熱はなぜ出るのか?平熱が低い原因は?新型コロナ時代における発熱の仕組み

発熱して苦しそうな女性

「発熱」って非常に嫌な言葉ですね。症状の王様といってもいいくらい日常的に遭遇するおなじみの症状ですが、コロナ以後、その意味するところが激変しました。

「たった一度、体温が37℃を超えただけでも出社停止」

という事態が普通になってきたのです。コロナ前は「熱を出してフラフラになりながらも仕事した」というような話が美談として語られたこともありましたが、今ではそんなことをしたらシャレになりませんよね。

発熱は新型コロナ感染症の主な症状ですが、もちろんインフルエンザや風邪やその他の感染症でも熱は出ますし、実は感染症以外にも発熱の原因となる病態があります。

ここではなぜ熱は出るのかなど、知っているようで知らないかもしれない、熱のあれこれについてお話をします。

この記事の執筆者

内科総合クリニック人形町 院長 藤田 英理(総合内科専門医)

藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長

東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。

所属:日本内科学会日本動脈硬化学会日本頭痛学会

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目次

ウイルスをやっつけるためには発熱が必要です

熱が出るとだるくて辛いですよね。ではなぜ人間の体には発熱という機能があるのでしょうか?いったい何のためなのでしょうか?

熱が出る理由としては、まず、「体温が高い方が血流が良くなり、また体内の酵素活性が上がって免疫系が感染症に対抗しやすくなる」という説明があります。1)2)

「酵素」とは、生体反応の触媒として働く分子のことを言います。通販で売っている酵素の事ではありません。

しかし、実は人間の体内にある酵素の働きが最も活発になるのは37.0℃前後なのです。

でも、熱って高いときは38℃とか39℃とか平気で出ますよね?37℃で十分なのに、どうしてそんなに高熱を出す必要があるのでしょうか?

ちなみに「発熱」とは37.5℃を指します。感染症法でもそう定めています3)

これへの説明としては、「ウイルスは38℃~39℃の高熱に弱い4)」というものがあります。実際、39℃以上の環境ではウイルスはほとんど増殖することができません。

では40℃とかの高熱になるとどうなるかというと、それは皆さまも人生の中で一度くらいは体験したことがあると思いますが、38℃以上の熱が出ると耐えがたい状態になってしまい色々と不都合なことが出て来ます。

そういうこともあり、「38℃以上は“高熱”」と感染症法で定義されているのです。

不都合なことその①…脱水

例えば、体温が上がると大量の汗が出るので、脱水に陥りやすくなります。これは早めに水分摂取することで回避することは出来ます。

不都合なことその②…体力の消耗

体温を上げるためには体中の筋細胞や褐色脂肪細胞の活動が上がって熱を作り出すので、体力が消耗します。
※体温が1°C上昇すると代謝率が10〜12.5%上昇する必要があります5)6)

病原体をやっつけようとしても、体が発熱のために頑張り過ぎてへとへとになったら本末転倒です。


これを回避するために、医療現場では「38.5℃以上の発熱で解熱剤を投与する」ということがルーチンになっています。解熱剤は悪寒や震えといった症状も和らげ、体力を温存することが出来ます。

不都合なことその③…脳損傷

そして、40℃を超える熱が数時間以上続くと「脳損傷」の心配が出てきます。

脳損傷?!

そうです。人間の脳は長時間の40℃以上の熱に耐えられず、エネルギー代謝障害を起こして機能が破綻してしまうことがあります。

高熱によって脳損傷が起こるメカニズムは、インフルエンザ脳症の研究により、ここ数年で明らかになりつつあります7)

ところで私が3歳のころ(アメリカ在住時)高熱を出して、親が小児科へ連れて行ったところお医者さんが私の熱を測るなり水風呂へ放り込み、それを見て母親は鼻から茶吹いて倒れたそうです。あまり日本では聞かないやり方ですが、もしかしたらその時熱が40℃以上あったのかも知れませんね、、。訴訟社会なのでそのお医者さんもテンパったのかも知れません。

というわけで、もし38.5℃以上の熱が出たら

  • 水分をしっかり摂り、
  • 解熱剤をのんで安静にしましょう。

お子さんの発熱にのませてはいけない解熱剤とは?

