尿酸値が低くても異常?腎性低尿酸血症という病気も

腎性低尿酸血症

健康診断を受けて、尿酸値が高いと指摘されたことはありますか。痛風は尿酸値が高くなって足の指が痛くなる病気で、比較的よく知られています。尿酸が上がりにくいビールや発泡酒のCMをみたことがある方もいらっしゃるのではないでしょうか。

では、尿酸値が低い場合は病気なのでしょうか。実は、尿酸値は高すぎても、低すぎてもいけません。

尿酸値が低い場合も病気になります。原因はいくつかありますが、今回は腎臓が原因でおこる腎性低尿酸血症についてご説明します。

目次

腎臓の機能が悪くなるために起こる「腎性低尿酸血症」

院長 藤田

腎性低尿酸血症1)とは、名前の通り、腎臓が原因で尿酸値が低くなる病気です。

はじめに、尿酸とは何かを説明しましょう。からだの細胞のひとつひとつに核があり、その核には核酸、すなわちDNAが含まれているのです。核酸の主成分はアデニンやグアニンという塩基性物質と呼ばれるもので、プリン骨格という構造をもっているため、総称でプリン体2)と呼ばれています。

核酸以外にも、細胞が活動するのに必要な成分であるアデノシン三リン酸(ATP)も、アデニンやグアニンから生成。プリン体は人間だけではなく、あらゆる生物の細胞内に存在しています。

プリン体は、体内で代謝されると最終的に尿酸になり、3分の2は腎臓、3分の1は腸管から体外に排泄。

尿酸は腎臓で排泄される際、まずは腎臓の糸球体で一度100%排泄され、次に近位尿細管で再吸収。再吸収の具合で尿に排泄される尿酸量と血中に残る尿酸の量が決まります。

腎性低尿酸血症では、この尿細管での再吸収がうまくいかず、尿に尿酸が過剰に排泄されることで血中の尿酸値が低くなってしまうのです。

病気の頻度としては、男性で0.2%、女性で0.4%、女性は男性の約2倍起こりやすいことがわかっています。さらに、女性では閉経前に頻度が高く。女性ホルモンの影響が考えられていますが、詳しい原因はわかっていません。

腎性低尿酸血症には、運動後急性腎障害や尿管結石を合併することが知られています(高尿酸血症は心筋梗塞などの動脈硬化のリスクも)。

尿管結石

しかし、最近では、逆の低尿酸血症でも血管内皮の機能低下が起こることがわかってきました。今後もさらに研究が進み、新たなことがわかってくるでしょう。

腎性低尿酸血症の原因は、腎臓で尿酸のをうまく代謝できないこと

院長 藤田

腎性低尿酸血症は、腎臓で尿酸の再吸収障害が原因でおこります。

腎臓で体内から物質を再吸収する場合、尿細管という部分の細胞の膜を通過する必要があります。細胞の膜は脂質二重層とういう構造になっており、脂肪に溶ける物質は二重層をそのまま通過できますが、尿酸などの水溶性の物質は、そのままでは膜は通過できず、物質を運ぶための輸送体を使う必要が。

輸送体はトランスポーターと呼ばれ、運ぶものと場所によって名前などが違います。尿酸を再吸収する方向のトランスポーターを、尿酸再吸収トランスポーター、排泄させる方向のトランスポーターを尿酸排泄トランスポーターと呼びます。

腎性低尿酸血症ではこれらのトランスポーターをつくる遺伝子の変異が知られています。遺伝子変異が起こって尿酸再吸収トランスポーターの機能が低下すると、尿酸は再吸収されずほとんど尿に排泄され、血液中の尿酸値は低下

尿酸再吸収トランスポーターにはurate transporter 1(URAT1/SLC22A12)とglucose transporter 9(GLUT9/SLC2A9)の主に2種類が使われています。

URAT1を作るURAT1/SLC22A12遺伝子の変異によるものを腎性低尿酸血症1型、GLUT9を作るGLUT9/SLC2A9遺伝子の変異によるものを2型と分類。

