対症療法の功罪(その1)花粉症、逆流性食道炎

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こんにちは。内科総合クリニック人形町 院長の藤田(総合内科専門医)です。

病気の治療法には、対症療法なのか原因療法なのかという側面があります。

対症療法とは、病気の原因では無く、患者さんが困っている症状や状態を軽減する治療法です。一方原因療法とは、病気や症状の原因を取り除く治療法です。どっちがいい・悪いは一概に言えず、状況に応じてメリットが大きいものを選択しますし、両方行うことも多いです。

例えば、夏場にクーラーでお腹が冷えると下痢する人が居たとします。今この下痢止めたいという場合は対症療法として下痢止めをのんだ方が早いです。

しかし毎晩お腹を冷やして毎日下痢をするようでは、ずっと下痢止めをのみ続けなければなりませんね。

なので原因療法として、お腹を冷やさないようパジャマの裾をズボンにしまったり、布団を掛けたりといったことを試してみましょう、となります。

しかし、上の例のように原因療法が簡単に行かないことも、往々にしてあります。対症療法を続けているうちに原因が自然と消失することが期待できる場合はいいのですが、そうで無い場合、いつまで対症療法を続けるべきかという問題が出てきます。

ここでは、いくつかの病気の原因療法・対症療法とそのメリット・デメリットについて考えてみます。

なお対症療法・原因療法の区別は相対的なもので、対症療法寄りの治療から原因療法寄りの治療までグラデーションがあります。また、原因療法によって速やかに症状が治まる場合は対症療法を兼ねているとも言え、二律背反ではありません。

目次

花粉症の対症療法と原因療法

花粉症によるくしゃみ・鼻水・目の痒みは辛いですね。薬ですぐ治まるのなら、そうしたいものです。

花粉症の原因療法としてはなるべく花粉に接触しない事や、近年では舌下免疫療法(シダトレンなど)がありますが、そもそもそこいら中を浮遊する花粉に接触しないことは難しいですし、舌下免疫療法にしても効果が出て来るのに年単位の時間がかかります。

そこで、対症療法として抗ヒスタミン剤(アレグラ、アレジオン、アレロック、クラリチンなど)の内服や、痒みを抑える点眼薬の処方が行われます。これらを使えば速やかに症状が改善することは、花粉症の方はよくご存知かと思います。

内服薬・点眼薬に加え、近年重要性が増しているのがステロイド点鼻薬です。ステロイドは抗ヒスタミン薬に比べ、より原因療法に近いです。

そもそも、花粉症が起こるメカニズムを物凄く簡単に書くと下のようになります。

  1. 花粉が鼻や目の粘膜から体内に侵入する
  2. 体内で免疫応答が起こる(抗原提示→形質細胞の遊走→抗体の分泌→マスト細胞の脱顆粒 etc.)
  3. マスト細胞が放出したヒスタミンがくしゃみ・鼻水・痒みを起こす

抗ヒスタミン薬はこの3.の段階を阻害します。

一方、ステロイドは2.の段階を阻害します。免疫応答の様々な段階を抑制するので、多少時間はかかりますが強力にアレルギー反応を抑えるのです。

原因療法に近い上に強力に効くなんて、大変心強いですね。ならどうして花粉症に対してステロイドの内服薬が使われないのでしょうか?

それは、ステロイドは内服や注射で投与して全身に回ると、非常に困った副作用がいろいろ起こってしまい、花粉症の場合はデメリットがメリットを上回ることがはっきりしているからです。

ステロイドの全身投与が必要な内科疾患は膠原病の一部を始め数多くありますが、これらの疾患ではステロイドのメリットがデメリットを上回るため、副作用に対する対策を講じながら投与します。ステロイドの全身投与による副作用についてはこちらにまとまっています。

全身に作用すると困るのならば、効いてほしい場所にだけ投与すればいいという訳で、ステロイド点鼻薬が開発されました。点鼻ならば、ステロイドは鼻粘膜で作用した後に分解されて血中には入らないので、副作用はほとんどありません。

花粉症に対して抗ヒスタミン薬治療だけを行っていると、年々症状が強くなることが分かっています。

毎年じゃんじゃん花粉が鼻粘膜から入り込むと、形質細胞がますます張り切ってじゃんじゃんIgEという抗体を作るのです。この事は、スギ花粉アレルギーの方の血中抗スギ花粉IgEの値が年々上昇することからも分かります。

 そのため、近年のアレルギー性鼻炎の診療ガイドラインでは軽症の段階からステロイド点鼻の使用が推奨されています。花粉症が今後ひどくなるのを防ぎたければ、かかっている先生にステロイド点鼻薬の処方をお願いしてみましょう。

