こんばんは。内科総合クリニック人形町 院長の藤田です。
みなさんは「脂肪はすべて悪者だ」と思っていませんか?
「体脂肪」「内臓脂肪」「皮下脂肪」というように、多くの方が抱く「脂肪、油」の印象はよくないことがほとんどです。
「じゃあ、油は全て摂取しなければよいんだな。」
極端な話ですが、このように考える方もいるかもしれません。
しかし、テレビや雑誌のCM、情報番組では「〇〇オイルが健康に良い」と宣伝されていたり、健康食品やサプリメントには「〇〇油」という、体によくないはずの油が含まれる商品があったりします。
「油や脂肪ってそんなに種類があるの?何が良くて何が悪いものなの?」
こんな疑問が湧いてしまっても無理はありませんね。
そこで、今回は、油や脂肪が体にとって何のために必要なのか、日々の生活にどんな脂肪を取り入れたらよいのか、また良い脂肪を摂取することのメリットについてご説明させていただきたいと思います。
さらに、どんな脂肪を控えたらよいのかということについても触れていきたいと思います。
摂るべき脂肪、必須脂肪酸は身体に不可欠です
これから解説する脂肪とは、脂肪に多く含まれる脂肪酸のことを指します。
私たち人間の体は、さまざまな脂肪酸で構成されています。分かりやすい例でいえば、内臓脂肪や皮下脂肪など、明らかに脂肪と認識できるものです。
内臓脂肪がまったく存在しなければ、内臓を支えるものがありませんので、それはそれで人間にとっては不都合です。同じように、皮下脂肪は適度に存在しなければ寒さや外部からの衝撃に対応することができません。
ある意味、脂肪も最低限はなくてはならない臓器の一部なのです。
他にも、脂肪酸は体の細胞ひとつひとつを取り囲む細胞膜の材料になったり、胆汁酸といった消化酵素やホルモン、ビタミンの材料になったり、体を動かすカロリー源になったりと、想像以上に体の中で大きな役割を果たす成分であることが分かっています。
脂肪酸が全くなければ体が健康に活動することが難しくなってしまうのです。
その脂肪酸ですが、「飽和脂肪酸」「不飽和脂肪酸」「トランス脂肪酸」の3つに分けて考えることができます1) 。脂肪酸が一覧にまとまっている以下の図を参考にしてみてください。
上図の中でも今回のテーマの主役となるのが、必須脂肪酸を含む多価不飽和脂肪酸です。
多価不飽和脂肪酸は、主に植物や魚の脂に多く含まれます1) 。不飽和脂肪酸は、常温で液体状という特徴があります。魚が冷たい海で生活していても油が固まらないのはそのためです。
その多価不飽和脂肪酸の一部に、必須脂肪酸が含まれます。
必須脂肪酸とは、脂肪酸の中でも自分の体内で作ることができない脂肪酸です。食べ物などから体に取り入れる必要があることから「必須」脂肪酸と呼ばれています。
必須脂肪酸は、不足すると以下のような症状が2, 3) 。
- 皮膚の乾燥や炎症、湿疹
- 脱毛
- 脂肪肝
- 免疫力の低下
- 血小板の減少
- こどもの成長障害や発達障害
逆に、必須脂肪酸をしっかり摂取することによって、動脈硬化や血栓症を予防し、高血圧を改善させ、LDLコレステロール(悪玉コレステロールといわれる)を下げるなど、さまざまな良い効果が期待できます1) 。
さて、必須脂肪酸についておおまかに理解できたところで、必須脂肪酸の中でも私たちの生活にかかせないものをご紹介しましょう。
いろいろと覚える必要はなく、オメガ-3系脂肪酸とオメガ-6系脂肪酸の2種類について少し知っていただければと思います。
オメガ-3系脂肪酸
必須脂肪酸の中に、オメガ-3系脂肪酸という種類があり、α-リノレン酸やDHA(ドコサヘキサエン酸)、EPA(エイコサペンタエン酸)の3つがあります。
α-リノレン酸は最終的にはDHAやEPAに変化していきますので、DHAやEPAだけ覚えておいてもらって構いません1) 。
DHAやEPAはサプリメントや健康食品として売っていることが多いので、知っている方も多いのではないでしょうか。実は、必須脂肪酸であるため、食事やサプリメントなどから積極的に摂取しましょうということなのです。
小腸を切除し、口から食べ物の摂取が難しい方や、オメガ-3系脂肪酸の摂取量が少ない方では、さまざまな皮膚炎や成長障害がみられることがわかっています3) 。
一方で、健康であり、通常の食生活を送っている方においては、あまり欠乏しにくい脂肪酸であると考えてください。
