メニュー

なぜ鉄分は不足しがちなのでしょうか?その1

[2019.09.23]

患者さんに「貧血があります」とお話すると、結構な割合で

「じゃあ鉄分を摂ればいいんですか?」

あるいは

「ほうれん草を食べたらいいんですか?」

と聞かれます。

貧血の9割以上は鉄欠乏性貧血なので

だいたいの場合それで間違ってはないのですが、

まずは本当に鉄欠乏性貧血なのか、採血項目を追加して確認する必要があります。

 

そしてもっと大事なことは、

そもそもなぜ鉄が欠乏してしまったのか?

を究明することです。

 

単に食事からの鉄分が足りない場合もあれば、

背景に慢性的な出血が隠れている場合もあるからです。

鉄が欠乏する原因

 人間の体内には男性で約3g、女性で約2gの鉄分があります。

そのうち3分の2がヘモグロビンの原料に使われ、残りの約3分の1が脾臓や肝臓に貯蔵されています。

 

一方、人間の身体から出ていく鉄分は

成人男性日あたり約1mgとごくわずかです(便・尿・汗などに出ていきます)。

一方、月経中の女性は生理出血があるため、1日あたり2mg程度の鉄を失います。

 

出て行く分と同じくらいの量を食事から補わなければならないですが、

じゃあ鉄分を1~2mg/日摂ればいいかというとそうではなく、

食物からの鉄分の吸収率は1割程度と低い(!)ため、

推奨される摂取量は下表のようになります。

成人男性 7~7.5 mg/日
成人女性(月経あり 8.5~9 mg/日
成人女性(月経なし 6~6.5 mg/日

ところが厚労省のデータによると、

日本人は推奨量の7割程度しか鉄分を摂取出来ていません。

普通の食事をしていると、体内の鉄分は少しずつ減っていくのです。

 男女別、鉄が欠乏する原因

特に月経のある女性が偏った食事をしていると、

元々の貯蔵鉄が男性よりも少ない上に出ていく鉄分が多いため、たやすく鉄欠乏性貧血になってしまいます。

そして子宮筋腫子宮内膜症、子宮体がんといった、

生理の出血量が増加する婦人科疾患が隠れているケースも珍しくありません。

 

一方、男性の場合は元々体内に貯蔵されている鉄分が多く、出ていく鉄分も女性より少ないため、

多少偏った食事をしているという程度では鉄欠乏性貧血にはなりにくいです。

(厳格なヴィーガンや菜食主義者の場合は例外で、男女問わず鉄欠乏になりますし、ビタミンB12欠乏による貧血もきたします)

 

男性の場合、鉄欠乏性貧血の原因の多くは消化管出血です。

 

消化管からの大量出血や痔からの出血は目につくので「出血している!」と分かりますが、

胃・十二指腸の潰瘍/がん大腸ポリープ大腸がんなどによるじわじわとした出血では

便の色の変化に気づかれにくく、便潜血検査をして初めて消化管出血が判明する場合が多いのです。

これは女性でも同様です。

スポーツ貧血とは?

男女問わず、長距離走や激しい運動を日常的に行っている方

は鉄欠乏性貧血をきたしやすいことが知られています。いわゆる「スポーツ貧血」です。

かつては「行軍貧血 marching anemia」とも言いました。

スポーツ貧血の原因として、

  • 足の裏の毛細血管内で自分の赤血球を踏み潰して赤血球が壊れる
  • 大量の発汗によって汗の中に鉄を失う

ことが挙げられます。

 

では、どの程度の運動でスポーツ貧血になるのでしょうか?

これは食事もからむため一概には難しいです。

一例として、以前私の外来に通っておられたスポーツ貧血の男性の場合は、

毎日の10キロ走に加え、毎月のように数10キロのトレイルランに参加されていました。

そこまで行かなくとも結構な運動量を自覚されている方は、定期的に貧血のチェックをした方が良いと思います。

 じわじわ出血に気づかないのは消化管出血だけ?

ところで、消化管以外からのじわじわ出血はどうなのでしょうか?

生理の時以外に子宮から出血すると「不正出血」として認識されるので、受診に繋がる場合が多いです。

尿路(腎臓・膀胱)や呼吸器(鼻・肺・気管支)から出血すれば体外に血液が出て行きますが、

これらの場合は血尿鼻血血痰が出るのですぐに気が付きます。

(血尿・鼻血・血痰が続く場合は、そもそも貧血以前にもっと心配すべき病気があります)

 

また、外界との交通が無い体内でじわじわと出血すると、血の塊が大きくなって周囲を圧迫し、

早晩何らかの症状が出ます。

 

結論: 便はじわじわ出血の格好の隠れ蓑なのです。

 便は体からのお便り?

お通じを毎回観察すると、黒っぽかったり赤っぽかったりと色の変化に気づくかもしれません。

しかし肉や魚の摂取や、鉄剤の内服でも便は黒くなりますし、

消化しきれなかったトマトやパプリカが混じると血液のように見えたりもします。

 

「便が黒いのは鉄剤をのんでるせい」と思っていたら実は胃潰瘍からじわじわ出血していた、

というオオカミ少年的な例もあります(こういうのを「鉄剤内服で消化管出血がマスクされる」と言います)。

 

便に微量の血が混じっているのかいないのか、正確なことは検査しなければわかりません。

 

便の色や貧血が気になるようでしたら、医療機関で相談しましょう。

 

まとめますと、鉄が欠乏する原因は以下のようになります。

  • 食事からの鉄の摂取量が足りない(または吸収効率が悪い)
  • 消化管からじわじわと出血している
  • 日常的に激しい運動をしている
  • (女性で)月経出血量が増加する婦人科疾患がある

次のエントリーでは、効率のいい鉄分の摂り方について書く予定です。

お楽しみに~

▲ ページのトップに戻る

Close

HOME