対症療法の功罪(その3)気管支喘息

院長 藤田のアイコン画像院長 藤田

こんにちは。内科総合クリニック人形町 院長の藤田(総合内科専門医)です。

少ししつこいですが、今回も対症療法の話です。

その1その2で取り上げた花粉症、逆流性食道炎、慢性頭痛はそれ自体で命に関わることはありませんが、今回取り上げる気管支喘息は対症療法でその場だけ抑えていると命に関わります。

気管支喘息は「発作が起こるとゼイゼイして息が苦しくなる病気」ということはほとんどの方がご存知かと思います。アレルギーや喫煙の関与も、そこそこ知られていると思います。

しかし、気管支喘息の病態が判明して発作予防の治療が普及し出したのは、ほんのここ30年ほどのことです。

目次

気管支喘息の治療の変遷

1970年代までは、気管支喘息の治療の中心は気管支拡張剤でした。確かに、狭くなってしまった気管支を薬で広げれば発作は治まります。まだ病態があまり解明されていなかった時代ですから、まずは苦しがっている患者さんの呼吸を楽にすることが最優先だったのです。

しかし、気管支拡張剤では発作が起こるのを抑えることは出来ませんでした。それどころか、むしろ発作がどんどん増えるケースが多かったのです。

実はその頃から既に、気道の慢性炎症こそが気管支喘息の原因ではないかと言われており、炎症を強力に抑えるステロイドが細々と使われてはいました。

しかし、(対症療法の功罪(その1)花粉症の項で書いた通り)ステロイドの内服や注射は数々の困った副作用を起こしてしまうため、吸入剤の開発が待たれました。

1978年、最初のステロイド吸入剤が発売されました。

この頃の薬は吸入器具が使いづらかったことと、医師の間でも「気道の慢性炎症説」に対する懐疑的な見方があったため、残念ながらなかなか普及しなかったようです。

1980年代、アトピー性皮膚炎を巡る訴訟をきっかけにしてマスコミが大々的に反ステロイドキャンペーンを張り、ステロイド忌避の世論が疫病のように蔓延しました。

この訴訟の例も実はステロイドの不適切使用が原因であり、ステロイドには何の罪もないのですが、このキャンペーンが後々まで尾を引き日本の医療に禍根を残しました。今でもその影響なのか「ステロイドは一切使いたくない」とおっしゃる患者さんに遭遇することがあります。ステロイドの特性と正しい使い方も調べずにステロイド叩きを行ったマスコミ人は猛省すべきと思います。

そんな中、1990年代に気管支拡張剤だけを使っていると気管支喘息発作による死亡が増えるという報告が相次ぎました。

1998年、吸入しやすいドライパウダータイプのステロイド吸入剤が発売されたのを機に、ようやくステロイド吸入剤が急速に普及しました。

実際にステロイド吸入剤が普及してみると、気管支喘息発作による死亡は劇的に減少しました。根本原因である気道の慢性炎症を抑えることで、喘息発作が減ったのです。

現在では、気管支喘息の病態は下図のように理解されています。

気管支喘息の病態

今の治療の目的は、上記の真ん中の状態をなるべく正常に近づけ、発作を起こりにくくすることです。

気管支喘息の対症療法(reliever)と原因療法(controller)

現在のガイドラインでは軽症の段階から毎日ステロイド吸入を行って発作を予防することが推奨されています。

 このように普段から喘息発作予防に使う薬をコントローラーと呼びます。コントローラーとしてはステロイド吸入薬の他にロイコトリエン拮抗薬、テオフィリン徐放製剤など様々あり、発作頻度や程度によって使い分けます。

もちろん、

  • 喫煙される方は禁煙し、受動喫煙もなるべく避ける。
  • アレルギー原因物質が分かっている方は原因物質をなるべく遠ざける。
  • 睡眠不足や精神的ストレスを避ける。

のような生活習慣の改善も、発作の回避に非常に有効です。それでも発作が起こってしまった時は、対症療法として短時間作用型の気管支拡張剤を使用します。

この喘息発作時に使う薬のことを、リリーバー(reliever: 緩和するもの)と呼びます。代表的なリリーバーとしてはサルタノール・メプチンがあります。

内科外来で初診の患者さんから

「サルタノール(もしくはメプチン)が無くなったので出してください」

と言われることがあります。

こういう方によくよく話を聞くと、喘息発作が起こるたびにサルタノールを使い、コントローラーは一切使っていないという、まるで40年前(昭和?!)のような治療を行っていたりします。

普段かかっている先生が他にいる場合もあれば、そもそもかかりつけ医師がおらず、薬が無くなる度にあちこちかかって当座を凌いでいる方もいます。こうした方にはどこかで、きちんとコントローラーとリリーバーの話をしなければならないと思うのです。

最後にもう一度言います。

気管支喘息の場合、対症療法だけを行っていると命に関わります。サルタノール・メプチンだけを常用されている方は、今すぐ医療機関を受診し、正しい治療法を受けましょう。

以上


この記事を書いた人

内科総合クリニック人形町院長 藤田医師
藤田 英理

内科総合クリニック人形町 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
東京大学医学部保健学科および横浜市立大学医学部を卒業
東京大学付属病院や虎の門病院等を経て2019年11月に当院を開業
最寄駅:東京地下鉄 人形町および水天宮前(各徒歩3分)

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