オメガ-3系脂肪酸の摂取によって、HDLコレステロール(善玉コレステロールと言われる良いコレステロール)が増えることや、中性脂肪を下げる効果があることが知られています4) 。
また、オメガ-3系脂肪酸のうち、DHAやEPAの摂取によって認知症や糖尿病の予防効果があることも示されています5, 6) 。
それでは、オメガ-3系脂肪酸を摂取するにはどんな食べ物を選んだらよいでしょう。
DHAやEPAを多く含む食品
- さんま
- さば
- あじ
- いわし
DHAやEPAは、いわゆる青魚と呼ばれる種類の魚に豊富に含まれています。
ただし、食べ方には注意が必要です。魚から摂取できるDHAは加熱すると大きく減少してしまうのです。火を入れるとしても、揚げ物にするのではなく、焼き魚くらいにしておいた方がよいでしょう。
また、さばやいわしに関しては「缶詰」の状態で摂取するとDHAやEPAを多く摂取することができると言われています。缶詰であれば長く保存することが可能というメリットもありますので、ぜひ缶詰も活用してみてください。
オメガ-6系脂肪酸
必須脂肪酸の中には、オメガ-6系脂肪酸という種類もあり、リノール酸、アラキドン酸があります。
日本人が摂取するオメガ-6系脂肪酸の98%を占めるリノール酸2) は最終的にはアラキドン酸に変化していきますので、どちらも最終的に同じ物質になると考えてください1) 。
オメガ-6系脂肪酸は、病院で点滴栄養されているような方が欠乏しやすい傾向にありますが、オメガ-3系脂肪酸と同じように、健康で通常の食生活を送っているような方は欠乏しにくいといって良いでしょう7) 。
オメガ-6系脂肪酸は、体に必要な脂肪酸ではありますが、過剰に摂取したからといって、明らかなメリットがあることまでは言われていません。
ただし、以下でもご説明しますが、飽和脂肪酸を不飽和脂肪酸に置き換えることで脂質異常症が改善するというメリットはあります8) 。
そのため、どんな食品にオメガ-6系脂肪酸が多く含まれるかを知っておいて損はありません。
具体的には以下の食品になります。(以下参考文献9)
リノール酸が多く含まれる食品
・大豆油、ごま油、なたね油、あまに油
アラキドン酸が多く含まれる食品
・卵黄、豚レバー、サバ
大豆油やごま油などの油類に関しては多く摂取する必要はなく、1日大さじ1杯程度の摂取で十分でしょう。
その他の脂肪酸
オメガ-9系脂肪酸
不飽和脂肪酸の中でも、体内で作ることが可能なものがあり、必須脂肪酸である不飽和脂肪酸とは少し区別されます。
その中でも、日常的によく使われるものにオメガ-9系脂肪酸があります。代表的なものはオレイン酸です。
必須脂肪酸ではありませんが、健康な体を保つためにはぜひ摂取したい脂肪酸。具体的には、オレイン酸を毎日摂取することで、心筋梗塞や動脈硬化による心臓の病気のリスクが減るという報告もあります。
ただし、オメガ-3系脂肪酸やオメガ-6系脂肪酸と比べると健康効果がはっきり分かっているわけではないので、あくまでも参考としてください。
オレイン酸を含む食品
- オリーブオイル
- なたね油
- 牛肉
- アーモンド
飽和脂肪酸
飽和脂肪酸は、体内で作ることができることから、不飽和脂肪酸や必須脂肪酸とは区別されます。また、同じ脂肪酸でも、上で説明してきたような必須脂肪酸とは逆で、LDLコレステロールを上昇させる原因となります。
高LDLコレステロール血症は、慢性化すると心筋梗塞や脳卒中、動脈閉塞症の引き金に2)。
実際に、大人の飽和脂肪酸の摂取量が多くなればなるほど、LDLコレステロールを含む総コレステロールが上昇傾向になることが分かっています10)。
逆に、脂質異常症の方が飽和脂肪酸を控えることでLDLコレステロール高値の改善に繋がるのです11)。
主な飽和脂肪酸には、ラウリン酸やパルミチン酸があります。
飽和脂肪酸(ラウリン酸やパルミチン酸)が含まれる食品
- 肉類(特に油を多く含む部位の肉)
- バター
- インスタントラーメン
- ラード
- 生クリーム
- チーズ
- 卵黄
- ココナッツ
- アイスクリーム
どんな食品に飽和脂肪酸が含まれるのか覚えるのは難しいと思います。
簡単な覚え方としては、「常温で固体の油は飽和脂肪酸である可能性が高い」と考えていただいてよいでしょう。
