- 生着率を考慮すると植毛の限界値は1㎠あたり30株までが世界の共通認識
- 1度の手術で高密度の植毛を行うと既存毛が犠牲になる
- レジェンドと言われる有名植毛医の怖い一言
- 高密度植毛ができるとPRしているクリニックは警戒が必要
- FUE法で高密度植毛をすると後頭部がスカスカになる理由
- どうしても高密度にしたいなら植毛手術は2回に分けるべし
自毛植毛を検討しているあなたは、「移植する髪の毛の本数をできるだけ増やし高密度にしたい」という願望をお持ちではないでしょうか。
そんな想いを見透かしたかのように、各植毛クリニックの公式サイトでは、パっと目に入る目立つ箇所に下記画像のような「高密度植毛が行えます」と書いてあったりします。
【画像引用元:某植毛クリニック公式サイト】
中には「80株以上の高密度植毛が可能です」と宣伝しているクリニックもあります。これは世界の医学界の常識からすると「暴挙」と言わざるを得ないし絶対にやってはいけません。
でも、高密度にしたいですよね。そこで当記事では高密度植毛の怖さに言及しつつも、「こうやれば高密度植毛が可能」というところまで踏み込んで解説していきます。
この記事の執筆者
藤田 英理 内科総合クリニック人形町 院長
東京大学医学部保健学科、横浜市立大学医学部を卒業。虎の門病院、稲城市立病院、JCHO東京高輪病院への勤務を経て内科総合クリニック人形町を開院。総合内科専門医。AGA治療や生活習慣病指導も行う。
生着率を考慮すると植毛の限界値は1㎠あたり30株までが世界の共通認識
藤田先生、植毛する場合の密度は1㎠あたり何株くらいまで大丈夫なのでしょうか?
生着率を考慮した場合、1㎠あたり30株までにしておきましょう。これは個人的な意見ではなく世界の医学界の共通認識です。
解説いたします
世界的植毛の名医として知られているDr Jerry Wongはこのように言っています。
「A small minority of patient will have sufficient donor hair to produce a density of 45FUs/cm2.」
極めて限られた患者のみ1平方センチメートルあたり45株の高密度植毛ができる。
これはアメリカでの話、つまり白人を対象にしているので、日本人の場合だと事情が違ってきます。
髪の毛が細い白人(約0.05mm)と違い、アジア人(黒髪)である日本人の髪の太さは0.08mmあるので、これらの値から割り戻して計算すると、日本人の場合、1㎠(1㎝×1㎝)あたり30株が植毛の限界本数です。
限界を超えて植毛するとどうなるかというと、再生医療などが進めば将来的には復活のチャンスがある既存毛が、新規に植えた毛根に栄養分をとられてしまって栄養不足になり死んでしまいます。
山林の手入れを想像してみてください。木を活かすために生えすぎた余分な木を間引き伐採していきますよね。あれは、木が密集しすぎると栄養分を奪い合って共倒れしてしまうからです。
あるいは田植えを想像するとより理解が深まるかもしれません。田植えの時にかなりの間隔を開けて苗を植えていくのは栄養の奪い合いによる共倒れを防ぐ意味合いがあります。植毛はこれら森林の間引き伐採や田植えと一緒なのです。
レジェンドと言われる有名植毛医の怖い一言
日本全国ほぼ全ての植毛クリニックでカウンセリングを受けた経験を持つ毛髪診断士さんに伺いますが、高密度植毛が可能と言っているクリニックの先生はどのような説明を患者にしているのでしょうか?
「既存の毛穴を潰す」と言ってましたね。
解説いたします
私は、大手中小問わず、全国ほぼ全ての植毛クリニックでカウンセリングを受け、そして2度の植毛を受けています。
その中で、植毛業界の重鎮として有名な植毛医が在籍する某植毛専門クリニックで耳を疑うセリフを聞きました。はっきりと「既存の毛穴を潰す」とその先生は言っていたのです。
その先生曰く、植毛の満足度は結局のところ、M字部分にどれだけ多くの植毛を行えるかにかかっているので、「ウチは患者さんに満足してもらうために最低でも50-60株(髪の毛の本数完全で約100-120本)入れます。既存毛を潰して植毛します。」と言っていました。
この「既存毛を潰すつもりで」というセリフがどうしても引っかかり、少し心配になったのでここで植毛を受けるという決断をする前に他院も回ってみたところ、偶然にもこのクリニックのサカンドオピニオンをやったことがある先生に会うことができ、
「あぁ、データ持ってますよ。あそこのドナーロス率は50%超えてますね。めちゃくちゃです。ここまでヒドいとリカバリーのしようがないんですよ。セカンドオピニオンで来たその患者さんのリカバリーは断りました。」
と衝撃のデータを見せられたのです。高密度植毛ができるとPRしているクリニックには本当に注意してください。後悔ではすまされませんからね。
FUE法で高密度植毛をすると後頭部がスカスカになる理由
藤田先生、高密度植毛を行うということは、必然的に後頭部から多くの髪の毛を採取しないといけませんが、多くの髪の毛を採取しても後頭部は大丈夫なのでしょうか?
