咳は止めるべきなのでしょうか?

院長 藤田のアイコン画像院長 藤田

こんにちは。内科総合クリニック人形町 院長の藤田(総合内科専門医)です。

先日こんなツイートを見かけました。

少々お口が悪いですが、ツイート主のTestosteroneさんはメンタルヘルス含め健康に良いツイートを多数されていてオススメです。ちなみに「筋肉減ったらどないしてくれんねん」と言うのはこの方筋トレマニアだからです。

咳が止まらず辛いのは分かりますが、人が密集しているところで口と鼻を覆わずに咳をするのは咳エチケットに反します。

目次

咳エチケットとは?

呼吸器の感染症にかかった人が咳をすると、目に見えない飛沫が数m先まで飛んで感染拡大の恐れがあります。

そこで、人が居る場所で咳をするときは鼻と口を覆って飛沫の飛散を防止しましょう、というのが咳エチケットです。

厚労省の下記サイトによると、

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000187997.html

1. マスクをする

マスクを装着する女性

2. ティッシュなどで覆う

ティッシュで口と鼻をふさいでくしゃみをする女性

3. 袖の内側で覆う

腕で口と鼻をふさいでくしゃみをする女性

3はよくアメリカ人がやってる気がします。学校で習ったり地下鉄で公共広告してるんですね。日本でもやってほしいものです。

https://www.nytimes.com/2018/02/27/health/how-to-sneeze.html

どれだけ一般にリーチしているかはなはだ疑問ですが、常識的な方は言われなくともやってると思います。

咳の原因は感染症とは限りませんが、「この咳は感染性か?非感染性か?」なんてことは誰にも分からないのですから、周囲への飛散防止はマナーとして行うべきです。

そもそも咳が出なければそんな気も使わなくていいのですが、咳ってどうして(何のために)出るのでしょうか?

それに、市販の咳止めではなかなか止まらない咳も多いですね。熱は解熱剤で下がるのに、どうして咳は薬でぴったり止まらないのでしょうか?

咳の役割・メカニズム

咳は、気道から異物を出そうとする防御反応です。

気道の粘膜には咳受容体というセンサーがあり、このセンサーが異物や機械的刺激を察知すると刺激が脳の咳中枢に伝わり、呼吸筋に指令が送られて咳が起こります。

この一連の反応を咳反射といいます。

咳にはまた、気道にたまった痰を外に出す役割もあります。

咳反射

仮に、人間に「咳」という機能がなければどうなるでしょう?

病原体やアレルゲンがそのまま肺まで入り込んだり、痰が肺に溜まってしまったり、ろくなことになりません。

咳の原因となる病気

呼吸器感染症

風邪(ここでは急性ウイルス性上気道炎のこと)、インフルエンザ、百日咳、マイコプラズマ感染症、肺炎etc.、咳を起こす呼吸器感染症は数多くあります。

ただし、溶連菌性咽頭炎・伝染性単核球症は咳受容体が存在しない扁桃腺に限局しており、咳が出ないのが普通です。

結核

結核も初期には肺に感染しますが、いろんな意味で他の感染症とは別格なので項目を分けました。
どういう風に別格なのでしょうか?

結核は人に感染するとまず、数か月という長期に渡って微熱・咳という一見風邪に似た症状を起こした後、肺の組織を破壊して空洞を作って住みついたり、血流に乗って脳など全身の臓器を冒します。治療薬が無かった時代、それは死を意味しました。

下図は活動性肺結核のレントゲン・CTと、主な肺外結核です。

活動性肺結核のレントゲン・CT
主な肺外結核

一旦治ったように見えても結核菌が体内に潜んでいて、保菌者の免疫力が低下すると再活性化して悪さをすることがあります。

さらに困ったことに、結核菌は空気感染します。排菌している患者さんが咳すると結核菌が空気中をフワフワと飛んでいき、排菌者から数十メートル離れていても感染する可能性があります。

結核は、命にかかわり、体内にしぶとく住みつき、空気感染する。これ医師免許試験に出ます。そのため、結核が疑われる患者さんと接するスタッフはN95と呼ばれる特殊なマスクをつけます。

N95と呼ばれる特殊なマスク

排菌していることが分かると陰圧室のある病院へ搬送となります(排菌しているかどうかは痰の検査で判断します)

結核患者が一人出ると大騒ぎとなる理由がお分かりいただけましたでしょうか?

