脂質異常症を予防する食生活を送るために コレステロールや中性脂肪について知識を深めよう

脂質異常症

脂質異常症は、以前まで高脂血症と呼ばれていました。高脂血症は悪玉コレステロールと呼ばれるLDLコレステロールが高い病気ですが、実は善玉コレステロールと呼ばれるHDLコレステロールが低い状態も、動脈硬化の原因になるのです。

健康診断でコレステロールや中性脂肪が高いことを気にされている方もいると思いますが、値が高くても低くてもいけません。そのような経緯があって、高いのも低いのもまとめて、脂質異常症という名称に変わりました。

脂質異常症は、基本的には症状が出ない病気ですが、動脈硬化の重要なリスク因子で、動脈硬化が進むと、心筋梗塞や脳梗塞などの重篤な合併症を引きおこします。食事療法や運動療法、薬物治療で脂質異常症を治療することで、動脈硬化の進展を防ぐことが可能です。詳しく解説していきましょう。

この記事の執筆者

内科総合クリニック人形町 院長 藤田 英理(総合内科専門医)

藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長

東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。

所属:日本内科学会日本動脈硬化学会日本頭痛学会

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目次

脂質異常症の種類

血中の脂質の値が、正常範囲から外れた状態のことを脂質異常症といいます。

そもそも、脂質とはご存じでしょうか。脂質は、体の細胞の構成成分で、エネルギー源としては炭水化物、タンパク質と並ぶ三大栄養素です1)

1gあたり9kcalで、炭水化物やタンパク質の2倍以上のエネルギー価が。エネルギーを体脂肪として貯めておくのに適しており、寒冷や飢餓から体を守るのに役立ちます。また、脂溶性ビタミンという水に溶けないビタミン類(ビタミンA、D、E、K)や、カロテノイドという抗酸化作用のある色素を体内に吸収する役割も。

脂質によっては、細胞膜や胆汁酸などの消化酵素、体内で働くさまざまなホルモンのもとにもなったりします。

院長 藤田

脂質は有害と思われがちですが、体に必須な要素です。少なすぎてもよくありません。

脂質の種類には、脂肪酸、中性脂肪、リン脂質、糖脂質、ステロール類などがあります。

脂肪酸

主にエネルギー源として利用され、細胞膜の構成成分にも。脂肪酸は大きくわけて飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸に分けられます

飽和脂肪酸は、主に動物性脂肪で、バターやラードのように常温で固体として存在。不飽和脂肪酸には、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸が。多価不飽和脂肪酸は、構造によってn-6系脂肪酸(オメガ6脂肪酸)、n-3系脂肪酸(オメガ3脂肪酸)などに分けられます。

脂肪酸のうち、体内では合成できない脂肪酸を必須脂肪酸といい、α-リノレン酸、リノール酸、アラキドン酸、DHA、EPAがあり、いずれも多価不飽和脂肪酸に分類。

脂肪酸→飽和脂肪酸(バター、ラード)

   →不飽和脂肪酸→一価不飽和脂肪酸(オリーブ油)

          →多価不飽和脂肪酸→オメガ6脂肪酸(紅花油、コーン油、ひまわり油)

                   →オメガ3脂肪酸(エゴマ油、アマニ油)

中性脂肪

食品中の脂質の主成分で、脂肪酸とグリセロールからできています。中性脂肪や食品から吸収された脂質は、小腸から吸収され、体内では、アポ蛋白という特殊なタンパク質と一緒にリポ蛋白という粒子を作るのです。リポ蛋白は、本来水に溶けない脂質を血中に溶ける形にして、体中に脂質を運搬できるようにしています。

リポ蛋白には、主に中性脂肪を含むカイロミクロン、レムナント、LVDL(very low density lipoprotein;超低比重リポ蛋白)、主にコレステロールを含むIDL(intermediate density lipoprotein;中間比重リポ蛋白)、LDL(Low Density Lipoprotein;低比重リポ蛋白)、HDL(High Density Lipoprotein;高比重リポ蛋白)などが2)

リポ蛋白は、アポ蛋白の違いとコレステロールの含有量や比重で分類されています。LDLは特にコレステロールを多く含み、逆にHDLは少量のコレステロールしか含んでいません。

