9月21日・22日は休診です

メタボ疾患の方がコロナにかかると重症化しやすいのはなぜでしょうか?

院長 藤田

おはようございます。内科総合クリニック人形町 院長の藤田(総合内科専門医)です。

自分が医学生だった時の話です。

5年生になるとポリクリ(今はクリニカルクラークシップと言うそうです)といって4人グループで各科を実習して回るのですが、腎臓内科を回っていた時のこと。めちゃめちゃ頭の切れそうな先生が我々の班を担当してくれました。

その先生は言いました。「人間は感染症か、癌か、血管の老化で死ぬんですよ

どういう文脈だったのか覚えていませんが、その言葉だけはっきりと覚えています。人の死因についてここまで端的な言い方を聞いたことが無かったからでしょうか。

その言葉の意味が本当に身に染みてわかったのは研修医になってからのことです。

目次

動脈硬化が進んだ患者さんはそもそも状態悪化しやすい

要するに、「動脈硬化が進んだ(=血管が老化している)患者さんはなかなか助からない」のです。これはもう文字通りの意味です。

「動脈硬化が進むと心臓発作や脳卒中が起こりやすくなる」というのは皆さんご存じかもしれませんが、それだけではありません。

わかりやすいとこで言いますと、まず点滴がなかなか入りません。血管が細くなっている上にもろいため、針先が血管に当たってもすぐに破けてしまうのです。手足のあちこちをチクチク刺される患者さんも大変ですがこっちも必死です。とにかく点滴の針を留置しないことには点滴出来ないのですから。

この問題を回避するために中心静脈カテーテル(体の中心に近い太い静脈に太いカテーテルを挿入してしっかり固定する)という方法がありますが、それなりの人手と清潔操作・エコー装置が必要なので、高度救急センターやICUならいざ知らず一般病棟ではすぐには挿入できない場合が多いです(中心静脈挿入の段取りはまあまあ面倒で、研修医の重要な仕事の一つです)。

また、動脈硬化が進んだ方は感染症にかかりやすく、抗生剤の効きが悪いです。特に足先のような心臓から遠い部位は一般の方に増して血流が乏しく、細菌感染を起こしていしまうと治療に難渋します。「なんで足先で感染症が起こるの?普通ならないないでしょ?」って思うでしょ?それが、徹底的な褥瘡対策をしていても、「血流の乏しい組織」は細菌にとって絶好の繁殖場所なので、隙あらばと感染するのです!

そして、動脈硬化が進んだ方には多かれ少なかれ心不全が伴うので、循環動態を安定させるのも大変です。ちょっと気を抜くとすぐ血圧が下がります。だからといって点滴を入れるとすぐに水分がダブついてしまいます。安全域が非常に狭いのです。切り立った尾根の幅10cmしかない道をバランスを取りながら歩くようなものです。

水分と言えば、血管が老化している方は腎機能が低下していることが多いです。入院前は「少し腎機能が低いね」くらいで日常生活に困らなかった程度だったのが、ひとたび大病をして入院すると腎障害が顕在化して安定的に尿が出なくなってしまうことが多く、ますます水分管理に難渋します。

もちろん、尿が出なくなってしまった場合は血液透析を行うという手もありますが、血液透析のような体外循環(血液を体外に取り出して循環させること)を使った治療を行うには、ある程度心機能が残存していることが前提です。心機能が非常に低くなっている場合は血液透析を行うことが出来ず、手詰まりとなります。

多臓器不全」という言葉をお聞きになった事がありますでしょうか。

心臓・呼吸器・肝臓・腎臓・脳といった主な臓器のうち複数が機能不全に陥った状態のことです。心臓や腎臓の機能が低下している状態で肺炎を起こすと多臓器不全となり、坂道を転げ落ちるように状態悪化し、救命困難となってしまうのです。

動脈硬化は全身で進行する

ここまでお読みに頂いた方はお分かりかと思いますが、動脈硬化は全身で進行します。

「心臓だけ動脈硬化」とか、「脳だけ動脈硬化」とかは、ありません。

全身いたるところにわたって血管が固く、もろく、壁が分厚く、内側が狭くなって詰まったり破けたりしやすくなります(なのでEDの原因にもなります)。

単に動脈が硬くなるだけでは無いので、個人的には「動脈硬化」なんていう平和な語感が良くない、実のところ「血管ぼろぼろ病」と名前を変えた方がいいとさえ思っています。

動脈硬化の怖さがお分かりいただけましたでしょうか?

そして困ったことに、動脈硬化はある程度まで進んでしまうと元に戻りません。

太ってもダイエットしたら体重が元通りになるのとは訳が違います。なにせ、血管の内側で大変なことが起こっているのですから(何が起こっているのかはこれから説明します)。

そこへ加えて、新型コロナウイルス感染症で突然死の原因と言われている血栓症(血管の中で血が固まって詰まってしまうこと)は、動脈硬化が進んだ方に起こりやすいのです。

では、動脈硬化が進んでいるとなぜ血栓が出来やすいのでしょうか?

