遺伝する糖尿病?若年発症成人型糖尿病(MODY)ついて徹底解説

遺伝子

糖尿病と診断されている方の中に、「そんなに生活習慣が悪いわけではないのに、なぜ私が糖尿病になってしまったの?」と不思議に思われている方もいるでしょう。

そんな方々の中に、遺伝性の糖尿病である「若年発症成人型糖尿病(MODY: Maturity Onset Diabetes of the Young)」が含まれています。

特に、血の繋がった家族に糖尿病の方がいて、若年(25歳未満)で発症し、肥満がない方はMODYの可能性があるので、詳しい検査を受ける必要があります。

このページでは、MODY(若年発症先人型糖尿病)について詳しく解説していきます。この記事を読んで、「私はMODYかもしれない。」と思われた場合には、専門の医療機関を受診して相談してみることをおすすめします。

この記事の執筆者

内科総合クリニック人形町 院長 藤田 英理(総合内科専門医)

藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長

東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。

所属:日本内科学会日本動脈硬化学会日本頭痛学会

医師略歴・プロフィールはこちら

目次

そもそも、糖尿病とは

院長 藤田

糖尿病は、インスリン(血糖値を下げるホルモン)分泌の不足や、インスリンに対して抵抗性(インスリンは分泌されているが、うまく機能していない状態)が生じてしまうことで、血液中のブドウ糖濃度が高くなってしまう疾患です。

調査では、全国で約950万人が糖尿病もしくは糖尿病予備軍と言われており、国民の10〜12人に1人に関係する生活習慣病1)

糖尿病にはいくつかのタイプがあり、代表的なものは、2型糖尿病と呼ばれるタイプです。糖尿病の中で圧倒的に頻度が高く、2型糖尿病の原因には、過食、運動不足、肥満、ストレスといった生活習慣的な要因が関係しています。

糖尿病と診断されても、初期症状はありません。しかし、糖尿病を放置すると、数年から十数年後に、さまざまな合併症が起こってしまいます。

糖尿病の合併症
  • 糖尿病性神経障害
  • 糖尿病性網膜症
  • 糖尿病性腎症
  • 動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中

3大合併症と呼ばれる糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症に加え、動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中などです。だからこそ、糖尿病の治療を行い、血糖値をコントロールする必要があります。

糖尿病治療の基本は食事療法と運動療法であり、糖尿病と診断された方の中には、医師から生活習慣を改善するよう指導されている方もいらっしゃるでしょう。生活習慣を改めることで、血糖値が正常化されることも多いのです。

しかし、生活習慣の改善で血糖値が改善しない場合は、薬物療法やインスリン治療を行うことに。最近はたくさんの良い薬があり、適切に治療を行えば、ほとんどの方は血糖値が正常化し、糖尿病とうまく付き合えます。

インスリン

一方、若年発症成人型糖尿病(MODY)は、2型糖尿病と発症の原因や治療が異なるので、MODYの診断を受けた場合、インスリン治療を受けていた方が、飲み薬だけで糖尿病がうまくコントロールできるようになることも

糖尿病の遺伝に関してですが、一般的によく知られている2型糖尿病は、遺伝病ではありません。しかし、家族が糖尿病の場合には、発症率が高くなることが知られています。

これは、遺伝子異常がなくとも、体質や習慣が引き継がれること、生活習慣など環境的な要因が2型糖尿病発症に深く関係していることによるものです。血縁者に糖尿病が多かったとしても、MODYではなく2型糖尿病である可能性も十分にあります。

若年発症成人型糖尿病(MODY)は、遺伝が関与する糖尿病

院長 藤田

MODYは、肥満ではない若年者が発症する、遺伝子の異常を原因とした糖尿病です。

日本で最も一般的な2型糖尿病と異なり、生活習慣が原因で発症する病気ではありません2)

MODYの基準
  • 若年発症(25歳未満)
  • 肥満を伴わない
  • 血のつながった方に糖尿病の既往
  • 膵島関連自己抗体が陰性

MODYは、膵臓からうまくインスリンが分泌されないことが原因で、血糖値が高くなります。2型糖尿病でみられるインスリン抵抗性(インスリンは分泌されているが、うまく機能していない状態)はみられません。

この病気は、糖尿病の方の1〜3%程度の頻度と考えられています4)

MODYの患者さんの中には、2型糖尿病と診断されている方も少なからずいるはずです。また、若くして発症し、肥満を伴わず、インスリンの分泌低下を認めることから、1型糖尿病と間違って診断され治療されていることもあります。

1型糖尿病として50年以上治療されていた方の遺伝子のうち、27.5%がMODYの遺伝子を持っていたとの報告もあるほどです3)

MODYは、これまであまり認知されていなかった疾患。そのために誤った診断を受け、適切な治療がなされていない例も少なくありません。

糖尿病

若年発症成人型糖尿病(MODY)の原因

MODYは、インスリンの合成や分泌に関する「遺伝子」や、「転写因子」(ヒトDNAに特異的に結合するタンパク質)の異常によって発症します。遺伝子異常のため、インスリン分泌機能が低下することで起こります。「糖尿病」という言葉が含まれていますが、遺伝子異常が発症の原因であり、生活習慣が原因ではありません。