不飽和脂肪酸が常温で液体である特徴の逆になります。
これらの飽和脂肪酸は、少し摂取したくらいで健康に害を与えるわけではありません。しかし、美味しい食べ物や加工食品、嗜好品があふれる現代の生活においては、意識しないと過剰摂取になってしまうことが多い脂肪酸です。
日々の生活で口にする機会を減らすよう意識することをおすすめします。
トランス脂肪酸
少し本題からそれてしまいますが、トランス脂肪酸は不飽和脂肪酸のひとつではあるものの、過剰摂取に注意したい脂肪酸であるため、ここで話題にしましょう。
不飽和脂肪酸は常温だと液体状ですが、これを人工的に加工すると固形状のトランス脂肪酸ができあがります。
現代の生活において、我々の口の中に入ってくるトランス脂肪酸の多くは加工されたものになりますが、自然界にも多少は存在しており、乳製品や肉類にも天然のトランス脂肪酸が2)。
トランス脂肪酸は、飽和脂肪酸と同じようにLDLコレステロールを増やしてしまう12) ことで知られています。特に、加工によって生成されたトランス脂肪酸の摂取量が増えるにしたがって、心筋梗塞や狭心症などの血管系の病気が1.3倍にも13)。
トランス脂肪酸は、加工されたものも天然のものも含めてすべて健康に悪影響なのかという点については、まだはっきりと分かっていません。
しかし、外国ではトランス脂肪酸の摂取を制限することを推奨している国も。そのため、少なくとも加工されたトランス脂肪酸はなるべく控えたほうが健康によさそうということが分かります。
加工されたトランス脂肪酸を含む食品
- マーガリン
- ファットスプレッド
- ショートニング
*食品成分表に「加工油脂」と書かれたものもトランス脂肪酸であることが多いです。
妊婦さんにおけるオメガ-3系脂肪酸の摂取について
こちらも少し余談にはなりますが、妊娠中の方や妊娠を考えていらっしゃる女性に耳よりの情報をお届けしたいと思います。
オメガ-3系脂肪酸は、妊娠中にサプリメントや食事などから積極的に摂取することで、お子さまに良い影響を与える可能性が知られています14)。
オメガ-3系脂肪酸のひとつであるDHAは、神経組織を作る重要な脂質であることから、妊娠中にオメガ-3系脂肪酸を十分に摂取しておくことは、お腹の赤ちゃんの成長を助けるというのです。
胎児は10ヶ月間、お母さんのお腹の中で急激な成長を遂げます。その間、脳神経や眼の発達に関係しているのがEPAやDHAなどのオメガ-3系脂肪酸です。
そのため、十分なオメガ-3系脂肪酸を摂取することで胎児の発達を支えることができるかもしれません。また、生まれてからのアトピー性皮膚炎やアレルギー疾患を減らすという報告もあります。
そして、オメガ-3系脂肪酸は妊娠中のお母さんの体にも良い影響がありそうです。オメガ-3系脂肪酸の摂取によって、早産や子癇(しかん:妊娠中にけいれん発作が起こってしまう病気)の発症を減らすことができると言われています。
オメガ-3系脂肪酸を手軽に摂取することができる食べ物は、青魚です。
青魚には、免疫力を高めるために欠かせないビタミンDも豊富に含まれています。
ただし、注意点もあります。妊娠中には、一部の魚を通した水銀の摂取を最低限にする必要がありますので、青魚の中でも水銀がなるべく少ないものを選ぶようにしましょう。
どんな魚を選んだらよいか分からなくて不安、という方は無理せずサプリメントで摂取しても問題ないでしょう。魚からの摂取と比べて大きな違いがなく、メリットが得られることがいろいろな研究で明らかになっています。
まとめ
「脂肪」と一言でいっても、種類によって体への影響が180度違うという意外な事実を知ることができたのではないでしょうか。
健康を維持する上では、重要な必須脂肪酸。摂取する脂肪酸の種類を飽和脂肪酸から必須脂肪酸を含む不飽和脂肪酸に置き換えただけで、心筋梗塞などの動脈硬化からくる疾患を減少することができたという報告もあるくらいです11) 。
しかし、脂肪に関して共通して注意したいことは、過剰摂取は禁物ということ。どんなに体に良い油でも、多くとりすぎるとエネルギー過多によるマイナスの影響が強くあらわれてしまうからです。何事もほどほどにとどめておきましょう。
この記事を書いた人
内科総合クリニック人形町 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
