こんばんは。内科総合クリニック人形町 院長の藤田です。
コレステロールや中性脂肪が高い、といっても無症状であれば、大した影響がないと思ってはいないでしょうか。
日本における死因の統計では、動脈硬化が関連する疾患(心筋梗塞や脳梗塞など)が悪性腫瘍(癌)に次いで多いことは、一般の方にはあまり知られていません1)。そのように考えると脂質異常症は単なる「検査値の異常」だけでは済まないことが分かっていただけると思います。
動脈硬化を防ぐためには脂質異常症は避けて通れない病気であり、改善すべき問題です。
脂質異常症と診断されたものの、「自分ではどう対応したらよいのか分からない」、とお困りの方は多いと思います。また、以前から脂質異常症のため薬を飲み続けたり、食生活に気を付けたりしていても、なかなか改善しないといった方もいるのではないでしょうか。
脂質異常症と診断されている方は、2019年時点の報告では約220万人程度とされ、特に男性より女性が2.4倍も多い病気です2)。日々の外来診療においてもコレステロールや中性脂肪を下げるお薬を内服されている方が多いという印象があります。
今回は、脂質異常症の原因や症状、治療方法を詳しく解説していきましょう。脂質異常症については、自分の生活習慣を見直すことで改善できる場合も多くあります。
お薬だけに頼らずに自分の健康管理ができるよう、ぜひ参考にしてみてください。
脂質異常症の原因
はじめに、どうして脂質異常症になってしまうのかの原因について考えてみましょう。
「自分の血縁にはコレステロールの薬を飲んでいる人が多い」という方がいると思います。一方で、同じ食べ物を食べ、同じ生活をしている家族の中にも、脂質異常症の方とそうでない方がいることが。
この違いや特徴は何だろうと、不思議に感じることと思われます。
実は脂質異常症の原因は複数あり、またどれかひとつの原因だけではなく、いくつかの要因が複雑に絡み合って脂質異常症となっているケースが多いのです。診察の際に「先生、わたしの脂質異常症の原因は何ですか?」と聞かれても、簡単には受け答えられません。
個人の生活スタイルや食生活などは、医師側ですべて把握することは困難です。そのため、以下に示す脂質異常症の原因になる生活スタイルや食生活が少しでも当てはまる方は、今からでも脂質異常症の改善に役立つ可能性がありますので、ぜひ自分で試みてみましょう。
脂質異常症には、①高LDLコレステロール血症、②高TG血症、③低HDL血症の3種類があり、そのうちのどれか、もしくは複数が合併していることがあります。
以下では、それぞれの脂質異常症によって原因が異なる場合は区別して記載している場合がありますのでご了承ください。
家族性・遺伝性
脂質異常症には遺伝が関係しているものがあり、代表的なものとして家族性高コレステロール血症という病気があります3)。この病気の場合は、LDLコレステロールがとても高い数値であることが多いです。
また、両親や兄弟姉妹などの血縁に脂質異常症の方が多い傾向が。そして、血縁者や自身が40歳未満で心筋梗塞や狭心症などの動脈硬化性疾患を発症したというエピソードがある場合も、この病気を強く疑うきっかけとなります。
続発性・二次性(=他の病気や要因によるもの)
脂質異常症だけで外来に通院されている方はそこまで多くありません。一方で、糖尿病や高血圧と一緒に脂質異常症も治療されているような方はとても多いです。他の病気によって脂質異常症が引き起こされることはよくあり、以下にその原因の病気を挙げて解説していきます。
- 糖尿病
- 胆汁うっ滞性肝疾患
- ネフローゼ症候群
- 慢性腎臓病
- 甲状腺機能低下症
- 肥満症
- やせすぎ(拒食症などの摂食障害)
糖尿病
脂質異常症の原因になる病気として、一番多いのが糖尿病とされています。糖尿病は、血糖を下げるためのホルモンであるインスリンが効きにくくなったり、出にくくなったりすることで血糖値が上昇してしまう病気です。
そのインスリンが効きにくい状態のことを専門的に「インスリン抵抗性が高い」と表現します。インスリン抵抗性が高い状態は、LDLコレステロールや中性脂肪を増加させ、HDLコレステロールを低下させてしまう要因になるのです4, 5)。
胆汁うっ滞性肝疾患