尿酸

1型、2型ともに腎臓の尿細管で起こるはずの尿酸の再吸収が障害されてしまいます。尿酸の尿中への排泄率は1型で30-70%程度、2型では100%以上です。2型のほうがより尿中の尿酸排泄が多く、血中の尿酸値は低くなります。

また1型、2型のいずれにも分類できないタイプがあることもわかっていますが、現在研究の段階です。

腎性低尿酸血症には特別な症状がない

院長 藤田

通常は、低尿酸血症自体によって何か症状がおこることはありません3)

多くは、腎障害や腎不全の原因検索中か、健康診断で偶然尿酸値が見つかった場合に、腎性低尿酸血症が発見されて診断につながります。

腎性低尿酸血症の検査・診断には、家族歴や遺伝子検査も必要になることも

血清尿酸値の正常値は3-7mg/dlで、腎性低尿酸血症の診断のためには、まずは血液検査で血清尿酸値が2.0mg/dl以下の低尿酸血症があることを確認。 2-3mg/dLの場合にも、低尿酸血症が疑われれば検査を行います。

尿酸値

次に、尿検査などで尿中の尿酸排泄率が亢進していることを確認。

腎性低尿酸血症の診断のためには、尿酸の腎排泄が亢進するその他の原因疾患がないことの証明も必要です。腎性低尿酸血症と同じく尿酸排泄が亢進することで低尿酸血症となる疾患と、尿酸の産生が低下することで低尿酸血症となる疾患で分類することができます。

<参考にする項目>

  • 遺伝子検査としてURAT1/SLC22A12遺伝子やGLUT9/SLC2A9遺伝子の変異を認めること
  • 腎性低尿酸血症の合併症で多いとされる運動後急性腎障害を起こしたことがあること
  • 家族歴があること

尿酸が代謝されすぎるか、作られないかの2つのパターンで腎性低尿酸血症に

院長 藤田

腎性低尿酸血症の鑑別として、尿酸排泄亢進型低尿酸血症と尿酸産生低下型低尿酸血症に分類して解説します。

尿酸排泄亢進型低尿酸血症

尿酸排泄亢進型低尿酸血症は、腎性低尿酸血症と同じく尿での排泄が亢進することで尿酸値が低下。この病態の病気には、ファンコニー症候群、ウィルソン病、抗利尿ホルモン不適合分泌症候群などがあります。

ファンコニー症候群4 )

近位尿細管で行われる多くの物質の再吸収が障害されることで、尿酸だけではなく、アミノ酸、ブドウ糖などの重要な物質が全般的に低値になってしまう病気です。

ウィルソン病

銅排泄障害による先天性銅過剰症ですが、腎や肝臓への銅の沈着により、尿酸の再吸収障害がおこるとされています5)

抗利尿ホルモン不適合分泌症候群6)

水の排泄不全が起こり、血液が希釈され低ナトリウム血症を起こしますが、低尿酸血症になることも知られています。ただし、はっきりした機序はまだわかっていません7)

その他

悪性腫瘍や糖尿病でも低尿酸血症をおこします。痛風、高尿酸血症の治療薬であるベンズプロマロン、プロベネシドなどの薬剤で低尿酸血症をおこしている場合も、鑑別が必要です。さらに、妊娠、難治性下痢でも低尿酸血症に。

尿酸産生低下型低尿酸血症

院長 藤田

次に、尿酸産生低下型低尿酸血症について解説します。

キサンチン尿症8 )

ヒポキサンチンからキサンチン、キサンチンから尿酸への代謝経路にかかわる酵素の欠損により、低尿酸血症やキサンチン結石ができて尿路結石をおこす先天性の代謝異常症です。

モリブデンコファクター欠損症

モリブデンコファクターの欠損により亜硫酸という毒性物質の代謝がうまくいかず、生後まもなく哺乳困難やけいれんなどの神経症状と低尿酸血症がみられる病気です9)

