その検査は必要ですか?その2~身体所見を忘れずに~

院長 藤田のアイコン画像院長 藤田

こんにちは。内科総合クリニック人形町 院長の藤田(総合内科専門医)です。

前エントリー(その検査は必要ですか?その1)では診断までのプロセスのうち、問診までを解説しました。問診の次は、身体所見です。

身体所見とは、

  • 視診
  • 聴診
  • 触診
  • 打診
  • 腱反射
  • 対光反射

など、手や器具を使って刺激を入れて反応をみるものなど、診察室で医師が五感を駆使して、患者さんの身体から情報収集することです。

男の子に問診する男性医師のイラスト

「身体所見」って、意味が漠然とした言葉だと思いませんか?私は学生の時そう思いました。

「身体所見」とは、physical findingsという英語の訳語なのです。Physical とは身体のこと。よくスポーツで「○○選手はフィジカル強化が課題」などと言う、あのフィジカルです。

physicalには「物理学の」という意味もあり、身体所見をかつては理学所見と言うこともありましたが、これではますます意味が分かりませんね。

Findings とは文字通り、「見つけたもの」です。よって「身体所見」とは、「患者さんの身体で見つけたもの」です。

レントゲンもCTも無かった時代、体の内部で何が起こっているのかを知ろうと、体の外から触ってみたり音を聞いたりすることで推定するしか無かったのです。

身体所見の多くは、そんな時代に編みだされました。

「この技術が発達した時代に、そんな原始的なことをやる必要があるの?」

と思われた方もおられるかもしれません。確かに、身体所見では分からなかったことが採血やCTで一発で分かることも少なくありません。

しかし、検査に行く前に病歴と身体所見から診断の当たりををつけておかないと、とんでもない間違いを冒すことがあるのです。

私が研修していた病院で、語り草になっているこんな話があります。ある夜、患者さんが激しい胸の痛みを訴えて救急センターを受診しました。

心臓に痛みを訴える老人男性

痛みにもだえる患者さんを見て「心筋梗塞だ!」と確信した当直医はすぐさま循環器科当直医に連絡し、大至急カテーテル室に患者さんを搬送しました。

ダッシュする男性医師

緊迫する状況の中、カテーテル台の上で服を脱がせてみると、一同が目にしたものは、、

目が飛び出る男性
帯状疱疹

これは一目でわかる帯状疱疹です。胸痛の正体は帯状疱疹だったのです(もちろん心電図や採血も行い、心筋梗塞は否定されたとのこと)。

「痛がっている部位の視診」という基本的な身体所見を怠ったために起こってしまった笑えない話です。夜中に叩き起こされた循環器科医は気の毒としか言いようがありません、、。

上の写真は帯状疱疹のかなりひどい例です。医療アクセスの良い地域ではここまで悪化した例はあまり見ませんが、確かにこんなになると心筋梗塞と見まごう激痛になるかもしれないと想像します。

その先生の名誉のために付け加えますと、痛みに悶える患者さんに「いつから、どんな痛みですか?」などと詳しい病歴を聴くのは困難なことが多いです。

「数日前からブツブツが出てきて」という病歴が取れれば帯状疱疹を疑うことが出来たので、病歴と身体所見がいかに重要かわかると思います。

次に、もう少しややこしいケースを考えてみましょう。

「しばらく前から体がだるい」と訴える患者さんの場合です。様々な病気を想起しながら、念入りに身体所見を行う必要があります。

がっくりと膝を着く男性医師
  • 下まぶたの裏の粘膜が真っ白なら貧血
  • 眼球の白目の部分が黄色ければ肝炎
  • 首にある甲状腺が腫れていれば甲状腺疾患
  • 肩関節を押すと痛がり、腕を上げるのが困難ならリウマチ性多発筋痛症(高齢患者さんの場合)
  • 心雑音があれば弁膜症・感染性心内膜炎・高度貧血など
  • 両足がむくんでいれば腎疾患

というように、身体所見で得られる手がかりから必要な検査項目を考えます。

これらの手がかり無しにやたらめったら検査をしても、不要な項目を調べて必要な項目が抜けているということが起こってしまうのです(こういう検査の出し方をしてしまう研修医は周りから「センス無いな~」と言われるのが常です)。

また、主訴や現病歴が患者さんの主観情報であるのに対し、身体所見は客観情報です。

例えば、お腹のある箇所を押して患者さんが痛がるかどうかを見る方法があります。「痛い」というのは患者さんの主観ですが、「押す前よりも押した後の方が痛がる」というのは客観情報であり、患者さんからの主観情報の裏付けになります。

しかも、身体所見は余分なお金をかけずに(←ここ重要)、診察室ですぐ行えるのです。

ここまでの情報、すなわち基本情報

  • バイタルサイン
  • 病歴
  • 身体所見

を総合することで、かなり診断を絞り込みます。

ここらへんのプロセスはNHKの「ドクターG」で詳しく紹介されているので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。

長くなりましたので、続きは次のエントリー(その検査は必要ですか?その3~検査の限界と臨床推論~)にて。

以上


この記事を書いた人

内科総合クリニック人形町院長 藤田医師
藤田 英理

内科総合クリニック人形町 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
東京大学医学部保健学科および横浜市立大学医学部を卒業
東京大学付属病院や虎の門病院等を経て2019年11月に当院を開業
最寄駅:東京地下鉄 人形町および水天宮前(各徒歩3分)

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