「痛風」という病気をご存じでしょうか?
文字どおり「風が吹いても痛い!」というほど激痛を感じる関節の炎症で、尿酸値が高くなることが原因で起こり、尿酸値が高い(高尿酸血症といいます)と、腎不全や心筋梗塞などの心臓病を起こしやすくなります。
尿酸は、プリン体が新陳代謝に使われたときにできる老廃物です。プリン体は細胞の核酸に含まれていますが、ビールや肉などの食事にも含まれています。
高尿酸血症は、原因が明らかでない原発性高尿酸血症と、腎不全などの病気や薬の副作用が原因で二次的に起こる二次性高尿酸血症とがあります。
二次性高尿酸血症は、原因によって対処法が異なることもあり、持病や内服薬の情報が重要になってきます。今回は、二次性高尿酸血症について考えていきましょう。
この記事の執筆者
藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長
東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。
「尿酸値が高い」と指摘されたけれど、通院の時間がない、面倒で続かない方に
基礎疾患などがあるために発症してしまう高尿酸血症「二次性高尿酸血症」
二次性高尿酸血症は、病気や薬の副作用が原因で尿酸値が7.0mg/dlを超えた状態のこと 。
尿酸値が7.0mg/dlを超えるものを高尿酸血症と定義します1) 。
尿酸値が高くなると、血液に溶けきれなくなった尿酸が結晶(尿酸塩)として析出するように。この結晶が析出しはじめる尿酸値が7.0mg/dlであると言われています。
尿酸はつくられた分と同じ量だけ排泄されることによって、体内で一定の量に維持。尿酸が過剰につくられること(産生過剰)、または、排泄がうまくいかないこと(排泄低下)が原因で、尿酸を一定量に維持する働きが悪くなると高尿酸血症になります。
高尿酸血症はいつでも痛風を起こしうる
高尿酸血症が原因で起こる代表的な病気は痛風です。
痛風は関節の中に溶けきれなくなった尿酸塩がたまり、その一部が剥がれ落ちた時に発生します。
主に、20歳代以上の男性にみられますが、足の親指が赤く腫れて歩けないほどの激痛が。放置していても痛みは軽快しますが、発作を繰り返すと、徐々に状態が悪くなり、稀に骨破壊にまでいたります。
痛風発作それ自体が寿命を縮めることはありませんが、高尿酸血症は慢性腎不全、尿路結石、高血圧・心血管病、メタボリックシンドローム、総死亡リスクとの関連も報告1)-5)されており、長期間放置すると重篤な状態をもたらす可能性も。
高尿酸血症の分類
高尿酸血症には、明確な原因が認められない原発性高尿酸血症と、他の病気が原因で起こる二次性高尿酸血症とがあります。
さらに、尿酸値が上がる理由によって3つに分類。
- 尿酸が過剰につくられる尿酸産生過剰型(厳密には腎負荷型といいます)
- 尿酸の排泄が低下する尿酸排泄低下型
- 両方の要素をもった混合型
です。
尿酸が異常に増えすぎる「尿酸産生過剰型二次性高尿酸血症」
尿酸が過剰につくられると、排泄が追い付かずに高尿酸血症になります。これが尿酸産生過剰(腎負荷)型二次性高尿酸血症です。
過剰につくられる原因は数多くありますが、以下に代表的な原因を3つ挙げます。
- 腫瘍崩壊症候群
白血病や乳がんなどの悪性腫瘍を抗がん剤で治療するときにおこります。がん(悪性腫瘍)は、腫瘍細胞が勝手にどんどん増えていく病気ですが、増えるスピードが速い腫瘍ほど、抗がん剤による攻撃を受けたときに大量の細胞が崩壊。プリン体は細胞の核酸に含まれているため、細胞が崩壊すると血液中に放出されます。
- 高プリン体食
高プリン体食を過剰摂取すれば尿酸値が高くなります。プリン体は、肉類、魚類、ウニカニ味噌、レバー、白子、大豆、ビールなどに豊富に。これらがぜいたく品だった時代には、痛風はめったにみられないと言われましたが、日常的に食べることができるようになった現代ではありふれた原因となっています。
- Lesch-Nyhan症候群
プリン体を再利用するためのヒポキサンチンーグアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HGPRT)という酵素が、生まれつき無いことによって起こる遺伝性の病気で、高尿酸血症や精神遅滞、唇をかむなどの自傷行為が主な症状です。
尿酸をうまく代謝できない「尿酸排泄低下型二次性高尿酸血症」
尿酸の排泄が減ることによっておこる高尿酸血症は、尿酸排泄低下型二次性高尿酸血症と呼ばれます。
尿酸は主に腎臓から尿中へ排泄されているので、排泄低下のほとんどは腎臓を介して起こります。
以下に代表的な三つの原因は、
- 慢性腎不全
数か月から数年かけて、徐々に腎臓の働きが悪くなってしまった状態のことを慢性腎不全といいます。腎臓の働きが悪化しているので、尿酸を排出する能力が低下し、排泄しきれなかった尿酸が体内に溜まります。
- 脱水