原発性胆汁性胆管炎など、肝臓から出ている胆汁という消化酵素がうっ滞してしまうような肝臓の病気の方でも、脂質異常症になることがあります6)。この場合はLDLコレステロールが大きく上昇することが。後で説明しますが、コレステロールが高い方にみられる黄色腫という皮膚症状がみられる場合があります。
ネフローゼ症候群
ネフローゼ症候群とは、尿中にタンパク質が大量に漏れ出てしまう腎臓の病気です。この病気では、LDLコレステロールが高値になることがあります。
慢性腎臓病
さまざまな原因により、慢性的に腎臓の機能が低下してしまった方は、LDLコレステロールや中性脂肪が増加しやすい傾向に。脂質異常症の程度はそれほど大きくないといわれていますが、慢性腎臓病の方の30~50%は脂質異常症を来すとされています7)。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンは、代謝をつかさどる重要なホルモンです。その甲状腺ホルモンがうまく分泌されない、または分泌されていてもうまく働いてくれない状態を甲状腺機能低下症といいます。
この状態では、中性脂肪やLDLコレステロールが高値になりやすいです。甲状腺機能低下症が原因の脂質異常症であれば甲状腺ホルモンを補充することで、ある程度の改善がみられます。
肥満症
これは生活スタイルにも関連するのですが、肥満は中性脂肪やLDLコレステロールの上昇に強く関与。逆に、体重を落とすことでこれらの脂質異常症は多かれ少なかれ改善することが分かっています8)。
やせすぎ(拒食症などの摂食障害)
肥満が脂質異常症の原因になることを示しましたが、逆に拒食症などによって不自然にやせすぎている方も脂質異常症のリスクがあると思ってください。
やせすぎるとLDLコレステロールを体内に吸収しにくくなってしまったり、LDLコレステロールを材料にして作られるはずの胆汁酸という消化酵素が作られず、LDLコレステロールが血中に余ってしまいます。結果として、やせすぎや無理なダイエットをされている方はLDLコレステロールが高値となりやすいのです。
食生活
まず、脂質異常症に関連する病気を挙げましたが、実際には糖尿病や腎臓病だけが原因ではなく、生活習慣による要素が一定以上は影響している方がほとんど。食生活はその中でも大きな要素です。
LDLコレステロールが高くなる原因
食事に含まれる飽和脂肪酸を過剰に摂取することが原因と考えられます。飽和脂肪酸は、常温で固体の脂であることが多く、摂取量に比例して高LDLコレステロール血症のリスクが高いです9)。逆に、摂取量をおさえることでLDLコレステロールが下がることがわかっています。飽和脂肪酸を多く含む食品は、
- 肉類(バラ肉や鶏肉の皮などの脂が多い肉)
- バター
- インスタントラーメン
- ラード
- 生クリーム
- 卵黄
などです10)。毎回の血液検査でLDLコレステロールの数値がとても高い時と、そうでない時の変動幅が大きいような方は、食事の内容によってLDLコレステロールを改善することができるかもしれません。
中性脂肪が高くなる原因
簡単にいうとカロリー(エネルギー)のとりすぎということが挙げられます。エネルギー源は脂質や油に限らず、糖質やアルコールなどにも含まれます。
外来の診察の時に中性脂肪が高い方に食生活をお聞きすると、「そんなに脂っぽいものは食べていないのですが」とお話しされる方がいますが、実際には中性脂肪には影響しないと思ってお酒をたくさん飲まれていた、ということが
中性「脂肪」という名前であるのにもかかわらず、アルコールや糖分のとりすぎも影響するということは、患者さん方に意外と知られていない事実であります。
生活スタイル全般
HDLコレステロールは体にとって良い働きをするため、その意味から善玉コレステロールともいわれます。HDLコレステロールは、低くなることで動脈硬化性疾患のリスクが高くなるコレステロールです。HDLコレステロールが低くなりやすい生活スタイルとしては、運動不足、喫煙、肥満などが挙げられます。
女性のホルモン変化(主に閉経後)
女性の体は男性とは異なり、妊娠・出産のために女性ホルモンの変化が大きいという特徴があります。産前産後のホルモン変化はもちろんのこと、閉経というイベントによって女性の体や体調は大きく影響を受けることに。
よく知られている変化として更年期症状というものがありますが、これも閉経前後の女性ホルモンの急激な減少により引き起こされる辛い症状になります。