リポ蛋白に含まれるコレステロールを、それぞれ、LDLコレステロール、HDLコレステロール、その他non-HDLコレステロールと呼んでいます。

リン脂質

リン酸を含む脂質、糖脂質は糖を含む脂質で、いずれも細胞膜の主な構成成分です。ステロール類のうち、コレステロールも細胞膜の構成成分で、胆汁酸や体内の重要なホルモンなどの原材料となります。

脂質のうち、脂質異常症に関連するものは、LDLコレステロール、HDLコレステロール、トリグリセライド(中性脂肪)、VLDLやレムナントなどのリポ蛋白に含まれるコレステロールの総和(non-HDLコレステロール)です。

どの脂質が異常値かによって、高LDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症、高トリグリセライド血症、高non-HDLコレステロール血症に分類されます3)

10時間以上の絶食期間をおいた空腹時の採血による血液検査で、LDLコレステロールが140mg/dL以上のものを高LDLコレステロール血症、120〜139mg/dLのものを境界域高LDLコレステロール血症と診断。

HDLコレステロールが40mg/dL未満の場合は低HDLコレステロール血症、トリグリセライドが150mg/dL以上の場合は高トリグリセライド血症、non-HDLコレステロールが170mg/dL以上を高non-HDLコレステロール血症、150〜169mg/dLの場合には境界域高non-HDLコレステロール血症という診断に。

脂質異常症は、基礎疾患の有無によって、基礎疾患などがない原発性脂質異常症と、基礎疾患や薬物使用によりおこる続発性脂質異常症に分類されます4)

原発性脂質異常症

病態や原因となる遺伝子異常によって原発性高脂血症と原発性低脂質血症にさらに分類されます。

原発性のうち、家族性高コレステロール血症という遺伝子疾患が。遺伝子の2本のうち1本が、異常なヘテロ接合体であり、病気になる頻度は200〜500人に1人と、高頻度。家族性高コレステロール血症は、若いうちから心筋梗塞などの冠動脈疾患をおこす可能性があるため、注意が必要です。

続発性脂質異常症をおこす基礎疾患

院長 藤田

続発性脂質異常症をおこす基礎疾患には、以下のようなものがあります。

  • 糖尿病
  • 甲状腺機能低下症
  • クッシング症候群
  • 先端巨大症
  • 褐色細胞腫
  • 肥満などの内分泌疾患
  • ネフローゼ症候群
  • 慢性腎不全などの腎疾患
  • 閉塞性黄疸
  • 原発性胆汁性胆管炎
  • 原発性肝癌などの肝疾患
  • 薬剤(副腎皮質ステロイド薬、経口避妊薬など)
  • アルコールの飲み過ぎ

他に原因がある続発性の場合には、原因を除去したり、原因疾患に対する治療を行うことで、脂質異常症が改善することがあります。

コレステロールはLDLとHDLの2種類

コレステロール

コレステロールは、脂質の一種で、細胞膜の主な構成成分となり、脳や肝臓、神経組織などに多く含まれています。また、性ホルモンや副腎皮質ホルモンなどの体内のステロイドホルモン、胆汁酸やビタミンDの原料にもなり、生命維持に必要な物質です。

体内のコレステロールのうち、2〜3割が食事から補給されますが、7〜8割は体に蓄えられた脂肪や糖を材料に、肝臓や小腸で合成されます5) 。食事などからの摂取が過剰になった場合には、体内で合成を少なくするなど、全体のコレステロールの量は正常範囲内になるように調節。

コレステロールは、体内ではリポ蛋白という水に溶けた状態で血中を運ばれていますが、特にLDLにはコレステロールがたくさん含まれています。コレステロールを豊富に含むLDLは、末梢組織で血管内から血管内皮に移動して、組織にコレステロールを供給。

HDLはコレステロールの量が少ないリポ蛋白で、末梢組織でコレステロールが過剰になると、コレステロールを抜き取って肝臓に運びます。

このように、LDLやHDLなどが機能することで、末梢組織のコレステロールの量が調節されているのですが、血中のLDLが過剰になると、末梢組織の血管内皮にコレステロールがたまっていくのです。

たまったコレステロールが酸化されると、動脈硬化プラークというものを形成します2) 。プラークができることで血管が狭くなり、さらにプラークが増大して破裂すると、血管が詰まって心筋梗塞、脳梗塞、閉塞性動脈硬化症などの病気を発症

