自然に消える皮膚癌であるケラトアカントーマとは?他の悪性腫瘍と鑑別して、早めに治療を

藤井あさ美

おはようございます。皮膚科専門医の藤井あさ美(医学博士)です。

ケラトアカントーマは、顔面や手の甲など日光の当たりやすい部位に発症することの多い皮膚の腫瘍です。発症後急激に増大し、自然に消える経過をたどります。

皮膚の悪性腫瘍との区別が難しく、急速に増大したり、自然消失しても瘢痕を残したりすることも。ガイドラインでも早期の全切除がすすめられています。

本記事では、ケラトアカントーマの概要や診断、治療のポイントについてまとめました。

ケラトアカントーマに関心をお持ちの方は、記事内容をご一読いただき、参考になさってください。

ケラトアカントーマは自然に消えてしまう皮膚がん

ケラトアカントーマは、中高年者に多く見られる皮膚腫瘍です。火山の噴火口のように、中央が陥没したドーム状の結節を形成し、陥没の内部はケラチン蛋白(髪や爪、皮膚の角質層を作る成分)で満たされます。

ケラトアカントーマ
引用元:News Medical

日光が当たる部位の皮膚に最も頻繁に発生し、発症初期に急速に大きくなり、自然に消失するのが臨床経過の特徴です。

自然消失するにもかかわらず、皮膚がんである有極細胞癌に似た病理組織学的特徴を示します。実は、ケラトアカントーマが良性であるか悪性であるか、腫瘍の特性については未だ結論は出ていません

ケラトアカントーマはさまざまな年齢層で発生しますが、50~69歳に発症のピークがあることが報告されています1)

発症に関して、男女とも同程度であるとする報告もあれば、男性のリスクが3倍高いという報告もあり、性差については一定の見解が得られていません。

ケラトアカントーマの原因

ケラトアカントーマの発症原因は、十分に解明されていません。可能性として、毛穴の奥にある毛包内細胞の増殖や、接着に関与する遺伝子やタンパク質の発現変化が、発生に重要な役割を果たすと考えられています2)

悪性腫瘍である有棘細胞癌と見分けることは難しい

ケラトアカントーマと有棘細胞癌の関係については、専門家の間でも意見が分かれています。

ケラトアカントーマが良性の臨床経過をたどることから、単なる毛包上皮の細胞増殖とする見方も。

一方で 、まれに周囲の組織への浸潤や転移を起こす点から、有棘細胞癌や自然退縮しやすい皮膚癌の一種と考える研究者もいます3)

悪性なのか、良性なのか、専門家でも意見が分かれる理由には、病理組織所見(顕微鏡で拡大した時の見た目)がお互いに酷似しており、両者を決定的に区別する診断基準がないことが挙げられます。

有棘細胞癌とケラトアカントーマを見分けることは、専門家でも非常に難しいというのが現状なのです。

危険因子

ケラトアカントーマの発症には、皮膚の色素沈着、紫外線、発癌性化学物質および遺伝子異常など、さまざまな要因が影響すると考えられています。

  • 皮膚の色素沈着

皮膚の色素沈着が進んでいる集団では、ケラトアカントーマの発症リスクが減少。

白人の多いオーストラリアでは、10万人あたり150人の発症率であるのに対し、日系ハワイ人で122人、ハワイのフィリピン人で17人4-6)。皮膚の色素が薄い人の方が発症しやすいといえます。

  • 紫外線

ケラトアカントーマは、日光に当たる部分の皮膚、および色白の人に好発することから、紫外線の関与があるようです。

PUVA療法(紫外線療法)を受けた約500人の乾癬患者の研究では、PUVAの累積投与量が多い患者さんは、投与量が少ない患者さんよりも、ケラトアカントーマを発症する可能性が有意に高いことが報告されています7)

  • 外傷

まれに、手術や偶発的な外傷部位で、ケラトアカントーマが発症。

詳細なメカニズムは不明ですが、過去に紫外線などの発癌物質に曝された皮膚では、創傷治癒反応に関連する因子が、腫瘍の発生を促進する可能性などが推測されています8)

  • 遺伝 

リンチ症候群の変異型、色素性乾皮症など、いくつかの遺伝的症候群がケラトアカントーマの発症と関連することが知られています。

  • 発癌性化学物質

タール、コールタールピッチ、鉱物油中の多環芳香族炭化水素、喫煙などの発癌性化学物質への曝露は、リスクを高める可能性があります。

数週間で見た目が変化するシコリは、ケラトアカントーマを疑え

ケラトアカントーマは、日光が当たる部位に発生しやすく、顔面(特に眼瞼、鼻、頬、および下唇)、頸部、手、腕が一般的によくみられる病変部位です。

ケラトアカントーマの進展過程は、増殖期、成熟期、退行期の3相に分けられます。

  1. 増殖期

    初期病変は通常、小さなピンク色の斑点が出現。その後、約6〜8週間程度かけて急速に成長し、盛り上がった丘疹となり、最終的には結節の中心にケラチンの芯を残した火山の河口のようなクレーター状の病変を形成。
  2. 成熟期