同じように、閉経時期には、女性ホルモンの急激な減少によって脂質異常症が起こりやすいのです。脂質異常症に関連する動脈硬化が原因の心筋梗塞は、女性の場合閉経後に起こりやすいとされているのはこれが理由。
薬剤性
利尿薬や心臓関連、精神疾患に使われるお薬、ホルモン剤など、一部のお薬の中には、わずかに脂質異常症に影響を与えるものが。脂質異常症に影響を与える原因は明らかになっていないものもありますが、ホルモン剤や精神疾患に使われるお薬の一部は体重増加による肥満を介して脂質異常症を悪化させると言われています11)。
これらはあくまで脂質異常症に対してお薬の影響が少しあるかもしれない、という程度に留まりますので、脂質異常症があるからといってお薬を中断しないようにしましょう。
基本的に無症状でも見た目に症状が出る場合も
先にご説明したように、動脈硬化の原因になる脂質異常症ですが、恐ろしいことに基本的に無症状の方がほとんどになります。しかし、少数の方には外見上で変化が現れることがありますので、ご説明したいと思います。
アキレス腱の肥厚
体内のコレステロールが過剰になると、コレステロールがアキレス腱に付着していき、アキレス腱が太くなる症状が現れることが。後で説明する黄色腫という皮膚症状よりも先にみられる頻度が高いので、早めの診断をするためには重要な手掛かりとなります。
アキレス腱を横からレントゲンで撮影し、厚みを測った時に、9mm以上であればアキレス腱が肥厚していると判断。
黄色腫
黄色腫とは、コレステロールを大量に含んだ細胞の集まりが皮膚に沈着することでみられる症状です。症状が現れる部位は、瞼や肘、手指、膝などの皮膚。この症状は脂質異常症に特徴的ですが、かなりコレステロールが高い方でも黄色腫がみられないことが多く、必ず現れる症状というわけではありません。
角膜輪
自分の眼の中を鏡でご覧になってみてください。黒目(瞳)の周りに白く縁取ったような線がみえないでしょうか。これは角膜輪といって脂質異常症の方にみられる眼の症状です。
加齢によるものもありますので、角膜輪があっても必ずしも脂質異常症というわけではありません。あくまで参考にしてください。逆にいうと、若い方で角膜輪がみられた場合は、要注意ということになります。
無症状の場合の体内の変化
脂質異常症の方の中には、症状が一切ない方も多いです。ところが、無症状であったとしても体の中では以下のような現象が起こっています。
- LDLコレステロールが高いと、酸化したLDLコレステロールが血管の壁にくっつき、蓄積していくことによって粥状動脈硬化(じゅくじょうどうみゃくこうか:お粥のようにどろどろの油がくっつくイメージ)が進んでしまいます。
- 中性脂肪が高いと、粥状動脈硬化が進みます。特に食後に中性脂肪が大きく上昇してしまう方はリスクが高いです。また、他にも中性脂肪が500mg/dl以上の場合は急性膵炎を引き起こすリスクが高くなるとされています。
- HDLコレステロールが低いと、血管壁にくっついた余分なコレステロールを回収することができなくなり、粥状動脈硬化が進行。LDLコレステロールが高くない方であっても、HDLコレステロールが低いだけで心臓血管の動脈硬化に悪影響であると言われています。
脂質異常症の治療目標は個別に設定
脂質異常症と診断された場合、どのくらいの値を目標とすればよいのでしょうか。
まず、脂質異常症によって動脈硬化性疾患になるリスクがどれくらいあるか、知っておく必要があります。年齢や性別、基礎疾患の種類などは個々によって大きく異なることがあり、一概には決められません。個々の脂質異常症の治療目標を決める際に参考にするのが、「吹田スコア」という指標。
吹田スコアは、動脈硬化性疾患のうち、特に心臓血管の動脈硬化のリスクを3段階に分けるものです。当てはまる基礎疾患が無い方は、表にあるように年齢や性別、血圧やコレステロールなどの値によって点数を計算。合計点が高いほど動脈硬化性疾患の高リスクとみなされます。
①~⑧のそれぞれの項目の得点を合計したものが吹田スコアの得点で、その得点をもとに表にあるように、自分のリスクを知ることができるのです。
そして、吹田スコアで評価したリスクの程度によって、脂質異常症の治療目標が異なっています。
食事療法はどうすればいいのか?
