシジルがあります。
フィナステリド・デュタステリドは5αレダクターゼの働きを阻害する作用があり、テストステロンがジヒドロテストステロンに変化するのを防ぎます。またミノキシジルは毛包に直接作用することでタンパク質の合成と細胞の増殖を促して発毛作用を表します。
どちらの治療もAGAが起こる理由に合わせてしっかりと作用のわかった治療を行っており高い効果を見込むことができます。
市販の育毛剤と医師が処方する発毛剤の違いは?
市販の育毛剤はすでにある毛髪をしっかりとしたものにするものです。髪がない状況から映えさせるというものではないため進行したAGAには発毛剤を使用しないと効果が見込めません。
育毛剤と発毛剤は明確に違いがあり、発毛剤は医薬品として認められているものに用いられる名称となっています。医薬品ですので作用が強いのですが、その分副作用が出現する可能性もあります。医師に相談しながら副作用などが出現しないか確認しながら使用していくことが重要です。
まとめ
今回は頭頂部がはげてしまう原因について解説していきました。
頭頂部がはげる原因として生活習慣や頭皮の環境など環境因子と、5αレダクターゼやその受容体の活性といった遺伝因子が存在します。環境因子を改善しても効果がない薄毛はAGAである可能性があり、治療により薄毛の改善が期待できます。薄毛は命に関わることはありませんが、コンプレックスや悩みの元になり、長期間悩む人も少なくありません。
早期に治療を開始する方が効果を期待できますので。ひとりで悩むのではなく医師に相談してしっかりとしたエビデンスのある治療を受けることをお勧めします。