昔の病気のイメージがあるかも知れませんが、平成30年の国内の結核による死亡数は2,204人、新規患者数は15590人と、現在進行形の病気です。

咳・痰・微熱が長引いているという話を耳にした時、医療従事者は「結核では無いか?排菌してないか?」と真っ先に考えなくてはなりません。

治療は4剤療法と言って、必ず4種類の抗結核薬を投与します。これ以外の治療は耐性菌を生むため絶対ダメです。

清原のイラスト

ところが、肺結核を「長引く風邪」と称して(見落として)、クラビットやオゼックスといったニューキノロン系抗生剤が処方されていることが時々あります。

風邪による咳は通常2-3週間で治まるので、それ以上長引く場合は風邪では無いと疑ってかかる必要があり、普通は胸部レントゲン撮影を検討します。

ニューキノロン系抗生剤は4剤療法の第2選択に位置づけられる薬で、中途半端に結核に効いてしまうため、
患者さんは「治ってきた!」と思い、その実体内で耐性結核菌が増殖して周囲にばら撒いてしまうことが懸念されます。

耐性結核菌に感染したらどうなるか?ここまで読んでくれた皆さんは分かりますよね。医師が「手持ちの抗生剤を自己判断でのまないで下さい」と言う訳がおわかりいただけると思います。

顔面蒼白の女医

つい抗生剤濫用について語ってしまいました。次行きましょう!

気管支喘息

気管支喘息とは発作を起こすとゼイゼイして息苦しくなる慢性疾患ですが、背景に気道の過敏性亢進という性質があるため、発作時でなくても少しの刺激で咳が出やすいです。

「風邪の後に咳が長引く」というのは気管支喘息患者さんの多くが経験することです。気管支喘息の亜型である咳喘息(咳が唯一の症状の喘息)も同様です。

喫煙・慢性閉塞性肺疾患(COPD)

正常の気管・気管支には繊毛という毛がびっしり生えていて痰を外に掻き出す役割を果たしていますが、喫煙している人はタバコの煙の害により繊毛が抜け落ちてしまい、痰が上手く出せないために常に痰が絡んで咳をするようになります。

 また、喫煙による慢性炎症で気道の過敏性が上がっているので(これは気管支喘息と同じですね)、ちょっとした刺激でも咳をします。

長年喫煙していると、肺胞というガス交換に必要な肺の小さな袋が破壊され、COPD(慢性閉塞性肺疾患)というガス交換がうまく出来ず常に呼吸が苦しい病気になります。

繊毛
COPD(慢性閉塞性肺疾患)

びまん性汎細気管支炎(DPB)

聞き慣れない病名かもしれませんが、日本を含む東アジアで多く診られる原因不明の慢性の呼吸器炎症性疾患です。

発症は40-50代が多く、症状は慢性の咳・膿性痰・息切れに、慢性副鼻腔炎(蓄膿症)を合併するので、鼻づまり、膿性鼻汁、嗅覚低下などを伴います。

治療は少量マクロライド療法といって、エリスロマイシンやクラリスロマイシンを長期にわたって服用します。疾患概念から治療まで日本人が確立したJapan prideな感じの病気です。

肺がん

肺がんは初期には症状に乏しく、進行してくると血痰や茶色の痰を伴った咳が出るようになり、体重減少、息切れ、リンパ節腫脹なども出現します。

肺がんの最大の危険因子は喫煙ですが、職業的暴露(アスベスト、ラドン、ヒ素、クロロメチルエーテル、クロム酸、ニッケル)、大気汚染(特に粒径2.5ミクロン以下の微小浮遊粒子)、家族歴(家族に肺がんの方がいる)も危険因子として要注意です。

慢性副鼻腔炎

副鼻腔という鼻の周囲の顔の骨にある空洞の中で細菌が繁殖して膿が溜まる病気で、かつては蓄膿症とも言いました。特に小児では、膿がのどに落ちてきて咳の原因になります。

頭痛や嗅覚異常の原因にもなり、また放置すると慢性気管支炎や喘息の原因ともなるので、決して軽んじてはならない病気です。

胃食道逆流症

胃液がのどの辺りまで上がってくることが刺激となって咳をする場合があります。

 うっ血性心不全

心臓の病気で咳をするとは意外かもしれませんが、

うっ血性心不全の患者さんは、特に体を横にすると肺がうっ血して息苦しくなり、咳やピンク色の痰が出ます。
このため、患者さんは夜寝る時も上体を起こすようになります(夜間起座呼吸と言ってうっ血性心不全の有名な所見です)