それでは、治療目標が分かったところで実際の脂質異常症の治療内容について解説させていただきたいと思います。何よりも重要なのは、食事療法です。どれだけよいお薬があったとしても、食事が乱れすぎていては脂質異常症を良くすることができません。
では、食事療法とは一体何をすればよいのでしょうか。脂質異常症の診療ガイドラインを参考にして以下で解説していきたいと思います12)。
- エネルギー摂取量を抑える=肥満の方は体重を落とす
- 飽和脂肪酸を減らす
- トランス脂肪酸を減らす
- 食物繊維の摂取量を増やす
- オメガ3系脂肪酸の摂取量を増やす
- アルコールの摂取量を減らす
エネルギー摂取量を抑える=肥満の方は体重を落とす
肥満は脂質異常症の原因に。実際に、体重が減少するだけで、LDLコレステロールや中性脂肪が下がることが分かっています。肥満でなくてもエネルギーの過剰摂取は脂質異常症の原因です。そこで、1日あたりの摂取カロリーは多くても1600~1800kcalに抑えるようにしましょう。具体的には、
- 主食がお米の場合、1食あたり150~170g
- 卵であれば1日あたり10~50gか、白身のみ
- 脂身の少ない肉類は1食あたり60~80g
- 牛乳やヨーグルトは1日あたり150~180ml(もしくは150~180g)
- 油類は1日あたり20~25g
- 調理に用いる砂糖は10g以下
などが過剰摂取に注意な食品の摂取量の目安です。
簡単にまとめると「腹八分目がよい」ということに限ると思います。
飽和脂肪酸を減らす
飽和脂肪酸は常温で固体の油のことが多く、動物性の脂肪や内臓に多く含まれる脂肪です。過剰に摂取することで、LDLコレステロールを上昇させてしまいます。これらの摂取量を控えることで、脂質異常症の改善に繋げることが。
トランス脂肪酸を減らす
トランス脂肪酸にはLDLコレステロールを上昇させ、HDLコレステロールを低下させる作用が。マーガリンやファットスプレッド、加工油脂といった油類にはトランス脂肪酸が多く含まれています。
また、加工食品やインスタント食品は全般的にトランス脂肪酸が多い傾向にあるので、外食やインスタント食品を食べる機会が多い方は注意が必要です。
食物繊維の摂取量を増やす
外食やインスタント食品、コンビニ弁当ではなかなか野菜を多くとることは難しいかと思います。昨今は、野菜の値段が高騰し、自炊でも野菜を贅沢に使うことがしにくくなってきました。ところが、脂質異常症の方にとっては食物繊維を多く含む野菜は重要です。
食物繊維の摂取量が増えることでLDLコレステロールが低下することが分かっています。野菜や海藻など、食物繊維を含んだ食品を毎食少しずつでも取り入れられるとよいでしょう。
また、主食の工夫も可能です。お米であれば白米よりも麦飯や玄米などの生成されていない穀物を選びましょう。食物繊維が豊富に含まれているので、白米に混ぜたり置き換えても。
オメガ3系脂肪酸の摂取量を増やす
飽和脂肪酸やトランス脂肪酸は、脂質異常症に対して悪影響を与える油類ですが、一方で体によい働きをする油類もあります。それがオメガ3系脂肪酸をはじめとした必須脂肪酸。
過剰に摂取する必要はありませんが、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸で摂取していた脂質をオメガ3系脂肪酸に置き換えるだけで脂質異常症の改善を見込むことが。
オメガ3系脂肪酸は青魚に多く含まれます。ただし、魚卵や子持ちの魚はコレステロールが多いので食べ過ぎないように注意しましょう。
アルコールの摂取量を減らす
アルコールの飲みすぎはカロリーのとりすぎと相まって、主に中性脂肪が高くなる原因になります。また、お酒のおつまみとして脂っぽいおかずが多くなる傾向にあり、自然とカロリーや脂質のとりすぎに繋がりかねません。1日あたり20~25g(ビールであれば500mL程度、日本酒であれば1合程度)を目安にするようにしましょう。
運動療法 どんな運動がいいの?