その他

非常にまれな疾患ですが、プリンヌクレオシドホスホリラーゼ欠損症(PNP欠損症)、PRPP合成酵素活性低下症、特発性尿酸産生低下型低尿酸血症が鑑別すべき疾患です。

痛風、高尿酸血症の治療薬のアロプリノールなどは尿酸産生を抑制する薬剤のため、低尿酸血症をおこす薬剤として鑑別にあがります。肝臓で尿酸が産生されるため重症肝障害や低栄養状態では、尿酸の産生は低下し、低尿酸血症を。

院長 藤田

低尿酸血症で、これらの病気がすべて否定される場合、ようやく腎性低尿酸血症の診断となります。

背中や腰が痛くなることもある腎性低尿酸血症の合併症

腎性低尿酸血症の合併症は、運動後急性腎障害と尿管結石が主に挙げられます。

運動後急性腎障害

若い男性で起こりやすいといわれており、短時間に筋肉トレーニングや短距離全力走、自転車競技、重量挙げなどの強度の無酸素運動を行った後に背中の痛みなどが。

短距離走

血液検査をしてみると腎障害を認めます。鑑別疾患としてあがる運動後の横紋筋融解によるミオグロビン尿性の急性腎障害と異なり、筋肉の破壊を示すクレアチンキナーゼやミオグロビンの上昇を認めないか、あっても軽度にとどまるのが大きな違い。

この運動後急性腎障害は、腎性低尿酸血症に合併しやすいとされていて、詳しい頻度や機序は不明です。最近では運動後の虚血が原因ではないかとされています。

多くは14日程度で腎障害も改善しますが、一時的でも透析治療を必要するケースや再発も20%近いです。稀に、可逆性後頭葉白質脳症という急性の脳浮腫を起こす病気を合併することもあり、注意が必要。

腎性低尿酸血症があると判明している場合には、発症予防には運動前の飲水が重要です。また、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)が発症因子の可能性もあるため、服薬時は運動を避けることなどを行うことも重要です。

尿管結石

尿からの尿酸の再吸収障害のため、尿中尿酸値が高くなり、尿路での結石症が起こりやすいといわれています。

頻度としては1型より2型のほうが起こりやすく、尿路結石の種類は、尿酸結石やシュウ酸カルシウム結石です。結石は、超音波検査やCT、尿検査で診断することが可能。

治療は、尿をアルカリ化することでできた結石を溶かすことです。予防法は、1日2L以上尿がでるように飲水量を調節する、尿を常にアルカリ化するようにクエン酸製剤を継続するなどの対策を行います。

まとめ

腎性低尿酸血症についてご説明しました。尿酸値は健康診断などで測定する機会もあるかと思います。尿酸値が高すぎても低すぎても病気です。

ただし、腎性低尿酸血症に現時点では治療法はありません。合併症である運動後急性腎障害と尿管結石を起こさないように、予防したり治療したりすることが大切です。

腎性低尿酸血症はまれな病気ではありますが、合併症が起こるまで発見されないこともあります。ぜひ血液検査の結果で尿酸値の異常があった場合には、病院でご相談してみてください。

参考文献

1) 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン 第3版 .2019年

2) 大内基司ら. 尿酸代謝異常. 日腎会誌 57(4):766-773, 2015.

3) 腎性低尿酸血症診療ガイドライン. 2017年

4) 小児慢性特定疾患情報センター ファンコニー(Fanconi)症候群. https://www.shouman.jp/disease/details/02_20_050/

5) 難病情報センター ウィルソン病(指定難病171). https://www.nanbyou.or.jp/entry/4544

6) 小児慢性特定疾患情報センター 抗利尿ホルモン(ADH)不適合分泌症候群. https://www.shouman.jp/disease/details/05_07_010/

7) 谷口敬ら. 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群における低尿酸血症の発生機序 ラットでの検討. Gout and Nucleic Acid Metabolism 40(1):57-58, 2016.

8) 小児慢性特定疾患情報センター キサンチン尿症. https://www.shouman.jp/disease/details/08_09_116/

9) 市田公美. 低尿酸血症. Gout and Nucleic Acid Metabolism 35(2):165, 2011

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