LDLが動脈硬化を発症、進行させるのに対して、逆にHDLは動脈硬化プラーク内の過剰なコレステロールを引き抜くために、動脈硬化を防ぐ効果があります。

院長 藤田

LDLコレステロールは動脈硬化の危険因子で「悪玉コレステロール」、HDLは動脈硬化抑制作用があるため「善玉コレステロール」と呼ばれることも。

コレステロール

一般的には、善玉コレステロールを増やし、悪玉コレステロールを減らすことがよいとされています。ただし、極端に善玉コレステロールが高くなる高HDLコレステロール血症も、実は心筋梗塞などによる死亡が増えるという報告が4) 。いくら善玉といっても、正常範囲内のほどよい値がよいのですね。

中性脂肪とは

中性脂肪も脂質の一種です。中性脂肪は、肉や魚、食用油などの食品や体脂肪の多くの部分を占める物質で、いわゆる脂肪です。

中性脂肪の構造は、3本の脂肪酸とグリセロールという物質が結合しており、中性の性質があるため、中性脂肪 triglycerideトリグリセライドという名前がついています6) 。中性脂肪は、体内の脂肪組織にストックされて、エネルギー源に。

食事中の中性脂肪は、胃や十二指腸内で、膵臓の膵リパーゼと胃の胃底腺リパーゼによって消化されます7) 。中性脂肪から分解されてできた脂肪酸などは、胆汁酸と混ざって水にとけるミセルという形に変化して小腸で吸収。

吸収された中性脂肪は、カイロミクロンというリポ蛋白で血中を移動します。その後、リポ蛋白リパーゼという消化酵素の働きでカイロミクロン内の中性脂肪が脂肪酸に分解され、体のエネルギー源として使用。すぐに使わない分は肝臓に貯蔵されたり、コレステロールの原料に。

中性脂肪が高くなる高トリグリセライド血症は、脂質異常症とともにメタボリックシンドロームの診断基準にも含まれていて、脂質異常症だけではなく、多くは肥満や高血圧、糖尿病などを合併します8)

中性脂肪は、コレステロールのように直接動脈硬化プラークを形成するということはありません。高トリグリセライド血症では、動脈硬化をおこす作用が特に強い超悪玉コレステロールと呼ばれるsmall dense LDLが増加し、それが動脈硬化プラークを形成。

また、低HDLコレステロール血症や糖尿病、メタボリックシンドロームを合併することで、動脈硬化を進行させると考えられています2, 4)

中性脂肪は、食事が供給源のため、高トリグリセライド血症の原因の主なものは食事のエネルギー量の取りすぎです。油ものはもちろんのこと、甘いものなどの取りすぎも、体内の皮下脂肪を貯める原因となります。飲酒も高トリグリセライド血症の原因に9)

脂質異常症が引き起こす動脈硬化が恐ろしい

脂質異常症の最大の合併症は、動脈硬化です。

動脈硬化とは、本来しなやかな弾性がある血管が、加齢や動脈硬化リスクなどにより、硬くなることです10)

動脈硬化

動脈硬化のうち、脂質異常症でおこるのが粥状動脈硬化。高LDLコレステロール血症により血管内に動脈硬化プラークができてしまうことが原因です。動脈硬化プラークは脆いため、血管を狭くするだけではなく、破綻して血栓ができると血管を閉塞。

この血管の閉塞が心臓でおこると心筋梗塞、脳の血管でおこると脳梗塞を引きおこします。動脈硬化により血管が脆くなると、血管が破裂して動脈瘤や脳出血の原因になることも。

低HDL血症は、動脈硬化プラークからコレステロールを取り除く作用があるHDLが低くなるため、動脈硬化の予防や進展抑制がきかなくなってしまうのです。

高トリグリセライド血症は、レムナントやsmall dense LDL(超悪玉コレステロール)の増加や、低HDLコレステロール血症を合併するために動脈硬化を発生、促進させるとされています。

動脈硬化性疾患は、発症すると、死亡率24%と非常に重篤な病気です4) 。脂質異常症以外にも、加齢、性別(男性)、家族歴、糖尿病、高血圧、喫煙などもリスク因子になります。

脂質異常症や動脈硬化があるだけでは、基本的には自覚症状がでることはありません。ただ、脂質異常症を放置すると、動脈硬化が進行し、命の危険のある病気を合併してしまうのです。放置した期間だけリスクが蓄積し、動脈硬化は進行します。