運動は、高血圧や糖尿病、肥満に対してはもちろんのこと、脂質異常症に対する治療効果があることがはっきりと分かっています。
運動療法は治療なの?と思われるかもしれませんが、れっきとした治療です。では、具体的にはどのような運動を行えばよいのでしょうか。
これからご紹介する運動療法は、脂質異常症に対してだけでなく、血圧や血糖値を下げ、脂質異常症も改善し、ひいては動脈硬化が関連する疾患のリスクを下げてくれます。さらに、精神的ストレスや認知症の改善にも効果が。
運動療法を始める前に注意点があります。
・発熱や体調不良がある時、脈拍が普段よりも20回/分以上高い時は、その日の運動は行わないようにしましょう。
・食事をとった後すぐの運動は控えてください。食事前か、食後2時間くらいたってからの運動をおすすめします。
・もともと運動量が少なかった方が急に激しい運動を始めると、体がびっくりして心臓に負担がかかってしまうことがあります。特に高齢の方は、まずは10分くらいの軽い運動から始め、運動量や運動時間を徐々に増やしていくようにしましょう。
・コントロールの悪い高血圧や糖尿病、重い心臓病や腎臓病がある方は、主治医と相談のうえ、運動を開始しましょう。
運動療法の内容を簡単にまとめると12)
- 中等度以上の強度の運動を行う
- 運動の種類は有酸素運動がよい
- 定期的に(1日合計30分以上)行う
中等度の運動とは3メッツ以上の運動を意味。メッツとは運動強度の単位のことで、以下の表のように活動量や運動内容が何メッツかを知ることができます。
日常生活の活動内容 | メッツ(運動量の強度) | 運動の種類 |
会話、読書、皿洗い | 1.8 | |
料理、洗濯 | 2.0 | |
ゆっくり歩く | 2.8 | |
ふつうに歩く | 3.0 | ボウリング、バレーボール |
3.5 | 体操 | |
自転車に乗る | 4.0 | 卓球 |
早歩き | 4.3 | ゴルフ |
早歩き | 5.0 | 野球、ソフトボール |
6.0 | バスケットボール、水泳 | |
6.5 | 山登り | |
7.0 | ジョギング、スキー | |
7.3 | エアロビクス、テニス | |
重い荷物を運ぶ | 8.0 | サイクリング |
8.3 | ランニング | |
10.3 | 柔道、空手 |
以上参考:厚生労働省 健康づくりのための身体活動基準 2013 改変
3メッツとは、普通の速度で歩くことに相当する運動強度なので、少し息が上がるくらいのウォーキングを毎日30分程度行うことで、運動療法が十分できていることになります。最低週に3回程度、が目安。
また、30分の運動は必ずしも連続的である必要はありません。例えば、10分の有酸素運動を1日3回でもよいわけです。このようなウォーキングであれば道具もジムもいりませんし、歩ける場所さえあればよいので、手軽に始められるのではないでしょうか。
ウォーキングに限らず、水泳やジョギング、サイクリングなども適度なメッツを確保することができる有酸素運動になりますので、おすすめです。
ジムなどで負荷をかけた筋肉トレーニングをされている方もいると思いますが、無酸素運動(レジスタンス運動)は運動療法としての目的はあまり果たせません。しかし、筋肉量や筋力の維持・増強の効果はあり、それによって血糖値が低下するというメリットが。単独よりも有酸素運動と組み合わせて継続することで相乗効果が得られます。
運動療法といっても案外難しいものではない、とお分かりいただけたでしょうか。しかし、継続をすることは簡単ではありません。
まずは辛くならない程度の軽く短い運動を選んで、継続するということを優先して始めてみてください。
薬での治療は最後の手段