大手が採用しているFUE法での大量採取は後頭部がスカスカになるので絶対にやめてください。高密度植毛をやりたいならメスを使うFUT法にすべきです。
解説いたします
日本の植毛業界は世界的にはかなり異質で、一世代前の術式である、通称FUEと呼ばれる植毛法がシェア90%以上になっています。
※世界的にはFUEのシェアは3割未満です
FUEは、後頭部から髪の毛を採取する際にメスを使わないので「傷跡が目立ちにくい」ということを売りの一つにしています。傷跡が目立たない、のは少量の植毛を行った場合にのみ言えることです。
下記の図をご覧ください。
左がメスを使うFUTでの傷跡で右がメスを使わないFUEの傷跡のイメージ図です。
FUEは少量であれば傷跡が分散されるので、傷跡が目立たないのは事実でも、大量に植毛を行うと下の写真のように後頭部は傷跡だらけになってしまいます。
【FUEで高密度植毛した場合の後頭部】
画像引用元:SCARRING SERIES: FUE SCARS
FUE法はメスを使わないので痛みも少ないし少量の植毛であれば優れた術式であることは確かですが、傷跡の面積を縮小できないという大きな弱点があるのです。
どうしても高密度植毛にこだわりできるだけ多くの髪の毛を後頭部から採取したいのであれば、術式はFUTに限定するようにしてください。
※根拠として下記の記事が参考になると思います
どうしても高密度にしたいなら植毛手術は2回に分けるべし
藤田先生、高密度の怖さは分かりました。それでも高密度にどうしてもしたいという人は多いと思います。何か方法はないのでしょうか?
方法はあります。高濃度にしたい箇所を2年くらいの間隔をあけて2回に分けて植毛すればいいのです。
解説いたします
1度の植毛手術での限界株数は1㎠あたり30株で、それを超えて高密度で植毛してしまうと隣接する毛根同士が栄養を奪いあって共倒れしてしまう可能性が上がってしまいますが、実は(よい意味で)抜け道があります。
植毛手術を2回に分けて行えば良いのです。
1回目の植毛では限界である30株入れます。生え揃うのに2年程度かかるので、2年後にもう一度同じ箇所に20株ほど追加するやり方をとればドナーロス(≒未生着)が起きる可能性はグっと下がり、高密度な仕上がりに持っていくことが可能です。
元々薄かった場所に合計で50株も新たに植えれば相当な満足感が得られる仕上がりになります。
植毛は基本料金(20万円前後)+移植株数で総額が決まるので、2回に分けると基本料金を2度払わなければならないのはマイナスポイントですが、貴重なドナーを死なせてしまうよりははるかにいいやり方です。
採取できる上限は5,000株まで。貴重な資源を大切に使おう
後頭部から採取できる元気な髪の毛の株数(グラフト数とも)は、約5,000本と言われています。髪の毛の本数にすると約10,000本。
これ以上採取すると、術式がFUTであれFUEであれ後頭部が薄くなってしまいます。
もし採取できる資源(後頭部の髪の毛)に限界がないのであればいくら共倒れしようが、構わず高密度植毛を行えばいいと思います。ただAGAになると少ない人でも3万本くらい抜けてしまうので、資源の有効活用はとても大切なことです。
ここで一つ提案があります。もしあなたがどうしても高密度に仕上げたいというのであれば、貼るタイプのウィッグを検討してみてください。
植毛の技術というのは、実はここ20年くらい停滞していて、ほとんど技術的な進展がありませんが、ウィッグの技術進展は目覚ましいものがあります。
特に、粘着剤で頭皮にペタっと貼り付けるタイプのウィッグは、疑いの目で間近で凝視されたとしても絶対にウィッグだとバレることはありません。
超精巧な商品がアデランスやアートネイチャー、プロピアなどの各社から毎年新商品が出されていて、4Kや8Kテレビが登場してごまかしがきかなくなってきた現在、芸能人はほとんどがこの貼るタイプのウィッグを使用しています。
※頭頂部はかぶるタイプのウィッグを使用
自毛であることは素晴らしいことだし、後ろめたさも消えるので自毛植毛で薄毛対策をしたいというあなたの気持ちはとても良く分かります。
それでも高密度にした場合の生着率の大幅低下の問題や、後頭部から採取できる本数に限界がある以上、植毛ではどんなにがんばっても全盛時のフサフサに戻すことはできないのが現実です。
ご自身に合うオプションをいろいろ考え、ウィッグも含めて総合的に判断してみてください。
以上