    成熟期には増殖は停止し、数週間から数ヶ月間クレーター状の見た目を維持。
  3. 退行期

    4〜6週間以上かけて自然に病変が退縮。最終的に腫瘍は萎縮し、色素沈着した瘢痕を残して完全に消失 。

これらの3つの時期を経て進行する期間は、通常約4~9ヵ月といわれますが、1年以上持続する場合もあり、悪性の有棘細胞癌との鑑別が問題となります。

ケラトアカントーマ
引用元:Wiley

ケラトアカントーマの検査・診断方法

ケラトアカントーマであれば、経過観察のみで自然に退縮することもありますが、悪性の有棘細胞癌であった場合、転移や死亡のリスクが高まることが懸念されます。

また、ケラトアカントーマは退縮後も瘢痕を残す場合が多く、部分的に取る生検検査では、その後急速に増大することが。

そのため、臨床的診断や生検による確定診断にこだわりすぎず、できるだけ早期の全摘出が推奨されます。

臨床的評価

数週間以内に急速に成長する皮膚腫瘍は、ケラトアカントーマの可能性を念頭に置く必要があります。

また、皮脂腺腫瘍や内臓悪性腫瘍の既往歴もケラトアカントーマ以外の皮膚腫瘍を鑑別する上で重要な情報です。

広範囲の日光暴露は、ケラトアカントーマや他の皮膚腫瘍の誘発因子であるため、顔面や頸部、手など日光に当たりやすい部位の皮膚表面全体の観察が重要。

ダーモスコピー(皮膚拡大鏡)による腫瘍の観察は、ケラトアカントーマと他の皮膚疾患との臨床的な鑑別には役立ちますが、有棘細胞癌を確実に見分けることはできません。

生検・病理組織診断

ケラトアカントーマを確実に診断することは難しいですが、病理組織学的所見と臨床的所見が一致することで、診断全体の裏付けを強化することができます。

ケラトアカントーマに典型的とされる病理組織学的特徴として、以下の所見が挙げられます。

  • 大きな好酸性ケラチノサイトを伴う表皮過形成
  • 角化コアを伴う中心部のクレーター形成
  • 中央の角栓の周辺縁を表皮が支持
  • 腫瘍と周囲の間質の境界が明瞭
  • 真皮に炎症性浸潤が混在

病理組織学的検査に基づくケラトアカントーマと有棘細胞癌との鑑別は困難です。両者を決定的に区別する特徴がないため、近年では、バイオマーカーと遺伝子解析により、新しい診断法の確立が試みられています9-11)

ケラトアカントーマの治療は、手術が基本

ケラトアカントーマは、部分生検後の急速な腫瘍増大や自然退縮後の瘢痕化の懸念があることなどから、日本皮膚科学会の「皮膚悪性腫瘍ガイドライン第2版」では、疑われる場合、完全摘出術が推奨12)

美容面の理由や、患者さんの希望により無治療で経過をフォローする方針でも、経過中の急激な腫瘍増大のリスクを考慮し、退縮傾向が確認されるまで、週に1回程度の慎重な経過観察が必要とされています。

ケラトアカントーマ
引用元:actasdermo

なぜ自然に消えることがあるの?

ケラトアカントーマが自然に退縮することは一般によく知られていますが、放置した際にどうなるか調べた研究結果は多くありません。

ある調査研究では、皮膚科医の厳重な監視のもと経過観察された14名のケラトアカントーマ患者における病変消失までの平均期間は、27週間、消失後も9ヶ月から8年の観察期間中の再発は認められなかったと報告されています1)

ただし、有棘細胞癌との鑑別が非常に難しいことから、数年にわたってケラトアカントーマを放置することは、もし癌であった場合の転移のリスクを考慮すると、大変危険な判断です。

自己判断で病院受診を控えることはせず、必ず皮膚科医や形成外科医の厳重な管理のもと、経過観察をすることをおすすめします。

ケラトアカントーマで、なぜ病変の急速な増大とその後の自然治癒が起こるのかというメカニズムについては、まだ解明されていません。現時点で推測されている病変の退縮メカニズムとして、以下のような理由が考えられています2)

  • 細胞死を促進する因子の発現増加
  • 毛包細胞の正常な代謝サイクルの異常
  • 腫瘍に対する免疫反応の活性化

ケラトアカントーマは他の病気との見極めがとても難しい

ケラトアカントーマと鑑別が必要な疾患は幅広く、他の結節性腫瘍や皮膚の増殖症も含まれます。前述のように、有棘細胞癌はケラトアカントーマとの臨床的・病理組織学的な類似性が高く、鑑別が最も困難な疾患です。

有棘細胞癌以外に鑑別を考慮すべき疾患には、以下のものがあります。

  • 結節性基底細胞癌
  • メルケル細胞癌
  • 結節性痒疹
  • 巨大な伝染性軟属腫
  • 深在性真菌症(スポロトリコーシスなど)
  • 結節性カポジ肉腫
  • 内臓悪性腫瘍の皮膚転移

いずれも専門医による診察を受けて、鑑別する必要があります。

まとめ

ケラトアカントーマという皮膚腫瘍についてまとめました。

ケラトアカントーマは、自然退縮が期待できる珍しい皮膚腫瘍ですが、皮膚癌である有棘細胞癌との鑑別が難しいため、発症後早期に全切除することが推奨されます。

経過観察する場合も、慎重な定期診察が必要です。皮膚科や形成外科などへの受診をおすすめします。

参考文献

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4. Chuang TY, et al. Non-melanoma skin cancer and keratoacanthoma in Filipinos: an incidence report from Kauai, Hawaii. International journal of dermatology. 32(10):717-718, 1993. doi: 10.1111/j.1365-4362.1993.tb02740.x.

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11. Clausen OP, et al. Are keratoacanthomas variants of squamous cell carcinomas? A comparison of chromosomal aberrations by comparative genomic hybridization. J Invest Dermatol. 126(10):2308-2315, 2006. doi: 10.1038/sj.jid.5700375. Epub 2006 May 25.

12. 土田哲ら. 皮膚悪性腫瘍診療ガイドライン第2版. 日本皮膚科学会雑誌. 125: 5-75, 2015.

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