まず、「血液がなぜ血管内で固まらずにいられるのか」と言う話から始めましょう。

血液はなぜ血管内で固まらずにいられるのか?

私たちの血液は、普段血管の中を固まることなく流れています。

「当り前じゃないの?」

実は、これは当たり前のことでは無いのです。

ケガで出血した時のことを思い浮かべてください。

出血した血液はしばらくすると固まりますよね。というか、固まってくれなければ困ります。

では、血管内を流れる血液はどうして固まらないのでしょうか?血管内と血管外では何が違うのでしょうか?

「空気に触れると血液は固まるのでは?」

答えは「×」です。

血液が血管内で固まらないのは、血管内皮細胞という、血管の内側にタイルのようにみっしりと敷き詰められた細胞が発揮する強力な抗血栓作用(血が固まらないようにする作用)のおかげなのです1)

実は、血液中には「いつでも固まることが出来る成分」が豊富にあり、固まるのを「今か今か」と待ち構えているのですが、この血管内皮細胞が必死でそれ(血液が固まること)を食い止めてくれているのです!

血液透析や、ECMOといった血液を体外に取り出す治療では、血液を患者さんの血管から取り出して空気に触れさせることなく人工回路の中を流しますが、人口回路の中には当然血管内皮は無いので、そのままだと回路内で固まってしまいます。そこで、「抗凝固剤」という血液が固まらないようにする薬剤を加えながら回路を回します。逆に言えば、抗凝固剤を血液に加えることで、空気に触れても血液は固まらなくなります。

当たり前のように血が流れている陰では、血液と血管内皮細胞との間で文字通り「血を血で洗う」攻防が繰り広げられているとはびっくりですよね。

血管内皮細胞には、いくらお礼を言っても言い足りないくらいです。

人体ってほんとによく出来てますよね。
その、よく出来た仕組みがいろんな原因でうまく行かなくなることで病気になるんですが、、

では、血管内皮細胞についてもう少し詳しくみてみましょう。

血管内皮細胞の機能

血管内皮細胞というのは血管の内側をみっしりと裏打ちしている細胞です。

血管内皮細胞はものすごく有能な細胞で、ただ血管を裏打ちしているだけではありません。

普段は抗血栓作用のある物質をガンガン出して、血が固まらずに流れるようにしてくれている一方、

ひとたび血管が破綻すると、電光石火の早業で血小板を活性化して血の塊(=血栓)が出来るお膳立てをします。

このように、平常時は血液が滞りなく流れ、ケガをしたときには瞬時に出血を止めることがいかに生物の生存に大事かは、想像にかたくありません。生物同士の争いが絶えなかった太古の昔、ケガをしたときに瞬時に出血を止められることが出来ることが生存の条件だったのでしょう。

血管内皮細胞にはこの他に、

・血中から組織へ必要なものだけを取り込むフィルターとしての役割
・血中を流れるものが血管壁にくっつかないようにする機能
・自律神経の指令によって血管を収縮させたり拡張させたりして血流量や熱放散を調節する機能
・感染症などで炎症が起こった時にはザルのようにスカスカになって白血球が血管外に出て行くのを手伝う機能

のような多彩な役割・機能がありますが、ここで覚えて頂きたいことは、

血液が血管の中で固まることなく流れているのは血管内皮細胞のお蔭である」こと。

これだけです。

そして、動脈硬化の最初の段階は、この血管内皮細胞が傷むところから始まります

メタボは血管内皮が傷んでしまう病態

高血圧、糖尿病、脂質異常症、肥満といったメタボリックシンドローム。そして喫煙。

これらは全て、動脈硬化の原因になります。

では、一体どのようなメカニズムで動脈硬化を起こすのでしょうか?

【動脈硬化の第一段階 】 血管内皮障害

高血圧というのは血管に過剰な圧がかかっている状態です。

水がパンパンに入った状態で放置されたゴムホースを想像して下さい。次第に劣化して亀裂が入ってしまいますよね。

高血圧の人の血管も同じです。血管はホースよりは柔軟性があるとはいえ、パツンパツンに圧がかかると内側に敷き詰められた内皮細胞が少しずつはがれて脱落してしまいます。

そして、健診でおなじみの悪玉コレステロール。悪玉と呼ばれるLDLコレステロールですが、内臓脂肪として貯めこまれた脂肪分を、細胞壁やホルモンの原材料として使うために全身に運ぶ役割がちゃんとあるのですが、量が過剰になると行き場を失い、血管壁の内側にベタベタとくっついてしまいます。

一方、血糖が高い状態というのは、実は血管にとっては毒なのです。高血糖の毒性によって、血管管内皮細胞の機能が落ちてしまい、普段は血管内皮細胞の働きによってくっつかないはずのものが、血管内皮にベタベタくっついてしまいます。