15歳未満のお子さんの急な発熱にはアセトアミノフェン(商品名カロナール)以外の解熱剤はのませないで下さい。

理由は、子供のインフルエンザその他のウイルス感染症に対してカロナール以外の解熱剤(アスピリン、ボルタレン、ロキソニンなど)を内服させるとインフルエンザ脳症や、Reye症候群(脳炎と肝炎によって死に至る病態。Reyeはライと読みます;最初の報告者の名前です)を引き起こしてしまう可能性があるからです。

いきなりおどろおどろしい病名が出てきて胸やけになりそうですが、
病名は置いておいて、「子供の発熱にはアセトアミノフェン」とだけ覚えていただければOKです。

カロナールは消炎鎮痛効果こそアスピリン・ボルタレン・ロキソニンに劣るものの、解熱効果は十分であり、インフルエンザ脳症やReye症候群といった恐ろしい副作用の報告はありません。

インフルエンザ脳症やReye症候群の恐ろしさを考えた時に、お子さんの熱を下げる目的でカロナール(アセトアミノフェン)以外をのませる選択肢は考えられないと言っていいでしょう。

アセトアミノフェンは、医療機関で処方される解熱剤「カロナール」以外にも、様々な名前で売られています。
以下にアセトアミノフェンを主成分とする薬を、医療機関で処方される薬と薬局で買える薬に分けて以下に列記します。

医療機関で処方されるアセトアミノフェン

・「カロナール」(内服薬)
・「アンヒバ」「パラセタ」「アルピニー」(いずれも小児用の坐薬)

以上です。

風邪薬としておなじみの「PL配合顆粒」や、「ピーエイ配合顆粒」「ぺレックス配合顆粒」「セラピナ配合顆粒」「サラザック配合顆粒」「トーワチーム配合顆粒」「SG配合顆粒」等々もアセトアミノフェンを含みますが、アセトアミノフェン以外の成分(小児には禁忌のものもある)を含むため除きました。

売れるからこそこんな種々雑多な感冒薬が作られているのでしょう。いずれも風邪の症状であるだるさを何とかしようとしていろんな成分入れた結果こんな事になっていると思われます。
しかし、風邪のだるさは休まなければよくなりません。風邪が治ることと、風邪薬をのんで一時的にカラ元気が出ることは違うのです。

そもそも風邪でだるくなるのは、自分の体が白血球にわざわざだるくなる物質であるIL-6などの炎症性サイトカインを出させて、休むように仕向けてくれているのです。発熱したり抗体を作ったりで体は忙しいので、休んで体力を温存しなければならないのです8)。体がわざわざだるくなる物質を出すというのはそれが生存上有利であったからと考えられます。なのに、だるさを一時的に取る無水カフェインが入った風邪薬をのんで無理をすると体力がそちらに取られてうまく抗体が作られず、風邪が長引いたりしてろくなことがありません。

話が脱線しましたが、お次は薬局で買えるアセトアミノフェンです。

薬局で買えるアセトアミノフェン

・「タイレノール」
・「ラックル」
・「小児用バファリンCⅡ」・「小児用バファリンチュアブル」
・「バファリンルナJ」

以上です。
アセトアミノフェン含有の市販風邪薬も本当にたくさんありますが、アセトアミノフェン以外の成分(小児には禁忌のものもある)を含むため除きました。

発熱のメカニズムとは?

人間の体温は視床下部にある体温調節中枢によってコントロールされています。

細菌やウイルスのような病原体が体内に侵入すると、体温調節中枢が体温のセットポイントを引き上げます。
体が能動的に体温を上げようとする点が熱中症との違いです。

体温のセットポイントを引き上がると、体温調節中枢からの指令が体中の筋肉や褐色脂肪細胞へ伝わり、筋肉の震えや代謝性の熱産生が起こって体温が上がります。熱の出はじめに体が震えるのはこのためです。また、熱が上がりきるまでは体温がセットポイントよりも低いため、悪寒を感じることがあります。

熱の上がり方でコロナとコロナ以外の区別はつくのでしょうか?

熱の上がり具合でコロナかどうかが分かったらいいですよね。

しかし、残念ながら新型コロナ感染症ではそもそも発熱しないケースが1割前後ある上に、熱が出る場合も微熱から高熱まで上がり方は様々であり、体温によって風邪やインフルエンザと区別することは困難と言わざるを得ません9)

唯一言えるのは、風邪やインフルエンザよりも長く、平均して10日間ほど熱が続く10)ということくらいです。
風邪の発熱期間は1~4日間、インフルエンザの発熱期間は3~7日間なので、8日間を超えても熱が下がらなければ新型コロナの可能性を考えなければならないということになります。

