「コロナか?コロナ以外か?」それだけでは大事なものを見落としてしまう

バイアス
院長 藤田

こんばんは。内科総合クリニック人形町 院長の藤田(総合内科専門医)です。

ようやく梅雨が明けて夏本番となった今日この頃ですが、皆様にはいかがお過ごしでしょうか?

ところで、以前のコラムで「アンカリングバイアス」について少し書きましたが、今回はワイドショーばかり見ているとアベイラビリティバイアスに支配されてしまいますよというお話をします。

ん?アベイラビリティバイアス??舌を噛んでしまいそうですね。実は今、日本中のワイドショー視聴者がこのアベイラビリティバイアスに頭を冒されているのです。なんと恐ろしいことでしょう。

目次

そもそもバイアスって?

「バイアス」ってあんまりいいものでは無さそうなイメージがありますが、じゃあ何のこと?って言われてもピンと来ませんね。

バイアスとは偏(かたよ)りのことです。

食事が偏っていると健康を害しますし、私なんかはツイッターのタイムラインが医療に偏っています(これは自覚してるからいいです)

ではアベイラビリティバイアスとは?

アベイラビリティバイアスとは認知バイアスの一つです。

認知バイアスとは、人の思考において必ず陥る可能性がある、不合理な判断の仕方のこと。先入観、自信過剰、恐怖、願望などによって認知バイアスが生じます。

一方アベイラビリティとは、「手に入りやすさ」のことです。手に入りやすい情報によって不合理な判断をしてしまうことをアベイラビリティバイアスと言うのです。

最近仕入れたばかりの情報は記憶が新鮮ですぐに想起されるので、飛びつきやすいのです。

やんごとなきお方がマイコプラズマ肺炎になられた時、外来に「私はマイコプラズマ肺炎ではないでしょうか?」という方が増えました。これもアベイラビリティバイアスの一例です。

手に入りやすい情報って、今は何といっても「新型コロナウイルス」関係ですよね?テレビをつければ毎日「コロナ、コロナ」「PCR!」の大合唱です。特にワイドショーの見過ぎで不安を煽られた方の頭の中は新型コロナウイルスで一杯です。

すると、不眠や動悸のような関係ない症状でも「コロナなのでは?」と思ってしまい、しまいには「周りにうつしてしまったらどうしよう?」と思い詰めてノイローゼになってしまった方が続出しているのです。

パニックになる男性

心配するべき接触歴・移動歴や症状が全く無く、熱も無いにもかかわらずです。これがワイドショーによる洗脳でなくて何でしょうか?

そしてこの病(あえて病と言います)は、PCR検査をするまで治りません。患者さんはPCR検査をしてくれる医療機関が見つかるまで探し回ることになります。

アベイラビリティバイアスに冒されないためには?

まずワイドショーを見るのをやめ、正しい情報に触れましょう。

それでもワイドショーを見たい・見るのをやめられないという方へ。ワイドショーが何の目的で作られているのかをよく考えてみましょう。少なくとも、視聴者に正しい情報を伝える目的ではありません。

新型コロナウイルスの正しい情報を得るためにはこちらのエントリーを参考にしていただきたいですが、中でも忽那賢志さんのYahoo記事がお勧めです。

真面目な方は「まず本で勉強したい」と思われるかもしれませんが、本は出版された時点で情報が数か月~数年遅れています。新型コロナウイルスのような新しい感染症についてはリアルタイムのネットの情報が有用です。

医師がアベイラビリティバイアスに支配されてしまうとどうなるか?

当たり前ですが、新型コロナウイルス出現後、今まであった発熱疾患が消滅したなんてことはありません。なのに、医師が「コロナか?それ以外か?」ってローランドみたいなこと言ってたらどうなるでしょうか?

発熱患者さんにコロナPCRだけやって、「陰性だったから大丈夫ですよ」なんてことになりかねません。その発熱患者さんは感染性心内膜炎かもしれないし、亜急性甲状腺炎かもしれません。

どちらも聞きなれない病名かもしれませんが、前者は見逃すと命にかかわるので絶対に見逃してはならない病気です。

後者は見逃しても命には関わりませんが、頻度として少なくない上に、ちゃんと治療をしないと患者さんはかなり辛い症状で数週間苦しむことになるので、見逃してはならないのは同じです。

感染性心内膜炎の診断は、虫歯を含む詳細な病歴聴取、注意深い心音の聴診が診断のきっかけとなります。病歴や心音から感染性心内膜炎を疑ったら瞼の裏の出血斑や、手先・足先の紫斑・紅斑を探します

これらは感染性心内膜炎患者さんで必ず認められるわけではありませんが、もし認めれば可能性が強まります。タダですぐに出来ることなのでやらない手はありません。

感染性心内膜炎の確定診断には心エコーと血液培養が必須なのですが、当院ではこれらの検査が出来ないので、疑ったら専門機関へ紹介します。幸い、当院から徒歩2分のところに東京心臓血管・内科クリニックという心エコーで有名な先生のクリニックがありますので、全身状態の良い患者さんはそちらへ紹介します。

亜急性甲状腺炎は「のどが痛い」という患者さんでもルーチンで甲状腺を触診することと、頻脈や焦燥感があることが診断のきっかけとなります。

甲状腺という、のどの前面皮下に張り付いている小さな臓器が一部分だけ腫れ、押すと痛みがある場合に疑われます。頻脈と焦燥感は、甲状腺ホルモンが血中に多くあると出てくる症状です。確定診断には採血と甲状腺エコーを行います。これらの検査は当院で行えます。

少し話がそれましたが、医師は常に自分が何らかの認知バイアスを持っていないかをチェックする必要があります。知らないものはチェックのしようが無いので、医師は認知バイアスについても勉強する必要があるのです。

専門分野の研修を受けた医師の宿命として、自分が専門とする科に寄せて考えるバイアスがどうしてもあります。これもアベイラビリティバイアスの一種と言えます。

「自分の専門分野の病気では無いから病気では無い」と決めつけずに、自分が知らない、もしくは知っていても診断出来ない・診断が難しい病気の可能性を常に考え、時には他の専門医の助けを借りて診断を進める必要があるのです。

児童に聴診器をあてる医師

今回はアベイラビリティバイアスについてお話しました。診断にあたって注意すべき認知バイアスには他にもいろいろあるので、またどこかで触れようと思います。

以上


この記事を書いた人

内科総合クリニック人形町 院長 藤田 英理(総合内科専門医)
Dr. 藤田 英理

内科総合クリニック人形町 院長
日本内科学会認定内科医・総合内科専門医
東京大学医学部保健学科および横浜市立大学医学部を卒業
東京大学付属病院や虎の門病院等を経て2019年11月に当院を開業
最寄駅:東京地下鉄 人形町および水天宮前(各徒歩3分)

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