おはようございます。内科総合クリニック人形町 院長の藤田(総合内科専門医)です。
早いものでもう12月ですね。10月以降の時間の経ち方の速さは異常、、(そんなはずは無いのですが(;^ω^))
ところで、そろそろやつが本格化してきました。そう、インフルエンザです。警報レベルに達した地域が全国的に増加して来ました(12月13日アップデート)。
(インフルエンザ流行レベルマップ2019年 2019年 第49週 (12月2日~12月8日) 2019年12月11日現在 国立感染症研究所HP )
前々エントリー(インフルエンザワクチンあれこれ)、前エントリー(インフルエンザの感染経路、潜伏期、周囲へうつす可能性のある期間)に続き、今回はいよいよかかってしまった時のお話です。
インフルエンザの診断
インフルエンザの診断は、今やインフルエンザ抗原定性検査という鼻に綿棒入れて粘液を採取する検査が全国津々浦々で行われています。この検査が最初に発売されたのは2000年のことです。
自分が最後にインフルエンザに罹ったのが1997年ですが、検査法がまだ無く、症状から診断されたのを覚えています。
ところで、このインフルエンザ抗原検査は完璧からは程遠く、実は偽陰性が多いという話は、以前のエントリー「その検査は必要ですか?その3~検査の限界と臨床推論~」で書きました。
上記エントリーでも述べましたが、ベイズ統計学に基づいた臨床推論により、インフルエンザ流行期に典型症状(急な発熱、頭痛、悪寒、筋肉痛)を発症した方は、実は検査無しでインフルエンザと診断することが出来ます。
当院では、インフルエンザ抗原検査を行うかどうかは、状況によりフレキシブルに判断いたします。
インフルエンザ抗原検査の種類
現在、様々なメーカーから数多くのインフルエンザ抗原検査キットが発売されていますが、いずれもイムノクロマトグラフィー法と呼ばれる原理を使ったものです。
数年前にこのイムノクロマトグラフィー法で検出したウイルス抗原をドライケムという技術を使って目立たせることで、ウイルス数がまだ少ない発症早期からの検出を可能にした検査キットがフジフィルムから発売されており、当院では通常の検査キットと、このドライケムのキットの両方を導入しています。
このドライケムの技術は、数年前にフジフィルムの企業CMでやっていたのでご覧になった方もおられるかも知れません。
このCMで、とても分かりやすくその仕組みが図解されています。
実を言うとこのドライケムの検査も、保険点数は通常の検査キットと変わりません。ならば感度のいい検査の方がいいじゃないか?と思われるかもしれませんが、ドライケムは通常の検査よりも時間がかかるので
通常の検査が粘液をキットに入れて5分間なのに対し、ドライケムは最大15分
当院では、原則として以下のようなケースでドライケムを選択しています。
- 発症からの経過時間が短い(目安12時間未満)
- 症状が非典型的(熱が38℃未満、のどにインフルエンザに典型的なリンパ濾胞が見られないなど)
インフルエンザの治療
インフルエンザにかかると、通常は約5日間発熱が続いたあと解熱します。
若い元気な方では症状緩和のための漢方薬や解熱剤のみで様子を見るという選択肢もありますが、わが国ではインフルエンザへの関心が国際的にみて突出して高く、インフルエンザと診断するとほとんどの方が抗インフルエンザ薬の処方を希望されます。
抗インフルエンザ薬
2019年現在、国内では5種類の抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)が処方薬として発売されています。以下にそれぞれの特徴と費用を列記します。
以下、以前は薬の販売名で記載していたところYahoo!検索基準で審査落ちしてしまったため、一般名での記載に変更しました
ザナミビル水和物
世界で最初に開発された抗インフルエンザ薬で、日本では2000年に発売されました。ドライパウダーを1日2回、5日間吸入します。費用は大人の5日分で2942円(3割負担で883円)です
オセルタミビル