しかし、熱が続いて「風邪だろうか?インフルエンザだろうか?コロナだろうか?」とやきもきしながら1週間以上も様子を見るなんてことは土台無理ですよね。

新型コロナウイルスというのは実に巧妙に、感染が広がりやすい性質を持っているなあとつくづく思います。

日本人の平熱は下がってきている

これはもしかしたら皆さんも実感がおありかもしれませんが、患者さんを診察していていると年々「平熱が低い」とおっしゃる方の頻度が増えていると感じます。

実際、昭和32年の研究では日本人の平熱は36.9℃だったのが11)
2008年に行われた調査では、大人の平均体温が36.1℃、子どもの平均体温が36.4℃と低下していました12)

原因としては、

  • 運動不足による筋肉量低下
  • 冷暖房の普及による体温調節機能の低下
  • 冷たい飲み物を1年じゅう飲むようになったこと

などが考えられています。

冷たい飲み物といえば、最近はタピオカドリンクの流行で飲む方が増えましたが、もしかするとタピオカも平熱が低い人の増加の要因の一つなのかもしれません!?美味しいですがほどほどにしておいた方が良さそうです。

平熱が低い人の場合の発熱とは?

では、平熱が低い方の場合の発熱はどう判断したらいいのでしょうか?

感染症法では37.5℃以上を発熱と定めていますが、平熱が低い人の場合、37.5℃より低くても発熱と言えるのでしょうか?

これは実はなかなか判断が難しく、はっきりとした基準は無いのです。

臨床現場では実際上、「平熱よりも1℃以上体温が高く、悪寒やだるさといった症状がある」場合に「発熱」と判断するのが通常です。

しかし、「平熱が低い」という方の中には普段の体温の測り方が間違っているケースが一定数あると言われています。

この際、正しい体温の測り方を確認しておきましょう。

正しい体温の測り方とは?

体温を測る時、皆さんはどこで測りますか?

ふつうはわきの下に体温計をはさんで測りますよね。

実はこれ、体温の中でも「体表温度」というものを測っています。

一口に「体温」と言っても、体の表面の温度(体表温度)と体の内部の温度(深部温度)ではかなりの開きがあります(下図参照)。

そして体表、特に顔・手先・足先の温度は気温などに左右されてしまうため、発熱を正しく検出できない場合があります。

わきの下の温度は体表温度に分類されますが、体表の中でも最も深部温度に近い温度を測ることが出来ます。

というわけで、正しい熱の測り方は以下のようになります。

  • わきの下で、
  • もし汗をかいていたらよく拭いて(汗があると気化熱が奪われて低く出てしまう)、
  • 最もくぼんでいるところに体温計を差し込む。
  • 体温計を差し込んだ側の手のひらを返して腕をぴったりと体につける(こうすることでより腕がわきに密着します)
  • 何らかの理由でわきの下に体温計が挟めない場合は、よく消毒した体温計を舌の下に入れて測る(舌の下で測った体温は、わきの下よりも0.5℃程度高く出ることに留意)

もうお分かりだと思いますが、より深部体温に近い温度を測るためにいろいろ気をつけましょう、ということです。

ちなみに、深部温度を測るには舌の下か肛門に体温計を挿入して測定します。

犬や猫を動物病院へ連れて行ったことがある方は、肛門に体温計を差し込んで測るのを見たことがあると思います。
あれはまさに深部体温を測っているので、わきの下で測っている人間よりも正確に体温を測ってもらえていると言えます。
しかし、台に載せられて肛門に体温計を突っ込まれる犬や猫のストレスは相当なものと想像しますが、意外とおとなしくしているのにはいつも感心してしまいます。

発熱にはどんな原因がある?

最後に、発熱の原因について大まかにまとめます。

感染症

発熱といえば、皆さんおなじみの風邪・インフルエンザ・新型コロナウイルス感染症といった感染症がまず思い浮かびますね。実際、発熱の原因としてこれらの頻度は高いので「発熱、イコール風邪・インフルエンザ・(最近では)コロナ!」と考えるのも無理はありません。

これらウイルスの他にも細菌、真菌(カビの仲間)、寄生虫などの感染症も発熱の原因になります。

自己免疫疾患

自己免疫疾患とは、自分の体を自らの免疫系が攻撃してしまう病気のことです。

膠原病、ベーチェット病・サルコイドーシス・バセドウ氏病・橋本病・IgG4関連疾患・炎症性腸疾患(安倍元首相で有名になった潰瘍性大腸炎とクローン病を指します)・家族性周期熱などが自己免疫疾患に含まれ、いずれも発熱の原因となります。

がん

「がん」も発熱の原因になります。これを「腫瘍熱」といいます。
腎細胞がんや白血病といった、体のだるさ以外にこれといった症状が出にくい「がん」は、発熱をきっかけとして見つかることが珍しくありません。