【動脈硬化の第二段階】血管内皮下へのプラークの蓄積

中でも白血球の一種である単球は体内の異物を処理するのが仕事なので、血管壁や内皮の内側にもぐりこんだLDLコレステロールを処理しようとしててそこにくっつき、マクロファージという巨大な細胞に変化してLDLコレステロールを内部に取り込み、プラークというドロドロベタベタした物質に変化します。

プラークが血管の内側に貯まってコブのように盛り上がるようになると血管の内側がどんどん狭くなっていきます。

【動脈硬化の第三段階】 血管壁のリモデリング、プラークの破綻

(工事中)

このような変化がゆっくりゆっくり、何十年もかけて進み、最終的には血管壁が固く、もろくなって形もいびつになって血管内腔が狭くなり、ところどころ詰まってしまいます。

この段階の方の頭のMRIを撮ると、高頻度に「かくれ脳梗塞」が見つかります。

コロナウイルスは血管内皮細胞を障害して血栓症を起こす

去年(2020年)の2月くらいでしたかね、「新型コロナ感染症で血栓症が多く見られる」という報告が出始めたのは。

これを聞いて最初耳を疑ったというか、少なくとも多少の違和感を感じた医師は多かったはずです。

感染症で血栓症が起こる場合というと、それまでは敗血症という重症感染症時に時として引き起こされるDIC(播種性血管内凝固症候群)くらいしか、寡聞にして聞いたことが無いからです。

私自身、「白人(コーカソイド)は元々人種的に血栓出来やすいしね。アジア人は関係無いのでは?」くらいに思っていたのは内緒です。

ところが、その後それを支持する報告が相次いで出されて今ではコンセンサスとなり、アメリカCDCやが国の厚労省のガイドラインにも明記されています。

そして、この新型コロナウイルスのちょっと変わった(でも非常に困った)性質は一体どこから来るのかについても少しずつ解明されつつあります。

どうやら、新型コロナウイルスは血管内皮細胞に感染して炎症を起こし、その結果血管内皮細胞がうまく機能を発揮できなくなるというのです2)

ここまで記事を読んでくれた方は、血管内皮細胞が機能を発揮できないということが何を意味するかわかりますよね?

そうです、血が固まりやすくなってしまうのです!!

メタボ疾患の方や喫煙者では元々血管内皮機能が低下していているので、これらに該当する方がコロナに感染するとますます血管内皮がやられて血栓が出来やすくなるのです3)

実際、メタボ疾患や喫煙者では新型コロナウイルス感染症での死亡率が増加することが報告されています4)

血管内皮細胞は運動で鍛えることが出来る

「運動をすると体にいい」というのはもう常識ですよね?

では、どう体にいいのでしょうか?

すぐ思いつくのは「リフレッシュする」「脂肪燃焼する」「筋肉が鍛えられる」「心肺機能が良くなる」あたりですね。

でもそれだけでは無く、運動によって血管内皮細胞をも鍛えることが出来ると言ったら皆さんは驚くでしょうか?

実際そのようなデータの報告があり、適切な運動によって血管内皮機能が向上し、ひいては動脈硬化の予防にもなるのです5)

加齢は止めることが出来ませんが、運動不足やメタボによる血管の老化は生活習慣によって食い止めることが出来ます。

こんな耳寄り情報があるでしょうか!?

これでもう、緊急事態宣言下でやるべきことは決まりました。

コロナ太りなどしている場合じゃありませんよ!?

以上


この記事を書いた人

内科総合クリニック人形町院長 藤田医師
藤田 英理

内科総合クリニック人形町 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
東京大学医学部保健学科および横浜市立大学医学部を卒業
東京大学付属病院や虎の門病院等を経て2019年11月に当院を開業
最寄駅:東京地下鉄 人形町および水天宮前(各徒歩3分)

参考文献

1)河合康明、他.「標準生理学」第9版(2019), 575-575.

2)Varga, Z. et al. Endothelial cell infection and endotheliitis in COVID-19. The Lancet 395, 10234(2020). DOI:https://doi.org/10.1016/S0140-6736(20)30937-5

3)Eslamifar, Z., Behzadifard, M., Soleimani, M. et al. Coagulation abnormalities in SARS-CoV-2 infection: overexpression tissue factor. Thrombosis J 18, 38 (2020). DOI:https://doi.org/10.1186/s12959-020-00250-x

4) Alamandari, N. M. et al. The impact of metabolic syndrome on morbidity and mortality among intensive care unit admitted COVID-19 patients. Diabetes Metab Syndr. 2020 November-December; 14(6): 1979–1986.Published online 2020 Oct 13. doi: 10.1016/j.dsx.2020.10.012

5) Man, A. W. C. et al. Impact of lifestyles (diet and exercise) on vascular health: oxidative stress and endothelial function. Oxid Med Cell Longev. 2020; 2020: 1496462.Published online 2020 Sep 26. doi: 10.1155/2020/1496462

よかったらシェアしてね!
目次
閉じる