院長 藤田

常染色体優性遺伝という形式で遺伝するため、両親のうちのどちらか一方がMODYの遺伝子を持っていれば、2分の1の確率で子供に遺伝する可能性があります。

原因となる遺伝子は、現在までに十数種類が報告されていますが、原因遺伝子が不明な場合も。

MODYにはいくつかのタイプがあります。それぞれ番号がつけられており、MODY1、MODY2、MODY3、MODY5という種類の頻度が高く、MODYの多くを占め、それ以外のMODYの発症頻度は、極めて低いです。

欧米では、MODY2とMODY3が多く、日本ではMODY3の頻度が高いと考えられていましたが、最近の報告ではMODY2も頻度として高いことがわかってきています5)

若年発症成人型糖尿病(MODY)の症状は、他のタイプの糖尿病と同じ

MODYの症状は、よく知られている2型糖尿病とほとんど同じで、初期には通常症状はありません。

高血糖が著明になると、口渇、多飲、多尿、体重減少といった症状が出現することも。放置していると、2型糖尿病と同じように、3大合併症と呼ばれる糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症に加え、動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中を引き起こします。

その他、学校の検尿で尿糖を指摘されて見つかることが。

MODYには、前述のようにいくつかのタイプがあります。タイプごとに出現しやすい症状に特徴があります。

院長 藤田

日本で頻度が高いとされているMODY3とMODY2について、特徴的な症状を記載しておきましょう6)

<MODY3>
尿糖が陽性になりやすく、糖尿病性神経障害、糖尿病性網膜症、糖尿病性腎症に加え、動脈硬化による心筋梗塞や脳卒中などの合併症を併発する頻度が高いと言われています。

<MODY2>
血糖値に比べてインスリンが分泌される閾値(いきち)が高いことが特徴です。そのため、空腹時の血糖値の上昇はみられますが、食後の血糖値や血糖負荷試験の血糖値ではそれほど高血糖を認めないことがあります。無症状のため学校検尿、糖尿病検診や偶然の検査で発見される頻度が高いです。

若年発症成人型糖尿病(MODY)の治療方法

原因となる遺伝子によって、治療方法も変わりますが、スルホニル尿素薬(膵臓の組織に働きかけて、分泌を促進する薬)が著効することが知られています。

インスリンを使用していた患者さんが、スルホニル尿素薬を使用することでインスリンが不要になった例も6)

スルホニル尿素薬
引用元:科学技術振興機構

MODYのタイプ別に症状が異なるように、治療についても反応性の違いが知られています。日本で頻度が高いとされているMODY3とMODY2の治療については、以下の通りです6)

<MODY3>
もっとも適切な薬はスルホニル尿素薬とされています。治療せず高血糖が放置されると、しだいにインスリンの分泌能が低下し、インスリン治療が必要になることも。早期に発見して治療を受けることが重要です。

<MODY2 >
一部の患者さんでは、高血糖が軽度のため、治療を必要としないこともあります。また、食事療法・運動療法で治療され、薬物治療を必要としないことも。正しく診断されていないために、必要のない糖尿病治療を継続されていることがあります。

遺伝性の疾患で考える必要のあること

MODYは、常染色体優性遺伝という形式で遺伝します。したがって、両親のうち一人がMODYであれば、その子供は2分の1の確率でMODYを発症する事になります。

医学が進歩し、MODYなどの遺伝病は遺伝子検査によって確定診断をすることができるようになりました。これまでの血液検査などと比べると、圧倒的に優れた診断能力があります。

一方で、遺伝子情報は、個人のプライバシーにも関係し、取り扱うには十分に注意が必要です。遺伝子異常がわかっていることで、保険に加入しづらくなったり、就職に不利となることで社会問題にもなっています。

遺伝子は一生変化することがないため、病気の発症とは無関係に検査を行うことが可能です。

遺伝子検査したことで、現在は発症していない病気についてわかってしまったり、他の血縁者の遺伝子異常や病気も明らかになる可能性があるため、検査する場合にはその点も理解しておく必要があります。

すべての人には、「知る権利」の他に、「知りたくない権利」も存在し、本人だけでなく家族がどこまで知りたいか、という点については一人ひとりがよく考えなくてはいけません。

院長 藤田

遺伝病に関連するこのような心理社会的な問題について、医師や医療スタッフとよく相談し、不安や心配事を解決しながら治療にあたれると良いでしょう。

まとめ

遺伝する糖尿病MODYについて解説してきました。MODYは、未だ情報が少なく、誤って診断されていることも少なくない遺伝性の糖尿病です。

その症状は、よく知られている2型糖尿病とほとんど同じですが、MODYのタイプにより、特徴があります。治療に関しては、スルホニル尿素薬が著効する特徴があります。この記事を読んでMODYかもしれないと思ったら、是非かかりつけの医師へ相談してみてください。

参考文献

1. 日本内分泌学会. 2型糖尿病. http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=93

2. 日本内分泌学会. MODY.  http://www.j-endo.jp/modules/patient/index.php?content_id=96

3. 日本IDDMネットワーク. MODYとは. https://japan-iddm.net/what-iddm-is/mody/

4. 難病情報センター. 代謝疾患、内分泌疾患|MODY(家族性若年糖尿病). https://www.nanbyou.or.jp/entry/907

5. 小児慢性特定疾病情報センター. 若年発症成人型糖尿病(MODY). https://www.shouman.jp/disease/details/07_01_003/

6. Thanabalasingham G, et al. Diagnosis and management of maturity onset diabetes of the young (MODY). BMJ 2011 Oct 19;343:d6044. doi: 10.1136/bmj.d6044.

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