以前は1日2回点鼻が必要なフルナーゼ・リノコートしかありませんでしたが、その後1日1回の点鼻で済むアラミスト・ナゾネックスが発売されました。さらに、これらは液体で刺激を感じる人が多いため、微細な粉末状のエリザスが2009年に発売されました。現時点ではエリザスが最もお薦めです(製薬会社との利害関係はありません、念のため)。

「花粉症を注射一発で治してもらった」

という話をたまに耳にします。ケナコルトAというステロイド剤を筋注するクリニックが存在するようです。一度注射すると3週間全身でステロイドが作用するので、その間に感染症にかかると致命的になる可能性があり、非常に危険です。

また毎年注射することでじわじわと骨粗しょう症が進み、糖尿病や高血圧の危険が増します。診療ガイドラインではメリット・デメリットを吟味した上で推奨する・しないを決めており、花粉症に対するステロイドの注射は推奨されていません。このような治療を行っている医療機関には気を付けましょう。

 同じ点鼻薬でも、プリビナという血管を収縮させる薬があります。プリビナは鼻づまりに対し即効性がありますが作用は一時的であり、究極の対症療法と言っていいでしょう。

プリビナを連用すると反応性に鼻粘膜の肥厚を起こし、時に難治性になってしまうことがあります。まずはステロイド点鼻で炎症そのものを押さえ、鼻づまりを元から絶つ。

鼻づまりが酷い場合は粘膜肥厚を押さえる働きがあるロイコトリエン拮抗薬(オノン・キプレス・シングレア)を内服するのが賢いやり方です(ロイコトリエン拮抗薬の連用による副作用の報告はありません)。

ところで、先ほど「点眼薬」とだけ書きましたが、花粉症に処方される点眼薬は大きく分けて抗アレルギー薬(リボスチン、パタノールなど)とステロイド(フルメトロン、リンデロンなど)があります。

上のステロイド点鼻の話を読んだ方は、最初からステロイド点眼をした方がいいのでは?と思われるでしょう。しかし、ステロイド点眼には眼圧上昇・緑内障・白内障といった副作用があり、連用には注意が必要です。

同じ成分の薬でも、投与方法によって心配すべき副作用は異なるのです。

目の痒みは、抗ヒスタミン剤の内服・点眼+ステロイド点鼻という標準治療で抑えられることが多く、ステロイド点眼が長期で必要になる場合は本当は少ないのです。

花粉症に対して漫然とプリビナやステロイド点眼薬を出し続ける。また、症状が強くなってもステロイド点鼻薬を出さない。こうした処方がされている場合は、かかっている先生に理由を聞いてみた方が良いかもしれません。

逆流性食道炎の対症療法と原因療法

逆流性食道炎による胸焼けに対して、お医者さんで胃薬を出して貰ったことがある方は多いと思います。

プロトンポンプ阻害薬(製品名タケプロン、オメプラール、パリエット、ネキシウム)と言うカテゴリーの薬があります。プロトンポンプ阻害薬は胃酸を強力に抑えるので、逆流性食道炎の対症療法として、とても効果があります。

しかし長期に連用すると、胃酸本来の役割が果たせないことで、様々な弊害が出てくることが近年分かってきました。

まず、胃酸は食物中のタンパク質を変性させることで消化を助けていますが、その働きが減少するため消化が悪くなり、さらに胃腸内のpH変化により腸内細菌叢(フローラ)のバランスが変化するため、下痢を起こすことが少なくありません。

また、胃腸内ののpHの変化によりカルシウムの吸収が落ちて骨折が増えることも分かっています。

さらに、飲食物中の病原体の殺菌能力が落ちるため、肺炎を起こしやすくなるという報告もあります。こうしたことから、プロトンポンプ阻害薬はなるべく内服期間を短くすることが推奨されています。

そもそも、逆流性食道炎の原因は、働き盛り世代では

  1. 食べ過ぎ・飲みすぎ・早食い
  2. ストレスやアルコール・カフェイン摂取による胃酸過多
  3. 肥満、喫煙などによる慢性の咳などによる腹圧上昇(他に妊娠、腹水も)
  4. 食後すぐ横になる生活

が多いので、これらを改善・解消することが原因療法になります。

肥満で、喫煙をされる忙しそうな働き盛りの方に対して、生活習慣改善の指導も無く、ただ漫然と何年間もプロトンポンプ阻害薬が処方されている例は非常によく目にします。

生活習慣の改善は実際には難しいことが多いのですが、患者さんへプロトンポンプ阻害薬の長期連用によるデメリットを正しく情報提供する必要はあると思います。

副作用はどんな薬にもありますが、適切に使って適切にやめることが大事です。

以上


この記事を書いた人

内科総合クリニック人形町院長 藤田医師
藤田 英理

内科総合クリニック人形町 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
東京大学医学部保健学科および横浜市立大学医学部を卒業
東京大学付属病院や虎の門病院等を経て2019年11月に当院を開業
最寄駅:東京地下鉄 人形町および水天宮前(各徒歩3分)

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