医療アクセスの良い現代の日本では、そこまで進行する前にどこかで診断されているのが普通ですが、たま病院嫌いの方がいらっしゃいますので、上記の症状があれば医療機関受診をお薦めします。

ここでやっと本題です。

 咳は止めるべきか否か?

結論から言いますと、程度によります。

咳で苦しい、体力を消耗して疲れる、眠れない、という場合は咳止めを使った方がいいでしょう(もちろん根本的解決にはなりませんが)

百日咳やマイコプラズマのような激しい咳を起こす感染症や気管支喘息の方では、激しい咳で肋骨骨折しているケースもありますし、特に若い男性や喫煙者では自然気胸と言って、咳による気道内圧亢進で肺に穴があく場合もあります。

しかし、ここまで読んでくれた方はおわかりと思いますが、咳が長引く場合は止める止めない以前に、医療機関を受診して原因を調べた方がいいです。

咳が長引くとは、どのくらいの期間なのか?それは3週間以上を目安と考えて下さい。なぜなら、風邪による咳の場合はだいたい3週間未満で治りますが、3週間以上咳が続く場合は感冒以外の病気の頻度が高まるからです。

気管支喘息や咳喘息の方は感冒による咳でも3週間以上続くことが普通にあるかもしれませんが、その場合もさすがに咳で疲れるでしょうから受診した方がいいでしょう。

咳止め薬の種類と副作用

 咳止めには大きく分けて中枢性鎮咳薬と末梢性鎮咳薬があります。

中枢性鎮咳薬

脳の咳中枢を抑制する薬です。麻薬性と非麻薬性があります。

麻薬性中枢性鎮咳薬はコデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩が代表的です。麻薬性と聞いてあまりびっくりしないで欲しいのですが、用量は非常に少ないので用法用量を守っている限りは普通は依存症にはなりません。

非麻薬性中枢性鎮咳薬にはデキストロメトロファン(メジコン)、チペピジンヒベンズ酸塩(アスベリン)、エプラジノン塩酸塩(レスプレン)などがあります。

余談ですが、デキストロメトロファンは咳止め薬の量をはるかに超える高用量では鎮静作用・解離作用があり、米国では情動調節障害の治療に用いられます。

咳を止める効果は麻薬性中枢性鎮咳薬が最も強いとされています。化学構造としてはれっきとした麻薬なので、眠気・めまい・便秘といった副作用が出ることがあります。

末梢性鎮咳薬

末梢とは、ここでは咳中枢に対して気管支の事を言います。気管支拡張薬、去痰薬、抗アレルギー薬などが末梢性鎮咳薬として使われます。末梢性鎮咳薬は中枢性鎮咳薬と併用することが多いです。

咳が出やすくなる薬

 ACE阻害薬と言う降圧剤の一種があります。

ACE(アンジオテンシン変換酵素)という血圧上昇に関係する物質を阻害するのですが、ACEはブラジキニンという気道の過敏性に関与する物質の分解酵素でもあるため、ACE阻害薬をのむと気道の過敏性が増して咳をしやすくなります。

この副作用のせいで、今では降圧剤としてはあまり使われなくなりましたが、誤嚥性肺炎を繰り返す患者さんにのませると咳が出て誤嚥しにくくなるため、あえてACE阻害薬を処方して咳を起こさせる場合があります。

咳が止まらなくて苦しいという患者さんの内服薬をよく見て、もしACE阻害薬が含まれている場合は一旦他の降圧剤に変えることを考慮する必要があります。

以上


この記事を書いた人

内科総合クリニック人形町院長 藤田医師
藤田 英理

内科総合クリニック人形町 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
東京大学医学部保健学科および横浜市立大学医学部を卒業
東京大学付属病院や虎の門病院等を経て2019年11月に当院を開業
最寄駅:東京地下鉄 人形町および水天宮前(各徒歩3分)

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