2001年に発売された内服薬です。朝晩1カプセルずつを5日間内服します。費用は大人の5日分で2720円(3割負担で816円)です。
一時期、オセルタミビルの副作用として未成年への投与で異常行動が出るということが問題とされてリレンザばかり処方されていた時期がありましたが、現在ではこの疑いは払しょくされており、問題となった異常行動は単に未成年がインフルエンザにかかった場合に出ることがある症状であることがわかっています。
オセルタミビルを憎まず、インフルエンザを憎む。
2019年12月6日追記:
12月4日に東京都新宿区で、バスがハイヤーに衝突してハイヤーを運転していた方が亡くなるという痛ましい事故が発生しましたが、その後バスの運転手がインフルエンザにかかっており、事故前後の記憶が無いとの報道がありました。まれではありますが、インフルエンザでは意識障害を起こす事があるので、治るまで運転は控えた方が良いでしょう。
ラニナミビル
2010年に発売となった吸入粉末剤です。使い方は、2個(10歳未満では1個)を単回で吸入します。1回で済むので、服用忘れが無いメリットがあります。
費用は大人の量(2個)で4280円(3割負担で1284円)です。難点は、小さなお子さんや高齢者では吸入が難しい場合があることです。
目安は、うどんやそばを啜ることが出来るかどうかです。啜れるなら、ラニナミビルも通常問題なく吸入出来ます。
ペラミビル
2010年に発売された、抗インフルエンザ薬としては唯一の点滴薬です。点滴だとよく効くイメージがあるかもしれませんが、効果はオセルタミビル・ラニナミビルと変わらず解熱が1日早くなるだけです。
ペラミビルを使うべきケースは、意識障害などで内服が困難もしくは腸管吸収が低下して いる場合に限られます。非常に高価でもあり (300mg 6216 円、600mg 12532 円)、内服や吸入が出来る患者さんへの使用は勧められません。
バロキサビル
2018年に発売された、最も新しい抗インフルエンザ薬です。
長所は錠剤を1回内服すればよい点です(ラニナミビルも1回で済みますが吸入する必要がありました)。
しかし発売当初から耐性ウイルスが問題とされ、採用を見送る医療機関が多いです。費用は、大人の量で4789円(3割負担で1437円)です。
以上5種類の抗インフルエンザ薬を概説しましたが、結局のところ、どの薬がいいのでしょうか?
結論から言いますと、当院のような一般クリニックではほぼオセルタミビルかラニナミビルの2択です。
- 5日間朝晩のまなければならないけれども、お財布に優しいオセルタミビル(816円)か?
- やや値段が張るけれども、1回の吸入で済むラニナミビル(1284円)か?
選択肢があるとかえって悩ましいですね。
当院では原則、患者さんにそれぞれの特徴をご説明の上で選択していただくようにしていますが、身体が辛くて説明を聞くのも難儀そうな場合はこちらの判断で処方を決めることもあります。
吸入や5日間朝晩の内服が難しい方の場合はバロキサビル(1437円)の処方も考慮いたします。
念のため付け加えますと、医療機関の収入はどの薬を処方しても同じです。
抗インフルエンザ薬(ノイラミニダーゼ阻害薬)について一つ注意点
作用メカニズムはインフルエンザウイルスの増殖を阻害するというもので、ウイルスを殺すわけでは無いので、ウイルスが増殖しきった発症48時間経過後にはあまり投与する意味がありません。
お値段もまあまあするので、発症から丸2日以上経っているのにうっかり処方しないよう気を付けなければなりません。
いつから悪寒や熱が出たか、しつこく問診するのはこのためです(登校・出勤停止期間を決めるのにも必要ですが)。
ただし、インフルエンザ肺炎を起こしている場合は(まず入院です)、48時間以上経過していても抗インフルエンザ薬を投与します。
抗インフルエンザ薬以外のお薬(解熱剤、漢方薬)
インフルエンザの時に使うべき解熱剤
これはもう、男は黙ってアセトアミノフェンです。インフルエンザと診断された、または疑い濃厚な方にロキソプロフェンやジクロフェナクを出すようなお医者さんがもし居たら、