脱水により体内を流れる血液の量が減ると、腎臓に流れる血液量も低下。腎臓を流れる血液量が低下すると、一時的に腎臓の働きが悪くなり、尿酸を排泄しにくくなります。
- 薬剤性
尿酸の排泄を低下させる薬のなかで、最も一般的なものはサイアザイドやフロセミドという利尿薬です。尿がたくさん出ると脱水をおこし、尿酸の排泄が低下することが一因と考えられています。解熱・鎮痛薬のサリチル酸や抗結核薬のピラジナミド、免疫抑制薬のシクロスポリンなども尿酸の排泄低下を起こします。
どうにもこうにも尿酸を処理できない「混合型二次性高尿酸血症」
混合型は、産生過剰型と排泄低下型の2つのメカニズムをあわせ持ち、起きる高尿酸血症です。以下に代表的な3つの原因を挙げます。
- 飲酒
アルコールの代謝過程で尿酸が産生される事に加え、アルコール自体に含まれるプリン体の摂取によって尿酸値が上がります(産生過剰)。アルコールは糖代謝を抑制することによって乳酸の産生を増加させますが、乳酸は尿酸の排泄を妨げます(排泄低下)。
- 肥満
肥満になると、血糖値を下げるホルモンであるインスリンが効きにくくなります(インスリン抵抗性)。インスリン抵抗性があると、尿酸の排泄が邪魔され排泄量が減少します(排泄低下)6)。また、過食による肝臓での脂肪合成が原因で尿酸の産生が増加します(産生過剰)7)
- 過度の運動
マラソンなどの激しい運動により、骨格筋が破壊されると筋細胞からプリン体が放出され高尿酸血症(産生過剰)になります。また、脱水や運動によって生じる乳酸が尿酸の排泄を阻害します(排泄低下)。
二次性高尿酸血症の治療は、尿酸値の管理と基礎疾患の治療を一緒に行います
二次性として、高尿酸血症の原因がはっきりしている場合、まずは原因を取り除く治療を行います。
原因疾患の治療、原因薬物の中止、原因の除去などを。
一般的な高尿酸血症の治療
痛風はとても痛いので、痛風がある場合はすぐに薬で治療します。急性の関節炎に対しては、非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)やステロイドを使用。
関節炎発作に対しては、NSAIDs、ステロイド、コルヒチンを使用しますが、どれが一番よいかは決まっていません。
関節炎が消失したら、一定の期間をおいて尿酸を下げる薬を使用します。関節炎の再発予防として、尿酸値は6.0mg/dl以下を目標に。
症状がなくても、尿酸値9.0mg/dl以上が持続する場合は、尿酸を下げる薬を使用します。7.1~8.9mg/dlの尿酸値をみたときは、背景にメタボリックシンドロームに関連する高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満の合併がないかを調べ、あればその治療を。
腫瘍崩壊症候群の予防・治療
悪性腫瘍は種類によって増える速度が違い、腫瘍崩壊症候群を起こす可能性も異なります。腫瘍崩壊を起こすリスクに応じて、薬などを使い分け。
点滴などで水分を補うこと(補液)はリスクにかかわらず基本的な対策であり、それに加えて尿酸を下げる薬をリスクに応じて使い分けます。
リスクがそれほど高くない時には、尿酸の産生を抑えるアロプリノール、フェブキソスタットを投与します。リスクが高い時や、すでに腫瘍崩壊を起こしてしまった場合には、尿酸を分解することにより、強力に尿酸値を下げるラスブリカーゼを使用します。
薬剤性高尿酸血症の治療
適切な水分補給と定期的な尿酸値のチェックを行います。症状がなければ治療は不要のことが多いですが、痛風がある場合には尿酸値を下げる薬を検討します。
高尿酸血症を考慮した生活習慣を心がけよう
高尿酸血症の予防と治療には、生活指導、つまり、食事療法と運動を中心とした生活習慣の改善が有効です。
4つの注意点を挙げます。
- 食事療法
肥満の解消により尿酸値を下げることができるので、まずは、食事療法として摂取カロリーを適切な範囲に抑えることが重要です。また、プリン体を摂り過ぎないように注意します。鶏レバー、干物(マイワシ)、白子、あんこう、太刀魚、健康食品(ビール酵母、クロレラ、ローヤルゼリーなど)などがプリン体を多く含む食品です。
2. 飲酒制限
飲酒による尿酸値の上昇には、アルコールだけでなく、お酒に含まれているプリン体も関係しています。したがって、アルコール飲料の中でプリン体を多く含むビールは最も痛風のリスクが高いです8)。ビールよりは蒸留酒やワインを飲んだ方がよいでしょう。
それぞれのお酒の1日あたりの目安量は日本酒1合、ビールは350-500ml、ウイスキー60ml、ワイン150ml程度とされています。
3. 尿酸代謝に影響する食べ物
果糖や人工甘味料は尿酸値を上昇させると報告されています9)。果糖や人工甘味料を多く含むジュースの飲み過ぎはやめましょう。
果物、野菜、ナッツ、低脂肪乳製品、全粒穀類、および豆類を多く摂り、食塩、人工甘味料および肉類摂取を減らした食生活では尿酸値が低下し、西欧食よりも痛風のリスクが低下すると報告10)されています。