治療を行って脂質の状態を改善させることで、心筋梗塞や脳梗塞などの発症を予防する効果が。また、治療により出来てしまった動脈硬化自体も改善を見込めます。

動脈硬化以外にも、高トリグリセライド血症が急性膵炎の原因になることも。膵炎がおこる詳細なメカニズムはわかっていませんが、中性脂肪を豊富に含むリポ蛋白であるカイロミクロンが膵臓の微小循環を障害すること、中性脂肪から生じる遊離脂肪酸が膵臓の細胞を障害することが原因ではないかと考えられています。

特に中性脂肪が500mg/dL以上と非常に高い値の場合におこりやすく、急性膵炎は、膵液という強い消化酵素が膵臓や腹腔内に強い炎症をおこし、重症化すると命に関わる病気です。

健康診断や人間ドックで脂質異常症を指摘された場合には、放置せずに、ぜひ内科で相談しましょう。診断基準を満たすからといって、すぐに薬物治療を行うわけではありません。脂質異常症以外の動脈硬化リスクによって治療にはいくつかステップがあります。

まずは食事の改善、メタボリックシンドロームがある場合は運動療法などを一緒に。食事、運動などの生活習慣の改善でも効果が低い場合には、薬物治療を行います。

脂質異常症予防のためにまずは食生活改善

脂質異常症の一番の原因は、飽和脂肪酸、糖質、カロリーの摂りすぎです。

食事の内容や量を見直しましょう。

飽和脂肪酸は、肉の脂身(バラ肉や挽肉の白い部分、鶏肉の皮)やバター、ラードなどの固形の油、カカオなどの油脂、インスタントラーメンなどの加工食品に多いです。不飽和脂肪酸のトランス脂肪酸も動脈硬化のリスクを高めるとされていて、マーガリンやショートニングに含まれています。こちらも避ける方がよいでしょう。

卵の黄身や魚卵に豊富なコレステロールは、明確な摂取制限があるわけではありませんが、脂質異常症がある場合には摂取は控えます。

過度な飲酒も脂質異常症の原因に。禁酒の必要はありませんが、適度な飲酒を心がけましょう。

食物繊維、豆類や穀物の胚芽に含まれる植物ステロールの摂取は、LDLコレステロールを下げる作用があります。青魚などに含まれるn-3系多価不飽和脂肪酸も、中性脂肪を下げる効果が。これらの食品は積極的に取り入れましょう。

健康食

動脈硬化のリスクが高く、メタボリックシンドロームがある場合には、食事療法に加えて、禁煙、運動療法などを組み合わせて、生活習慣を改善させる必要があります。肥満がある場合には、まずは体重の3%の減量を目標に設定しましょう。

運動療法は、運動によって脂質が改善するだけではなく、血圧低下、耐糖能の改善、血管内皮の機能の改善なども見込めます。運動の具体例としては、ウォーキング、速歩、水泳、エアロビクスダンス、スロージョギング(歩くような速さのジョギング)、サイクリング、ベンチステップ運動などの有酸素運動を中心に、毎日30分以上など定期的に

ベンチステップ運動は20cmほどの足台を使って昇降運動を。夏の猛暑や冬の寒い時期にも室内で行えるため、ガイドラインなどでも推奨されています。定期的な運動に加えて、こまめに歩く、動くなどの工夫をしましょう。

まとめ

今回は脂質異常症について、食生活、運動療法のポイントも解説しました。健康診断などでコレステロールや中性脂肪を指摘された場合は、症状がなくても一度は内科にご相談ください。

脂質をコントロールすることで、動脈硬化を予防し、健康的な生活を送りましょう。

参考文献

1)健康長寿ネット.三大栄養素の脂質の働きと1日の摂取量.https://www.tyojyu.or.jp/net/kenkou-tyoju/eiyouso/shishitsu-shibousan.html

2) 増田大作.循環器疾患予防のための脂質異常症治療の基本.日本循環器予防学会誌.Vol.56 No.1,2021.

3)e-ヘルスネット 脂質異常症. https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-004.html

4)日本動脈硬化学会.脂質異常症診療ガイド2018年版.

5)e-ヘルスネット.https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-012.html

6)e-ヘルスケア. 中性脂肪.https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-045.html

7)厚生労働省.https://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10901000-Kenkoukyoku-Soumuka/0000042631.pdf

8)e-ヘルスケア.メタボリックシンドローム.https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-01-003.html

9)e-ヘルスケア.アルコールと脂質異常症.https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/alcohol/a-01-014.html

10)e-ヘルスケア.動脈硬化.https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/metabolic/ym-082.html

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