「のんで大丈夫ですか?」
と確認して下さい。なぜなら、ロキソプロフェンの仲間(NSAIDsと呼ばれる解熱剤)は、18歳未満のインフルエンザ患者が内服すると重大な脳症・肝障害をひきおこして命に関わる事があるからです(報告者にちなんでReye症候群と呼ばれています)。
大人がReye症候群で死亡したという報告は少ないようですが、他に安全な解熱剤の選択肢があるのに危ない橋を渡る必要は全く無いのです。
インフルエンザの時に使う漢方薬
もうこれは、男は黙って麻黄湯です。実を言うと、麻黄湯はノイラミニダーゼ阻害薬と同等の発熱期間短縮効果が証明されている爪を隠した能ある鷹なのです。
費用も4日分で231円(3割負担で69円)と、ノイラミニダーゼ阻害薬と比べたら嘘のようにお安いです。
難点と言えば、1日3回粉薬をのまなければならないことぐらいだと思います。私も、次にインフルエンザにかかったら麻黄湯を試してみたいと思っています(かかりたくは無いですが)。
妊婦さんがインフルエンザにかかった時の治療薬
妊婦さんがインフルエンザにかかると、脳症・肺炎といった重い合併症になりやすかったり、自然流産、早産、低出生体重 児、胎児死亡などのリスクも増加します(このため妊婦さんではインフルエンザワクチン接種が推奨されていることは、以前のエントリーで触れました)。
母子ともに危険となる可能性が高いインフルエンザの感染は是非とも回避したいですね。
妊婦さんでの安全性が100%証明された薬と言うのはありませんが、リレンザ・タミフルについては妊婦さんへの投与で有害事象の報告は無く投与可能です。
米国のCDC(Center for Disease Control)ガイドラインでも妊婦へのザナミビルまたはオセルタミビルの投与を推奨しています。解熱剤のアセトアミノフェンも投与可能なので、リレンザまたはタミフルと一緒に処方します。
抗インフルエンザ薬の予防投与
ご家族や職場の人がインフルエンザとわかった時、周囲の人はどう対処すればよいのでしょうか?
生活上の注意については前エントリー(インフルエンザの感染経路、潜伏期、周囲へうつす可能性のある期間)を参考にして頂きたいのですが、受験を控えている場合や、重い持病があってインフルエンザにかかると重症化の可能性がある場合、妊婦さんなど、可能な限りインフルエンザにかかることを回避したい場合には抗インフルエンザ薬の予防投与が可能です
保険は効かないので自費になります
現在のところ、予防投与が可能なのはザナミビル・オセルタミビル・ラニナミビルの3種類です。予防投与の場合の用法と費用は下表のようになっています。
用法 | 薬の費用 (大人) | |
ザナミビル | 1日1個吸入を10日間 | 2942円 |
オセルタミビル | 1日1カプセルを7-10日間 | 2720円 (10日間の場合) |
ラニナミビル | 2個を単回吸入または1日1個吸入を2日間 | 4280円 |
3割負担から10割負担になると結構値段の違いが効いてくるなあというのが実感です。以上、長くなりましたがインフルエンザの診断と治療、予防投与について概説いたしました。
まだインフルエンザ予防接種を打ってない方はまだ間に合います。それでもかかってしまったと思ったら、発熱から半日ほど置いてから医療機関を受診しましょう。
けいれんや意識障害がある場合はこの限りでは無くすぐ受診した方がいいです
そして、院内での感染拡大を未然に防ぐため、受付で熱が出ていることを伝えて下さい。なお、当院では高熱の患者さんは速やかに処置室への隔離を行っています。
寒い季節、サンタさんとトナカイのように元気で過ごしたいですね。それではごきげんよう!
以上
この記事を書いた人
内科総合クリニック人形町 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
東京大学医学部保健学科および横浜市立大学医学部を卒業
東京大学付属病院や虎の門病院等を経て2019年11月に当院を開業
最寄駅:東京地下鉄 人形町駅および水天宮前駅(各徒歩3分)