東京大学医学部保健学科および横浜市立大学医学部を卒業
東京大学付属病院や虎の門病院等を経て2019年11月に当院を開業
最寄駅:東京地下鉄 人形町駅および水天宮前駅(各徒歩3分)
参考文献
1. 厚生労働省 e-ヘルスネット 不飽和脂肪酸
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-031.html
2. 厚生労働省 日本人の食事摂取基準(2020年版)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
3. Bjerve KS, et al. Linseed and cod liver oil induce rapid growth in a 7-year-old girl with N-3- fatty acid deficiency. JPEN J Parenter Enteral Nutr. 12(5):521-5, 1988. doi: 10.1177/0148607188012005521.
4. Hartweg J, et al. Meta-analysis of the effects of n-3 polyunsaturated fatty acids on lipoproteins and other emerging lipid cardiovascular risk markers in patients with type 2 diabetes. Diabetologia. 50(8):1593-602, 2017. doi: 10.1007/s00125-007-0695-z.Epub 2007 May 31.
5. Burckhardt M, et al. Omega-3 fatty acids for the treatment of dementia. Cochrane Database Syst Rev. 2016 Apr 11;4(4):CD009002. doi: 10.1002/14651858.CD009002.pub3.
6. Chen C, et al. Association between omega-3 fatty acids consumption and the risk of type 2 diabetes: A meta-analysis of cohort studies. J Diabetes Investig. 2017 Jul;8(4):480-488. doi: 10.1111/jdi.12614.Epub 2017 Feb 3.
7. Jeppesen PB, et al. Essential fatty acid deficiency in patients receiving home parenteral nutrition. Am J Clin Nutr. 68(1):126-33:199. doi: 10.1093/ajcn/68.1.126.
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9. 日本食品標準成分表 文部科学省
10. Mensink RP, et al. Effects of dietary fatty acids and carbohydrates on the ratio of serum total to HDL cholesterol and on serum lipids and apolipoproteins: a meta-analysis of 60 controlled trials. Am J Clin Nutr. 2003 May;77(5):1146-55. doi: 10.1093/ajcn/77.5.1146.
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14. Emily Oken, et al. Fish consumption and marine omega-3 fatty acid supplementation in pregnancy. Up to date(Accessed on Jan 04, 2022.)