4. 運動
激しい運動は尿酸値を逆に上げる可能性があるので、脈が少し早くなる程度の有酸素運動がおすすめです。具体的には歩行、ジョギング、サイクリング、社交ダンスなどを少なくとも1日10分以上、できれば30~60分程度行うことが適しています。また運動は継続することも重要ですので、週に最低2日、できれば3-4日行いましょう。
まとめ
食生活の欧米化や肥満の増加により、痛風・高尿酸血症はとても身近な病気になっています。
痛風はとても痛い病気であり、生活の質(QOL)を低下。また、症状がなくても、高尿酸血症は将来的に腎不全や心筋梗塞などの心臓病を起こす可能性を高くします。
ただし、二次性高尿酸血症の多くは生活習慣と関係が深く、自身の努力で予防可能です。また、治療の際には速やかな原因の特定が大事ですので、普段から自身の病気や常用薬について理解しておきましょう。
参考文献
1. 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 .2019年
2. Iseki K, et al.: Significance of hyperuricemia as a risk factor for developing ESRD in a screened cohort. Am J Kidney Dis 44(4):642-650, 2004
3. Wang J, et al.: Hyperuricemia and risk of incident hypertension: a systemic review and meta-analysis of observational studies. PLos One 9(12):e114259, 2014. doi: 10.1371/journal.pone.0114259.eCollection 2014.
4. Yuan H, et al.: Serum uric acid levels and risk of metabolic syndrome: A dose-response meta-analysis of prospective studies. J Clin Endocrinol Metab 100(11):4198-4207, 2015. doi: 10.1210/jc.2015-2527.Epub 2015 Aug 26.
5. Chen JH, et al.: Serum uric acid level as an independent risk factor for all-cause, cardiovascular, and ischemic stroke mortality: a Chenese cohort study. Arthritis Rheum 61(2):225-232, 2009. doi: 10.1002/art.24164.
6. Facchini F, et al.: Relationship between resistance to insulin-mediated glucose uptake, urinary uric acid clearance, and plasma uric acid concentration. JAMA 266(21):3008-3011, 1991.
7. 市田公美. 高尿酸血症とメタボリックシンドローム. 日薬理誌 136(6):321-324, 2010. https://doi.org/10.1254/fpj.136.321
8. Choi HK, et al.: Alcohol intake and risk of incident gout in men: a prospective study. Lancet 363(9417):1277-1281, 2004. doi: 10.1016/S0140-6736(04)16000-5.
9. Yamamoto T, et al.: Effects of fructose and xylitol on the urinary excretion of adenosine, uridine, and purine base. Metabolism 48(4):520-524, 1999. doi: 10.1016/s0026-0495(99)90114-2.
10. Rai SK, et al.:The Dietary Approaches to Stop Hypertension (DASH) diet, Western diet,and risk of gout in men:prospective cohort study. BMJ 2017 May 9;357:j1794. doi: 10.1136/bmj.j1794.