腫瘍熱のメカニズムは完全には解明されていませんが、やはり免疫系が関与しているとされています。「がん」による発熱では、ナイキサンという解熱剤が奏功するのが特徴とされています。

また、白血病などの治療過程で好中球(白血球の一種)の数が極端に減った状態での発熱を「発熱性好中球減少症」といい、非常に危険な状態です。なぜなら、その多くは感染症であり、病原体と戦うべき好中球が足りていないため戦えないため、死に直結してしまう可能性が非常に高いのです。発熱性好中球減少症を診断したら大至急抗生剤を投与し、血圧維持や呼吸状態などの全身管理が必要となります。

薬剤

少し意外かもしれませんが、薬が発熱の原因となる場合があります。これを「薬剤熱」といいます。
ありとあらゆる薬が薬剤熱の原因となり得ますが、頻度が高いのは抗菌薬です13)

たまに抗菌薬を解熱剤の代わりと勘違いされている方がいますが、解熱剤のつもりでのんだ抗菌薬で熱が出たのでは本末転倒です。必要性の無い抗生剤内服は厳に慎みましょう

以上、発熱の原因について大まかに4つ挙げました。

意外な原因もあったかと思います。医師は発熱に随伴する症状・発熱の経過によって、風邪・インフルエンザ・新型コロナ以外の可能性を考えつつ正確に診断をつける必要があります。


外来で「その熱はいつからですか?」「お熱以外の症状を教えてください」としつこいくらいに病歴・症状をお聞きするのはこのためです。

熱が出て不安を感じている方、困っている方に、この記事が少しでも参考になりましたら幸いです。

また、「いつもの風邪とは違う」「風邪にしては熱が下がらない」など心配な要素がある場合には、我慢せずに医療機関を受診しましょう(その際にはまずHPなどで隔離方法を確認することをお忘れなく)。

以上

参考文献

1)堀 哲郎, 脳・免疫連関からみた生体の温熱応答, 日本温泉気候物理医学会雑誌, 1993-1994, 57 巻, 1 号, p. 29-30, 公開日 2010/04/30, Online ISSN 1884-3697, Print ISSN 0029-0343, https://doi.org/10.11390/onki1962.57.29, https://www.jstage.jst.go.jp/article/onki1962/57/1/57_1_29/_article/-char/ja

2)Evans SS, Repasky EA, Fisher DT. Fever and the thermal regulation of immunity: the immune system feels the heat. Nat Rev Immunol. 2015 Jun;15(6):335-49. doi: 10.1038/nri3843

3)Gul MH, Htun ZM, Inayat A. Role of fever and ambient temperature in COVID-19. Expert Rev Respir Med. 2020 Sep 9:1-3. doi: 10.1080/17476348.2020.1816172

4) https://www.mhlw.go.jp/web/t_doc?dataId=00tb9642&dataType=1&pageNo=1

5)Evans SS, Repasky EA, Fisher DT. Fever and the thermal regulation of immunity: the immune system feels the heat. Nat Rev Immunol. 2015;15(6):335–349. DOI: 10.1038/nri3843

6) Cabanac M. (1990) Phylogeny of Fever. In: Bligh J., Voigt K., Braun H.A., Brück K., Heldmaier G. (eds) Thermoreception and Temperature Regulation. Springer, Berlin, Heidelberg. https://doi.org/10.1007/978-3-642-75076-2_27

7) Kitano K et al. Fatal Encephalopathy Associated with Influenza in a Health Care Professional. Internal Medicine. 2016 Volume 55 Issue 5 Pages 533-536. DOI: https://doi.org/10.2169/internalmedicine.55.5615

8) Appenheimer MM et al. Temperature and adaptive immunity. Handbook of clinical neurology. 2018;156:397-415. DOI: 10.1016/B978-0-444-63912-7.00024-2

9) Zunyou Wu and Jennifer M. McGoogan. Characteristics of and Important Lessons From the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Outbreak in China – Summary of a Report of 72 314 Cases From the Chinese Center for Disease Control and Prevention. JAMA February 24, 2020. doi:10.1001/jama.2020.2648

10) Chen J et al. Clinical progression of patients with COVID-19 in Shanghai, China. J Infect. 2020 May; 80(5): e1–e6. doi: 10.1016/j.jinf.2020.03.004

11) 田坂定孝. 日新医学 44(12), 635-638, 1957

12) https://www.terumo-taion.jp/terumo/report/03_2.html

13) Tabor PA. Drug-induced fever. 1986 Jun;20(6):413-20. doi: 10.1177/106002808602000601

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