これまでみてきたような食事療法や運動療法を頑張っているのに、なかなか脂質異常症がよくならない、または病気や生活環境のために制限があって、食事療法や運動療法がうまくできないといった方もいるのではないでしょうか。
そのような方には、脂質異常症の種類や程度によって内服薬が処方されます。また、基本的には薬物療法は最後の手段ではありますが、病気の状態(遺伝性・家族性の高コレステロール血症の方、心筋梗塞や狭心症を起こしたことがある方など)や状況に応じて早めに開始する必要がある場合も。
以下で脂質異常症の治療薬の種類を簡単に説明します。
飲み薬
LDLが高い場合
スタチンという種類の薬が第一に使用されます。スタチンで効果がみられない場合には、他にもエゼチニブ、レジン、ニコチン酸誘導体などといった種類の飲み薬があり、それらを使い分けていくことになります。
中性脂肪が高い場合
LDLも高値の方の場合は、スタチンという種類のお薬に加えて、フィブラート系やエゼチニブ、ニコチン酸誘導体、PPARαモジュレーターという種類のお薬を併せて飲むことで、LDLコレステロールと一緒に中性脂肪の改善が期待できます。中性脂肪のみが高値の方は、スタチンを除いたお薬を使って改善を目指していくことに。
注射薬
LDLコレステロールの高値が内服薬で改善しないような重症の脂質異常症の場合や、遺伝性・家族性の高コレステロール血症の方などには、注射薬が選ばれることがあります。PCSK9阻害薬という種類の治療薬で、2週か4週に1回の皮下注射を行うことに。
これらの内服薬を使い分けて、先に説明した吹田スコアなどを参考にしながら、目標のLDLコレステロール・中性脂肪・HDLコレステロールの値を目指していくことになります。
特に脂質異常症の中でも、LDLコレステロールを下げることが最も重要とされています。
LDLコレステロールが下がることで心筋梗塞や狭心症などの心血管疾患や死亡率全体の減少、脳梗塞予防に確実に繋がることが分かっているからです。
お薬を飲まずに改善できればそれに越したことはありませんが、リスクを放置してしまうと将来的な負担をもっと増やしてしまうため、医師から飲み薬が必要ですと提案された場合は、ぜひ前向きに検討してみてください。
まとめ
脂質異常症の原因としてさまざまな基礎疾患が関係するということを、ご説明させていただきました。原因となりうる病気がある場合は、食事療法や運動療法、薬物療法に加えて原因となる病気の治療も進めていく必要があります。
ただし、原因となる病気を治療してよくなったとしても、脂質異常症はそのまま残ってしまうことが。必ずしも原因の病気がよくなったからといって脂質異常症も一緒に改善するとは限らないことを覚えておいてください。
脂質異常症をお持ちの方は、お薬での治療に加えて、自分でも食事・運動療法に取り組みましょう。脂質異常症ではない方も、将来的に脂質異常症にならないよう、日々の生活習慣の改善のために今回の記事を参考にしてみてください。
この記事を書いた人
内科総合クリニック人形町 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
東京大学医学部保健学科および横浜市立大学医学部を卒業
東京大学付属病院や虎の門病院等を経て2019年11月に当院を開業
最寄駅:東京地下鉄 人形町駅および水天宮前駅(各徒歩3分)
参考文献
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10.厚生労働省e-ヘルスネット脂質異常症 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-004
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12.日本動脈硬化学会 脂質異常症診療ガイド 2018年版